暁の刻

煉獄薙

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斎藤と分かれた後、雫は土方の部屋に訪れるつもりでいた。

しかし、その進路を塞ぐように平助が現れた。
「…雫、お前大丈夫なのか?」

「…はい。疲れもあって、少し気を失ってしまっただけなので…」
それでは、と土方の部屋に向かおうとすると、平助はぐいっと手を引っ張った。

「今はやめた方がいいよ」
「…え?」
「土方さんのとこにいくんだろ?まだあいつがいる」
あいつとは武田のことだろう。
まだ武田がいるのならば平助の言う通り今は避けておいた方がよさそうだ。

「…わかりました。わざわざありがとうございます」
礼をして、雫はその場から立ち去ろうとした。

しかし、平助は未だ手を離していなかった。
「…雫さ、何で俺と関わらないようにすんの?何か微妙に距離を置くよね。あからさまにならない程度に、って感じ。……何で?」
平助はその微妙な態度に気づいていながら、この一月、様子を見ていたのだ。

「…平助は、どうしてそんな事を気にするのですか?平助には関係ないことですよね?」
雫は笑顔で壁を作る。

距離が近く成りすぎないように、自分のことを知られないように、雫はもとの時代のころから無意識に壁を作るのが癖になってしまっていた。

だが、平助はその壁さえもあっさりと破壊してしまった。
「…関係なくない!ずっと一緒なんだから、もう家族みたいなもんだろ?縁を持ったらもう他人じゃねーぞ!」
別段大きな声をあげたわけではないが、雫は心を打たれて動けなくなっていた。

「…血の繋がりだけが家族じゃねーだろ?」

複雑な家庭環境だった平助だからこそ言える台詞だった。

「…そ、そんなこと言われても………私、わかりません!」
真っ直ぐに訴えかける平助の瞳に耐えきれず、雫はその場から逃げ出した。

***
幕末ではないどこかで、とある少年は監視映像を見ていた。
部屋は真っ暗で、モニターだけが明るく光り、その画面には、雫と平助が写っていた。

カツカツと足音を立てて、少年の後ろからドレスに身を包んだ女性が現れた。

「…東雲、何見て……あぁ、例の子?」

「…ほどよくかき乱してくれれば、僕らも目的が果たせるから……」
「違うでしょ?…あなたが気にしているのはあの子のことが心配だからでしょ?」

東雲は何も答えずにその場を立ち去ろうとしていた。

途端に部屋のドアがバタッと音をたてて閉まる。
東雲は振り返り女性のことを睨み付けた。

「…あなたが彼女に親近感を得ているのはわかるけど、それでも私たちは任務を全うしなきゃいけない存在だからね。もし彼女があなたの仕事の邪魔をするときは………」

「わかってる。……そのときは、僕が殺すよ」

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