46 / 67
第一部 四章 ミシェルの追憶編
42 希望の光
しおりを挟む
五年後。端街と王都の中間に建てられた駐屯地では、最終試験の結果発表が行われていた。兵士は志望した十五歳以上の男性で構成されている。入隊してすぐは兵卒として、王都郊外にある兵士養成学校で座学・実技を三年で学び、最終試験で教官から認められて初めて「軍人」を名乗れるようになるのだ。だが、その訓練は恐ろしく厳しい。大抵の人間は血反吐を吐くなどして自ら辞退していき、また、最終試験で成績を残すことが出来なければ、死と隣り合わせの兵士として紛争地帯に向かわせられる事になるのだ。
「試験結果、やばかったなあ。こうして見ると、結構人減ってんの」
「まあな。でも実際、地獄はここからだろ。ここにいる多くは兵士として紛争に向かわされる。憲兵になったらなったで教官より厳しい先輩からの理不尽ないじめとかあるらしいし。お前、所属は?」
「北西の駐屯地。まさかあんな田舎に飛ばされるとはな……どうせならディオネールに留まりたかったよ。まあ、憲兵になれたから勝ち組だけどよ……お前は?」
「そうか。俺は東中央。ただの兵士だよ。なんとなく軍人になるってなった時に覚悟はしていたが……実際になるとやっぱり怖いもんだな……」
渡された所属表を見て若年兵は嘆息した。税金生活を夢見て軍人を目指す人間は多い。地方で農作物を作るより、やはり戦いというものに憧れる節があるのだろう。だが、実際憲兵になれなければ、いつかは紛争に駆り出される兵士として、怯えながら日々を過ごすことになるのだ。
また憲兵になったとしても、地方に飛ばされる兵の待遇があまり良くないことは知っている。地方独特の治安の悪さも相まって、激務だということは容易に想像がついた。死に物狂いで軍人になったのに、と二人の新兵は肩を落とす。
「今回の本部入りはたった二人だっけ? 首席は確か座学実技共に満点だったとか」
「あー、代表で挨拶してたな。ゴリラみたいな見た目かと思ったら意外に華奢なやつなの。片方の奴も最年少で卒業だろ? 本当、化け物」
そこまで言った時「おーい、待ってよ」と二人の新兵を間延びした声が遮った。止まって駄べる二人の後ろを栗毛頭の人物が早足で通り過ぎていく。
「ついてくんじゃねえよ、クソガキ」
「え~。二つしか変わらないだろ? 首席取ったのに不機嫌だなあ」
横切る会話に、新兵は「あっ」と振り返る。栗毛頭の目つきの悪さは、代表挨拶で見たものと同じだ。そんな目つきの悪い少年を、赤髪がヘラヘラと愉快そうにからかっている。今期の最終試験、首席のミシェル・ベイカー(18)と最年少合格のラニウス・ダートル(16)だ。
「なに? もしかして、残り一点で満点だったのがそんなに悔しかったの? ミシェルは神経質だねえ。そんなに満点がいいならまた試験受ければー?」
「てめえがそうやっていちいち掘り返すからムカつくんだよ!! 座学ギリギリのまぐれ野郎!」
「いやいや。座学なんてなんの役に立つのさ。俺は実技満点だからね。しかも、君に対人で勝った。実質俺の方が軍人としての力は上だね」
ぎゃあぎゃあと言い合いながらさっさとこの場から離れていく本部入り二人を、新兵達は呆然と見送った。ああしてみると、意外に化け物も普通の人間なんだと感じられるものである。
「そういや。あんたって、所属は誰?」
本部を出て街を歩いている際に、ミシェルは素っ気ない口振りで問いかけた。相変わらず頭の後ろに腕を組んで「あれ、言ってなかったけ」とラニウスが空を仰ぐ。
「俺はアードラーって奴のところ。ミシェルと出会う前、世話になっててさ。ぶっちゃけ軍人になるのも約束されたようなものだったんだよね」
