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第一部 五章 コロッセオの騎士編
51 地下街の闇(挿絵あり)
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彼は自身の書斎で一つ、ため息をついた。一度ワイングラスを回してみれば、その芳醇な葡萄の香りが室内全体に広がっていく。
「全く、勝手な人だ」
不機嫌に細められた切れ長の碧眼が、じっと机上の羊皮紙に向けられる。深々と一人用の革ソファーに腰をかけ、背後の窓を振り返っていると、その静かな部屋にノック音が響いた。
「失礼します、アードラー上官」
「要件はなんだ」
窓の方を向いたまま、アッシュグレー髪の男―――アードラー・ド・モンモランシーは、部屋に入ってきた兵士に返す。兵士は特に気にせず「はい。例の件、無事に奴らに伝えることが出来ました」と敬礼した。
「そうか。了承は得られたか?」
「はい……しかし、本当にいいのですか? あんなゴロツキども……いつ裏切ってもおかしくないのですよ? それに、こんな事をしているとバレてしまったら、我々の信用に関わります」
気まずそうな兵士に「お前は余計なことを考えるな」と、ただアードラーが言い放った。
「そうやって疑問を抱いていった人間がどんな道を辿るか……分かるか? 中途半端な正義は自分の身を滅ぼしかねない。利口なお前なら分かるだろう?」
「……申し訳ございません」まだ迷いがある間の開け方をして、兵士が答える。
知っていたのだ。アードラーの周りにいた人間が様々な理由で本部から消えていったのを。その中には生死が分からなくなった者もいる。
「まあいい。そもそもこの件はあの方の命令だ……断るわけにはいかない。それに、必ず愚弟は何か動きを見せる。そういう奴だ。ならばこちらも策を練らねばならない」
窓の向こうの曇を見て、アードラーは憎らしそうに拳を作った。
◆
あれから三日。指定の素朴な服に着替えた一同は、端街にある階段を使って地下街へと降りた。死臭やら生臭い空気が湿気に包まれて、この空間内に立ち篭める。鼻に集中した顔は自然と険しくなった。
はっきり言って、あのヴェトナ街よりも臭い。日が届かない分、排泄物などの毒素が一切緩和されていないからなのだろう。
「……ここに住んでる人間は一体どんな鼻してんのよ……」
気持ち悪くなってきた、とミシェルは涙目ながら鼻を抑えた。顔に力を入れすぎたせいか眉間が痛み、何度も親指で強く押す。いつもはメイド服の下に着ている黒いワンピースだけだが、今日はズボンと男装に徹している。
ここが太陽から見放された暗黒街―――ダトラント。あの華やかな街の下にこんな悪臭漂う場所があるなんて、未だに信じられない。暴力と薬が横行し、街の片隅では吐瀉物を吐き散らしたり、壁に寄りかかった人間の体にネズミが齧りついていたりする有様だ。
「生まれた時からこの臭いなんだ。何が普通かなんて分からない。みろ」
眉間に皺を寄せた強面のまま、頭を動かすようにレオナルドが横を向いてみせる。不機嫌そうなしかめっ面でミシェルが見てみれば、通りがかりの道先で目や耳に包帯を巻くものが何人か座り込んでいた。肌は黒ずみ、腫瘍のようなものが転々としている。
「……鉱山病?」
呟くミシェルに「知っているか」とレオナルドが口を開く。
「この地下は地上の北側にある山に向かっていくつかの坑道がある。あいつらは地下坑道に入って、上の連中の為にせっせと地下資源を掘り続ける採鉱労務者達だ。時折吹き出すガスに目や耳をやられて、早死にする。男は労働、女は手工業か奉仕作業。この臭いも、それが当然だと思うのもここでは普通だ」
「……差別的で不快」
見るからに嫌な顔をし、ミシェルはそっぽを向いた。どこに行っても同じだろ、とレオナルドは上を向く。
「この世の人間は二種類だ。支配するかされるか。この地下に生まれた時点で地上の連中に支配されるのは決まっている。だが……上の連中と上手く付き合いが取れて、奴隷からせいぜい使用人ぐらいの立場にまで成り上がれる場合もある。採鉱労務者な奴らとは違って、あらゆる悪に手を出したクソ野郎だがな。これから行くところはそういった連中が運営するところだ」
真面目なものが馬鹿を見るような世界なのだろう。地上も地下も変わらないんだと思いつつ「地上の法律が届かないって聞いてるけど? 支配しているのは地上なの?」とミシェルが問いかける。
「地上と地下は別の国と考えろ。地上と地下は貿易をし、地下資源のやり取りをする。表上は公平だが、実際は大量の資源を安く買い取って地上で売りさばいている。あくまでご主人様はあっちだ。そのご主人様の飼い犬に当たる連中に、殆どの賃金が還元されるものだから、余計に返ってくる額は低い……地下の人間の命は安いと、そういうことだ……地上にもそういったビジネスで金儲けしている輩がいるだろ」
「……あー」
レオナルドの言葉にミシェルはヴェトナの町長を思い出す。確か奴も表上で貧民街の人間に労働を与えて似たようなことをやっていたはずだ。裏では人造奴隷なんて違法でクズなビジネスをしていた訳だが。そうした、公平に見えて立場が上の連中に搾取される様はいつかのノルワーナとアルマテアを見ているようだ。
ヴェトナを思い出して何だか急激に不安になり、チラリと隣の白髪頭を見つめた。
「あんた、絶対にここでうろちょろするんじゃないわよ。ここで人攫いにあったら、何されるか分からないんだから」
「大丈夫だ。離れなければいいんだろ?」
「大丈夫だ、で安心できないのよ! あんたの言葉は! ここに来て早々いなくなっていたくせに」
「だからあれは、落し物届けただけだって言っているだろ」
人差し指で額を突っつきながら迫るミシェルに「自分で居なくなろうとしたわけじゃない」とツグナが目を細める。あの人形がそもそも落ちていなかったら出歩くことはなかった。落し物は見つけたら届けるのが当然だ。よって自分は悪くないと自信満々に主張してくる。
「結局いなくなっていることに変わりないじゃない! 何が違うのよ!!」
「違うだろ」
ぎゃあぎゃあと言い合う二人に「騒がしいぞ下賎人共」とレオナルドから威圧する言葉が飛んだ。
「というか女……何故貴様もついてきている? 死にたいのか?」
「随分今更ね。心配してくれるなんて結構優しいところあるじゃないの。お生憎様、騎士様に守って貰わなくても自分の身は自分で守れるわ……ただこいつが心配なだけ」
皮肉をたっぷり込めた言い方で返し、ミシェルはツグナの方を見て鼻を鳴らした。執事となにやら特訓していたのは知っているし、元からそもそも弱いやつでもない。
けれど、ツグナの優しさや危機感のなさは必ず彼の弱点になる。ましてや、治安の悪いこの街じゃ卑怯な手を平気で使ってくる輩が多いことだろう。
(だから、私が守らないと)
ヴェトナの時に感じた思いが、ラニウスとの一件を終えて更に強くなる。妹に向けたものとよく似た使命感が、ミシェルを奮い立たせていた。数ヶ月前まではただただ気に食わないガキだったのに。不思議なものだ。
「それについては同感だな。鍛錬の形跡は見えるも、全体的に細すぎる。見れば見るほどこんなガキのどこにアーサーが言うような力があるのか、皆目見当もつかないな」
「……別に僕は出なくてもいいんだけど」
「いいや。例え死ぬとしても出ろ。お嬢様が困る」
こちらを一切向かずに吐き捨てるレオナルドに「お前って面倒臭い奴だな。シアンみたいだ」とツグナは口を尖らせた。「あのガキと一緒にするな」心底嫌そうに口をへの字にしてレオナルドが返す。シアンをガキ扱いするとは、なかなか凄い人だ。
「ついたぞ」
見上げるレオナルドの視線に続いて、二人は思わず口を開ける。天井のある地下を圧迫するかのごとく聳え立つそれは、石造りの古代建築だ。かなり前に建てられたのか、柱には年季の入ったヒビや汚れが目立つ。崩れないか少し不安だ。
「すごい……おっ」
「おっきい、でしょ。相変わらず感想のレパートリーが少ないわね」
「まだ最後まで言ってないのに……」
どうせ自分の表せる感想はそれだけだ。少し拗ねたようにしてツグナは、むっと口先を窄める。まるで頬を膨らませているかのようだ。変な顔、とミシェルが隣でクスクスと笑う。
「お待ちしておりました」
突然、石柱の影から現れたのは、茶髪の前髪を横流しにした、一つ結びの男性だ。一般庶民が着るような麻布の服を着て、その素朴さが周りの背景とすっかり馴染んでいる。そういえばブレンダが以前屋敷に来て帰る際を目撃した時、彼も横にいたような気がする。無の表情が、レオナルドとはまた違った威圧を放って見えた。
「もしかして、あんたも騎士?」
「はい。ここで騎士の格好は目立ってしまうので。申し遅れました。私、士爵のリアム・エンフィールドと申します。以後お見知りおきを」
