2 / 7
002 悪魔の囁き
しおりを挟む
「……お姉さんのお話、納得出来ます。俺も、その……それなりに努力はしてるんですが、大して成績も上がりませんし、多分このままだと、適当な大学にしか進学出来ないと思ってます。そしてそうなれば当然、就職先にも恵まれないでしょう。よくいっても中流の生活。それに……顔がいい訳でもないし、得意なものも持ってない俺なんか、結婚も出来ないと思ってます」
「全部叶いますよ」
お姉さんが、確信のこもった眼差しを向けた。
「……一応、聞かせてもらえますか」
「はい、勿論です」
そう言って、お姉さんは喫茶店のマスターに目配せをした。
「結果を出すには、必ず代償が必要です。代償とはさっきも言った通り時間、すなわち命です」
「……」
「私、悪魔というものをやらせていただいてます」
「……」
お姉さんの口から、とんでもない言葉が出て来た。
たくさんのハテナマークが頭に浮かび、俺は固まってしまった。
「大丈夫ですか?」
「…………え、は、はい、大丈夫です……すいませんが、もう一度言ってもらえますか」
「はい、ではもう一度。私、悪魔です」
「すいません、帰らせてもらいます」
そう言った俺の手を、自称悪魔のお姉さんが握ってきた。
その温もり、やわらかな感触に俺は負けた。
そ、そうだな、もう少しだけなら、聞いてあげてもいいかな。
俺の手を握ってくれた初めての女性。そんな人の訴えを無下にする程、俺は非道ではない。
例えお姉さんがいかれた宗教の信者でも、ここは寛大な心で耳を傾けてあげよう、そう思った。
「……悪魔なんですか」
「ええ、悪魔です」
そう言ってにっこりと微笑む。この微笑みは、確かに悪魔的だ。
「悪魔ということは、やっぱり代償は魂ですよね」
「はい、そうなります。ですが今、あなたが思ってるような大袈裟な物ではありません。よくありますよね。願いを叶える代わりに、魂を差し出せと」
「そうですね。俺もよく、そういう類の物語は読んでました」
「でもそれって、言ってみれば一度限りの大勝負じゃないですか。憎いあいつに復讐したい、その為に命を支払う、とか」
「そうですね。正に命を賭けた願い、ですよね」
「でもそんな大勝負をする人なんて、そうそういないんです。特に現代においては」
「そうなんですか」
「でも、人は常に願望を持っている。自分の力量に合わないものであっても、願いぐらいいいじゃないか、そう思いながら生きている」
「……」
「そんな願いを叶える為に、私たちは新しいサービスを始めたのです」
「新しい……サービス?」
「はい。それがこの『魂の分割払い』なんです」
「分割払い……」
話がおかしな方向に向かってる。と言うか、何だこの設定は。お姉さん、本当に大丈夫?
そんなことを思いながらも、お姉さんの発したその言葉は、確実に俺の心をつかんでいた。
「例えば……そうですね、今の学力では絶対に無理な大学に合格したい。その為に悪魔を召喚して契約する。あなたには出来ますか?」
「いやいや無理です、無理に決まってます。仮に願いが叶っても、命を取られたら何にもならないじゃないですか」
「そうなりますよね。だからこその分割払いなんです」
そう言ってお姉さんが俺の左手の前を指差した。そこに指を出してみろと言ってるようだ。
俺は少し躊躇しながら、人差し指を向けた。
すると突然、その場所にモニターが現れた。
「な……なんですか、これは」
「実際に触ってみた方が分かりやすいと思いましたので、あなたの魂にリンクさせてもらいました。あなた専用のタブレット。大丈夫、あなた以外の人には見えませんので」
「俺専用のタブレット……」
「はい。今は試験的に見ていただくだけですので、詳しいサービスはお見せ出来ませんが。試しにそこに、『1万円を手に入れる』と入れてみてください」
お姉さんに言われるがままに、俺は文字を入れた。
突然目の前に現れたタブレット。この現象だけを取ってみても、このお姉さんが普通の人間ではない確証を得た気がした。
「どうですか?」
「は、はい……1日と出ました」
「それが代償になります」
そう言ってにっこりと笑う。
「1日って……俺の寿命の1日と引き換えに、1万円が手に入るということですか?」
「その通りです。理解が早くて助かります」
「……」
「全部叶いますよ」
お姉さんが、確信のこもった眼差しを向けた。
「……一応、聞かせてもらえますか」
「はい、勿論です」
そう言って、お姉さんは喫茶店のマスターに目配せをした。
「結果を出すには、必ず代償が必要です。代償とはさっきも言った通り時間、すなわち命です」
「……」
「私、悪魔というものをやらせていただいてます」
「……」
お姉さんの口から、とんでもない言葉が出て来た。
たくさんのハテナマークが頭に浮かび、俺は固まってしまった。
「大丈夫ですか?」
「…………え、は、はい、大丈夫です……すいませんが、もう一度言ってもらえますか」
「はい、ではもう一度。私、悪魔です」
「すいません、帰らせてもらいます」
そう言った俺の手を、自称悪魔のお姉さんが握ってきた。
その温もり、やわらかな感触に俺は負けた。
そ、そうだな、もう少しだけなら、聞いてあげてもいいかな。
俺の手を握ってくれた初めての女性。そんな人の訴えを無下にする程、俺は非道ではない。
例えお姉さんがいかれた宗教の信者でも、ここは寛大な心で耳を傾けてあげよう、そう思った。
「……悪魔なんですか」
「ええ、悪魔です」
そう言ってにっこりと微笑む。この微笑みは、確かに悪魔的だ。
「悪魔ということは、やっぱり代償は魂ですよね」
「はい、そうなります。ですが今、あなたが思ってるような大袈裟な物ではありません。よくありますよね。願いを叶える代わりに、魂を差し出せと」
「そうですね。俺もよく、そういう類の物語は読んでました」
「でもそれって、言ってみれば一度限りの大勝負じゃないですか。憎いあいつに復讐したい、その為に命を支払う、とか」
「そうですね。正に命を賭けた願い、ですよね」
「でもそんな大勝負をする人なんて、そうそういないんです。特に現代においては」
「そうなんですか」
「でも、人は常に願望を持っている。自分の力量に合わないものであっても、願いぐらいいいじゃないか、そう思いながら生きている」
「……」
「そんな願いを叶える為に、私たちは新しいサービスを始めたのです」
「新しい……サービス?」
「はい。それがこの『魂の分割払い』なんです」
「分割払い……」
話がおかしな方向に向かってる。と言うか、何だこの設定は。お姉さん、本当に大丈夫?