「はあ? 初耳なんだけど。というか、アードラーって軍の幹部にいたやつじゃなかったか?」
兵士は十五歳からなる少年達で構成されるのだが、ラニウスは何故か上の特例でわざわざミシェルと同時期の十三歳に入隊したのである。その時は何かあるのではないのかと思っていたが、まさか上層部のコネ持ちだったとは。
「ってことは、今回の試験……!」
「いやいや。不正とかしてないし。試験はれっきとした俺の実力だよ。そこまで優しくないしあの人」
ケラケラと笑うラニウスに舌打ちをし、不満そうに「残念だ」と嘆息する。とはいえ、不正でもなくラニウスが本当の実力者であることはミシェルも認めてはいた。
幼い頃から共に過ごしていたが、ラニウスの身体能力は異常である。自分を含む子供達を飛び抜けており、どんな不意打ちにも素早く反応していた。まるで手馴れているように。
ラニウスとはよく喧嘩をしていたが、何故かわざと手を抜いている大人と対峙しているかのような力の差を感じていたのだ。喧嘩後は同じようにボロボロになっているけど、こいつにはいつも余裕がある。それはずっとミシェルがラニウスに感じていた疑念でもあった。
「……そういや、あんたがベイカー家に来たのって、僕とほぼ同時期だよな? それまでアードラーって奴の所にいたなら、親は……」
「殺したよ」
ぞわり。心臓に氷が刺さったようだった。苦しさにも近しいそれに後ろ肩から腕にかけて鳥肌が立つ。ここに来て普段ヘラヘラしているラニウスの態度に恐怖を感じた。母親を殺した経緯もあり、ミシェルはその場でただ青ざめる。が、すぐに「なんて、冗談」とラニウスが嘲笑いながらミシェルの顔を覗きこんだ。
「言わなかったけ? 俺、孤児なんだ。ほら、ちょっと前に東南部が紛争で荒れてた時期あったでしょ? 結構長引いて、紛争止めにきた軍隊と三つ巴になってさ~。そこでアードラーに拾われたの。だから両親は紛争中に死んだよ」
殺されたにしては軽い口調でラニウスが答える。内心ほっとしつつも聞くべきではなかったという後悔があり、あっ、としばらく言葉を探した後に「ごめん」とミシェルは目を伏せた。
「嫌だなあ。なんで謝んだよ。俺は別に気にしてないよ。今が楽しいし、ミシェルって言う素敵なからかい相手にも会えた」
「そこはせめて友達にしろよな」
「え~なになに? ミシェルは俺と友達になりたかったの?」
少し早く前を行き、おちょくるように振り返って歩くラニウスに「そういうんじゃねえ。変にポジティブ思考なのやめろ」とそっぽを向く。こんな奴と友達だなんてたまったものじゃない。前を阻む赤髪を避けて先に進むミシェルに「照れちゃっても~」とラニウスが後を追いかけた。
「まあ、ミシェルとは友達って柄じゃないしなあ。兄弟? 相棒……まあ、同類だなあとは思うけど」
「はあ? あんたと一緒にすんじゃねえ」
前に向かってひたすら進めていた足を止め、見下すように顔を顰蹙させた。だが、狼狽えず、変わらない声色で「一緒だよ」とラニウスが口角を上げる。
「初めて会った時にビビッときたんだ。ミシェルは俺と同じ人殺しの目をしてる」
含んだような低い声は小さく、威圧感がある。風が、雑踏の声が、一瞬止まったかのように思えた。先程と同じような震えが背中に襲い「どういう事……」までミシェルの口が開く。
「あ! 二人ともおかえりなさい!」
少し離れた場所から聞こえる溌剌とした声。この声を聞くのは三年ぶりだろうか。二人揃って声のする方に目を移すと、そこには少し髪の伸びたエミリアの姿がある。意識が目の前の人物に集中したことで、先程までの背中の不快感はなくなり、思わず「エミリア!」と声を上げた。
「久しぶりね! 二人ともしばらく見ないうちにこんなに大きくなって……! 軍服を着てるってことは、二人とも立派な軍人になったのね……」
