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067 笑顔と涙

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 三日後。
 祖母、多恵子の葬儀が営まれた。

 明るく妻を見送ってほしいという宗一の要請で、皆遺影に声をかけ、手を振って別れを惜しんだ。
 奈津子も涙を見せることなく、参列者をねぎらいながら、時折笑顔を見せていた。

「本来、葬儀っちゅうもんはこうあるべきなんじゃ。勿論、幼い子供の別れは別だがな。じゃが、ばあさんのように天寿を全うした者はな、みんなで賑やかに送ってやるべきなんじゃ。古い肉体を捨て、また新しい命へと輪廻する。それを祝福するのが葬儀なんじゃて」

 宗一の言葉に、奈津子はうなずいた。

「そうだね……私もそう思うよ」

「ばあさん、わしが行くまで待っとってくれよ。先走って、別の男とくっつかんようにな」

「ふふっ、何よそれ」

「いやいや、真面目な話なんじゃて。わしみたいな道楽者と一緒になる物好き、ばあさんぐらいしかおらんのじゃからな」

「そうかもね。でも……私もそうであってほしいな」




 葬儀の前日。
 通夜が執り行われている中、春斗は大阪へと帰っていった。

 喪主が離れるなんて駄目だよ、そう奈津子が止めたのだが、「構わん構わん」と、宗一が春斗を駅まで送っていった。

 宗一を車で待たせ、奈津子は駅のホームまで春斗を見送った。




「ありがとう、なっちゃん。大変な時なのに見送ってくれて。もう十分だから、早くおばさんのところに戻ってあげて」

「うん、そうするよ。でもこうして、ちゃんと春斗くんともお別れしたかったから」

「……やっぱりもう、これでさよならなんだよね」

「ごめんなさい……今の春斗くんも春斗くんだって、頭では理解してるの。でも、やっぱりまだ、心が追い付いていないって言うか」

「仕方ないと思うよ。僕はなっちゃんを壊そうとした妖怪の仲間なんだから」

「そんなこと思ってないよ。でも……ごめんなさい。一度距離を置いた方がいいと思うの」

「うん……分かってる」

「でも春斗くんは、今でも大切な幼馴染だよ」

「ありがとう、なっちゃん」

「それにね、言ってみれば春斗くん、私の巻き添えになった訳だし」

「どう言うことかな」

「だから……私は宮崎家の人間で、そのせいで妖怪に狙われて」

「あははははっ、それは違うよ、なっちゃん」

「そうなの?」

「うん。他の妖怪のことはともかく、僕たちぬばたまに、そんな恨みの感情は残ってない。玲子ちゃんからも聞いただろ? 僕たちの目的はただ一つ、生き残ることだって。わざわざ昔の恨みを晴らすと言って、陰陽師の末裔に仕掛けていく余力なんて残ってないから。僕たちがりつかれたのは、ただの偶然だよ」

「そうだったんだ……よかった……」

「なっちゃんの知ってる大野春斗はもういない。今目の前にいる僕は、新しく生まれ変わった大野春斗。今の僕をどう認識するかは、全てを知ってるなっちゃんが、これから考えてくれればいいと思う」

「うん……ありがとう」

「でも……やっぱり僕はなっちゃんのこと、大好きだよ」

 そう言って笑顔を見せた春斗に、奈津子は赤面してうつむいた。

「だから……そういうこと、ストレートに言わないの」

「あはははっ、ごめんごめん」

「じゃあ、これで」

「うん。なっちゃんも頑張ってね」

「ありがとう。それじゃあ」

 春斗が手を差し出す。
 奈津子はその手をつかむと、そのまま春斗を抱擁した。

 春斗の胸に顔を埋める。
 体が震えていた。
 春斗は驚いたが、やがて微笑むと、奈津子を優しく抱き締めた。

 別れの抱擁。

 これから先、二人がどうなるのかは分からない。
 しかし今、二人は互いの未来を見据え、新しい旅立ちを決意したのだった。
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