暁の刻

煉獄薙

文字の大きさ
上 下
16 / 73
alive

dizzy

しおりを挟む


「…じゃあ、私はまた食事の準備をするから、もし何か用事があったら言ってね」
「うん、いまのとこ問題ないし、大丈夫!また楽しみにしてるね」
総司とわかれたあと、気分が高揚していて周りが見えていなかった雫は、向かい側から歩いてくるデカブツに気づいていなかった。

「おい小僧、お前、隊長である俺の前でそんな態度とは、やはり沖田の教育がなってないな」
男の名は武田観柳斎。五番隊の隊長である。
土方に気に入られている雫を、最初から毛嫌いしていたのがこの男。
局長である近藤勇にも、副長である土方や山南にも気に入られている雫が厄介だったようで、何度も絡まれている。

しかも饒舌多弁なこの男、近藤には巧みに説明をするため、雫も他の人間もなかなか訴えることが難しい。

雫は「特に害がないから大丈夫」と他を制し、出来るだけ会わないように過ごしていた。

「すいませんでした、武田隊長。お勤めお疲れ様です」
「フンッ今さら媚び諂っても遅いわ!やはり貴様のような無宿人は人間として失格だな。生きているだけで無駄だ」
キツい云われように、雫はただ唇を噛みしめて堪えていた。
そして言うだけ言ってすぐにいなくなる。

「…人間、失格か……」

軽く言い放たれたその言葉は、雫の胸にずっしりとのしかかっていた。



多くの隊士が広間に集まる。
夕食の時間だ。
部屋に入ってきた総司は、キョロキョロと辺りを見渡す。
「ねぇ、雫は?」
今日の食事当番の平隊士に声をかける。
「先ほど沖田隊長を呼びにいかれましたけど…」
どこかですれ違いでもしたのだろうか……
夜の見廻り当番の隊は、もうすでに食事を始めていた。
今日は沖田を含む一番隊の見廻りだ。
ゆっくりと雫を探している時間はないのだが
(…なんだろう、胸騒ぎがする)
総司は雫を探そうと、廊下に出ようとするが
「…あいつなら問題ない。早く食べとけ」
部屋に入ってきた土方の一言には逆らえず、総司は急いでご飯を口にした。
「……雫は土方さんの部屋ですか?」
広間と総司の部屋の間に、スレ違うような場所はない。
そうすると雫の居場所は大概絞れる。

土方は何も言わずにただ瞳だけを廊下の方向へ動かした。
「ん?どうかしたのか、総司」
「いえ、なんでもありません」
いつもなら喜んで近藤との会話をするのだが、今の総司にはそんな余裕がなかった。

土方の様子から察するに、事を荒立てるなということだ。
総司は走ることなく一直線に土方の部屋に向かう。
確かに雫の気配はするが、今にも消えそうなか細い気配となっており、そばにもう一人の気配がした。

「……入ってもいいですか?」
小さく聞くと、中から応が聞こえた。
そっと手をかけ、ゆっくりと開く。
そばにいたのは斉藤で、雫は布団で眠っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

永き夜の遠の睡りの皆目醒め

七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。 新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。 しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。 近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。 首はどこにあるのか。 そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。 ※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい

開国横浜・弁天堂奇譚

山田あとり
歴史・時代
村の鎮守の弁天ちゃん meets 黒船! 幕末の神奈川・横濵。 黒船ペリー艦隊により鎖国が終わり、西洋の文化に右往左往する人々の喧騒をよそに楽しげなのは、横濵村の総鎮守である弁天ちゃんだ。 港が開かれ異人さんがやって来る。 商機を求めて日本全国から人が押し寄せる。町ができていく。 弁天ちゃんの暮らしていた寺が黒船に関わることになったり、外国人墓地になったりも。 物珍しさに興味津々の弁天ちゃんと渋々お供する宇賀くんが、開港場となった横濵を歩きます。 日の本の神仏が、持ち込まれた異国の文物にはしゃぐ! 変わりゆく町をながめる! そして人々は暮らしてゆく! そんな感じのお話です。 ※史実をベースにしておりますが、弁財天さま、宇賀神さま、薬師如来さまなど神仏がメインキャラクターです。 ※歴史上の人物も登場しますが、性格や人間性については創作上のものであり、ご本人とは無関係です。 ※当時の神道・仏教・政治に関してはあやふやな描写に終始します。制度的なことを主役が気にしていないからです。 ※資料の少なさ・散逸・矛盾により史実が不明な事柄などは創作させていただきました。 ※神仏の皆さま、関係者の皆さまには伏してお詫びを申し上げます。 ※この作品は〈カクヨム〉にも掲載していますが、カクヨム版には一章ごとに解説エッセイが挟まっています。

【架空戦記】蒲生の忠

糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。 明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。 その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。 両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。 一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。 だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。 かくなる上は、戦うより他に道はなし。 信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

遠の朝廷の大王

望月なお
歴史・時代
仮想大陸の仮想歴史譚です。

新・大東亜戦争改

みたろ
歴史・時代
前作の「新・大東亜戦争」の内容をさらに深く彫り込んだ話となっています。第二次世界大戦のifの話となっております。

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜

かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。 徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。 堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる…… 豊臣家に味方する者はいない。 西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。 しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。 全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。

処理中です...