胸前で手を置き、軽くお辞儀してみせる。成程、騎士のイメージをそのまま貼り付けたような人間だ。そういえば、指輪の情報も彼の調べで分かった事だとブレンダも言っていた。
「ちゃんと礼儀を弁えている騎士もいるのね。誰かさんとは違って」
「おい、殴られたいのか?」
誰かを指すような言い方に、レオナルドが眉をひくつかせる。「誰もあんただなんて言っていない」ミシェルがそっぽを向いて、鼻で笑った。
「ふっ……気の強そうな方で良かったです。こんな野蛮な大会に女性を出場させてしまうのは心苦しいですが……本日はどうかよろしくお願いしますね、ツグナさん」
小さく笑ってみせ、リアムはミシェルに手を差し出した。その手に困惑しつつ「あー」とミシェルが頭をかく。
「私はミシェル。ツグナはこっち」
「……え?」
しばらく考え込むようにしてから戸惑いの声。まさかこんな子供が今回の協力者だなんて思っていなかったのだろう。
「な、名前の割には屈強な方だと思って、女性でも驚いたのに……まだ十代のいたいけな少年じゃないですか!? あの人は一体何を考えているのです!?」
大きく動かなかった表情が豊かになり、無に向かって声を張った。静かな男だと思っていた為、感情を爆発させる様子にミシェルとツグナは驚く。
「知るか。こっちも半信半疑だ」
「知るか、じゃありませんよ! 私これでも子持ちなんですからね! こんな少年にあんな血腥い大会を見せるなんて……大人としてどうなんですか!」
「だから、俺が知るわけないだろ! あのチビの命令だ!」
レオナルドとギャンギャン騒ぐ様子に先程の自分もこうだったのかとミシェルが呆れる。その隣でぼうっと見ていたツグナに「君!」とリアムが両肩を掴んだ。
「帰りましょう! 君みたいな子がこんな危険な大会に参加する必要なんてありません! 私がアーサーさんによく言っておくので……」
「……そんなに危険なのか?」
そこまで言われて怯えないわけがない。少しだけ怖くなって、ツグナは恐る恐る問いかけた。
「ええ。この周辺は物好きの観光客もやってくるのでトップの管理も入り、それほど治安が悪い方ではないですがね……せいぜい窃盗と暴行、誘拐が多発している程度です」
「充分悪いだろ」
眉を顰めるツグナに対して「ダトラントではまだ可愛い方ですよ」とリアムが手を離した。
「このコロッセオは地下街唯一の娯楽施設。地下街屈指のならず者達や、地上からも腕っ節のある者達が集まり、残虐非道の限りを尽くして戦うのです。死者が出るのは当然。運良く生きのびても、後遺症で苦しむ人々が多い。その代わり、優勝すれば高価な金銀財宝、もしくは地上へ移住することができる権利が与えられます」
「……なんで地上に行く権利?」
首を傾げるツグナに「彼らが地下街の住民だからです」と間を置かずに淡々とリアムが返した。
「病気や犯罪が蔓延し、ここで生まれた者達は陽光を浴びることなく死んでいく。地上に出ることは、地下で生まれた者達の憧れなんですよ……ですがまあ、地底人と罵られている彼らが地上に出ても、ただ苦しいだけなんですがね」
腕を組んで聞いていたレオナルドは、鼻根にシワを作った。地上へ住む権利を得ても、元々地下の住人だったと言う事実は変わらない。故に、周りからの目は冷たく、差別や非難の対象になることが多いのだ。
『ははっ、くっせぇなあ~!! 鼻がひん曲がりそうになるぜ!』
『さっさと地下へ帰れよ地底人!』
『うちの子に近づかないで! 菌がついたらどうするのよ!!』
『なあ、お前らゴミは、なんで生きているんだ?』
贅沢な者達だ。生まれながらにして持っている自信が自尊心を膨れ上がらせ、こうも簡単に「そうでない者達」を罵倒をする。こちらから傷をつけてしまえば、仲間に囲まれて強気になり、正義を振りかざしては、過剰なまでに他者を痛めつける。真実がなにかも分からないくせに。当事者よりも、周りの方がお祭り騒ぎのように笑って痛めつけるのだ。
傷つけた者への痛みを思い知れ? これは罰だ、鉄槌だ? ―――そうだ。他者を傷つけるのはさぞ気持ちが良かっただろう。
「……まあ。この大会に参加する人は、殆ど地上よりも金銀財宝の方が目当てでしょう。冷たい世間の風に当てられるより、地下で贅沢やってる方が彼らにとっては幸福でしょうし」
リアムの話を黙って聞いていたツグナは「……そうか」と目を伏せる。殺しが許された大会だと言うのはミシェルからも聞いていた。その時点で既に行く気なんてなかったのだが。
「なんだ。今更怖気付いたのか?」
小馬鹿にするレオナルドの声が背後からしてくる。鼓動が跳ね上がると同時にムッとして「やるって言ったらやるんだ」とツグナが顔を逸らした。
「……シアンと仲が悪いまま、もう会えないなんて嫌だし……」
「ふん、別にあんなやつと仲が悪くても俺は構わないがな。命をかけるなんてどうかしている」
くいっと眼鏡を指先で正すレオナルドに「お前がこれに参加するのはシアンと友達だからじゃないのか?」と見上げた。誰が、とレオナルドは勢いづけて声を張る。
「ここに来る前も言ったはずだ。俺達には俺たちの任務がある。アーサーがその協力を促すために貴様ら主人の解放を条件付けただけだ。あんなやつがどうなろうと知ったことじゃない。ブラッディ家なんてさっさと滅びてしまえばいい」
眉を下げるツグナに冷たく吐き捨てた。それを見ていたミシェルが「なんでこんなに敵視してるわけ」と独り言で呆れる。
「ああ、簡単なことです。レオさんの心酔しているブレンダさんが、ブラッディ家前当主であり従兄妹のメイナードさんに好意を寄せていたことがありまして……その子供であるシアンさんが気に食わないんですよ。単なるやきも……」
「貴様は今すぐ死にたいようだなぁ……!?」
リアムの胸ぐらを掴み、ほぼゼロ距離で睨みつける。両手を上げ小さく悲鳴をあげるリアムを見て、ミシェルは何となく察しがついた。強面男にも意外に可愛い一面があるようだ。アホらしいと鼻で笑う。やるよ、場の空気を読まない一声が一同を遮った。
「お前がなんでシアンを嫌っているのかは分からないけど……」
俯き話し出すツグナに、あそこまで言って分からないのかよとミシェルが心でツッコみ、目を細める。
「でも、僕はあいつに助けられたんだ。怖いけど、どうしても助けたい」
会話の語尾で顔を上げ、ツグナが真っ直ぐとレオナルドに答える。真剣で、揺らぐことの無い意志を感じる目だ。その目に、レオナルドはリアムの胸ぐらから手を離した。
「あのですね……やる気があるのはいいですが……」
激しく咳き込むリアムに「やらせてやればいいだろ」と割って話した。「だからダメですよ!」とリアムが声を張る。
「分かっているんですか! 子供は未来を担う貴重な存在……社会の闇から守っていくのが我々大人の務めです! 風俗法第十八条、少年の健全な育成に障害を及ぼす行為の防止に務めることにも違法します! 十八歳以下の煙草、飲酒、射幸的または劣情を煽る全てが禁止なのですよ! ダメ、絶対!」
「知らねえよ。地上はそうでも、こっちでそんな法律なんかない。法に縛られないものは法に守られることもない―――それが通用するのは地上だけだ。こっちには守ってくれる国も親もいない。信じられるのは自分だけ……第一、このぐらいの歳ならもう立派な大人だろ。軍人や騎士にだってなれる。夢やら希望やら虚構に塗り固められた世界をガキに与えて何になるってんだ。どうせ後に、クソみてえな世の中だって知らされるのに」
「ぐっ……それとこれとではまた話が違うでしょう!」
最もらしい答えにリアムが肩を引く。それに、とレオナルドが続けて口を開いた。
「中途半端な実力じゃ大会で生き残ることなんてできやしない。それでもあの男がこいつを選んだのだから、何かあるのだろう。使ってみる価値はある。例え死んだとしてもこちらに大してダメージはないしな」
最後で毒を付け足す様子に「言い方がいちいちムカつくわね」とミシェルが眉をひそめた。
「……でも、こいつの実力は保証するわ。ちょっと頼りないけど、そこら辺の大人よりかは全然戦力になれるわよ。これまでだってそれで何度も危機を乗り越えてきたし……こっちだって命かけてるんだから、中途半端な覚悟でここに来ていないわ……それに」
虚構で守らなくたって、ツグナは十分世の中の闇を見てきている。正直今更だと、ミシェルは心の中で思った。リアムは未だ納得出来ず疑いの目を向けていたが、しばらくして大きくため息をついた。
「分かりましたよ……不本意ではありますが、アーサーさんの命令ですし。出場するからには私も優しくはしません。君はそれでいいんですね?」
最後のチャンスだとばかりに見つめられ、ツグナは小さく頷いた。一度目を瞑り「そういうことなら、私も潔く受け入れます」とリアムが三人を真っ直ぐに見つめる。切り替えた目つきは始めの時の寡黙さに戻っていた。
「今回の任務は王の勅令である指輪の奪還です。失敗は許されません。命ある限り、例え四肢がもげようとも、指輪奪還に務めてください。私は別件でやる事があるので裏からサポートに回りますが、客席から皆様を応援しております」
