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第一部 四章 ミシェルの追憶編
45 怒り(挿絵あり)
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「はっ……?」
突然放たれたラニウスの言葉に、ミシェルは困惑を隠しきれない。動揺が、ヘーゼルの瞳を揺らし、目の前の赤髪の男を捉えた。
「なーに、驚いてんの。てか、本当に気づかなかったんだ。頭回るくせに本当、馬鹿だよなあ。でも、あんな言葉一つでブライを疑うんだもん。ミシェルがブライを信じていたのなんて、その程度だったんだ」
酔いのせいで頭が回らない。ズキズキと痛む頭を抑え、目をキョロキョロとさせる。
「そ、んな冗談……」
「ミシェルって、なんであの時ブライアンを疑ったの? そのきっかけって誰だっけ?」
よく振り返ってみる。そういえばその日は確か、ラニウスと会っていたはずだ。久々に集まれたから、最近の近況を報告しあって―――そこまで考えてから、自身の中で一致する記憶があり、無言になる。
「考えてもみなよ。ブライアンは確かに馬鹿だけどさ、そういう秘密は大切にするやつだろ? 順調に昇進していく君の弱点になるようなことを言うと思う?」
「……だったら。あんたは、なんで」
「別に理由なんかないよ。ただ、俺が面白くなるようにしただけ。色々政治やらで国が大変だったからさ、戦いの場がなくて退屈してたんだよ。そしたら、あいつらが溜まってるっていうからさ。それなら丁度いい奴がいるよ~って」
唐突にへらへらしているラニウスの顔に向かって蹴りが放たれる。ラニウスは最低限の動きで避けると、目の前の人物に口角を上げた。少し遅れて風が穏やかに赤髪を靡かせる。
「おっと危ない。殺気高いねえ。君のその目を見るのは久しぶりだな」
ゾクゾクと歓喜に背中が震える。落ちていく日の影にかかって表情がよく読み取れないが、鋭くつり上がったヘーゼルの瞳がぎろりとこちらに向けられているのは確かなようだ。獣の唸りのような呻きが、ギリギリと噛み締めた歯の隙間から漏れだしている。
「あんた……自分が何したか分かってんのか……! あんたのせいでっ……ブライアンは!」
「なに人に責任押し付けてんの? ブライは君が殺したんだろ? その手で。君がブライを撃ち殺す瞬間を正面から見ていたよ。傑作だったなあ……怒りとも悲しみとも言えない……ミシェルもあんな顔するんだって。最高に綺麗だった」
てめえ! 声を張り上げ、ミシェルはラニウスの腹を蹴りつけた。すぐさま回転するように切り替えると、今度は顔に向かって勢いよく足を突き出す。が、ラニウスは瞳孔を開き、楽しそうにそれを見つめながら蹴りをかわした。サッと頬を掠めた場所から血が流れる。
「君ってそういえば蹴りが好きだったね。なんでだっけ……ああ、そうか。もう、手は汚したくないんだ? 本当、馬鹿だなあ。どうせどんなに拭っても罪なんか落ちやしないのに」
次々と放たれるミシェルの蹴り攻撃を、話しながら後退して避けていく。どれも煽るかのようにギリギリでだ。しまいには拳銃を取りだし、近距離で放つなどするが、どれも圧倒的な身体能力で躱されてしまう。
「懐かしいなあ。こうして君と戦うのいつぶりだろう? 幼い頃はよく喧嘩してたのに、どんどんそんな機会もなくなって。戦争にも行けるわけじゃないし、大人になるってつまらないものだね。ね? そう思わない?」
「死ね!!!」
その直後に放たれた攻撃に「おっと、仮にも弟に向かって酷いなあ」とミシェルに足をかけて転ばせる。ミシェルの手にあった紙袋が転がり、ガシャンと瓶が割れる音がする。
「本当に殺したいなら全力でこないと~。それでなくても対人格闘で勝てたことないくせに」
見下ろしながらケラケラと笑っていると、ミシェルはラニウスの足元で体勢を変え、顎に向かって下から蹴りつけた。脳が揺れ、ぐわんぐわんと視界が霞む。
「……そうこなくっちゃ」
ラニウスの呟きに「いつまで遊んでんだ! さっさと攻撃してこい!」と次の攻撃をしに突進した。が、横から放った全力の蹴りを、ラニウスの構えた腕で容易く受け止められる。ビクともしない。
「じゃっ、少しだけ」
受け止めた腕でミシェルの足を弾くと、ラニウスは素早くブラウン髪を掴み、頭突きする。いっ、と声に出して後退するミシェルの頭を再度掴むと、今度はそのまま路地の壁に叩きつけた。ずりずりと顔をすり下ろすように下へと引きずる。
「悪い癖だよ? 技術に頼りっぱなしなのも。お陰で基礎筋肉が落ちている。技術もキレが前より悪い。傭兵なんて嘘だろ?」
地面に押さえつけられながら、ミシェルは横を向いて、ラニウスを睨みつける。顔が火傷でヒリヒリと痛む。きっと血がにじみでているのだろう。乱暴に髪を捕まれ、無理やり顔を持ち上げられる。
「本当、心だけじゃなくて体も女になりつつあるの。まさかこれが本気じゃないよね? 昔はもう少し俺と戦えたはずだけど……それともなに? こんな事をしてまで、まだ殺すつもりになれない? 血の繋がりはなくても、家族だったから」
その言葉に反応する。直後「なんかガッカリ」と、ラニウスが投げつけるように手を離した。立ち上がり、そのままナイフを取り出す。さっと空中で振るったかと思うと、ミシェルの肌に切り傷ができ「あ゛あ!」と叫びが出る。腹を蹴り飛ばし、またミシェルが転がっては、ナイフで傷をつけるを繰り返し、じっくりといたぶった。上半身を抱え、痛みに縮こまるミシェルに「本当、弱くなったね」とラニウスは口角を下げたまま呟いた。よく見てみれば、自分がつけたものとは明らかに違う深い傷が服から染み出ている。
「あっ、なるほど。怪我してたんだ。どうりで弱いと思った」
そう言ってわざとつま先で傷口を抉るように、蹴りつけた。何度も蹴りつけ、路地がどんどんミシェルの血で汚れていく。
「あ゛ぅ……ぐっ」
「大丈夫。殺さないよ。ミシェルは強いもん。俺を満足させるまでは、死なせないから。怪我が回復して、またあの頃みたいにミシェルと―――」
「……強くなんかない」
ヴェトナで受けた傷口が開き、ぽたぽたと血液が垂れていく。そんな痛みとは違って沈痛した表情を浮かべながら、ミシェルは地面から顔を上げた。
「―――僕は誰よりも弱い。ずっとそうだ……不安だった。怒りで感情を爆発させることしか出来ない、ただの臆病者だった。愛されたい。誰かから認められたい―――けど、そう願ってる癖に、誰かの体温が怖かった。真っ直ぐに信じて、愛してくれた奴がいたのに、突き放した―――」
最後のブライアンの顔が過ぎる。あいつはどんな思いで死んでいったのだろう。たった一つの言葉で、あいつを憎み、勘違いしたまま自分の手で殺した。なのに、あいつは自分を守るどころか、最後まで信じようとしてくれた。愛してくれた。
『お前を守りたかった』
なあ、なんで僕はあんなお人好しのバカを、信じてやれなかったんだろう。憎い。信じれなかった自分が、ひたすら憎い。自分勝手に誓ったんだ。人のために生きるあんたを否定するために。僕は僕のために、生きるって。あんたよりも長く生きて、笑ってやるって。なのに―――
「俺はそんなことが聞きたいわけじゃないよ。信じるとか愛とか、一体どのくらいの値段で買えるんだい? そんな無価値なもので腹も喉の渇きも満たせない。俺たちは血肉を啜って生きていくしかないんだよ。一昔前のミシェルの言葉を借りるなら『反吐が出る』」
上半身を起こしたミシェルに向かってラニウスが素早くナイフを振り切った。二つの風が交差し、耳元がやけに寒くなる。ボト、と地面に落ちるのはミシェルの頭の両側に結われた髪束。切られて短くなった髪がパッと広がって風に靡いた。
「ほら。そっちの方がミシェルらしくて似合ってるよ! 動きやすいし、これで女の格好しなくたっていいじゃん」
髪を鷲掴みにし無理やり顔をこちらに向かせる。しかし、そのヘーゼルの瞳は涙に溢れていた。見慣れないミシェルの表情に少し動揺して、思わず手を離す。
「えっ、何その顔。気持ち悪いなあ」
そう言って再度触れてみようとすれば、ミシェルがビクリと肩を震わせて腕を構えた。ビクビクしているのがなんだか幼い少女のようだ。いっきにラニウスの熱が冷めていく。なんだよそれ、と声色が低くなった。無理やり顔を寄せて、その口にナイフを突っ込む。
「ねえ、ミシェル。抵抗しないと。口が裂けちゃうよ」
その言葉にミシェルはただ涙を流すだけで抵抗しようとしない。腹が立って、思わずナイフの刃を頬に突きつけ、ピッとそのまま横に切った。痛みに言葉にならない声をあげて、ミシェルはその場に項垂れる。もう、声を出すこともしなくなった。
「……ああ、そう。もう、戻らないんだ」
じゃあいいや。ラニウスはそう落胆したように言って、持ち直したナイフを振り下げようとする。しかし、急にミシェルの前に飛び出してきた人影によって振り上げた腕を止めた。やめてください! と目の前に立つのは、綺麗な金髪の二つ結を靡かせる女性の姿。
「ミシェルさんを、もうこれ以上傷つけないで……!」
か細い声で震えるクラリスをラニウスはいつになく冷たい目線で見下ろした。力を持たないか細い腕を広げて、震えながら怯えたようにこちらを見つめている。なんの緊張感もない。このまま腕を振り下げたら、その綺麗な緑眼を突き刺して、くり抜いて、動かなくなった体を内臓がぐちゃぐちゃになるまで犯すことができる。そんな、弱い人間。
その背後では項垂れる見知った知人の顔がある。あれほど尖っていたヘーゼルの瞳は戦意を喪失し、何の魅力も感じない。
「……ねえ、ミシェル。女になって得られたのはこんなものかい? これは俺といた時間よりも大切?」
呟いて腕を微かに動かすと、目の前で腕を広げていたクラリスがビクリと肩を震わせる。こんなにビクビクしている人間に庇われているなんて、何処までも幻滅だ。
『私の事は忘れてさ』
ふと、先程のミシェルが過ぎる。少し間をあけ「忘れないでって言ったのは君なのにね」とラニウスが蚊の鳴くような声で呟いた。
「あー……もう、いいや。萎えたし。今日はこの辺にしておくよ。じゃあね」
ピンっとナイフについた血を払ってから踵を返し、ゆっくりと歩いていく。クラリスはその背中を震えながら見つめ、しばらくしてから「ミシェルさん!」と振り返った。項垂れたミシェルの肩を揺さぶるが反応はなく、その瞳には光がない。様子が変だと追ってきたが、まさかこんなことになっているなんて。
「酷い怪我……手当します! とにかく、お店の方に」
そう言って手を引くクラリスをミシェルは振り払った。あっ、と声に出し「ごめん。大丈夫、だから」と立ち上がる。フラフラと一人で歩いていこうとするミシェルに「ですが……」とクラリスが再度引き止めた。
「……もう、屋敷に帰らないと。心配かけて、ごめん」
その場で止まり、こちらに顔を一切向けずに言い放った。そのまま真っ直ぐ路地を歩いていく。クラリスは引き留めようとした腕を伸ばしたまま、拳を握りしめ「ミシェルさん……」と見送った。
◆
食事を終え、シアンは書斎に行くためにエントランスへと出た。夕食前には戻ってこいと行ったのに。ベイカーのやつ何をしているんだと顔を顰める。最近は何かと自分に文句をつけるようになったり、今回のように約束を守らなかったりと少し生意気さが目立つ。言う事聞かないやつはあのクソガキだけで十分だというのに。そのうちクビにしてやろうかと書斎の扉に手をかけた時、コンコンと屋敷の扉からノックが聞こえた。
やっと帰ってきたか。何か言ってやろうと苛立ちの見える早足で歩いていき「おい、ベイカー! 約束は……」と扉を開けた。
そこに居たのは間違いなくミシェルの姿だ。だが、服はボロボロになり、見知った二つ結の髪は乱雑に短く切られていた。雨が降っていたのか、びちゃびちゃに濡れていて、ぽたぽたと頬に雫が伝っている。その頬は何かで切り裂かれたようにくっきりと赤い傷跡が浮き出ていた。流石のシアンも驚き、青の双眸を見開かせてから「……どうした」と声をかけた。ビクン、項垂れた彼女の肩が大きく震える。
「……時間に遅れてしまい大変申し訳ございません。言い訳するつもりはありません。自分の不注意です。すぐに作業に戻るので……その前に、身だしなみを整えさせてください……」
「あ、ああ……」
項垂れたまま頬を抑え、頭を下げるミシェルに、シアンは怒る気にもなれず気迫のない声で返す。それを聞いて、ミシェルは一度顔を上げてから「ご厚意感謝致します」とそのままシアンの横を通り過ぎていった。その背中を見送ってからシアンは入口を見下ろす。そこには雨粒と混じって真っ赤な雫が、先程まで彼女がいた地面を濡らしていた。
『ミシェルがブライを信じていたのなんて、その程度だったんだ』
『ブライは君が殺したんだろ? その手で』
とある暗室。怪我の治療もし、服も着替え終わり、ミシェルは鏡の前に立って、乱雑に短くなった髪を切りそろえていた。じゃき、じゃき、と音を鳴らし、ハラハラと髪が広げられた布に落ちていく。その度に先ほど起こったこと、過去の事が頭の中をぐるぐると回った。鏡の中の自分を見る。顎下まで短くなった栗毛のショートボブ。少し前の自分を思い出した。
「……なんだよ。元々、似合ってもなかったろ」
鏡の中の自分に向かって言い放つ。女になると決めた時、今までの自分を払拭しようと努力した。アシュリーと同じ髪にして、歩き方も、口調も変えて、とにかく頑張った。憧れていたワンピースは思ったより動きずらくて、長い髪も邪魔だし、歩き方で何度も股関節を痛めた。
出来上がったのは淑女とは程遠い未完成の自分。短気で、粗暴で、口の荒さが残る中途半端な存在。元の性に戻ってこれまでの当然が通じない事に少し戸惑いはあったけど、それでもそんな日々が、ありのままの自分になれたような気がしてとても楽しかった。
別に気にしなければいい。明日も普通通り過ごせばいい。髪が短くなった程度でめそめそするなんて、それこそバカバカしい。大丈夫―――過去はもう振り返らないって、決めたんだから。
「まて!!」
部屋の扉を蹴破って入ってきたのは、以前より少し伸びた白髪の少年。部屋に強引に入るなり、キョロキョロと足元を見回している。驚いたミシェルはツグナの方を振り返り無言で見つめたまま固まった。
「……ん? だ、誰だ……って、お前、ミシェルか?」
「みりゃあ分かるだろクソガキ。というか、なんでここに……」
そこまでミシェルが呟いた時、足元に一匹のネズミが現れる。あ、いた! とツグナは駆け出し飛びつくが、ネズミは屋敷に空いた穴を通って部屋から出ていってしまった。
「……最悪だ。あと少しだったのに……」
「追いかけてネズミが捕まるわけないだろ? ったく、本当ばか」
「っ、屋敷の手伝いしようとしたら久しぶりで、失敗続きだったから……ネズミ駆除を頼まれたんだよ。今日中に一匹でも捕えられなかったら、また女装させられてアデラさんに会わされる……」
それだけは嫌だと青ざめて、膝をつきながら嘆く。恐らく酷すぎて適当に仕事を任せられたんだろうなとミシェルは哀れみ「ネズミなら、罠を作ればいいのよ」と見下ろした。
「……罠?」
「そう。餌に毒盛ったり、一方通行の筒の中に好物を入れてやるの」
「それってどうするんだ……?」
想像力がないのか、考える仕草をしてから首を傾げる。本当に馬鹿だなこいつと顔を顰めてから「一緒に作ってやるから」とその場で嘆息した。本当か! とツグナの表情が明るくなる。以前は謝ってばかりだったのに、随分表情豊かになったものだ。どんな人間も成長する。私も変わらなくてはいけない。
「ここじゃあれだから別室に行くわよ。餌なら厨房にいかないといけないし……」
そう言って髪の残骸を布と一緒に丸める。ツグナはその様子を見て一度黙り込んでから「なあ」と口を開いた。
「なんで、髪切ったんだ? 怪我してるし……」
思わずミシェルはまとめていた手を止める。せっかく切り替えようとしていたのにタイミングが悪いやつだ。
「別に、転んだ。髪は気分だよ気分」
そう答えてからふと、以前ツグナが自分を男と勘違いしていたことを思い出す。髪型も服装も口調だって女になりつつあったのに。浴室で鉢合わせするまで勘違いされたままだったけ。
「……そういや、あんた。昔、私を男だと思っていた時あったよな」
「ああ。品がないやつは女性として見られないって、シアンが」
「あの人、どんな判断基準だよ。品がない女なんてゴロゴロいるっつうの! 全員がお淑やかなわけじゃねえし」
ぶつぶつと呟くミシェルに「今日のお前、なんか変だな」とツグナが見上げる。間を置かず「イライラしてんのはいつも通りだろ」と返した。それもそうだな、とツグナが立ち上がる。
「……まあ、いいや。似合うだろ? こっちの方が男っぽくてさ」
自嘲するように力なく笑って呟いた。厚く空を覆っていた雲が、風に流れて、月が見え始める。
「はあ? お前、何言ってんだ?」
首を傾げるツグナにイラッときて口角をひくつかせる。過去に勘違いしてたから皮肉のつもりで言ったのに、全く通じていない。わざわざ以前の事を引っ張り出してやったのに。こいつはそういう奴だと涼しくなった首を掻いて、目を逸らした。
「……僕は別に、前の髪もお前に似合ってたと思うけど」
開けていた窓から風が入り込んで、二人の髪を靡かせた。月明かりが真っ正面に立っていたツグナを青白く照らし出す。
「男らしいとか女らしいとか、僕はよく分からないけど。髪が長くても短くても、男でも女でも、ミシェルはミシェルだろ? うるさくて怒りっぽくて。別にそれでいいじゃねえか。お前の好きなように生きれば」
その言葉にミシェルは息を飲んだ。目を見開き、ふとブライアンとの会話が過ぎる。
『少し髪伸びたな』
『まあな……後で切る』
『ええ~? どうしてだよ。とっても似合ってるのに。切るなんて勿体ないぞ~』
『こんな女々しい髪型なんかしてられるかよ! 僕は男なんだから……』
『ミシェルは難しいこと考えるな~。男だろうが女だろうが、ミシェルはミシェルなんだから。自分のなりたいように生きればいいだろ。もっと自分に素直になれ』
人の気持ちも知らずにニコニコと笑いながらその大きな手で頭を撫でてくるブライアン。ああ、何故。なぜ今、そんな事を思い出すのだろう。出会ってからずっと引っかかっていた。真っ直ぐで、自分の事のように他人の痛みも背負おうとするお人好しのバカ―――そんなあんたの考えがずっとあの人に似ていて……だから気に食わなくて―――
ポタポタと床に何かが零れた。月光を受けて輝くそれは、ヘーゼルの瞳から頬を伝って床に落ちていく。止まらない。止め方を忘れてしまったようだった。眼前でそれを見たツグナはギョッと目を見開き「えっ、なんで泣いて……!」と慌てたように手を動かす。ましてやいつも強気な彼女が泣くなんて。調子が完全に狂い、どうすればいいかと困惑して眉を下げた。
「あっ……?」
自分より背の高い彼女の首に抱きつく。突然の事にミシェルは唖然とし「何すんのよ」と少年の胸に顔を埋めたまま文句を言った。少年がこんな事をするなんてらしくもない。ツグナは無言で抱きしめる腕を強くする。
「えっと……その。前にこうすると落ち着くからってレイが……シアンも人の鼓動を聞くと落ち着くからって言ってたし。その……いやだったら、ごめん」
突然のことに少し驚いたが、奴らの入れ知恵ならありえるなと、ミシェルは「……なんだよそれ」と呟いた。鼓動が聞こえる。ヴェトナでは一度途絶えてしまったあの音が、大きく、はっきりと。
『ミシェル』
こんなに優しく誰かに抱きしめられるのはいつぶりだろう。子供にしては体温が低い体だが、何故だかポカポカと暖かくて心地よい。ずっと委ねたくなる。
「……仕方ないわね。ほんの少しだけ、借りてやるわ」
頬を緩めると、ミシェルは小さな少年の胸に顔を埋めて静かに泣いた。なんとなく弱々しい彼女の泣き顔を見ない方がいいと、ツグナは天井を見上げ、頭を撫でる。
部屋の扉前で腕を組みながら話を聞いていた金髪の青年は、しばらくしてその場から立ち去った。
◆
あれから数日が経った。ミシェルはいつも通り屋敷内を駆け回っている。まるであの夜が嘘だったみたいに元気だ。そんな彼女の姿に少しモヤモヤしながらも、ツグナはいつも通り屋敷の手伝いをして過ごす、はずだった。
「はあ? 街に?」
突然書斎に呼び出され、目の前の金髪碧眼の主人と対峙する。
「そうだ。君の薬がもう底をつきそうでね。少し前に、半日ほどの時間を設けて使えないメイドにお使いを頼んだんだが、何せ使えないせいで、その薬を買って来れなかったらしくてな。全く使えなくて困る。どうせ君のだし、君が自分でもらいに行ってくれ」
何回使えないを言うつもりなんだと呆れて目を細める。とはいえ、体調は良好だし、前回と比べると特に気分が悪くなるようなことはなかった。自身の体を作りかえた薬にはなるべく頼りたくない。別に薬は、とまでツグナが言いかけた時「もう少し危機感を持ったらどうだ?」と窓の外を見つめるシアンに返される。
「今君が落ち着いてるのは薬のおかげ。無理な断絶なんてすれば君はまた薬を求めて錯乱することになるだろう。どんなに意志を強く持ったとしても、体や脳は正直だ。約束、まさか忘れたわけじゃないだろ」
脅すようなシアンの言葉に、ツグナは外に出る前日に言われたことを思い出す。四肢切断……犬のような体型にさせられ、人間以下に扱われるあの感覚はもう二度と経験したくない。
「……分かった。どうせ拒否権はないんだろ」
「君も分かってきたじゃないか。駄犬は嫌いだが利口で従順な犬は嫌いじゃない」
「僕は犬じゃない!……犬なんて嫌いだ」
いつもこのパターンだ。断れた試しなんてない。こいつもそれが分かってるからいいように自分を使うのだろう。アデラさんの言うように、本当に性格が悪い。
「ああ。それから、もう一つ条件だ」
見上げた先にいるシアンは、変わらぬ表情でこちらを振り返った。次に行くまでの間と、纏った空気にツグナは不思議そうに首を傾げる。
◆
「はあ。全くなんでこんなことに……」
その日はよく晴れていた。古代建築が残る石畳の街、ロザンド。その街の路地で、白髪の少年と栗毛の女性が隣に並んで歩いている。てっきりシアンと行くものだと思っていたのに、まさかこいつとなんてとツグナは横目でミシェルを見た。その顔は少しだけ固いように思える。
シアンの条件は「ミシェルも連れて行くこと」
以前お使いを果たせなかったので責任を取れと、ツグナの付き人に任命されたのだ。あまり詳しいことは分からないけど、ミシェルが初めて涙を見せた日、彼女は街に出ていたという。あからさまに何かあったとシアンは察しているはずなのに、街に連れていくように言うなんて、相変わらず容赦のないやつだ。
「あ、あのさ。あいつの言うことが嫌なら無理しなくても良かったんだぞ……?」
珍しく気にかけるツグナの言葉にミシェルは間を開けてから「別に大丈夫って言ってるでしょ」と白髪頭を強めに撫でた。その笑顔は力がない。最低限答えてあとは何も話さないミシェルに、ツグナは気まずそうに少し項垂れて眉を下げる。
こいつとはこれまで色んなことがあった。屋敷に来たばかりの時は訳の分からない理由で当たってくるし、いつも怒ってばかりで正直苦手だったけど。教会から帰って、しばらく介護をされるうちに怖いだけの人間じゃないっていうのが分かった気がした。未だにシアンと一緒になって意地悪されることはあるけど、たまに見せる笑顔とか、頭を撫でられるのは悪い気はしなかった。
ヴェトナから帰ってきた後もよくは覚えていないが、必死に自分を止めようとしてくれたし。今では、感謝している。そんな彼女が見せた初めての弱さ―――戸惑いこそはあったけど、こいつも色々抱えて生きているんだって改めて思った。力になりたい―――けど、自分ではどうすればいいか分からない。
「あれえ。ミシェルじゃん」
その声にピタリと足を止める。隣にいたミシェルの表情がより一層険しくなった。ツグナは思わず顔を上げて、目の前に立ちはだかる人物を見つめる。石の町のモノクロによく映える赤髪―――それがグレーテのものとよく似ていて、思わず息を飲んだ。
「怪我の調子はどうだい? あんな事があってよくこの街に来れたねえ。それとも、俺との話受け入れる気になった?」
その声にミシェルの肩が震える。あのミシェルが何も返さない。酷く脅えているようだった。それを見て直感した。ああ、こいつがそうなのかと。ツグナは固く結んだ口を開け「やめろよ」と前へと踏み出す。
「ミシェルが嫌がってる」
目の前にいた人物と隣にいたミシェルがはっとする。誰お前、と眼前にいた赤髪の青年の声色が低くなった。
「……なに? ミシェル。もしかして彼が今の君の主人じゃないよね? こんなひょろいやつが」
少しだけ腹立たしいさを感じる言い方だった。ミシェルの前に立ってじっとこちらを睨みつけてくる赤目の少年に、赤髪の青年ラニウスは「そっか」と思いついたように声音を元に戻す。
「なら、丁度いいや。こいつを消せば君は本気で怒ってくれる?」
声と共にラニウスが服の中に手を入れる。ゾワッ。項垂れて何も言わずにいたミシェルの鳥肌が立った。
「待って! こいつは―――!」
声を上げたが遅かった。ラニウスは服の中から取り出したナイフをツグナに向かって振り下ろす。風を切る金属音が、やけに冷たく聞こえた。
突然放たれたラニウスの言葉に、ミシェルは困惑を隠しきれない。動揺が、ヘーゼルの瞳を揺らし、目の前の赤髪の男を捉えた。
「なーに、驚いてんの。てか、本当に気づかなかったんだ。頭回るくせに本当、馬鹿だよなあ。でも、あんな言葉一つでブライを疑うんだもん。ミシェルがブライを信じていたのなんて、その程度だったんだ」
酔いのせいで頭が回らない。ズキズキと痛む頭を抑え、目をキョロキョロとさせる。
「そ、んな冗談……」
「ミシェルって、なんであの時ブライアンを疑ったの? そのきっかけって誰だっけ?」
よく振り返ってみる。そういえばその日は確か、ラニウスと会っていたはずだ。久々に集まれたから、最近の近況を報告しあって―――そこまで考えてから、自身の中で一致する記憶があり、無言になる。
「考えてもみなよ。ブライアンは確かに馬鹿だけどさ、そういう秘密は大切にするやつだろ? 順調に昇進していく君の弱点になるようなことを言うと思う?」
「……だったら。あんたは、なんで」
「別に理由なんかないよ。ただ、俺が面白くなるようにしただけ。色々政治やらで国が大変だったからさ、戦いの場がなくて退屈してたんだよ。そしたら、あいつらが溜まってるっていうからさ。それなら丁度いい奴がいるよ~って」
唐突にへらへらしているラニウスの顔に向かって蹴りが放たれる。ラニウスは最低限の動きで避けると、目の前の人物に口角を上げた。少し遅れて風が穏やかに赤髪を靡かせる。
「おっと危ない。殺気高いねえ。君のその目を見るのは久しぶりだな」
ゾクゾクと歓喜に背中が震える。落ちていく日の影にかかって表情がよく読み取れないが、鋭くつり上がったヘーゼルの瞳がぎろりとこちらに向けられているのは確かなようだ。獣の唸りのような呻きが、ギリギリと噛み締めた歯の隙間から漏れだしている。
「あんた……自分が何したか分かってんのか……! あんたのせいでっ……ブライアンは!」
「なに人に責任押し付けてんの? ブライは君が殺したんだろ? その手で。君がブライを撃ち殺す瞬間を正面から見ていたよ。傑作だったなあ……怒りとも悲しみとも言えない……ミシェルもあんな顔するんだって。最高に綺麗だった」
てめえ! 声を張り上げ、ミシェルはラニウスの腹を蹴りつけた。すぐさま回転するように切り替えると、今度は顔に向かって勢いよく足を突き出す。が、ラニウスは瞳孔を開き、楽しそうにそれを見つめながら蹴りをかわした。サッと頬を掠めた場所から血が流れる。
「君ってそういえば蹴りが好きだったね。なんでだっけ……ああ、そうか。もう、手は汚したくないんだ? 本当、馬鹿だなあ。どうせどんなに拭っても罪なんか落ちやしないのに」
次々と放たれるミシェルの蹴り攻撃を、話しながら後退して避けていく。どれも煽るかのようにギリギリでだ。しまいには拳銃を取りだし、近距離で放つなどするが、どれも圧倒的な身体能力で躱されてしまう。
「懐かしいなあ。こうして君と戦うのいつぶりだろう? 幼い頃はよく喧嘩してたのに、どんどんそんな機会もなくなって。戦争にも行けるわけじゃないし、大人になるってつまらないものだね。ね? そう思わない?」
「死ね!!!」
その直後に放たれた攻撃に「おっと、仮にも弟に向かって酷いなあ」とミシェルに足をかけて転ばせる。ミシェルの手にあった紙袋が転がり、ガシャンと瓶が割れる音がする。
「本当に殺したいなら全力でこないと~。それでなくても対人格闘で勝てたことないくせに」
見下ろしながらケラケラと笑っていると、ミシェルはラニウスの足元で体勢を変え、顎に向かって下から蹴りつけた。脳が揺れ、ぐわんぐわんと視界が霞む。
「……そうこなくっちゃ」
ラニウスの呟きに「いつまで遊んでんだ! さっさと攻撃してこい!」と次の攻撃をしに突進した。が、横から放った全力の蹴りを、ラニウスの構えた腕で容易く受け止められる。ビクともしない。
「じゃっ、少しだけ」
受け止めた腕でミシェルの足を弾くと、ラニウスは素早くブラウン髪を掴み、頭突きする。いっ、と声に出して後退するミシェルの頭を再度掴むと、今度はそのまま路地の壁に叩きつけた。ずりずりと顔をすり下ろすように下へと引きずる。
「悪い癖だよ? 技術に頼りっぱなしなのも。お陰で基礎筋肉が落ちている。技術もキレが前より悪い。傭兵なんて嘘だろ?」
地面に押さえつけられながら、ミシェルは横を向いて、ラニウスを睨みつける。顔が火傷でヒリヒリと痛む。きっと血がにじみでているのだろう。乱暴に髪を捕まれ、無理やり顔を持ち上げられる。
「本当、心だけじゃなくて体も女になりつつあるの。まさかこれが本気じゃないよね? 昔はもう少し俺と戦えたはずだけど……それともなに? こんな事をしてまで、まだ殺すつもりになれない? 血の繋がりはなくても、家族だったから」
その言葉に反応する。直後「なんかガッカリ」と、ラニウスが投げつけるように手を離した。立ち上がり、そのままナイフを取り出す。さっと空中で振るったかと思うと、ミシェルの肌に切り傷ができ「あ゛あ!」と叫びが出る。腹を蹴り飛ばし、またミシェルが転がっては、ナイフで傷をつけるを繰り返し、じっくりといたぶった。上半身を抱え、痛みに縮こまるミシェルに「本当、弱くなったね」とラニウスは口角を下げたまま呟いた。よく見てみれば、自分がつけたものとは明らかに違う深い傷が服から染み出ている。
「あっ、なるほど。怪我してたんだ。どうりで弱いと思った」
そう言ってわざとつま先で傷口を抉るように、蹴りつけた。何度も蹴りつけ、路地がどんどんミシェルの血で汚れていく。
「あ゛ぅ……ぐっ」
「大丈夫。殺さないよ。ミシェルは強いもん。俺を満足させるまでは、死なせないから。怪我が回復して、またあの頃みたいにミシェルと―――」
「……強くなんかない」
ヴェトナで受けた傷口が開き、ぽたぽたと血液が垂れていく。そんな痛みとは違って沈痛した表情を浮かべながら、ミシェルは地面から顔を上げた。
「―――僕は誰よりも弱い。ずっとそうだ……不安だった。怒りで感情を爆発させることしか出来ない、ただの臆病者だった。愛されたい。誰かから認められたい―――けど、そう願ってる癖に、誰かの体温が怖かった。真っ直ぐに信じて、愛してくれた奴がいたのに、突き放した―――」
最後のブライアンの顔が過ぎる。あいつはどんな思いで死んでいったのだろう。たった一つの言葉で、あいつを憎み、勘違いしたまま自分の手で殺した。なのに、あいつは自分を守るどころか、最後まで信じようとしてくれた。愛してくれた。
『お前を守りたかった』
なあ、なんで僕はあんなお人好しのバカを、信じてやれなかったんだろう。憎い。信じれなかった自分が、ひたすら憎い。自分勝手に誓ったんだ。人のために生きるあんたを否定するために。僕は僕のために、生きるって。あんたよりも長く生きて、笑ってやるって。なのに―――
「俺はそんなことが聞きたいわけじゃないよ。信じるとか愛とか、一体どのくらいの値段で買えるんだい? そんな無価値なもので腹も喉の渇きも満たせない。俺たちは血肉を啜って生きていくしかないんだよ。一昔前のミシェルの言葉を借りるなら『反吐が出る』」
上半身を起こしたミシェルに向かってラニウスが素早くナイフを振り切った。二つの風が交差し、耳元がやけに寒くなる。ボト、と地面に落ちるのはミシェルの頭の両側に結われた髪束。切られて短くなった髪がパッと広がって風に靡いた。
「ほら。そっちの方がミシェルらしくて似合ってるよ! 動きやすいし、これで女の格好しなくたっていいじゃん」
髪を鷲掴みにし無理やり顔をこちらに向かせる。しかし、そのヘーゼルの瞳は涙に溢れていた。見慣れないミシェルの表情に少し動揺して、思わず手を離す。
「えっ、何その顔。気持ち悪いなあ」
そう言って再度触れてみようとすれば、ミシェルがビクリと肩を震わせて腕を構えた。ビクビクしているのがなんだか幼い少女のようだ。いっきにラニウスの熱が冷めていく。なんだよそれ、と声色が低くなった。無理やり顔を寄せて、その口にナイフを突っ込む。
「ねえ、ミシェル。抵抗しないと。口が裂けちゃうよ」
その言葉にミシェルはただ涙を流すだけで抵抗しようとしない。腹が立って、思わずナイフの刃を頬に突きつけ、ピッとそのまま横に切った。痛みに言葉にならない声をあげて、ミシェルはその場に項垂れる。もう、声を出すこともしなくなった。
「……ああ、そう。もう、戻らないんだ」
じゃあいいや。ラニウスはそう落胆したように言って、持ち直したナイフを振り下げようとする。しかし、急にミシェルの前に飛び出してきた人影によって振り上げた腕を止めた。やめてください! と目の前に立つのは、綺麗な金髪の二つ結を靡かせる女性の姿。
「ミシェルさんを、もうこれ以上傷つけないで……!」
か細い声で震えるクラリスをラニウスはいつになく冷たい目線で見下ろした。力を持たないか細い腕を広げて、震えながら怯えたようにこちらを見つめている。なんの緊張感もない。このまま腕を振り下げたら、その綺麗な緑眼を突き刺して、くり抜いて、動かなくなった体を内臓がぐちゃぐちゃになるまで犯すことができる。そんな、弱い人間。
その背後では項垂れる見知った知人の顔がある。あれほど尖っていたヘーゼルの瞳は戦意を喪失し、何の魅力も感じない。
「……ねえ、ミシェル。女になって得られたのはこんなものかい? これは俺といた時間よりも大切?」
呟いて腕を微かに動かすと、目の前で腕を広げていたクラリスがビクリと肩を震わせる。こんなにビクビクしている人間に庇われているなんて、何処までも幻滅だ。
『私の事は忘れてさ』
ふと、先程のミシェルが過ぎる。少し間をあけ「忘れないでって言ったのは君なのにね」とラニウスが蚊の鳴くような声で呟いた。
「あー……もう、いいや。萎えたし。今日はこの辺にしておくよ。じゃあね」
ピンっとナイフについた血を払ってから踵を返し、ゆっくりと歩いていく。クラリスはその背中を震えながら見つめ、しばらくしてから「ミシェルさん!」と振り返った。項垂れたミシェルの肩を揺さぶるが反応はなく、その瞳には光がない。様子が変だと追ってきたが、まさかこんなことになっているなんて。
「酷い怪我……手当します! とにかく、お店の方に」
そう言って手を引くクラリスをミシェルは振り払った。あっ、と声に出し「ごめん。大丈夫、だから」と立ち上がる。フラフラと一人で歩いていこうとするミシェルに「ですが……」とクラリスが再度引き止めた。
「……もう、屋敷に帰らないと。心配かけて、ごめん」
その場で止まり、こちらに顔を一切向けずに言い放った。そのまま真っ直ぐ路地を歩いていく。クラリスは引き留めようとした腕を伸ばしたまま、拳を握りしめ「ミシェルさん……」と見送った。
◆
食事を終え、シアンは書斎に行くためにエントランスへと出た。夕食前には戻ってこいと行ったのに。ベイカーのやつ何をしているんだと顔を顰める。最近は何かと自分に文句をつけるようになったり、今回のように約束を守らなかったりと少し生意気さが目立つ。言う事聞かないやつはあのクソガキだけで十分だというのに。そのうちクビにしてやろうかと書斎の扉に手をかけた時、コンコンと屋敷の扉からノックが聞こえた。
やっと帰ってきたか。何か言ってやろうと苛立ちの見える早足で歩いていき「おい、ベイカー! 約束は……」と扉を開けた。
そこに居たのは間違いなくミシェルの姿だ。だが、服はボロボロになり、見知った二つ結の髪は乱雑に短く切られていた。雨が降っていたのか、びちゃびちゃに濡れていて、ぽたぽたと頬に雫が伝っている。その頬は何かで切り裂かれたようにくっきりと赤い傷跡が浮き出ていた。流石のシアンも驚き、青の双眸を見開かせてから「……どうした」と声をかけた。ビクン、項垂れた彼女の肩が大きく震える。
「……時間に遅れてしまい大変申し訳ございません。言い訳するつもりはありません。自分の不注意です。すぐに作業に戻るので……その前に、身だしなみを整えさせてください……」
「あ、ああ……」
項垂れたまま頬を抑え、頭を下げるミシェルに、シアンは怒る気にもなれず気迫のない声で返す。それを聞いて、ミシェルは一度顔を上げてから「ご厚意感謝致します」とそのままシアンの横を通り過ぎていった。その背中を見送ってからシアンは入口を見下ろす。そこには雨粒と混じって真っ赤な雫が、先程まで彼女がいた地面を濡らしていた。
『ミシェルがブライを信じていたのなんて、その程度だったんだ』
『ブライは君が殺したんだろ? その手で』
とある暗室。怪我の治療もし、服も着替え終わり、ミシェルは鏡の前に立って、乱雑に短くなった髪を切りそろえていた。じゃき、じゃき、と音を鳴らし、ハラハラと髪が広げられた布に落ちていく。その度に先ほど起こったこと、過去の事が頭の中をぐるぐると回った。鏡の中の自分を見る。顎下まで短くなった栗毛のショートボブ。少し前の自分を思い出した。
「……なんだよ。元々、似合ってもなかったろ」
鏡の中の自分に向かって言い放つ。女になると決めた時、今までの自分を払拭しようと努力した。アシュリーと同じ髪にして、歩き方も、口調も変えて、とにかく頑張った。憧れていたワンピースは思ったより動きずらくて、長い髪も邪魔だし、歩き方で何度も股関節を痛めた。
出来上がったのは淑女とは程遠い未完成の自分。短気で、粗暴で、口の荒さが残る中途半端な存在。元の性に戻ってこれまでの当然が通じない事に少し戸惑いはあったけど、それでもそんな日々が、ありのままの自分になれたような気がしてとても楽しかった。
別に気にしなければいい。明日も普通通り過ごせばいい。髪が短くなった程度でめそめそするなんて、それこそバカバカしい。大丈夫―――過去はもう振り返らないって、決めたんだから。
「まて!!」
部屋の扉を蹴破って入ってきたのは、以前より少し伸びた白髪の少年。部屋に強引に入るなり、キョロキョロと足元を見回している。驚いたミシェルはツグナの方を振り返り無言で見つめたまま固まった。
「……ん? だ、誰だ……って、お前、ミシェルか?」
「みりゃあ分かるだろクソガキ。というか、なんでここに……」
そこまでミシェルが呟いた時、足元に一匹のネズミが現れる。あ、いた! とツグナは駆け出し飛びつくが、ネズミは屋敷に空いた穴を通って部屋から出ていってしまった。
「……最悪だ。あと少しだったのに……」
「追いかけてネズミが捕まるわけないだろ? ったく、本当ばか」
「っ、屋敷の手伝いしようとしたら久しぶりで、失敗続きだったから……ネズミ駆除を頼まれたんだよ。今日中に一匹でも捕えられなかったら、また女装させられてアデラさんに会わされる……」
それだけは嫌だと青ざめて、膝をつきながら嘆く。恐らく酷すぎて適当に仕事を任せられたんだろうなとミシェルは哀れみ「ネズミなら、罠を作ればいいのよ」と見下ろした。
「……罠?」
「そう。餌に毒盛ったり、一方通行の筒の中に好物を入れてやるの」
「それってどうするんだ……?」
想像力がないのか、考える仕草をしてから首を傾げる。本当に馬鹿だなこいつと顔を顰めてから「一緒に作ってやるから」とその場で嘆息した。本当か! とツグナの表情が明るくなる。以前は謝ってばかりだったのに、随分表情豊かになったものだ。どんな人間も成長する。私も変わらなくてはいけない。
「ここじゃあれだから別室に行くわよ。餌なら厨房にいかないといけないし……」
そう言って髪の残骸を布と一緒に丸める。ツグナはその様子を見て一度黙り込んでから「なあ」と口を開いた。
「なんで、髪切ったんだ? 怪我してるし……」
思わずミシェルはまとめていた手を止める。せっかく切り替えようとしていたのにタイミングが悪いやつだ。
「別に、転んだ。髪は気分だよ気分」
そう答えてからふと、以前ツグナが自分を男と勘違いしていたことを思い出す。髪型も服装も口調だって女になりつつあったのに。浴室で鉢合わせするまで勘違いされたままだったけ。
「……そういや、あんた。昔、私を男だと思っていた時あったよな」
「ああ。品がないやつは女性として見られないって、シアンが」
「あの人、どんな判断基準だよ。品がない女なんてゴロゴロいるっつうの! 全員がお淑やかなわけじゃねえし」
ぶつぶつと呟くミシェルに「今日のお前、なんか変だな」とツグナが見上げる。間を置かず「イライラしてんのはいつも通りだろ」と返した。それもそうだな、とツグナが立ち上がる。
「……まあ、いいや。似合うだろ? こっちの方が男っぽくてさ」
自嘲するように力なく笑って呟いた。厚く空を覆っていた雲が、風に流れて、月が見え始める。
「はあ? お前、何言ってんだ?」
首を傾げるツグナにイラッときて口角をひくつかせる。過去に勘違いしてたから皮肉のつもりで言ったのに、全く通じていない。わざわざ以前の事を引っ張り出してやったのに。こいつはそういう奴だと涼しくなった首を掻いて、目を逸らした。
「……僕は別に、前の髪もお前に似合ってたと思うけど」
開けていた窓から風が入り込んで、二人の髪を靡かせた。月明かりが真っ正面に立っていたツグナを青白く照らし出す。
「男らしいとか女らしいとか、僕はよく分からないけど。髪が長くても短くても、男でも女でも、ミシェルはミシェルだろ? うるさくて怒りっぽくて。別にそれでいいじゃねえか。お前の好きなように生きれば」
その言葉にミシェルは息を飲んだ。目を見開き、ふとブライアンとの会話が過ぎる。
『少し髪伸びたな』
『まあな……後で切る』
『ええ~? どうしてだよ。とっても似合ってるのに。切るなんて勿体ないぞ~』
『こんな女々しい髪型なんかしてられるかよ! 僕は男なんだから……』
『ミシェルは難しいこと考えるな~。男だろうが女だろうが、ミシェルはミシェルなんだから。自分のなりたいように生きればいいだろ。もっと自分に素直になれ』
人の気持ちも知らずにニコニコと笑いながらその大きな手で頭を撫でてくるブライアン。ああ、何故。なぜ今、そんな事を思い出すのだろう。出会ってからずっと引っかかっていた。真っ直ぐで、自分の事のように他人の痛みも背負おうとするお人好しのバカ―――そんなあんたの考えがずっとあの人に似ていて……だから気に食わなくて―――
ポタポタと床に何かが零れた。月光を受けて輝くそれは、ヘーゼルの瞳から頬を伝って床に落ちていく。止まらない。止め方を忘れてしまったようだった。眼前でそれを見たツグナはギョッと目を見開き「えっ、なんで泣いて……!」と慌てたように手を動かす。ましてやいつも強気な彼女が泣くなんて。調子が完全に狂い、どうすればいいかと困惑して眉を下げた。
「あっ……?」
自分より背の高い彼女の首に抱きつく。突然の事にミシェルは唖然とし「何すんのよ」と少年の胸に顔を埋めたまま文句を言った。少年がこんな事をするなんてらしくもない。ツグナは無言で抱きしめる腕を強くする。