始めはどうなるかと思ったのに、とエミリアが目縁に涙を溜める。近づいて気がついたが、三年経っていつの間にかエミリアの身長を追い抜かしていたようだ。見下ろした育ての親にこんなに小さな人だったのかと、ミシェルはなんだか心穏やかな気持ちになる。
ルーデラの火災後、軍人になることを決意した時、一番反対したのはエミリアだった。過去に人殺しをした自分が、軍人になった事で力を持ち更に危険性を生み出してしまうと思ったのだろう。
もうひとつの気がかりとして、エミリアはミシェルが「女」である事を知っていたのだ。知られたのは恐らく、ミシェルが軍医に運ばれた時だろう。勿論、この事は軍医に連れていったブライアンも承知している(ラニウスには知られていない)
二人はミシェルをベイカー家に迎え入れた後、女として生きるよう導いた。自分の性を見失うような事をすれば、神に与えられたものを粗末にしていると教会側に訴えられるからである。そしてなにより、生まれ持った性の幸福をミシェルに掴んで欲しいと願っての事だ。
だが、女である事実は売人との性経験によってできたミシェルの傷をさらに深いものにさせた。か弱い存在だからこそ、組み敷かれ、支配されてしまう。恐怖に取り憑かれ、だからこそミシェルは自らの性を否定したのだ。
そんな傷の抱えた幼き少女を正そうとは流石の二人にもできはしない。いつの間にか、二人はミシェルが男児だと受け入れるようになっていた。世間的視点で言う「間違い」だったとしても、彼女が生きていくための「正しい」を二人は尊重したのである。
とはいえ、男として育てられてきた心と反し、体は次第に女性へと変化していく。十四で初経を迎え、そろそろ偽るのも限界に見えてきたミシェルに、エミリアが男だらけの兵士養成学校に行かせるわけもない。時折現れる怖いエミリアと大喧嘩し、ようやく説得して現在に至るというわけだ。正直、あのエミリアとはもう二度と喧嘩なんてしたくない。
「本当におめでとう。お腹の子もきっと喜んでいるわ」
引き寄せ、二人の頬にキスをするエミリアに「お腹の子?」とミシェルが返す。そうしてから、少し膨らんだエミリアの腹に注目して、あっ、と声を漏らした。
「そう。この前、この子がいるって分かったの。無事に会えるといいんだけど」
そうか、ブライアンと―――過去の記憶が過ぎり、ミシェルは苦笑してみせる。こういう時どんな顔をしたらいいのだろう。純粋な気持ちで喜ぶことが出来ずに言葉を探していると、隣に立っていたラニウスが「へえ、エミリア。ブライアンと」まで口を開いた。何を言い出すのかと、思わずミシェルが無言で足を踏みつける。
「いった! 何す……!」
「おめでとう。その子の名前はもう決めたの?」
隣で痛がる赤髪を無視し、笑顔で在り来りな話を続ける。ええ勿論よと、エミリアは優しく膨れた腹を撫でながら答えた。
「この子が男の子なら、ルーク。女の子ならエリー。私とブライの希望の光……」
「光……」
思わずオウム返しする。恐怖と気持ち悪さしかなかったあの行為で生み出された命に光だなんて。いや、ブライアンとだからこそそんなに尊いように思えるのだろうか。ミシェルにはよく分からなかった。もし、本当にそうだとしたら血の繋がりのない自分達は一体何なのだろう。実の子が生まれたとすれば、自分がここにいる存在意義とは、一体なんだ。
「……僕達は、二人の光になれたか?」
口に出してからハッとする。前までは家族なんて嫌いだと言っていたくせに。何を不安がってしまっているのだろう。何も考えずに発されたその言葉にエミリアは長いまつ毛に縁取られたアクアマリンの瞳をぱちぱちと瞬きさせた。そうしてから「当たり前でしょ」と口元に手を添えてくすくすと笑ってみせる。
