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007 手術

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 手術当日。
 病室で手術着に着替えた栗須は、麻酔用の目薬を差された後、車椅子に乗せられて手術室へと向かいました。
 目の手術なんですけど、なんで車椅子? ほんとにこれでいいの?
 心の中でそう突っ込みながら、車椅子は段々と人気のない場所に。
 流石に緊張してきました。




 手術室に到着。先生が笑顔で「よろしくね」と言ってくれました。
 手術用の椅子に座り直し、麻酔用の目薬を再度投入。
 とその時、病室に数人の若い人が入って来ました。

 あれ? ひょっとして見学の学生さん?
 拒否した筈なんですけど、どういうこと?

 そう思いましたが、ここでもチキンな栗須は何も言えず。
 すると彼らは栗須の周りにやってきて、色々と準備しだしました。
 どうやら手術中は入れないが、術前のことはするみたいでした。

 一人の男の子が栗須の手を取り、甲を向ける。
 いやいや、何か言ってからにしてよ。いきなり手をつかむのは駄目でしょ。
 必死なのは分かるよ。先生も見てることだし。
 でも、これから手術を受ける患者に対して、少しぐらい気配りしなさいって。

 はい。チキンな栗須は黙って見守ります。

 男の子が無言で、手の甲の血管に針を刺す。点滴、なんでしょうか。その辺の説明も全くなし。

 て言うか、痛い痛い痛い!

 少年少年、刺すとこ間違ってない? 無茶苦茶痛いんですけど。
 それと、一言ぐらい言ってから刺してくれない?
  
 少年が何度か試みる。つまり何度か刺されてるってこと。
 結構パニクってる。
 流石にイラッとした栗須、「痛いです」と一言。
 見ていた先生もイラついた様子で、「ああもういいから! やらなくていいから!」と彼を叱ってました。




 彼らがいなくなり、部屋には栗須と先生、そして助手としてもう一人お医者さんが残りました。

「6番かけて」

 先生がそう言うと、部屋にクラッシックが流れてきました。どうやらここでは、執刀医が集中しやすいように、指定した音楽を流すようでした。
 ルーティーンというやつでしょうか。
 でも、高校野球でなくてよかった(心の叫び)。

 麻酔が効いてきたようで、瞼が重くなってきました。
 目がごわごわしてる感じ。
 いよいよ手術開始です。
 今回は緑内障と一緒に、白内障の手術もするとのことでした。
 そこまで酷くはないけど、少し濁っているんだそうです。これを代えれば、かなり見えやすくなりますよと言ってくれました。




 まず最初に、最大の難関。恐怖の時間。

 ――眼球に注射を刺します。

 麻酔らしいですが、いやいや考えただけで震えました。

「はーい、じゃーあー、ずーっと左を見てくださいねー」

 言われるがままに左を見る。
 そこに針が。

 プスッ。

 ああこれ、昔見たやつだ。
 ホラー映画のサンゲリア、ゾンゲリア。はたまたハロウィン2。
 あれを今、栗須は体験してるんだ。

 いやあ、怖い怖い。

 しかし栗須はこれでも6回、まな板の上の鯉を経験してる、言わば上級者。
 全てを天に委ねました。

 角膜を外されると、完全に世界が真っ暗に。
 そこからは、何をされてるのか全く分からない状態が続きました。
 時折先生が「下向いて」「右向いて」と言い、それに従うのみ。

 途中先生が「ごめん、8番にして」と音楽の変更を要求。
 この先生、集中の為に余念がないなと感心しました。




 手術は無事成功。今回はまず左目でした。
 栗須の左、実はほとんど見えてません。右より進行が早く、気が付けば光を認識する程度の物になってました。
 なので手術、右だけでいいですと言ったのですが、例え光だけでも見えてる方がいい、遠近感を取る為に必要だから。そう言われ納得しました。

 4勝3敗。
 ついに勝ち越し!

 そして10日後、右目も成功。
 これで5勝3敗。栗須は最大の山場を勝利で乗り切りました。


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