そんなことを思いながらも、お姉さんの発したその言葉は、確実に俺の心をつかんでいた。
「例えば……そうですね、今の学力では絶対に無理な大学に合格したい。その為に悪魔を召喚して契約する。あなたには出来ますか?」
「いやいや無理です、無理に決まってます。仮に願いが叶っても、命を取られたら何にもならないじゃないですか」
「そうなりますよね。だからこその分割払いなんです」
そう言ってお姉さんが俺の左手の前を指差した。そこに指を出してみろと言ってるようだ。
俺は少し躊躇しながら、人差し指を向けた。
すると突然、その場所にモニターが現れた。
「な……なんですか、これは」
「実際に触ってみた方が分かりやすいと思いましたので、あなたの魂にリンクさせてもらいました。あなた専用のタブレット。大丈夫、あなた以外の人には見えませんので」
「俺専用のタブレット……」
「はい。今は試験的に見ていただくだけですので、詳しいサービスはお見せ出来ませんが。試しにそこに、『1万円を手に入れる』と入れてみてください」
お姉さんに言われるがままに、俺は文字を入れた。
突然目の前に現れたタブレット。この現象だけを取ってみても、このお姉さんが普通の人間ではない確証を得た気がした。
「どうですか?」
「は、はい……1日と出ました」
「それが代償になります」
そう言ってにっこりと笑う。
「1日って……俺の寿命の1日と引き換えに、1万円が手に入るということですか?」
「その通りです。理解が早くて助かります」
「……」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
銀の少女
栗須帳(くりす・とばり)
ホラー
昭和58年。
藤崎柚希(ふじさき・ゆずき)は、いじめに悩まされる日々の中、高校二年の春に田舎の高校に転校、新生活を始めた。
父の大学時代の親友、小倉の隣の家で一人暮らしを始めた柚希に、娘の早苗(さなえ)は少しずつ惹かれていく。
ある日柚希は、銀髪で色白の美少女、桐島紅音(きりしま・あかね)と出会う。
紅音には左手で触れた物の生命力を吸い取り、右手で触れた物の傷を癒す能力があった。その能力で柚希の傷を治した彼女に、柚希は不思議な魅力を感じていく。
全45話。
悪魔の初恋
栗須帳(くりす・とばり)
恋愛
絶望に飽きた雅司はその日、ビルの屋上にいた。
自らの人生に終止符をうつ為に。
そこに現れた謎の女、ノゾミ。彼女は悪魔だと告げた。
願いと引き換えに、魂を譲って欲しいと契約を持ちかけるノゾミ。
雅司は言った。「俺を愛してくれ。そうすれば、契約完了だ」
ゴーストバスター幽野怜Ⅱ〜霊王討伐編〜
蜂峰 文助
ホラー
※注意!
この作品は、『ゴーストバスター幽野怜』の続編です!!
『ゴーストバスター幽野怜』⤵︎ ︎
https://www.alphapolis.co.jp/novel/376506010/134920398
上記URLもしくは、上記タグ『ゴーストバスター幽野怜シリーズ』をクリックし、順番通り読んでいただくことをオススメします。
――以下、今作あらすじ――
『ボクと美永さんの二人で――霊王を一体倒します』
ゴーストバスターである幽野怜は、命の恩人である美永姫美を蘇生した条件としてそれを提示した。
条件達成の為、動き始める怜達だったが……
ゴーストバスター『六強』内の、蘇生に反発する二名がその条件達成を拒もうとする。
彼らの目的は――美永姫美の処分。
そして……遂に、『王』が動き出す――
次の敵は『十丿霊王』の一体だ。
恩人の命を賭けた――『霊王』との闘いが始まる!
果たして……美永姫美の運命は?
『霊王討伐編』――開幕!
大丈夫おじさん
続
ホラー
『大丈夫おじさん』、という噂を知っているだろうか。
大丈夫おじさんは、夕方から夜の間だけ、困っている子どもの前に現れる。
大丈夫おじさんに困っていることを相談すると、にっこり笑って「大丈夫だよ」と言ってくれる。
すると悩んでいたことは全部きれいに片付いて、本当に大丈夫になる…
子どもに大人気で、けれどすぐに忘れ去られてしまった『大丈夫おじさん』。
でも、わたしは知っている。
『大丈夫おじさん』は、本当にいるんだってことを。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
少年少女怪奇譚 〜一位ノ毒~
しょこらあいす
ホラー
これは、「無能でも役に立ちますよ。多分」のヒロインであるジュア・ライフィンが書いたホラー物語集。
ゾッとする本格的な話から物悲しい話まで、様々なものが詰まっています。
――もしかすると、霊があなたに取り憑くかもしれませんよ。
お読みになる際はお気をつけて。
※無能役の本編とは何の関係もありません。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる