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alive
dizzy
しおりを挟む「…じゃあ、私はまた食事の準備をするから、もし何か用事があったら言ってね」
「うん、いまのとこ問題ないし、大丈夫!また楽しみにしてるね」
総司とわかれたあと、気分が高揚していて周りが見えていなかった雫は、向かい側から歩いてくるデカブツに気づいていなかった。
「おい小僧、お前、隊長である俺の前でそんな態度とは、やはり沖田の教育がなってないな」
男の名は武田観柳斎。五番隊の隊長である。
土方に気に入られている雫を、最初から毛嫌いしていたのがこの男。
局長である近藤勇にも、副長である土方や山南にも気に入られている雫が厄介だったようで、何度も絡まれている。
しかも饒舌多弁なこの男、近藤には巧みに説明をするため、雫も他の人間もなかなか訴えることが難しい。
雫は「特に害がないから大丈夫」と他を制し、出来るだけ会わないように過ごしていた。
「すいませんでした、武田隊長。お勤めお疲れ様です」
「フンッ今さら媚び諂っても遅いわ!やはり貴様のような無宿人は人間として失格だな。生きているだけで無駄だ」
キツい云われように、雫はただ唇を噛みしめて堪えていた。
そして言うだけ言ってすぐにいなくなる。
「…人間、失格か……」
軽く言い放たれたその言葉は、雫の胸にずっしりとのしかかっていた。
多くの隊士が広間に集まる。
夕食の時間だ。
部屋に入ってきた総司は、キョロキョロと辺りを見渡す。
「ねぇ、雫は?」
今日の食事当番の平隊士に声をかける。
「先ほど沖田隊長を呼びにいかれましたけど…」
どこかですれ違いでもしたのだろうか……
夜の見廻り当番の隊は、もうすでに食事を始めていた。
今日は沖田を含む一番隊の見廻りだ。
ゆっくりと雫を探している時間はないのだが
(…なんだろう、胸騒ぎがする)
総司は雫を探そうと、廊下に出ようとするが
「…あいつなら問題ない。早く食べとけ」
部屋に入ってきた土方の一言には逆らえず、総司は急いでご飯を口にした。
「……雫は土方さんの部屋ですか?」
広間と総司の部屋の間に、スレ違うような場所はない。
そうすると雫の居場所は大概絞れる。
土方は何も言わずにただ瞳だけを廊下の方向へ動かした。
「ん?どうかしたのか、総司」
「いえ、なんでもありません」
いつもなら喜んで近藤との会話をするのだが、今の総司にはそんな余裕がなかった。
土方の様子から察するに、事を荒立てるなということだ。
総司は走ることなく一直線に土方の部屋に向かう。
確かに雫の気配はするが、今にも消えそうなか細い気配となっており、そばにもう一人の気配がした。
「……入ってもいいですか?」
小さく聞くと、中から応が聞こえた。
そっと手をかけ、ゆっくりと開く。
そばにいたのは斉藤で、雫は布団で眠っていた。
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