「あれだけ言っていたのに貴様は出場しないんだな。腰抜けが」
けっ、と短く鼻で笑うレオナルドに「仕方がないでしょう! 私は別働隊なんです!」とリアムが再び声を上げた。気を取り直すように咳払いしてみせる。
「入口はあそこです。控えにいれば受付は完了したことになるので。時間になったらもう、外に出ることはできません」
「了解。ちなみに年齢制限……とかはないのよね?」
軍に入るのでさえ何歳からなどの年齢制限が設けられているのだ。ツグナはギリギリ軍に入隊できる年齢だろうけれど、とミシェルは少し気になった。
「はい。ここでは子供も年寄りも関係ないですから。過去に齢十歳前後の子供たちが五名程出場したと聞きます。その時は泣きじゃくる子供達の四肢を切断して、息絶えるまで剣でつついて追いかけ回したとか……他にも切断した首を大人数で蹴り合った……女性が出場すると戦いそっちのけで輪姦したなども聞きます……出場なんて集団自決するようなものです」
「別にそこまで言わなくても……」
聞きたくなかった、と改めて闘技大会の残虐さを知る。その横で想像したツグナが気持ち悪くなって口を抑えた。「自覚を持って欲しいので……」リアムが申し訳なさそうに眉を下げる。
「それだけ、女性と子供は大会の格好の的なんですよ。間違いなく一番始めに狙われるのでお気をつけて……」
切り替えてからは遠慮なくズバズバと言い放ち、爽やかな笑みまで浮かべる。ここに来て途端に不安が押し寄せてきた。
「では、私はそろそろ行きます。ご武運を」
リアムが胸に手を当てて一礼し、その場から立ち去る背中を、三人は黙って見送った。
◆
「なあ。あの話って本当なのかな……?」
リアムと別れ、コロッセオの中を進んでいく際にツグナがポツリと呟いた。先程の話を聞いて、すっかり怯えてしまっているようだ。「冗談をいう空気でもなかったでしょ」とミシェルが呆れる。それを耳にしながら「そうだよな……」とツグナは俯いた。
実験施設の牢獄から抜け出しても、平気で他者の命を奪う者達がいる。牢獄から出たらあの世界とは無縁だと思っていた。無縁だと願っていた。けれど実際、牢獄の外も中も、世界は変わらないのかもしれない。最近になってそんなことを思うようになった。
(知らない方が、良かったな……)
外に出ればなにかが変わる。自由があると信じていたから希望を持てた。生きようと思えた。それがあの時の自分を動かす確かな力となっていたのだ。けれど、今は何を希望にすればいいか分からない。分からないからこそ、目の前のことで手一杯だ。
いくら考えても答えなんてでない。考えたくない―――だから、今はシアンの救出だけを考える。そう考えると少しだけ、心が軽くなれたような気がした。
「ん……?」
考えながら歩いているうちに、いつの間にか広めの廊下に出たようだった。奥は上から降りてくる網目状の格子門に阻まれ、その向こう側から溢れる光が何だか騒々しい。
「むさ苦しい場所……」
呟きながら、ミシェルが眉をひそめて見回した。壁に寄りかかって、武器を磨いている者。不気味な笑みを浮かべてこちらを見ている者と様々だ。
「見ろ……ありゃあ女じゃねえか?」
「胸はないがいいケツしてんなあ」
「隣にはガキンチョもいやがる」
「今回もなかなか楽しめそうだなぁ~」
ガラの悪そうな輩の中を構わず進むレオナルドに続いて、二人は奥へと歩く。横から聞こえてくる隠す気のない小声に「本当、最悪」とミシェルが鼻を鳴らした。どいつも育ちの悪さが人相から滲み出ている。
一応服装は男の身なりで来ているが、やはり体格でバレてしまったのだろう。昔より脂肪もついてしまったし無理もない。
「はっ、当然だな。お前らみたいな貧相な奴らは大会に出る前にボロ雑巾にされる。出られたとしてもリアムが言っていた通りだ」
不安なら帰れ、と付け足された言葉にムッとし「別にビビってない」とミシェルが返した。女だからといって舐められるのは気分が悪い。
可愛くない奴だと零しながら、レオナルドがとある角を曲がろうした時。「よお、兄ちゃん」と一声が遮る。
三人の前を立ちはだかったのは、二メートル近くあるスキンヘッドの巨漢だ。周囲はどよめき「グレゴリーだ……あいつら終わったな」とひそひそ話し出す。
「女とガキ連れてこの大会に出るとはぁ、なかなか肝の据わったやつだなあ。この大会がどんなもんかは分かってんだろぉ? 分かってて連れてきたってことはそういうことなんだよなぁ?」
そう言って巨漢は首から曲げるようにして、レオナルドを見下ろした。その迫力に、後ろの二人は思わず顔を引き攣らせる。
「俺は過去に人を十人殺したグレゴリー様だぞ!? 女をこっちに渡せ。俺のをしゃぶらせてやる。お前とガキはホモ野郎にでもくれてやるさ。血を見る前の余興にしてやんよ」
流石は地下街。そこら辺のゴロツキよりも下品で侮蔑的な言葉だ。「野郎……」黙って聞いていたミシェルがたまらずメンチを切り、苛立ったように一歩踏み出す。それとほぼ同時だった。
ドォン!
一発の銃声が奴の足に風穴を開けた。うぎゃあ! 情けない悲鳴をあげて、足を抱えた巨漢が倒れてくる。三人は思わず左右に避けた。
「ったく。図体だけの豚がピーピーうっせえな。人間様の道の邪魔してんじゃねえよ。組織の一員になったからって調子に乗ってんな、クソ野郎」
荒々しい言葉を吐き、倒れた巨漢を踏みつけながら一人の男が現れる。奴は右目に黒い眼帯をつけていた。ダークブロンドの髪をかきあげ、外に飛び出ている様子が獅子のたてがみのようだ。
「おい、グレゴリー? てめぇは待ても出来ねえのか? もうじき、大会が始まるってのに、ここで無駄に暴れてんじゃねえ。そんでなくても、年々参加者が減ってんだからよぉ。少しは商売やってる自覚を持て。参加者は商品、暴れるなら客の前でだ」
「ず、ずみまぜん……リオンさん」
顔を踏みつけられる巨漢に、三人はその場で固まった。
「……リオン、だと?」
口を開いたレオナルドはいつになく動揺しているようだった。その名前に巨漢を踏みつけていた男が顔を上げ「あ? お前……どっかで……」と凝視する。
「……って、まさかレオか? 久しぶりじゃねえかよ!」
先程の表情とは一転。眼帯男、リオンは目を見開き、人懐っこそうな笑みを浮かべた。
「元気にしていたか!? 懐かしいなあ~会えて嬉しいぜ!」
「あ、ああ……お前は、生きて……いや……」
どうやらレオナルドの顔馴染みらしかった。けれども、吃りながら気まずそうに後退するレオナルドを見るに、感動の再会というわけではなさそうだ。
「どういうこと? あんたの知り合い?」
騎士が地下街の知り合いなんておかしな話だと腕を組むミシェルに「なんだよ、まだ話していなかったのか? オレ達のこと」とリオンが巨漢から降りた。
「まっ、そうだよなあ~お前はさっさとオレの事なんか忘れたいよなあ。なんせお前は、オレを―――裏切ったんだから」
「……っ」
それまでの明るい声色が急激に低くなった。少し肩を震わせて、レオナルドが俯く。「ちなみにオレは、片時もお前のことを忘れなかったけどな」とリオンは目を細めた。三日月のように半開きにして、どこか冷たい目つきだ。
「自分の罪を忘れて、地上でのうのうと生きていく心地はどうだ? さぞ幸福で楽しいんだろう?」
身動きが取れないレオナルドの横を通り過ぎ「なあ、相棒」と囁く。顔色一つ変えない不機嫌な顔が、真っ青に崩れていた。
「……だんまりかよ。ま、いい。まさか今回、ここに戻ってくるなんてなあ。運が良い奴だ。せいぜい、今のお仲間さんは、こいつに裏切られないよう、気ぃつけてな。じゃあな」
去り際に戸惑う二人と目を合わせ、歩くリオンに「待て!」とレオナルドが声を張り上げた。
「お前……あれからずっとここにいたのか? 参加者は商品なんて、なんであいつらと同じことを言っているんだ?」
背中合わせにゆっくりとレオナルドが振り返った。「かっ、ひひひひひっ」奇妙な引き笑いで、一通り笑ってから「なんでだろうなぁ」とリオンが呟く。
「レオ……なんで俺が眼帯になっているか分かるか? お前が一人で逃げた後、オーナーがブチ切れてよぉ。その時潰されたんだ。あれ以来、お前の右目が欲しくてならねえ」
残った片目を見開き、リオンが首だけで振り返る。「楽しみにしているぜ」眼帯からレオナルドを指さして、リオンは反対側の通りへ消えていった。
「今の……隻眼のリオンじゃないか?」
「やっぱり、グレゴリーがキルア・スネイクに入ったのって本当だったんだな」
ざわめきの中にある一つの単語に「キルア・スネイク……?」とミシェルが反応する。未だに何が起こったのか頭が追いついていなかった。
「っ、リオン……」
その間も、レオナルドは俯いて、じっと地面を見つめるだけだった。
◆
「ねえ、アーティ」
小鳥のように高く、媚びた丸い女声がアーサーの耳に入った。それまで真顔で何やら考えていたアーサーは振り返り「どうされましたか?」と柔らかな笑みを向ける。
「もう! また考え事して……話聞いてないでしょう!」
「申し訳ございません、シャルロッテ姫」
姫、と呼ばれた少女は自然に染った桃色の頬を不機嫌そうに膨らませる。長いまつ毛の中にあどけなさが残る大きな碧眼が並び、癖のある金髪は腰の辺りまで長く生え伸ばしていた。歩く度に靡いて浮き上がり、キラキラと輝く。
「またお仕事のこと? 私といる時も騎士のお仕事でしょう?」
「はあ……そうですね。それでお話とは……」
機嫌は早めに直すのが理想的だ。長引くといつまでも引きずって耳が痛いことになる。笑顔で流すようにアーサーが切り替えを促すと、姫は「だから!」と口を開いた。
「今日、ヴァイオリンのレッスンはおやすみしたいの! その後の帝王学の授業も!」
「……しかし、それらの教養全ては姫様が立派な淑女になるために必要なものですよ。姫様も頑張ると仰っていたじゃありませんか」
「もう! アーティもお父様や他の使用人と同じようなことを言うのね」
不機嫌に釣り上げられた眉が更に角度を険しくする。面倒に思いながらも「……なにか理由が?」と変わらず笑みを向けてアーサーが返した。
「……もう嫌になっちゃたの。毎日毎日お勉強にレッスン! お外に遊びにも行けない! それに家庭教師には毎回のように怒られているわ……お父様は姉様や兄様と比べて、私の事なんかちっとも見てくれない。使用人達は遊んでばかりとか口煩いし、他の姉兄より不出来だって陰口しているの、本当は知ってるのよ。私はこんなに頑張っているのに……」
俯き、ブツブツと愚痴る姫をアーサーは冷ややかに見つめる。頑張っている? それはレッスンの時だけでは? 今もこうして遊んでいる暇があるなら、練習なり勉強なりすればいい。
できる人間というのは影で努力している者達の事だ。整った環境があるのに、それに気が付かず不満はベラベラと……贅沢なやつ、アーサーは蚊の鳴くような声でぽつりと呟いた。
「なに?」
「いえ……言ってくれる人がいるだけ、姫様が羨ましいと思ったのですよ。期待されている、愛されている証拠です。期待していない人間に口煩く言っても時間の無駄ですから」
自分で言って過去を思い出し、アーサーは眉を下げる。幼少期の頃の思い出はどれも苦いものばかりだ。
モンモランシー伯爵当主と、ラヴァル伯爵に嫁いだ、その妹ぎみとの間に出来た子。それが自分だった。両家は罪を隠蔽しようと自身の存在を否定し、モンモランシー直属の乳母家系に自分を預けた。
乳母には六人の息子達がいた。もちろん優先すべきは自分の子。結果、煙たがられるのは当然の心理だ。かつて自分が仕えていた貴族の子ともなれば、逆転する立場になったというのは精神的に都合がいい。
そういった溢れ出る加虐心の矛先に当てるうち、何も知らない乳母兄弟からも「捨てられた子」だと毎日いじめられ、食事もろくに与えられなかった。
下位の使用人が行う仕事である暖炉掃除をして、灰だらけになったことから、髪色も重ねて「アッシュ」とそう呼ばれるようになった。
弱者というのは、何もしなくても纏う空気感で伝わってしまうのだろう。捨てられた子だと言うのは村中に広まり、屋敷が嫌になって外に出れば、村の子供達からいじめられるのが当たり前となっていた。初めから、自分の居場所なんて存在していなかったのだ。
そんな生活が嫌になって、乳母の部屋から真実を持ち出し、モンモランシー家に直接向かったこともあった。幸い、ラヴァル邸と比べたらそれほど距離が遠いわけでなく、半日程馬車を乗り継いで行くことが出来た。けれど―――
『誰だ、この汚いガキは! さっさとつまみだせ!』
『ち、違うよ、お父様……僕は……』
『っ、馴れ馴れしいぞ! モンモランシー家に、そんな灰被り頭はいない!』
生まれて初めて再会した父の目は冷たく、その背後から覗いていた金髪の青年を見て、全てを悟った。自分は生まれてくるべきじゃなかったのだと。誰からも愛されることはないのだと。理解すると同時に、自分の中で何かが崩れた。
ラヴァル邸にも行く予定だったが、吐きかけられたその言葉に全ての気力を失った。希望なんて、初めから抱くべきじゃなかったのだと。知らなければ良かったのだと後悔した。
以来は大人しく、自分の運命を受けいれ、乳母の家で生きていく―――はずだった。
家出をした丁度翌年のこと。乳母の家に一人の青年が訪れた。金髪碧眼のいかにも高貴なその見た目は、かつて自分が恨めしいと憎んだ姿で、同時に羨ましいとも思った姿でもあった。
『モンモランシー家当主、アレキサンダー・ド・モンモランシーです。お久しぶりですね、乳母さん』
『な、何故アレク坊っちゃんが……あ、いえ。見違えるほどご立派になられて……今お茶を……』
『お気遣いどうも。今日は奥で拭き掃除をしている彼に用事があるんです……他の子とは随分扱いが違うようで』
静かで穏やかな、けれどもハッキリとは言わない理性的な冷たさが碧眼の奥に見えた。乳母は言葉を失い、その場で立ち尽くす。青年はその横を通り過ぎると、真っ直ぐ自分の前にやってきた。
『やあ、久しぶり。君を迎えに来たよ。遅くなってすまなかったね、兄弟』
彼の話によれば、あの数ヶ月後に自分の父は病に倒れ、そのまま帰らぬ人になったのだという。その遺留品整理をしていたところ、父の不貞に関わる証拠が発見され、自分ともう一人の兄弟の存在を知ったのだとか。
『あの後、君と同じように屋敷にやってきた銀髪の青年がいてね。父の焦りを見て、ずっと気掛かりだったんだ』
青年はまるで自分事のように頭を下げ、何度も謝罪をした。そうしてこれからは一緒に住もうと、そう持ちかけてくれたのだ。ずっと一人っ子だったから、兄弟に憧れていたのだと、楽しそうに語った。
貴族でここまでの人格者も珍しい。育ちの良さを感じられる健康的な体も表情も、他者に優しくできる余裕も、自分にはないものばかりだった。だからこそ、アーサーはその優しさに嫉妬めいた醜い激情を抱いた。これが、両親から祝福されて生まれてきた人間なのだと。
『ありがとう……僕、兄さんの兄弟として精一杯頑張るよ』
言葉とは裏腹に、酷く屈辱を与えられた気分だった。握りしめた拳がギリギリと力んで震える。屈託のないその笑みも、優しさも、余裕も憎かった。心の底から奪ってやりたいと思った。最早、人の良心を素直に受けることなど、できなかった。
(……ま、結果。本家の乗っ取りは出来なかったけれど)
そもそもアレキサンダーとは歳が離れすぎている。どう頑張ってもモンモランシー家の当主の座は奪えない。それは早く諦めがついた。だから、自分を見下していた奴らを今度は自分が見下し、管理するために全ての時間を注いだ。金持ちも、生まれながらにして貴族も、成功者も、自分の上に立つ人間は何もかも気に食わない。
そのために、血の滲むような努力は惜しまなかった。人生の殆どを勉学と鍛錬に費やし、必要とあれば多少の嘘も、人を傷つけることさえも厭わない。そうして今の騎士隊長の座を手に入れたのだ。
欲しいもののためなら手段は選ばない。その執念のエネルギーは「憎しみ」「怒り」「嫉妬」
アーサー・ド・モンモランシーはこうして生まれたのである。
『おや? 綺麗な顔貌なのに随分暗い顔をしているじゃないか。ところで知っているかい? 不貞を働いた遺伝子というのは、その子供の顔や態度からにじみ出るという。どうもここは……劣等感を持った負け犬の匂いがするようだ。君も早くここから離れた方がいい』
いつか投げかけられた、血の繋がりがある灰頭の言葉。あいつが色々粗相をやらかしたせいでこれまで築き上げてきた地位が危うくなった。本当にどこまでも自分の人生を邪魔する―――クソ××××が。
「……あ。申し訳ございません、姫様。そろそろ、彼の元に行く時間なので」
銀の懐中時計を見て、アーサーは向かう足の先を九十度変えた。姫は不満そうに「彼ってアーティの親友さん?」と眉をひそめる。
「ええ。あんな牢獄に入るなんて不安もあるでしょうし、一日に一度は顔合わせしておきたいのです。自殺なんかされたらとても悲しいですから……姫様もちゃんと教養を身につけて正しくしないと、牢獄に入れられるような人間になってしまいますよ」
それは嫌でしょう? と小首を傾げて微笑むアーサーに、姫は青ざめて「絶っっ対嫌!!」と顔を引いた。
「ふふっ。いい子ですね。では、私はこれで……」
やっと解放されると安堵しながらも踏み出す様子を見て「アーティは本当に親友思いの優しい人ね」と姫が呟いた。
「あそこは虫も出るし臭いし、人間が行く場所じゃないわ……そんなに親友さんが大切なの?」
大切、の言葉にその場で足を止めた。
ルーキス・ブラッディ―――正式な貴族の血を引いた嫡出子。金髪で、自分とは違って恵まれた環境で育ち、周囲から愛され、それはもう幸福と言える人生だ。だが、その幸福は長続きしなかった。初対面の時にみせた宝石のような瞳は光を失い、まるで初めから恵まれていなかったとばかりに自分の人生を恨み、堕ちた。
