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lone leap
quit and risk
しおりを挟む長かった稽古も終わり、大広間に続々と隊士が集まる。
その中に雫の姿は見当たらない。
「…おい、総司。早く座れよ」
永倉はそう促した。
「…平助、雫を知りませんか?」
「…ん?あいつならさっき土方さんの部屋に居たと思うけど……」
こそこそと話をしていると、土方さんの後をついて雫が部屋に入ってきた。
「…何人か会ったやつもいると思うが、一番隊沖田総司の小姓となった暁月だ。料理も担当するから、これからの料理担当の人数を減らすことにした。詳しくは……」
土方さんは紙を見せながら今週の予定を説明する。
よほど料理が嫌なのか、隊士たちは料理当番のサイクルが遅くなることを喜んでいた。
その間に雫は手招きされて総司や平助の座っている近くに座った。
「…あれからずっと料理していたの?」
「うん。山崎さんにいろいろなものの配置とか井戸の場所とか教えてもらいながらだったから………少し遅くなった。」
申し訳なさを含む言い方に、総司はどこかもどかしさを感じて、それを抑えるために雫の頭に手を乗せた。
ちょうど土方の説明が終わり、すぐに食事が始まった。
ご飯を食べている間、雫は一切口を開かず、ただモグモグとひたすらに食べていた。
「…総司、あとで俺のとこに来い」
もうすぐ食べ終わる、という時に、土方は総司に声をかけた。
総司は一言返事をして再び食事を開始する。
……が
「野菜、食べないの?」
「だって味ないし、美味しくない」
残っているのは総司の苦手な野菜だけ。
雫は野菜をつまむと、総司の口元に運んだ。
「ちゃんと味つけしたから、好き嫌いせずに食べなさい!」
雫の圧しに負けて、総司は口を開けた。
そして口を閉じる瞬間に、気づいてしまった。
(あれ?僕、自分の箸は持ってるよね?じゃあ雫はなんで箸を持ってるの?もしかして)
そう気付いたときには既に口を閉じていた。
間接キスになっていることなど全く気にもとめていない雫は
「ね?おいしいでしょ?」
ニコッと微笑んだ。
「 う、ん 美味しい……」
味なんて全く感じないが、総司はとりあえず頷いた。
その日から、間接キスを避けるために、総司が自ら野菜を食べるようになったのは言うまでもない。
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