「二人が来て、私達の生活は色付いたの。毎日がキラキラしていて、あっという間に過ぎていったわ。少し前まで一緒になってブライアンの帰りを待つ側だったのに、今じゃ私だけがここに取り残されて……ちょっと残念。でも、離れてもあなた達が元気にやっているなら、それは私の生きる希望になる。光のように先にある未来を照らし出してくれるから、私はこうして生きていけるのよ」
しっかりと目を見つめ、エミリアは両腕で二人を優しく抱きしめた。フローラルのいい匂いが鼻をかすめ、その心地のいい温かさに戸惑いながらも脱力して受け入れる。
「これからも、迷わないように私たちを導いてね。愛しているわ」
愛してる。その言葉にゆっくりと目を細め、瞬きした。そんな事を生みの親に言われたことがあっただろうか。記憶にはない。考えるも煩わしかった。でも、こんなに温かい気持ちになれるなら、家族というのも悪くないかもしれない。
もっと早く知りたかった。この人たちの元に生まれたかった。幸福な家庭に生まれ、二人の愛を真っ向から受け入れられるお腹の子がただ羨ましい。ミシェルはエミリアの肩に顔を埋めて、人知れずそう思った。
◆
「ぷはあ……やっぱりルートレンは最高だなあ~!」
本部近くにある酒場のカウンター。そこには二人のガタイのいい軍人がジョッキを片手に並んで座っていた。今にも踊り出してしまいそうなほど上機嫌なブライアンを見て、隣にいた金髪男が嘆息する。
「貴様……もっと静かに飲めないのか」
「んだよ~エリック。酒っつうものはもっと楽しんで飲むものだろ? お前みたいに眉間にシワ寄せながら飲んでいる方が、酒に失礼だなあ~」
無理やり肩を組んでげらげらと笑うブライアンに、眉間をぐりぐりと押され、エリックと呼ばれた男は不機嫌そうにその手を払った。オールバックにされた金髪。彫りの深い端正な強面の中央には灰色の双眸があり、ブライアンを呆れたように見つめている。
「いいや。酒は人間の嗜好品だ。貴様のような飲み方は下品で理想的ではない。まるで理性を欠いた獣だ。人間になってから出直せ」
「うわ~、相変わらずそういう所ほんっと気が合わねえよなあ。人間も本来は動物だぜ? 節度を持てとは言うが、ハメを外す時は外して、欲望のまま楽しむ事が本来の人間ってもんよ。プライベートでも堅苦しくしてたら、いつまで経っても嫁さんができねえぞ」
固まった頬を指先でつつくブライアンに「やめろ」と顔面を鷲づかんで引き剥がす。
「ちっ。これだから、貴様と酒場に行くのは嫌なんだ」
「なんでだよお。なんだかんだいつも付き合ってくれる癖に。素直じゃねえなあ」
「貴様が話をしたいと言っていたからだろ。何も本部内ですればいいものを……」
「あー。あの堅っ苦しい雰囲気が嫌なんだよ。やっぱり、こうして気軽に話せる方がなあ」
ぐびぐびと喉を鳴らし、酒を飲み干してから、再度幸福の息をついて口元についたものを拭う。
「実はこの前、エミリーに子供が出来たって手紙が来てな」
ジョッキに口をつけたエリックはその言葉に思わず手を止めた。本当か? と流れるように隣の人物を見る。
「いや、俺も驚いてさ。まだ、エミリーに直接会ってないし、イマイチ実感湧かないんだけど、そりゃあ嬉しくて。ほら、俺もエミリーも今年で三十二だし。正直諦めていた節があったからさ」
照れくさそうに後頭部を掻き、ブライアンは空のジョッキを見つめる。エミリアとの性交渉は何度かしていたが、それまで子供に恵まれず、医者にはもうダメだと言われて諦めていた。そんな中で授かった小さな命。これはエミリアとブライアンの最後の希望でもあった。