なんて惨めな人生だろう。初めから底辺の自分とは違って、幸福を知ってから堕ちたその姿は、なんとも憐れで見ていて気持ちがいい。もっと見ていたい。キミがどうしようもなく憎くて憎くて―――愛おしい。
「ええ、勿論です」
振り返り、アーサーは心底楽しそうに目を細めて言った。自分より惨めな彼の姿をみて、屈している姿を見て、優越感に浸っていたい。
人の幸を憎み、不幸を楽しむ。友とはそういうものだ。
「全く、勝手な人だ」
不機嫌に細められた切れ長の碧眼が、じっと机上の羊皮紙に向けられる。深々と一人用の革ソファーに腰をかけ、背後の窓を振り返っていると、その静かな部屋にノック音が響いた。
「失礼します、アードラー上官」
「要件はなんだ」
窓の方を向いたまま、アッシュグレー髪の男―――アードラー・ド・モンモランシーは、部屋に入ってきた兵士に返す。兵士は特に気にせず「はい。例の件、無事に奴らに伝えることが出来ました」と敬礼した。
「そうか。了承は得られたか?」
「はい……しかし、本当にいいのですか? あんなゴロツキども……いつ裏切ってもおかしくないのですよ? それに、こんな事をしているとバレてしまったら、我々の信用に関わります」
気まずそうな兵士に「お前は余計なことを考えるな」と、ただアードラーが言い放った。
「そうやって疑問を抱いていった人間がどんな道を辿るか……分かるか? 中途半端な正義は自分の身を滅ぼしかねない。利口なお前なら分かるだろう?」
「……申し訳ございません」まだ迷いがある間の開け方をして、兵士が答える。
知っていたのだ。アードラーの周りにいた人間が様々な理由で本部から消えていったのを。その中には生死が分からなくなった者もいる。
「まあいい。そもそもこの件はあの方の命令だ……断るわけにはいかない。それに、必ず愚弟は何か動きを見せる。そういう奴だ。ならばこちらも策を練らねばならない」
窓の向こうの曇を見て、アードラーは憎らしそうに拳を作った。
◆
あれから三日。指定の素朴な服に着替えた一同は、端街にある階段を使って地下街へと降りた。死臭やら生臭い空気が湿気に包まれて、この空間内に立ち篭める。鼻に集中した顔は自然と険しくなった。
はっきり言って、あのヴェトナ街よりも臭い。日が届かない分、排泄物などの毒素が一切緩和されていないからなのだろう。
「……ここに住んでる人間は一体どんな鼻してんのよ……」
気持ち悪くなってきた、とミシェルは涙目ながら鼻を抑えた。顔に力を入れすぎたせいか眉間が痛み、何度も親指で強く押す。いつもはメイド服の下に着ている黒いワンピースだけだが、今日はズボンと男装に徹している。
ここが太陽から見放された暗黒街―――ダトラント。あの華やかな街の下にこんな悪臭漂う場所があるなんて、未だに信じられない。暴力と薬が横行し、街の片隅では吐瀉物を吐き散らしたり、壁に寄りかかった人間の体にネズミが齧りついていたりする有様だ。
「生まれた時からこの臭いなんだ。何が普通かなんて分からない。みろ」
眉間に皺を寄せた強面のまま、頭を動かすようにレオナルドが横を向いてみせる。不機嫌そうなしかめっ面でミシェルが見てみれば、通りがかりの道先で目や耳に包帯を巻くものが何人か座り込んでいた。肌は黒ずみ、腫瘍のようなものが転々としている。
「……鉱山病?」
呟くミシェルに「知っているか」とレオナルドが口を開く。
「この地下は地上の北側にある山に向かっていくつかの坑道がある。あいつらは地下坑道に入って、上の連中の為にせっせと地下資源を掘り続ける採鉱労務者達だ。時折吹き出すガスに目や耳をやられて、早死にする。男は労働、女は手工業か奉仕作業。この臭いも、それが当然だと思うのもここでは普通だ」
「……差別的で不快」
見るからに嫌な顔をし、ミシェルはそっぽを向いた。どこに行っても同じだろ、とレオナルドは上を向く。
「この世の人間は二種類だ。支配するかされるか。この地下に生まれた時点で地上の連中に支配されるのは決まっている。だが……上の連中と上手く付き合いが取れて、奴隷からせいぜい使用人ぐらいの立場にまで成り上がれる場合もある。採鉱労務者な奴らとは違って、あらゆる悪に手を出したクソ野郎だがな。これから行くところはそういった連中が運営するところだ」
真面目なものが馬鹿を見るような世界なのだろう。地上も地下も変わらないんだと思いつつ「地上の法律が届かないって聞いてるけど? 支配しているのは地上なの?」とミシェルが問いかける。
「地上と地下は別の国と考えろ。地上と地下は貿易をし、地下資源のやり取りをする。表上は公平だが、実際は大量の資源を安く買い取って地上で売りさばいている。あくまでご主人様はあっちだ。そのご主人様の飼い犬に当たる連中に、殆どの賃金が還元されるものだから、余計に返ってくる額は低い……地下の人間の命は安いと、そういうことだ……地上にもそういったビジネスで金儲けしている輩がいるだろ」
「……あー」
レオナルドの言葉にミシェルはヴェトナの町長を思い出す。確か奴も表上で貧民街の人間に労働を与えて似たようなことをやっていたはずだ。裏では人造奴隷なんて違法でクズなビジネスをしていた訳だが。そうした、公平に見えて立場が上の連中に搾取される様はいつかのノルワーナとアルマテアを見ているようだ。
ヴェトナを思い出して何だか急激に不安になり、チラリと隣の白髪頭を見つめた。
「あんた、絶対にここでうろちょろするんじゃないわよ。ここで人攫いにあったら、何されるか分からないんだから」
「大丈夫だ。離れなければいいんだろ?」
「大丈夫だ、で安心できないのよ! あんたの言葉は! ここに来て早々いなくなっていたくせに」
「だからあれは、落し物届けただけだって言っているだろ」
人差し指で額を突っつきながら迫るミシェルに「自分で居なくなろうとしたわけじゃない」とツグナが目を細める。あの人形がそもそも落ちていなかったら出歩くことはなかった。落し物は見つけたら届けるのが当然だ。よって自分は悪くないと自信満々に主張してくる。
「結局いなくなっていることに変わりないじゃない! 何が違うのよ!!」
「違うだろ」
ぎゃあぎゃあと言い合う二人に「騒がしいぞ下賎人共」とレオナルドから威圧する言葉が飛んだ。
「というか女……何故貴様もついてきている? 死にたいのか?」
「随分今更ね。心配してくれるなんて結構優しいところあるじゃないの。お生憎様、騎士様に守って貰わなくても自分の身は自分で守れるわ……ただこいつが心配なだけ」
皮肉をたっぷり込めた言い方で返し、ミシェルはツグナの方を見て鼻を鳴らした。執事となにやら特訓していたのは知っているし、元からそもそも弱いやつでもない。
けれど、ツグナの優しさや危機感のなさは必ず彼の弱点になる。ましてや、治安の悪いこの街じゃ卑怯な手を平気で使ってくる輩が多いことだろう。
(だから、私が守らないと)
ヴェトナの時に感じた思いが、ラニウスとの一件を終えて更に強くなる。妹に向けたものとよく似た使命感が、ミシェルを奮い立たせていた。数ヶ月前まではただただ気に食わないガキだったのに。不思議なものだ。
「それについては同感だな。鍛錬の形跡は見えるも、全体的に細すぎる。見れば見るほどこんなガキのどこにアーサーが言うような力があるのか、皆目見当もつかないな」
「……別に僕は出なくてもいいんだけど」
「いいや。例え死ぬとしても出ろ。お嬢様が困る」
こちらを一切向かずに吐き捨てるレオナルドに「お前って面倒臭い奴だな。シアンみたいだ」とツグナは口を尖らせた。「あのガキと一緒にするな」心底嫌そうに口をへの字にしてレオナルドが返す。シアンをガキ扱いするとは、なかなか凄い人だ。
「ついたぞ」
見上げるレオナルドの視線に続いて、二人は思わず口を開ける。天井のある地下を圧迫するかのごとく聳え立つそれは、石造りの古代建築だ。かなり前に建てられたのか、柱には年季の入ったヒビや汚れが目立つ。崩れないか少し不安だ。
「すごい……おっ」
「おっきい、でしょ。相変わらず感想のレパートリーが少ないわね」
「まだ最後まで言ってないのに……」
どうせ自分の表せる感想はそれだけだ。少し拗ねたようにしてツグナは、むっと口先を窄める。まるで頬を膨らませているかのようだ。変な顔、とミシェルが隣でクスクスと笑う。
「お待ちしておりました」
突然、石柱の影から現れたのは、茶髪の前髪を横流しにした、一つ結びの男性だ。一般庶民が着るような麻布の服を着て、その素朴さが周りの背景とすっかり馴染んでいる。そういえばブレンダが以前屋敷に来て帰る際を目撃した時、彼も横にいたような気がする。無の表情が、レオナルドとはまた違った威圧を放って見えた。
「もしかして、あんたも騎士?」
「はい。ここで騎士の格好は目立ってしまうので。申し遅れました。私、士爵のリアム・エンフィールドと申します。以後お見知りおきを」
胸前で手を置き、軽くお辞儀してみせる。成程、騎士のイメージをそのまま貼り付けたような人間だ。そういえば、指輪の情報も彼の調べで分かった事だとブレンダも言っていた。