「えっと……その。前にこうすると落ち着くからってレイが……シアンも人の鼓動を聞くと落ち着くからって言ってたし。その……いやだったら、ごめん」
突然のことに少し驚いたが、奴らの入れ知恵ならありえるなと、ミシェルは「……なんだよそれ」と呟いた。鼓動が聞こえる。ヴェトナでは一度途絶えてしまったあの音が、大きく、はっきりと。
『ミシェル』
こんなに優しく誰かに抱きしめられるのはいつぶりだろう。子供にしては体温が低い体だが、何故だかポカポカと暖かくて心地よい。ずっと委ねたくなる。
「……仕方ないわね。ほんの少しだけ、借りてやるわ」
頬を緩めると、ミシェルは小さな少年の胸に顔を埋めて静かに泣いた。なんとなく弱々しい彼女の泣き顔を見ない方がいいと、ツグナは天井を見上げ、頭を撫でる。
部屋の扉前で腕を組みながら話を聞いていた金髪の青年は、しばらくしてその場から立ち去った。
◆
あれから数日が経った。ミシェルはいつも通り屋敷内を駆け回っている。まるであの夜が嘘だったみたいに元気だ。そんな彼女の姿に少しモヤモヤしながらも、ツグナはいつも通り屋敷の手伝いをして過ごす、はずだった。
「はあ? 街に?」
突然書斎に呼び出され、目の前の金髪碧眼の主人と対峙する。
「そうだ。君の薬がもう底をつきそうでね。少し前に、半日ほどの時間を設けて使えないメイドにお使いを頼んだんだが、何せ使えないせいで、その薬を買って来れなかったらしくてな。全く使えなくて困る。どうせ君のだし、君が自分でもらいに行ってくれ」
何回使えないを言うつもりなんだと呆れて目を細める。とはいえ、体調は良好だし、前回と比べると特に気分が悪くなるようなことはなかった。自身の体を作りかえた薬にはなるべく頼りたくない。別に薬は、とまでツグナが言いかけた時「もう少し危機感を持ったらどうだ?」と窓の外を見つめるシアンに返される。
「今君が落ち着いてるのは薬のおかげ。無理な断絶なんてすれば君はまた薬を求めて錯乱することになるだろう。どんなに意志を強く持ったとしても、体や脳は正直だ。約束、まさか忘れたわけじゃないだろ」
脅すようなシアンの言葉に、ツグナは外に出る前日に言われたことを思い出す。四肢切断……犬のような体型にさせられ、人間以下に扱われるあの感覚はもう二度と経験したくない。
「……分かった。どうせ拒否権はないんだろ」
「君も分かってきたじゃないか。駄犬は嫌いだが利口で従順な犬は嫌いじゃない」
「僕は犬じゃない!……犬なんて嫌いだ」
いつもこのパターンだ。断れた試しなんてない。こいつもそれが分かってるからいいように自分を使うのだろう。アデラさんの言うように、本当に性格が悪い。
「ああ。それから、もう一つ条件だ」
見上げた先にいるシアンは、変わらぬ表情でこちらを振り返った。次に行くまでの間と、纏った空気にツグナは不思議そうに首を傾げる。
◆
「はあ。全くなんでこんなことに……」
その日はよく晴れていた。古代建築が残る石畳の街、ロザンド。その街の路地で、白髪の少年と栗毛の女性が隣に並んで歩いている。てっきりシアンと行くものだと思っていたのに、まさかこいつとなんてとツグナは横目でミシェルを見た。その顔は少しだけ固いように思える。
シアンの条件は「ミシェルも連れて行くこと」
以前お使いを果たせなかったので責任を取れと、ツグナの付き人に任命されたのだ。あまり詳しいことは分からないけど、ミシェルが初めて涙を見せた日、彼女は街に出ていたという。あからさまに何かあったとシアンは察しているはずなのに、街に連れていくように言うなんて、相変わらず容赦のないやつだ。
「あ、あのさ。あいつの言うことが嫌なら無理しなくても良かったんだぞ……?」
珍しく気にかけるツグナの言葉にミシェルは間を開けてから「別に大丈夫って言ってるでしょ」と白髪頭を強めに撫でた。その笑顔は力がない。最低限答えてあとは何も話さないミシェルに、ツグナは気まずそうに少し項垂れて眉を下げる。
こいつとはこれまで色んなことがあった。屋敷に来たばかりの時は訳の分からない理由で当たってくるし、いつも怒ってばかりで正直苦手だったけど。教会から帰って、しばらく介護をされるうちに怖いだけの人間じゃないっていうのが分かった気がした。未だにシアンと一緒になって意地悪されることはあるけど、たまに見せる笑顔とか、頭を撫でられるのは悪い気はしなかった。
ヴェトナから帰ってきた後もよくは覚えていないが、必死に自分を止めようとしてくれたし。今では、感謝している。そんな彼女が見せた初めての弱さ―――戸惑いこそはあったけど、こいつも色々抱えて生きているんだって改めて思った。力になりたい―――けど、自分ではどうすればいいか分からない。
「あれえ。ミシェルじゃん」
その声にピタリと足を止める。隣にいたミシェルの表情がより一層険しくなった。ツグナは思わず顔を上げて、目の前に立ちはだかる人物を見つめる。石の町のモノクロによく映える赤髪―――それがグレーテのものとよく似ていて、思わず息を飲んだ。
「怪我の調子はどうだい? あんな事があってよくこの街に来れたねえ。それとも、俺との話受け入れる気になった?」
その声にミシェルの肩が震える。あのミシェルが何も返さない。酷く脅えているようだった。それを見て直感した。ああ、こいつがそうなのかと。ツグナは固く結んだ口を開け「やめろよ」と前へと踏み出す。
「ミシェルが嫌がってる」
目の前にいた人物と隣にいたミシェルがはっとする。誰お前、と眼前にいた赤髪の青年の声色が低くなった。
「……なに? ミシェル。もしかして彼が今の君の主人じゃないよね? こんなひょろいやつが」
少しだけ腹立たしいさを感じる言い方だった。ミシェルの前に立ってじっとこちらを睨みつけてくる赤目の少年に、赤髪の青年ラニウスは「そっか」と思いついたように声音を元に戻す。
「なら、丁度いいや。こいつを消せば君は本気で怒ってくれる?」
声と共にラニウスが服の中に手を入れる。ゾワッ。項垂れて何も言わずにいたミシェルの鳥肌が立った。
「待って! こいつは―――!」
声を上げたが遅かった。ラニウスは服の中から取り出したナイフをツグナに向かって振り下ろす。風を切る金属音が、やけに冷たく聞こえた。
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