「父親の経験はしているが、出産は初めてだからさ。少し不安なんだ。ちゃんと無事に生まれてきてくれるかとか……その後自立するまで育てられるかとか……なにより、エミリーが命を落とさないかとかな」
無事に産まれたとしても、若年で死んでしまう可能性がある現代。また、出産したことで母体が命を落とすケースは決して少なくはなかった。ましてや、三十代出産は体力的にもリスクが高いとされている。王都内の最新技術で出産を考えたとしても、覚悟を持って挑まなくてはならない。
「エミリーはこれが最後のチャンスになるかもしれないから産みたいって言ってくれたけど、正直俺はエミリーを失うリスクを背負ってまで出産を望んでいるわけじゃない。こんな事を言ったらあいつに怒られるけどな」
いつになく真剣に指先を組んで項垂れる。そんなブライアンを横目に、エリックはただ黙り込んだまま先程の続きを喉に流した。
「……最後にあったのは?」
「ひと月前に一度戻ったきり。軍の決まりがなければ、すぐにでも会いに行くんだがな。次に戻れるのはいつか……」
カウンターに突っ伏し、空のジョッキを意味もなく揺らしながら、深い嘆息をつく。本部入りを果たすぐらいには地位があがったものの、以前より家に戻れる回数は少なくなった。自分の昇進をエミリアは喜んでくれたが、やはり数ヶ月も会えないのは寂しさと不安がある。
「そうか……」
言葉が思い浮かばず、エリックは返答が詰まる。性格が真面目故に「規則なんて無視して会いに行け」とは口に出せなかった。そんな事をしたら、昇進したブライアンの地位も危ういからである。もし、それがきっかけで除隊命令を下されたら、エミリアを守るどころの話ではない。普段お気楽なブライアンが規則を破って会いにいこうとしないのはそのためだ。同期の中で一番仲のいいブライアンの悩みに答えようと言葉を探すが、どれも喉奥で止まってしまう。二人の間にはしばらく沈黙が流れた。
「……まっ、グチグチ考えてても仕方ねえか」
先にブライアンが沈黙を破り、いつの間にか追加で注文した新しい酒に口をつけた。
「なあに、そんなにやわな女じゃねえってのは昔から知ってんだ。あいつが俺を信じてくれたように、俺もあいつを信じてやらないとな! それに、俺の家はちょうどエリックの地区だから安心出来る」
気を遣わせたくなかったのだろう。笑顔で切り替えるブライアンに「……おい、どういう理屈だ」とエリックが眉を顰めた。
「お前を信頼しているって事だよ。今は、あいつらも出ていって一人だからな。エミリーが寂しくならないようにたまに会いに行ってやってくれ。ただし、不倫するような事があったら……俺はきっと泣く」
「するわけないだろ……というか、不倫がその程度で済まされるのか……もっと殺すつもりでこい」
「まあ、不倫は悲しいけどなあ……エミリアが幸せなら別に誰が相手でもいいんだ。本気で惚れた女には心の底から幸せになって欲しい。ただそれだけなんだ。その相手がお前なら尚更。俺は二人とも好きだからな」
にいと歯を見せて笑うブライアンにエリックは少し気恥しい気持ちになった。全く貴様はと、残りの酒を飲み干し「安心しろ」と話を続ける。
「あんな暴力女と付き合えるのは無駄に丈夫なお前しかいない。あと、そもそも俺の趣味じゃない」
「無駄にってなんだよ。ひでえな~。人の嫁にむかって言いたい放題~エミリアにチクるぞ」
先程とは違って頬杖をつきながらケラケラと笑うブライアンにエリックは一度咳払いをした。エミリアにチクられるのはマズいと思ったに違いない。間を置かずに「あー」と言葉を伸ばして目を逸らした。
「……だから、つまり。信頼されているのは光栄だが、彼女を守るのも真剣に心から愛するのも俺には務まらないって事だ。貴様以外に適任がいない。理解しろ」