「ちゃんと礼儀を弁えている騎士もいるのね。誰かさんとは違って」
「おい、殴られたいのか?」
誰かを指すような言い方に、レオナルドが眉をひくつかせる。「誰もあんただなんて言っていない」ミシェルがそっぽを向いて、鼻で笑った。
「ふっ……気の強そうな方で良かったです。こんな野蛮な大会に女性を出場させてしまうのは心苦しいですが……本日はどうかよろしくお願いしますね、ツグナさん」
小さく笑ってみせ、リアムはミシェルに手を差し出した。その手に困惑しつつ「あー」とミシェルが頭をかく。
「私はミシェル。ツグナはこっち」
「……え?」
しばらく考え込むようにしてから戸惑いの声。まさかこんな子供が今回の協力者だなんて思っていなかったのだろう。
「な、名前の割には屈強な方だと思って、女性でも驚いたのに……まだ十代のいたいけな少年じゃないですか!? あの人は一体何を考えているのです!?」
大きく動かなかった表情が豊かになり、無に向かって声を張った。静かな男だと思っていた為、感情を爆発させる様子にミシェルとツグナは驚く。
「知るか。こっちも半信半疑だ」
「知るか、じゃありませんよ! 私これでも子持ちなんですからね! こんな少年にあんな血腥い大会を見せるなんて……大人としてどうなんですか!」
「だから、俺が知るわけないだろ! あのチビの命令だ!」
レオナルドとギャンギャン騒ぐ様子に先程の自分もこうだったのかとミシェルが呆れる。その隣でぼうっと見ていたツグナに「君!」とリアムが両肩を掴んだ。
「帰りましょう! 君みたいな子がこんな危険な大会に参加する必要なんてありません! 私がアーサーさんによく言っておくので……」
「……そんなに危険なのか?」
そこまで言われて怯えないわけがない。少しだけ怖くなって、ツグナは恐る恐る問いかけた。
「ええ。この周辺は物好きの観光客もやってくるのでトップの管理も入り、それほど治安が悪い方ではないですがね……せいぜい窃盗と暴行、誘拐が多発している程度です」
「充分悪いだろ」
眉を顰めるツグナに対して「ダトラントではまだ可愛い方ですよ」とリアムが手を離した。
「このコロッセオは地下街唯一の娯楽施設。地下街屈指のならず者達や、地上からも腕っ節のある者達が集まり、残虐非道の限りを尽くして戦うのです。死者が出るのは当然。運良く生きのびても、後遺症で苦しむ人々が多い。その代わり、優勝すれば高価な金銀財宝、もしくは地上へ移住することができる権利が与えられます」
「……なんで地上に行く権利?」
首を傾げるツグナに「彼らが地下街の住民だからです」と間を置かずに淡々とリアムが返した。
「病気や犯罪が蔓延し、ここで生まれた者達は陽光を浴びることなく死んでいく。地上に出ることは、地下で生まれた者達の憧れなんですよ……ですがまあ、地底人と罵られている彼らが地上に出ても、ただ苦しいだけなんですがね」
腕を組んで聞いていたレオナルドは、鼻根にシワを作った。地上へ住む権利を得ても、元々地下の住人だったと言う事実は変わらない。故に、周りからの目は冷たく、差別や非難の対象になることが多いのだ。
『ははっ、くっせぇなあ~!! 鼻がひん曲がりそうになるぜ!』
『さっさと地下へ帰れよ地底人!』
『うちの子に近づかないで! 菌がついたらどうするのよ!!』
『なあ、お前らゴミは、なんで生きているんだ?』
贅沢な者達だ。生まれながらにして持っている自信が自尊心を膨れ上がらせ、こうも簡単に「そうでない者達」を罵倒をする。こちらから傷をつけてしまえば、仲間に囲まれて強気になり、正義を振りかざしては、過剰なまでに他者を痛めつける。真実がなにかも分からないくせに。当事者よりも、周りの方がお祭り騒ぎのように笑って痛めつけるのだ。
傷つけた者への痛みを思い知れ? これは罰だ、鉄槌だ? ―――そうだ。他者を傷つけるのはさぞ気持ちが良かっただろう。
「……まあ。この大会に参加する人は、殆ど地上よりも金銀財宝の方が目当てでしょう。冷たい世間の風に当てられるより、地下で贅沢やってる方が彼らにとっては幸福でしょうし」
リアムの話を黙って聞いていたツグナは「……そうか」と目を伏せる。殺しが許された大会だと言うのはミシェルからも聞いていた。その時点で既に行く気なんてなかったのだが。
「なんだ。今更怖気付いたのか?」
小馬鹿にするレオナルドの声が背後からしてくる。鼓動が跳ね上がると同時にムッとして「やるって言ったらやるんだ」とツグナが顔を逸らした。
「……シアンと仲が悪いまま、もう会えないなんて嫌だし……」
「ふん、別にあんなやつと仲が悪くても俺は構わないがな。命をかけるなんてどうかしている」
くいっと眼鏡を指先で正すレオナルドに「お前がこれに参加するのはシアンと友達だからじゃないのか?」と見上げた。誰が、とレオナルドは勢いづけて声を張る。
「ここに来る前も言ったはずだ。俺達には俺たちの任務がある。アーサーがその協力を促すために貴様ら主人の解放を条件付けただけだ。あんなやつがどうなろうと知ったことじゃない。ブラッディ家なんてさっさと滅びてしまえばいい」
眉を下げるツグナに冷たく吐き捨てた。それを見ていたミシェルが「なんでこんなに敵視してるわけ」と独り言で呆れる。
「ああ、簡単なことです。レオさんの心酔しているブレンダさんが、ブラッディ家前当主であり従兄妹のメイナードさんに好意を寄せていたことがありまして……その子供であるシアンさんが気に食わないんですよ。単なるやきも……」
「貴様は今すぐ死にたいようだなぁ……!?」
リアムの胸ぐらを掴み、ほぼゼロ距離で睨みつける。両手を上げ小さく悲鳴をあげるリアムを見て、ミシェルは何となく察しがついた。強面男にも意外に可愛い一面があるようだ。アホらしいと鼻で笑う。やるよ、場の空気を読まない一声が一同を遮った。
「お前がなんでシアンを嫌っているのかは分からないけど……」
俯き話し出すツグナに、あそこまで言って分からないのかよとミシェルが心でツッコみ、目を細める。
「でも、僕はあいつに助けられたんだ。怖いけど、どうしても助けたい」
会話の語尾で顔を上げ、ツグナが真っ直ぐとレオナルドに答える。真剣で、揺らぐことの無い意志を感じる目だ。その目に、レオナルドはリアムの胸ぐらから手を離した。
「あのですね……やる気があるのはいいですが……」
激しく咳き込むリアムに「やらせてやればいいだろ」と割って話した。「だからダメですよ!」とリアムが声を張る。
「分かっているんですか! 子供は未来を担う貴重な存在……社会の闇から守っていくのが我々大人の務めです! 風俗法第十八条、少年の健全な育成に障害を及ぼす行為の防止に務めることにも違法します! 十八歳以下の煙草、飲酒、射幸的または劣情を煽る全てが禁止なのですよ! ダメ、絶対!」
「知らねえよ。地上はそうでも、こっちでそんな法律なんかない。法に縛られないものは法に守られることもない―――それが通用するのは地上だけだ。こっちには守ってくれる国も親もいない。信じられるのは自分だけ……第一、このぐらいの歳ならもう立派な大人だろ。軍人や騎士にだってなれる。夢やら希望やら虚構に塗り固められた世界をガキに与えて何になるってんだ。どうせ後に、クソみてえな世の中だって知らされるのに」
「ぐっ……それとこれとではまた話が違うでしょう!」
最もらしい答えにリアムが肩を引く。それに、とレオナルドが続けて口を開いた。
「中途半端な実力じゃ大会で生き残ることなんてできやしない。それでもあの男がこいつを選んだのだから、何かあるのだろう。使ってみる価値はある。例え死んだとしてもこちらに大してダメージはないしな」
最後で毒を付け足す様子に「言い方がいちいちムカつくわね」とミシェルが眉をひそめた。
「……でも、こいつの実力は保証するわ。ちょっと頼りないけど、そこら辺の大人よりかは全然戦力になれるわよ。これまでだってそれで何度も危機を乗り越えてきたし……こっちだって命かけてるんだから、中途半端な覚悟でここに来ていないわ……それに」
虚構で守らなくたって、ツグナは十分世の中の闇を見てきている。正直今更だと、ミシェルは心の中で思った。リアムは未だ納得出来ず疑いの目を向けていたが、しばらくして大きくため息をついた。
「分かりましたよ……不本意ではありますが、アーサーさんの命令ですし。出場するからには私も優しくはしません。君はそれでいいんですね?」
最後のチャンスだとばかりに見つめられ、ツグナは小さく頷いた。一度目を瞑り「そういうことなら、私も潔く受け入れます」とリアムが三人を真っ直ぐに見つめる。切り替えた目つきは始めの時の寡黙さに戻っていた。
「今回の任務は王の勅令である指輪の奪還です。失敗は許されません。命ある限り、例え四肢がもげようとも、指輪奪還に務めてください。私は別件でやる事があるので裏からサポートに回りますが、客席から皆様を応援しております」
