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006 夕焼けと広っぱ
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親父が死んでから、50年が過ぎた。
今日まで、僕なりに頑張ったと思う。
何がきっかけだったのか、よく覚えていない。
多分……親父との別れが、それからの生き方を変えたんじゃないかな、そう思う。
僕はあれから、少しずつ人の中に入っていった。
ずっと避けていた、大きな壁。
でもなぜか、挑戦しようと思った。
最初の内は酷いものだった。
元々周囲から浮いていたんだから、当然なんだけど。
でも、親父の息子として恥じない生き方をしたい、そんな思いが僕を進ませた。
3年後に結婚。
式の当日になっても、自分が結婚することが信じられなかった。
あれだけ心の壁を作っていた僕を好きになる人なんて、絶対いないと思っていたから。
彼女には本当、何回も聞き直した。
「本当に本当? 本当に僕なんかでいいの?」って。
その度に頭を小突かれた。
「私が好きになった人のことを、例え本人でも『なんか』なんて言うのは許しません」って。
そして今。
僕もいい感じのおじいさんになった。
親父よりも長く、この世界で生きている。
僕は子供や孫たちの頭を、必要以上に撫でていたと思う。
親父から。母さんから。
たくさんの愛情をもらった。
温もりをもらった。
この温もりを、今度は僕が与えてあげるんだ。
そしていつか、君たちも与えてあげるんだよ。
そんな思いが、いつも心の中にあった。
それがいつ生まれたのか、自分でも分からなかったけど。
でも今。
夕焼けに染まった広っぱを前にして。
あの時の記憶が鮮やかに蘇ってきた。
ああ、そういうことだったのか。
僕……いや、私は。
壁際にあるベンチに腰掛けた。
広っぱでは、子供たちが元気に遊んでいる。
そこにはかつての自分――正幸くんもいる。
私は待った。
あの時の自分を。
伝えなければいけないことがある。
ちゃんと伝えられるかな。
そんなことを思いながら、私は煙草に火をつけた。
夕焼けの空が、本当に綺麗だった。
今日まで、僕なりに頑張ったと思う。
何がきっかけだったのか、よく覚えていない。
多分……親父との別れが、それからの生き方を変えたんじゃないかな、そう思う。
僕はあれから、少しずつ人の中に入っていった。
ずっと避けていた、大きな壁。
でもなぜか、挑戦しようと思った。
最初の内は酷いものだった。
元々周囲から浮いていたんだから、当然なんだけど。
でも、親父の息子として恥じない生き方をしたい、そんな思いが僕を進ませた。
3年後に結婚。
式の当日になっても、自分が結婚することが信じられなかった。
あれだけ心の壁を作っていた僕を好きになる人なんて、絶対いないと思っていたから。
彼女には本当、何回も聞き直した。
「本当に本当? 本当に僕なんかでいいの?」って。
その度に頭を小突かれた。
「私が好きになった人のことを、例え本人でも『なんか』なんて言うのは許しません」って。
そして今。
僕もいい感じのおじいさんになった。
親父よりも長く、この世界で生きている。
僕は子供や孫たちの頭を、必要以上に撫でていたと思う。
親父から。母さんから。
たくさんの愛情をもらった。
温もりをもらった。
この温もりを、今度は僕が与えてあげるんだ。
そしていつか、君たちも与えてあげるんだよ。
そんな思いが、いつも心の中にあった。
それがいつ生まれたのか、自分でも分からなかったけど。
でも今。
夕焼けに染まった広っぱを前にして。
あの時の記憶が鮮やかに蘇ってきた。
ああ、そういうことだったのか。
僕……いや、私は。
壁際にあるベンチに腰掛けた。
広っぱでは、子供たちが元気に遊んでいる。
そこにはかつての自分――正幸くんもいる。
私は待った。
あの時の自分を。
伝えなければいけないことがある。
ちゃんと伝えられるかな。
そんなことを思いながら、私は煙草に火をつけた。
夕焼けの空が、本当に綺麗だった。
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