少しだけ直された言葉にブライアンは一度キョトンとしてから、ニヤリと口角を上げる。普段は何かと威圧ある嫌な言い方をするのがエリックだが、珍しく柔らかな表現だ。きっと彼なりに弱気になっていた自分を励まそうとしていたのだろう。
「そうかそうか。全然理解できないなあ。もっと馬鹿な俺にも分かりやすく言ってくれないと~」
ニヤついた笑みを浮かべるブライアンに「調子に乗るな」とエリックがこめかみに青筋を立てて、顔を逸らしたまま答えた。ええ~いいじゃんよおと、筋肉でごつごつしたエリックの肩を再度抱いて揺さぶりながら軽快な笑い声をあげる。
「……そういえば、今日は兵卒の最終試験だったろ。貴様のとこにいたガキ共はどうだったんだ」
酒に酔ったブライアンにウザ絡みされるのが億劫になったエリックはなんとなく話を逸らした。今日はたまたま担当である南地区を離れてこちらに来ていたが、最終試験の結果は未だ知らされていない。聞いて驚け! ブライアンは唇の間から含むような笑い声を上げた後にエリックを見つめた。
「二人とも無事に卒業した! しかも一人は最年少合格、もう一人は首席だ!」
自分のことのように得意げになって告げるブライアンに、ふんっと鼻で笑ってから「貴様と違って優秀だな」とエリックが冷めたコメントをする。
「まあ、俺はあいつらなら卒業できると確信していたがな! いきなり本部入りなんて天才だと思わないか!?」
「親バカめ。今年のレベルが低かったんだろ」
「へえ。やっぱり俺らの首席様は言うことがちげえなあ。でも、歴代二位って聞いたから、多分お前の成績、抜かされたぞ」
「はあ!? 本気か!?」
凄いだろと言わんばかりの興奮具合で自慢するブライアンにエリックは思わず身を乗り出した。
「くそっ……またか! これで二回目だぞ!」
「俺らの時は天才だって言われてたのにな。よっ、歴代三位」
「ありえん……馬鹿なっ……! しかもよりによってお前のところのガキに……!」
両の拳をカウンターに叩きつけ、項垂れながら悶える。かつて自身が叩きだし、周囲に天才だとまで言われた成績がこうも簡単に抜かされるとは。プライドが高く、完璧主義なエリックに屈辱の二文字が脳内に浮かんだ。
「くっ……きっと最終試験のレベルが落ちていたんだ……きっとそうに違いない……」
「情けねえな。最近兵の質をあげるために試験はどんどん難しくなってんだって。レベルが上がった上に成績まで抜かされてんだから、お前の完全敗北だよ」
おちょくるように言い放ってから、ブライアンは次々と酒を飲んでいく。未だ納得のいかない表情で眉間に皺を寄せながらエリックが小さく舌打ちすると、目の前を通った店主に酒を追加で注文した。
「俺みたいに飲みまくるのは良くないんじゃなかったか?」
「誰もそんなことは言っていない。俺が言ったのは、酒に吞まれる貴様の飲み方についてだ」
追加で来た酒に口をつけるエリックにブライアンは頬杖をつきながら「ふうん。ひねくれてるねえ」と一緒になって飲んだ。互いの喉が上下に動く度にゴクリゴクリと音が鳴る。
「……そいつらが優秀なのは認めよう。だが、本部入りについては違う可能性もあるだろうな」
「違う可能性?」
「監視だよ」
ゴクリ、最後に一度大きく喉が鳴ってからエリックはジョッキをカウンターに置く。顔は少しだけ赤くなっていて、先程の取り乱し方からみても酔っているのが分かった。
「一人はアレイス村の残虐事件。教会は誤魔化せたようだが、軍の上層部は事件の真実を知っている。だから、拾ってきた貴様に監視を任せた」
「ああ。そうだな。でも、ミシェルはその後も特に問題は……」
