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034 容赦ない正論

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 昼食が終わり、自由時間になった。
 クラスメイトたちは川辺で談笑したり、辺りを散策していた。中にはまた釣りに興じている者もいる。
 奈津子は玲子とシートの上に寝転び、流れる雲を見つめていた。

「穏やかね」

「うん……こんな時間がずっと続けばって思っちゃう」

「奈津子でもそんなこと、思うんだ」

「だって今まで、ずっと慌ただしい生活してたから」

「やっぱり都会って、時間の流れが速いんだ」

「勿論、感覚的なものだよ。でもここに来て、こうしてのんびり過ごして……もう戻れないかも」

「すっかりこっちの生活に慣れたみたいね」

「自分が生きてるんだってこと、ここに来て初めて感じた気がするの」

「どういうこと?」

「今までの私はね、与えられた課題をこなしていくだけだったの。それに疑問も感じなかったし、感じる時間も与えられなかった。
 自分のことを見つめ直したり、こうして自然と触れ合って、季節を感じるなんてこと、許されてなかった。ただただ、お父さんの決めたことをこなしていくだけの生活だった。だからね、今、とっても楽しいの」

「大変だったんだね、本当に。でも、よかったね」

「うん」

 二人顔を見合わせて笑い、手を握り合った。

 その時またしても丸岡の声が耳に入り、奈津子と玲子がうんざりした表情を浮かべた。
 得意満面な表情の丸岡。手に何かを持っていた。

「ははっ、リス、ゲットしたぜ」

 そう言って級友たちに誇らしげに見せる丸岡は、苦しそうにもがくリスを握り締めて笑った。

「あの馬鹿、何してるのよ」

 玲子が嫌悪感をあらわに立ち上がり、そう毒づいた。
 二人が見ていることを確認した丸岡はニヤリと笑い、そのリスを山の斜面に叩きつけた。

「ひっ……」

 その様子に、周囲にいた生徒たちが悲鳴を漏らす。
 肉片と化したリスの残骸が、斜面にべったりとへばりつく。

「……もう我慢出来ない」

 言葉と同時に走っていく玲子。奈津子も慌てて彼女を追う。

「お前! 何なのよお前!」

 丸岡の胸倉をつかみ、今にも殴りそうな玲子を奈津子が抑える。

「玲子ちゃん、ちょっと落ち着いて」

「離して奈津子! こいつには報いが必要なの! こんなことをしても誰もとがめない、そんな世界じゃ駄目なの! そんなんじゃ、こいつはずっと腐ったままなんだから!」

「でも、でも落ち着いて玲子ちゃん! そんなことをしたって、この人は何も変わらないから! 絶対変わらないから!」

「だったらどうすればいいのよ!」

「お願い玲子ちゃん、ちょっとだけ落ち着いて」

 声を震わせる玲子。そんな玲子を抱き締めて奈津子が訴える。

「お願い玲子ちゃん。私に……私に話させて」

「……」

「ね、お願いだから」

 奈津子の言葉に、玲子がゆっくりと息を吐いた。

「……奈津子にはかなわないな」

「ありがとう、玲子ちゃん」

 玲子が離れると、丸岡が二人をあざ笑うような視線を向けた。
 そんな丸岡に呆れた表情を向けながら、奈津子が淡々と語り出す。

「この人はね、玲子ちゃんが怒れば怒るほど、今のようなことを続けるの。いつの間にか、それが目的に変わってるから」

 奈津子の言葉に、玲子が意外そうな表情を向ける。

「元々はね、私の成績が原因だったと思う。自分より成績のよかった私が妬ましくて、どうにかしてやろうと思って」

「おい南條、何勝手なことを」

「でも残念ながら、私はあの嫌がらせに動揺しなかった。少なくとも、この人が望んでいるような反応をしなかった。悔しかったと思う。だからどんどんエスカレートしていった。何としても私を動揺させたい、そんな風に思うようになった」

 奈津子ってこんなことが言えるんだ。心の内を見透かして、それを本人の前でさらけ出していく。本人からしたらたまったものじゃない。玲子がそう思った。

「でも玲子ちゃんは違った。玲子ちゃんはこの人に怒りをぶつけた。全力で。きっとこの人、狼狽うろたえたと思う。だってそんなに深く考えてない筈だから。これがどういう結果になるかなんて、何も考えてなかったと思うから」

「南條お前、いい加減に」

「だからこの人の中で、何が目的なのかよく分からなくなっていった。なんでこんなことをしてるんだろうって、自問してるんじゃないかな。それでも玲子ちゃんが相手してくれるから、どんどんエスカレートしていった。
 多分だけど、玲子ちゃんが構えば構うほど、この人はやめないと思う。やめ時も分からないままに、意味もなく意地を張り続けると思う。だって目的がぐちゃぐちゃになってるんだから」




 突き放すように淡々と語る奈津子。その言葉は鋭い刃となって、丸岡の心に容赦なく突き刺さっていく。
 あなたはただの子供だ。何も考えていないし、やめるタイミングも見失った愚か者だ。こんなレベルの低い人なんて放っておきましょう、そう言われているようだった。
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