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085 序列

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「由香里ちゃんが亡くなったのは14歳の時。あのセーラー服は、彼女の想い人が認識したものらしい」

「あの子が新しい妹……14歳、私より年下……」

「食いつくのそこ? あやめちゃん、今の話聞いてた? 由香里ちゃんのセーラー服は、彼の中にあった由香里ちゃんのイメージそのものなんだ」

「それはいい。分かったから」

「……なんか今日のあやめちゃん、突っ込みの刃が鋭すぎる」

「でも信也くん、どうして私は着替えられるのかな」

「何を今更。早希には体あるんだし、着替えられて当然だろ」

「そうじゃなくて。生きてる人に私は見えない、でも私はこの世界の服を着てる。その服はみんなにも見えてる訳で……だったらみんなには、透明人間が服を着てるように見えるんじゃないの?」



 あ、本当だ。



 信也がそんな顔をした。

「……考えたことなかったな」

「もぉ~、信也くんてばほんと、そういうのにうといんだから」

「いやいや、うといって何だよ。俺はただ、ありのままを受け入れてるだけで」

「でも……それは私も思ってた。早希さんは色々とイレギュラーな存在。ご飯も普通に食べてるし、私たちにしか認識出来ないことを除けば、普通の人間とあまり変わらない生活をしている」

「でも純子さんの話だと、別に食べなくても平気なんだよな」

「そうなの?」

「そうらしいの。私ってば、信也くんと普通に食べてたから気付かなかったんだけど、ほんとは飲んだり食べたりする必要もないんだって」

「トイレにも行ってないしな」

「なっ……」

 部屋の空気が凍りついた。

「……お兄さん……今のは駄目……」

「え? 何が?」

「今のは流石に……かばえない……」

「だから何が? あやめちゃん、俺また何か変なこと……って、早希さん?」

 あやめがハリセンを早希に捧げると、早希はそれを握ってゆっくりと浮かび上がった。
 今までに見たことがないぐらい、顔が真っ赤になっていた。

「信也くん……」

「……さ、早希さん?」

「女子に向かって、よくもそんなデリカシーのないことを……」

「私、ちょっとトイレに行ってきます」

「あ、あやめちゃん? ちょ、俺を置いてかないで」

「ごめんなさい、今のは流石に……無理」

「ひっ……」

「五倍増しの刑!」

「ひゃあああああああああっ!」




「で」

「……はい」

「お兄さん、大丈夫?」

「……はい。何も問題ございません」

「よしよし」

 あやめがそう言って、放心状態の信也の頭を撫でる。
 対照的に早希はすっきりした表情で、鼻歌交じりにビールを飲んでいた。

「ぷはぁー。この一杯の為に生きてるわー」

「いやいやお前、もう死んでるから」

「何か問題でも?」

「いえ、何もございません」

「そろそろ……さっきの続き、いいかな」

「そうだったそうだった。今日は色々脱線しすぎてるな」

「早希さんの言う通り、早希さんが服を着て歩いてると、みんなの目には服だけが浮いてる様に見えるはず。でもそうなっていない。早希さんが身につけると、服も一緒に見えなくなる」

「そうだよな。変に感じてる人もいないと思うよ」

「早希さんが着ることで、それは早希さんの一部になるんだと思う」

「だから壁もすり抜けられるのか」

「でもでも、ハリセンはすり抜けなかったよ」

「そういやそうだな。あれはどういう原理なんだろう」

「早希さんが手にした物は、他の人からはそれだけが浮いて見えるんだと思う。ポルターガイストみたいに」

「……色々と神様に突っ込みたくなる設定ね。都合よすぎると言うか」

「でも、あやめちゃんの言う通りなんじゃないかな。その解釈、しっくりくるよ」

「どこがよー。信也くんてば、ほんと適当なんだから」

「実際そうなんだから仕方ないだろ。沙月さんだって、服着てるけど見えてないみたいだし」

「沙月さん……別のハーレム要員かな」

「……そろそろその誤解、脳内から消してほしいんですけど」

「なーに言ってるんだか。沙月さん、信也くんにデレてたし」

「どこがだよ」

「アクセサリーまでプレゼントしておいて、どの口で否定してるんだか」

「いやいやいやいや。あれ、早希と一緒に選んだよな」

「ふーんだ。沙月さんの為だから我慢したけどさ、ほんとは私、ちょっと寂しかったんだから」

「お兄さん。後で早希さんの頭、たっぷり撫でてあげて」

「撫でるのはいいんだけど……また俺、変なことやらかしてる?」

「女の子は色々と難しいの」

「そうなのか……よく分からんが、とにかく分かった」

「体があると言うことは、沙月さんってゾンビの人かな」

「やっぱ知ってるんだ」

「何度か睨まれたことあるから」

「あはははっ、ごめんね。でも沙月さん、素直じゃないけどいい人なんだよ」

「ゾンビはゾンビでも、可愛いゾンビちゃんだからな」

「……お兄さんの趣味、よく分からない……」

「そうか?」

「後は透明人間の涼音さん。今私たちが知ってるのはこの4人」

「透明人間……流石にそれは見えないな……でもそういえば、たまに声だけが聞こえる時があるの。歌……なんだけど、とってもきれいな声で」

「多分涼音さんだな。彼女はクラッシックが好きで、学生時代に合唱部にいたらしいから」

「そうなんだ……でもお兄さん、色々と楽しそう」

「楽しいと言えば楽しいかな。でも早希の方がもっと楽しいと思うよ。友達が4人も出来たんだから」

「そうだね。確かに今、ちょっと楽しいかも」

「でも、浮気と背中合わせ」

「いやいやいやいや、いい感じに収まりそうだったのに、ちゃぶ台ひっくり返すようなことはしないでほしいんだけど」

「浮気は別にいい」

 そう言うと、あやめは信也の腕にしがみついた。

「あーっ! またあやめちゃん、どさくさにまぎれて」

「でもお兄さんの一番目の妹は私……出来てしまったのは仕方ないけど、もう作っちゃ駄目」

「あのその……あやめちゃん? 俺、あやめちゃんが帰った後でまたボコられるんだけど」

「由香里さんに言っておいて。あなたは二番目だって」

「二番目って」

「序列は大事。これは守ってもらう。それに……もうすぐ高認試験だし、お兄さんには二番目より、私のことをちゃんと見てほしい」

「あ、あやめちゃん、なんでそう言いながら、膝の上に座ってくるのかな」

「ここの座り心地は最高。妹の特等席」

「あのね、俺、さっきから身の危険がどんどん強くなってるんだ……ひょっとしてあやめちゃん、分かってやってるのかな」

「ふふっ……よそで妹を作ってきた罰。今日はここから動かない」

 早希は鼻歌を歌いながら、これ見よがしにハリセンを作り出していた。

「勘弁してくれ……」


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