上 下
18 / 19

018 決着

しおりを挟む
爆発が起こった。

衝撃で部屋が揺れる。

「なるほど……健太郎さんにしては、なかなか格好いい最後だったようですね、ふはははははははっ!」

「くっ……健っ……!」

素早くマガジンチェンジを行い、藤原が雄介目掛けて発砲する。

その藤原の体を、雄介の鋭い視線が容赦なく切り刻んでいく。



その時、爆発音に妖しい眠りから覚めた涼子の視界に、雄介と戦う藤原の姿が映った。

「……お……お兄ちゃん……」

涼子が体に巻かれたコードを外そうとあがく。

幸いにもコードは緩く締められていて、何度か試みている内に外す事が出来た。



――涼子の目に、床に転がっている鉈が映った。



涼子が鉈を手に取り、ゆっくりと立ち上がった。

「ふはははははははっ!藤原君、そろそろお別れの時ですね!僕を裏切った事、あの世で後悔してください!」

涼子が鉈を振りかざし、雄介の後ろに立った。

藤原は壁にもたれかかり、諦めきった表情で両腕をだらんと下ろした。

「よりによって、屁たれのクソダコにられるとはな……」

「死ねっ!」

――その時だった。



「やああああああああっ!」



涼子が雄介の首目掛けて、渾身の力を込めて鉈を一気に振り下ろした。
 



「お兄ちゃん……」

その声に藤原が安眠マスクを取ると、そこには血まみれになった鉈を手にした涼子が立っていた。

「……涼子!ゆ、雄介は……」

涼子が力なく、人差し指を雄介の首に向けた。

「……」

雄介の髪は元に戻っていた。

「やっと呪いから解放された……とう訳か……」

涼子が鉈を放り投げた。

藤原が立ち上がり雄介に近付くと、傍らに真紅のしずくが転がっていた。

するとそのしずくが、藤原に呼びかけた。



――欲しい物をやろう――



ボンッ!


藤原がトリガーをひき、しずくは粉々に砕け散った。

「あんまり……人間をなめんなよ……」

その時、しずくの中から真っ赤な妖気の様なものが立ち込めた。

「な……」

その妖気が、藤原に語りかけた。

――人間の世界に欲望がある限り、私は滅びない……必ず私は戻ってくる……必ず……――

やがて妖気は、静かに風化していった。

「欲望か……確かにそうかも知らんな……」

藤原がつぶやいた。

「お兄ちゃん……健ちゃんは……」

涼子の問いに、藤原は無言で首を振った。

「健……ちゃん……」

その場に崩れた涼子が、手を口に嗚咽した。

「泣くな……悪夢は……悪夢は終わったんや、涼子……」

窓の外に目をやると、白いもやで覆われていた空から、太陽の光が差し込まれていた。



ガチャッ!



突然、玄関のドアが開いた。

「なっ……!」

そこには、血まみれになった直美が立っていた。

ゆらりゆらりと近付きながら、直美が床に転がるグロックを手に、藤原に向けた。


ボンボンボンッ!


直美と藤原が同時に撃った。

直美の弾はれ、藤原の左肩をかすめた。

藤原の弾は直美の額に命中、直美がその場に崩れ落ちた。

「……屁たれが……」

藤原がガバメントを投げ捨て、そうつぶやいた。

涼子が母に巻きついているコードを外し体を揺らすと、母も意識を取り戻した。

「……」

藤原が窓から街を見下ろす。

「お兄ちゃん、終わったんやね……」

「ああ……失ったんは……でかいけどな……健……本田……坂口さん……直美ちゃん……」

「私は大丈夫よ、お兄ちゃん……」

そう言って涼子が、藤原に寄り添うようにもたれかかってきた。

「また……いい彼氏見つけるから……」

そう言って小さく笑う涼子の瞳に、涙が光った。



徘徊していた数百万にも及ぶ石像たちは皆、元の人間の姿に戻っていた。

しかし坂口の言っていた「首謀者を倒せば、呪いが解けて皆が助かる」と言う言葉は、残酷な答えとなって返ってきた。

確かに元の姿に戻りはしたが、脳味噌を排出した人々が再び蘇生する事はなかった。

市内は数百万人の死体の山、ゴーストタウンと化していた。

しかし藤原は、街を見下ろしながら思っていた。

(呪いからは解き放たれた……魂っちゅうもんがあるんやったら、みんな、安らかな眠りについた筈や……そうや、絶対そうや……)


涼子の肩をそっと抱いた藤原が、ようやく笑った。

「やっと……終わったんやな……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

タクシー運転手の夜話

華岡光
ホラー
世の中の全てを知るタクシー運転手。そのタクシー運転手が知ったこの世のものではない話しとは・・

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ゴーストバスター幽野怜

蜂峰 文助
ホラー
ゴーストバスターとは、霊を倒す者達を指す言葉である。 山奥の廃校舎に住む、おかしな男子高校生――幽野怜はゴーストバスターだった。 そんな彼の元に今日も依頼が舞い込む。 肝試しにて悪霊に取り憑かれた女性―― 悲しい呪いをかけられている同級生―― 一県全体を恐怖に陥れる、最凶の悪霊―― そして、その先に待ち受けているのは、十体の霊王! ゴーストバスターVS悪霊達 笑いあり、涙あり、怒りありの、壮絶な戦いが幕を開ける! 現代ホラーバトル、いざ開幕!! 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...