「あれだけ言っていたのに貴様は出場しないんだな。腰抜けが」
けっ、と短く鼻で笑うレオナルドに「仕方がないでしょう! 私は別働隊なんです!」とリアムが再び声を上げた。気を取り直すように咳払いしてみせる。
「入口はあそこです。控えにいれば受付は完了したことになるので。時間になったらもう、外に出ることはできません」
「了解。ちなみに年齢制限……とかはないのよね?」
軍に入るのでさえ何歳からなどの年齢制限が設けられているのだ。ツグナはギリギリ軍に入隊できる年齢だろうけれど、とミシェルは少し気になった。
「はい。ここでは子供も年寄りも関係ないですから。過去に齢十歳前後の子供たちが五名程出場したと聞きます。その時は泣きじゃくる子供達の四肢を切断して、息絶えるまで剣でつついて追いかけ回したとか……他にも切断した首を大人数で蹴り合った……女性が出場すると戦いそっちのけで輪姦したなども聞きます……出場なんて集団自決するようなものです」
「別にそこまで言わなくても……」
聞きたくなかった、と改めて闘技大会の残虐さを知る。その横で想像したツグナが気持ち悪くなって口を抑えた。「自覚を持って欲しいので……」リアムが申し訳なさそうに眉を下げる。
「それだけ、女性と子供は大会の格好の的なんですよ。間違いなく一番始めに狙われるのでお気をつけて……」
切り替えてからは遠慮なくズバズバと言い放ち、爽やかな笑みまで浮かべる。ここに来て途端に不安が押し寄せてきた。
「では、私はそろそろ行きます。ご武運を」
リアムが胸に手を当てて一礼し、その場から立ち去る背中を、三人は黙って見送った。
◆
「なあ。あの話って本当なのかな……?」
リアムと別れ、コロッセオの中を進んでいく際にツグナがポツリと呟いた。先程の話を聞いて、すっかり怯えてしまっているようだ。「冗談をいう空気でもなかったでしょ」とミシェルが呆れる。それを耳にしながら「そうだよな……」とツグナは俯いた。
実験施設の牢獄から抜け出しても、平気で他者の命を奪う者達がいる。牢獄から出たらあの世界とは無縁だと思っていた。無縁だと願っていた。けれど実際、牢獄の外も中も、世界は変わらないのかもしれない。最近になってそんなことを思うようになった。
(知らない方が、良かったな……)
外に出ればなにかが変わる。自由があると信じていたから希望を持てた。生きようと思えた。それがあの時の自分を動かす確かな力となっていたのだ。けれど、今は何を希望にすればいいか分からない。分からないからこそ、目の前のことで手一杯だ。
いくら考えても答えなんてでない。考えたくない―――だから、今はシアンの救出だけを考える。そう考えると少しだけ、心が軽くなれたような気がした。
「ん……?」
考えながら歩いているうちに、いつの間にか広めの廊下に出たようだった。奥は上から降りてくる網目状の格子門に阻まれ、その向こう側から溢れる光が何だか騒々しい。
「むさ苦しい場所……」
呟きながら、ミシェルが眉をひそめて見回した。壁に寄りかかって、武器を磨いている者。不気味な笑みを浮かべてこちらを見ている者と様々だ。
「見ろ……ありゃあ女じゃねえか?」
「胸はないがいいケツしてんなあ」
「隣にはガキンチョもいやがる」
「今回もなかなか楽しめそうだなぁ~」
ガラの悪そうな輩の中を構わず進むレオナルドに続いて、二人は奥へと歩く。横から聞こえてくる隠す気のない小声に「本当、最悪」とミシェルが鼻を鳴らした。どいつも育ちの悪さが人相から滲み出ている。
一応服装は男の身なりで来ているが、やはり体格でバレてしまったのだろう。昔より脂肪もついてしまったし無理もない。
「はっ、当然だな。お前らみたいな貧相な奴らは大会に出る前にボロ雑巾にされる。出られたとしてもリアムが言っていた通りだ」
不安なら帰れ、と付け足された言葉にムッとし「別にビビってない」とミシェルが返した。女だからといって舐められるのは気分が悪い。
可愛くない奴だと零しながら、レオナルドがとある角を曲がろうした時。「よお、兄ちゃん」と一声が遮る。
三人の前を立ちはだかったのは、二メートル近くあるスキンヘッドの巨漢だ。周囲はどよめき「グレゴリーだ……あいつら終わったな」とひそひそ話し出す。
「女とガキ連れてこの大会に出るとはぁ、なかなか肝の据わったやつだなあ。この大会がどんなもんかは分かってんだろぉ? 分かってて連れてきたってことはそういうことなんだよなぁ?」
そう言って巨漢は首から曲げるようにして、レオナルドを見下ろした。その迫力に、後ろの二人は思わず顔を引き攣らせる。
「俺は過去に人を十人殺したグレゴリー様だぞ!? 女をこっちに渡せ。俺のをしゃぶらせてやる。お前とガキはホモ野郎にでもくれてやるさ。血を見る前の余興にしてやんよ」
流石は地下街。そこら辺のゴロツキよりも下品で侮蔑的な言葉だ。「野郎……」黙って聞いていたミシェルがたまらずメンチを切り、苛立ったように一歩踏み出す。それとほぼ同時だった。
ドォン!
一発の銃声が奴の足に風穴を開けた。うぎゃあ! 情けない悲鳴をあげて、足を抱えた巨漢が倒れてくる。三人は思わず左右に避けた。
「ったく。図体だけの豚がピーピーうっせえな。人間様の道の邪魔してんじゃねえよ。組織の一員になったからって調子に乗ってんな、クソ野郎」
荒々しい言葉を吐き、倒れた巨漢を踏みつけながら一人の男が現れる。奴は右目に黒い眼帯をつけていた。ダークブロンドの髪をかきあげ、外に飛び出ている様子が獅子のたてがみのようだ。
「おい、グレゴリー? てめぇは待ても出来ねえのか? もうじき、大会が始まるってのに、ここで無駄に暴れてんじゃねえ。そんでなくても、年々参加者が減ってんだからよぉ。少しは商売やってる自覚を持て。参加者は商品、暴れるなら客の前でだ」
「ず、ずみまぜん……リオンさん」
顔を踏みつけられる巨漢に、三人はその場で固まった。
「……リオン、だと?」
口を開いたレオナルドはいつになく動揺しているようだった。その名前に巨漢を踏みつけていた男が顔を上げ「あ? お前……どっかで……」と凝視する。
「……って、まさかレオか? 久しぶりじゃねえかよ!」
先程の表情とは一転。眼帯男、リオンは目を見開き、人懐っこそうな笑みを浮かべた。
「元気にしていたか!? 懐かしいなあ~会えて嬉しいぜ!」
「あ、ああ……お前は、生きて……いや……」
どうやらレオナルドの顔馴染みらしかった。けれども、吃りながら気まずそうに後退するレオナルドを見るに、感動の再会というわけではなさそうだ。
「どういうこと? あんたの知り合い?」
騎士が地下街の知り合いなんておかしな話だと腕を組むミシェルに「なんだよ、まだ話していなかったのか? オレ達のこと」とリオンが巨漢から降りた。
「まっ、そうだよなあ~お前はさっさとオレの事なんか忘れたいよなあ。なんせお前は、オレを―――裏切ったんだから」
「……っ」
それまでの明るい声色が急激に低くなった。少し肩を震わせて、レオナルドが俯く。「ちなみにオレは、片時もお前のことを忘れなかったけどな」とリオンは目を細めた。三日月のように半開きにして、どこか冷たい目つきだ。
「自分の罪を忘れて、地上でのうのうと生きていく心地はどうだ? さぞ幸福で楽しいんだろう?」
身動きが取れないレオナルドの横を通り過ぎ「なあ、相棒」と囁く。顔色一つ変えない不機嫌な顔が、真っ青に崩れていた。
「……だんまりかよ。ま、いい。まさか今回、ここに戻ってくるなんてなあ。運が良い奴だ。せいぜい、今のお仲間さんは、こいつに裏切られないよう、気ぃつけてな。じゃあな」
去り際に戸惑う二人と目を合わせ、歩くリオンに「待て!」とレオナルドが声を張り上げた。
「お前……あれからずっとここにいたのか? 参加者は商品なんて、なんであいつらと同じことを言っているんだ?」
背中合わせにゆっくりとレオナルドが振り返った。「かっ、ひひひひひっ」奇妙な引き笑いで、一通り笑ってから「なんでだろうなぁ」とリオンが呟く。
「レオ……なんで俺が眼帯になっているか分かるか? お前が一人で逃げた後、オーナーがブチ切れてよぉ。その時潰されたんだ。あれ以来、お前の右目が欲しくてならねえ」
残った片目を見開き、リオンが首だけで振り返る。「楽しみにしているぜ」眼帯からレオナルドを指さして、リオンは反対側の通りへ消えていった。
「今の……隻眼のリオンじゃないか?」
「やっぱり、グレゴリーがキルア・スネイクに入ったのって本当だったんだな」
ざわめきの中にある一つの単語に「キルア・スネイク……?」とミシェルが反応する。未だに何が起こったのか頭が追いついていなかった。
「っ、リオン……」
その間も、レオナルドは俯いて、じっと地面を見つめるだけだった。
◆
「ねえ、アーティ」
小鳥のように高く、媚びた丸い女声がアーサーの耳に入った。それまで真顔で何やら考えていたアーサーは振り返り「どうされましたか?」と柔らかな笑みを向ける。
「もう! また考え事して……話聞いてないでしょう!」
