暁の刻

煉獄薙

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lone leap

away and bump

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「…おーい、君。こんなところで寝てると風邪引くよー」
誰かの声が聞こえて、雫はゆっくりと目を開ける。
家に帰った記憶もないし、そもそも家に他人がいるはずもない。
そう思った雫は、勢いよく起き上がり……声の主と頭をぶつけた。

「…いったぁーー。あ、ごめんなさい!私…」
そこまで言ってから違和感に気付く。

雫が寝ていたのは路上の端っこのようだった。目の前には、一昔前のような建築物が並んでいる。

「…えっと……?うちの近所にこんな場所無かったよね……なんで?」
「…なんで?って聞きたいのはこっちだよ!なんで君はここで寝ていたんだい?襲われてもおかしくなかったよ!」
雫を起こした青年は、和服に袴姿。今時こんな格好で外を出歩く人間なんてそうそういない。

しかも周りを見渡すとほとんど似たような服を着ている。
「……………」
異常事態だと脳が警鐘を鳴らす。
目の前の青年も、周りにいるたくさんの人も怪訝そうな顔をしていた。
このままここにいては駄目だと、本能的にそう感じていた。
「…あ、あの……ごめんなさい!」

地を蹴って逃げ出した。

とりあえず、人のいない場所に……

動揺から足がもつれ、思いっきり転けた。
気付いたら森まで走っていた。

「…私、もしかしてタイムスリップしたのかな……うわーまじかー」
頭を抱える。
小説の中ではよく見ていたけど、本当にタイムスリップなんてあるとは思ってなかった。
「…うーん、どうしよう。これ、帰れるのかな?」
本格的に悩むのは、どんどん日が沈んできたというのもあるかもしれない。
周りが朱に染まっていく。
そして、このあとにやって来るのは
「………夜」
何も出来ないことに、雫はグッと拳を握りしめていた。

ガサッ

後ろの茂みから音が聞こえ、慌てて振り返るとそこには盗賊のような三人の男がニヤニヤ笑いながら近づいてきた。
「…お嬢さん、妙な服を着ているね」
嘗めまわすような声。
鳥肌が立つのがわかる。
「…ちょっと俺たちと遊ばない?」
「お断りだ!!」
雫はしゃがんで土を投げつけると、慌てて逃げる。
「…嫌だ!こんなとこで死ぬわけには行かないんだ!」

学校帰りだったから、ローファーを履いていてなかなか走りづらい。
逆に邪魔だと、ローファーを脱いで追いかけてくる男達に投げつけた。
「このクソガキ!」
どんどん声が近づいてくる。

男は確か刀をぶら下げていた。
捕まったら殺される。

「だれかー!!!たすけてーーー」

大声をだして助けを求める。
期待などしていない。
だけど、ただ死ぬのは嫌だった。

ボンッ

何かにぶつかって、雫はその場から動けなくなった。
何かはとっても温かかった。
「…君、問題ばっかり引き起こす人間なの?なんかすっごくめんどくさそーなんだけど」
面倒そうな声音。
でも、一度は聞いたことがあった。

雫は顔を上げてその声の主を確かめる。
整った顔立ちの青年は、やはり先程雫を起こしてくれた青年。
「…なんだ貴様。そんな女みたいな顔して、俺らと戦う気か?」
青年は雫を抱きしめたまま刀を抜いた。
「…うん。まぁ、また逃げられても困るし、君らくらいなら片手でどうにかなりそうだし」
やる気のない返事に、不安になってしまうが、抱きしめる力が強く、逃げることが出来ない。
「…君も、次に逃げようとしたら殺すから」
急に低くなった声に、足がすくんだ。
「……もし怖いんなら目をつぶっときなよ」
でも、すぐに優しくフォローしてくれた。
雫は目を閉じなかった。
目を閉じると、人を殺す音だけが聞こえてきそうだったから。

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