「申し訳ございません、シャルロッテ姫」
姫、と呼ばれた少女は自然に染った桃色の頬を不機嫌そうに膨らませる。長いまつ毛の中にあどけなさが残る大きな碧眼が並び、癖のある金髪は腰の辺りまで長く生え伸ばしていた。歩く度に靡いて浮き上がり、キラキラと輝く。
「またお仕事のこと? 私といる時も騎士のお仕事でしょう?」
「はあ……そうですね。それでお話とは……」
機嫌は早めに直すのが理想的だ。長引くといつまでも引きずって耳が痛いことになる。笑顔で流すようにアーサーが切り替えを促すと、姫は「だから!」と口を開いた。
「今日、ヴァイオリンのレッスンはおやすみしたいの! その後の帝王学の授業も!」
「……しかし、それらの教養全ては姫様が立派な淑女になるために必要なものですよ。姫様も頑張ると仰っていたじゃありませんか」
「もう! アーティもお父様や他の使用人と同じようなことを言うのね」
不機嫌に釣り上げられた眉が更に角度を険しくする。面倒に思いながらも「……なにか理由が?」と変わらず笑みを向けてアーサーが返した。
「……もう嫌になっちゃたの。毎日毎日お勉強にレッスン! お外に遊びにも行けない! それに家庭教師には毎回のように怒られているわ……お父様は姉様や兄様と比べて、私の事なんかちっとも見てくれない。使用人達は遊んでばかりとか口煩いし、他の姉兄より不出来だって陰口しているの、本当は知ってるのよ。私はこんなに頑張っているのに……」
俯き、ブツブツと愚痴る姫をアーサーは冷ややかに見つめる。頑張っている? それはレッスンの時だけでは? 今もこうして遊んでいる暇があるなら、練習なり勉強なりすればいい。
できる人間というのは影で努力している者達の事だ。整った環境があるのに、それに気が付かず不満はベラベラと……贅沢なやつ、アーサーは蚊の鳴くような声でぽつりと呟いた。
「なに?」
「いえ……言ってくれる人がいるだけ、姫様が羨ましいと思ったのですよ。期待されている、愛されている証拠です。期待していない人間に口煩く言っても時間の無駄ですから」
自分で言って過去を思い出し、アーサーは眉を下げる。幼少期の頃の思い出はどれも苦いものばかりだ。
モンモランシー伯爵当主と、ラヴァル伯爵に嫁いだ、その妹ぎみとの間に出来た子。それが自分だった。両家は罪を隠蔽しようと自身の存在を否定し、モンモランシー直属の乳母家系に自分を預けた。
乳母には六人の息子達がいた。もちろん優先すべきは自分の子。結果、煙たがられるのは当然の心理だ。かつて自分が仕えていた貴族の子ともなれば、逆転する立場になったというのは精神的に都合がいい。
そういった溢れ出る加虐心の矛先に当てるうち、何も知らない乳母兄弟からも「捨てられた子」だと毎日いじめられ、食事もろくに与えられなかった。
下位の使用人が行う仕事である暖炉掃除をして、灰だらけになったことから、髪色も重ねて「アッシュ」とそう呼ばれるようになった。
弱者というのは、何もしなくても纏う空気感で伝わってしまうのだろう。捨てられた子だと言うのは村中に広まり、屋敷が嫌になって外に出れば、村の子供達からいじめられるのが当たり前となっていた。初めから、自分の居場所なんて存在していなかったのだ。
そんな生活が嫌になって、乳母の部屋から真実を持ち出し、モンモランシー家に直接向かったこともあった。幸い、ラヴァル邸と比べたらそれほど距離が遠いわけでなく、半日程馬車を乗り継いで行くことが出来た。けれど―――
『誰だ、この汚いガキは! さっさとつまみだせ!』
『ち、違うよ、お父様……僕は……』
『っ、馴れ馴れしいぞ! モンモランシー家に、そんな灰被り頭はいない!』
生まれて初めて再会した父の目は冷たく、その背後から覗いていた金髪の青年を見て、全てを悟った。自分は生まれてくるべきじゃなかったのだと。誰からも愛されることはないのだと。理解すると同時に、自分の中で何かが崩れた。
ラヴァル邸にも行く予定だったが、吐きかけられたその言葉に全ての気力を失った。希望なんて、初めから抱くべきじゃなかったのだと。知らなければ良かったのだと後悔した。
以来は大人しく、自分の運命を受けいれ、乳母の家で生きていく―――はずだった。
家出をした丁度翌年のこと。乳母の家に一人の青年が訪れた。金髪碧眼のいかにも高貴なその見た目は、かつて自分が恨めしいと憎んだ姿で、同時に羨ましいとも思った姿でもあった。
『モンモランシー家当主、アレキサンダー・ド・モンモランシーです。お久しぶりですね、乳母さん』
『な、何故アレク坊っちゃんが……あ、いえ。見違えるほどご立派になられて……今お茶を……』
『お気遣いどうも。今日は奥で拭き掃除をしている彼に用事があるんです……他の子とは随分扱いが違うようで』
静かで穏やかな、けれどもハッキリとは言わない理性的な冷たさが碧眼の奥に見えた。乳母は言葉を失い、その場で立ち尽くす。青年はその横を通り過ぎると、真っ直ぐ自分の前にやってきた。
『やあ、久しぶり。君を迎えに来たよ。遅くなってすまなかったね、兄弟』
彼の話によれば、あの数ヶ月後に自分の父は病に倒れ、そのまま帰らぬ人になったのだという。その遺留品整理をしていたところ、父の不貞に関わる証拠が発見され、自分ともう一人の兄弟の存在を知ったのだとか。
『あの後、君と同じように屋敷にやってきた銀髪の青年がいてね。父の焦りを見て、ずっと気掛かりだったんだ』
青年はまるで自分事のように頭を下げ、何度も謝罪をした。そうしてこれからは一緒に住もうと、そう持ちかけてくれたのだ。ずっと一人っ子だったから、兄弟に憧れていたのだと、楽しそうに語った。
貴族でここまでの人格者も珍しい。育ちの良さを感じられる健康的な体も表情も、他者に優しくできる余裕も、自分にはないものばかりだった。だからこそ、アーサーはその優しさに嫉妬めいた醜い激情を抱いた。これが、両親から祝福されて生まれてきた人間なのだと。
『ありがとう……僕、兄さんの兄弟として精一杯頑張るよ』
言葉とは裏腹に、酷く屈辱を与えられた気分だった。握りしめた拳がギリギリと力んで震える。屈託のないその笑みも、優しさも、余裕も憎かった。心の底から奪ってやりたいと思った。最早、人の良心を素直に受けることなど、できなかった。
(……ま、結果。本家の乗っ取りは出来なかったけれど)
そもそもアレキサンダーとは歳が離れすぎている。どう頑張ってもモンモランシー家の当主の座は奪えない。それは早く諦めがついた。だから、自分を見下していた奴らを今度は自分が見下し、管理するために全ての時間を注いだ。金持ちも、生まれながらにして貴族も、成功者も、自分の上に立つ人間は何もかも気に食わない。
そのために、血の滲むような努力は惜しまなかった。人生の殆どを勉学と鍛錬に費やし、必要とあれば多少の嘘も、人を傷つけることさえも厭わない。そうして今の騎士隊長の座を手に入れたのだ。
欲しいもののためなら手段は選ばない。その執念のエネルギーは「憎しみ」「怒り」「嫉妬」
アーサー・ド・モンモランシーはこうして生まれたのである。
『おや? 綺麗な顔貌なのに随分暗い顔をしているじゃないか。ところで知っているかい? 不貞を働いた遺伝子というのは、その子供の顔や態度からにじみ出るという。どうもここは……劣等感を持った負け犬の匂いがするようだ。君も早くここから離れた方がいい』
いつか投げかけられた、血の繋がりがある灰頭の言葉。あいつが色々粗相をやらかしたせいでこれまで築き上げてきた地位が危うくなった。本当にどこまでも自分の人生を邪魔する―――クソ××××が。
「……あ。申し訳ございません、姫様。そろそろ、彼の元に行く時間なので」
銀の懐中時計を見て、アーサーは向かう足の先を九十度変えた。姫は不満そうに「彼ってアーティの親友さん?」と眉をひそめる。
「ええ。あんな牢獄に入るなんて不安もあるでしょうし、一日に一度は顔合わせしておきたいのです。自殺なんかされたらとても悲しいですから……姫様もちゃんと教養を身につけて正しくしないと、牢獄に入れられるような人間になってしまいますよ」
それは嫌でしょう? と小首を傾げて微笑むアーサーに、姫は青ざめて「絶っっ対嫌!!」と顔を引いた。
「ふふっ。いい子ですね。では、私はこれで……」
やっと解放されると安堵しながらも踏み出す様子を見て「アーティは本当に親友思いの優しい人ね」と姫が呟いた。
「あそこは虫も出るし臭いし、人間が行く場所じゃないわ……そんなに親友さんが大切なの?」
大切、の言葉にその場で足を止めた。
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「ええ、勿論です」
振り返り、アーサーは心底楽しそうに目を細めて言った。自分より惨めな彼の姿をみて、屈している姿を見て、優越感に浸っていたい。
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