ブライアンの声を遮り、まあ聞けと言わんばかりに咳払いをして「もう一人」と続けた。
「赤髪の方……東南紛争でアードラが拾った、ローゼ族との混血児。両親殺害の疑い。そして、助けにきた兵を数名、殺したという事実がある。今後の危険人物になりかねない連中を貴様は預かっていた。そいつらが力をつけて軍人になる。これを上が放っておくわけにもいかないだろう」
当時養子二人を預かった経緯を思い出して、ブライアンは何も答えずにそれを聞いた。
ローゼ族―――古くからヴァルテナ大陸に先住していたとされる、赤髪緑目の戦闘民族だ。血に飢えており、その身体能力の高さから事実上大陸最強の種族だと言われている。だが、ノルワーナの近代攻撃によって数は減少。現在は奴隷として売り買いされていることが多く、純粋な血族は少ないとされている。
ラニウスの明るい赤髪、身体能力からみても、ローゼ族との混血児だというのは確信していた。そして、実力のある兵士を齢九歳にして殺したという事実。上が監視の為にわざわざ本部入りを認めたと言われても納得できるものがあった。
「まあ……言われてみればそんな感じがしてきたな。元よりラニウスを預かったのは、一般的な生活をさせろとの命令だった。ミシェルの件についても、教会と争うようなことを避けたがる癖にその時は許しが出たのが不思議だったしな」
「……まんまと利用されているじゃないか、ポンコツめ。とはいえ、逆に考えれば本部に身を置いて問題を起こすことはまずないだろう。むしろ良かったじゃないか」
隣で豪快に上を向いて飲むエリックに「いや……問題はあるんだがな」とブライアンが目を逸らして呟く。また何かを真剣に考え出すブライアンに、眉を寄せて強面を更に強くさせながら「とにかく、貴様は目の前の問題に集中しろ」とエリックがカウンターにジョッキを置いた。
カラン。先程から口をつけずにいたブライアンのジョッキ内で溶けかかっている氷が、音を立てて崩れ落ちた。
◆
「そういえば。ミシェルはせっかく首席だったのに、憲兵にならなくて良かったの?」
端街で夕飯を終えた養子二人は、久々に我が家のベッドで横になっていた。
軍人というのはあくまで総称であり、所属は憲兵と兵士で大きく二つに分かれている(兵士にも陸、海などの種類がある)税金生活でぬくぬくしている憲兵に目を向けられがちだが、それはあくまで本当に成績の優秀な人間だけ。最終試験の成績から出される軍人ランクの高い兵卒だけが、憲兵に昇格する権利を与えられるのだ。首席であるミシェルはもちろん憲兵になることができるのだが、昇格を見送り、現状維持(兵士)を選択した。
「……嫌なんだよ。教会連中の近くにいるのが。憲兵ってのは教会の手駒みたいなもんだろ。アイツらを守る騎士も、いいように使われる憲兵も、嫌いだ」
後頭部で腕を組んで天井を見上げながら「ミシェルらしいや」とラニウスが笑った。
「あんたは……兵士で良かったのか?」
「俺が憲兵にいくとでも? ないね。つまらなさそうだし。さっきも言ったけど、アードラーの部隊って所属が決まってたようなもんだから」
「特殊部隊? だったな。兵士とは何が違うんだ?」
「それはよく分からない」
おい、と呆れたような声が暗室に飛ぶ。こうして普通通り話をしているが、実際のところ未だに軍人になったという実感がないのだ。この先、紛争地帯に送り込まれ戦死する可能性だってあるのに、心は波風ひとつ立たない湖面のように穏やかなままだった。
「僕、いつか戦地で死ぬのかな」
「うーん、どうだろ」
「あんたは死ぬのが怖くないのか?」
「別に。俺は強いから死なないし。戦争に行くのはむしろ楽しみ」
「よくそんな余裕ぶったこと言えるな。そういう奴は早死にするって決まってんだよ」
新兵によくある謎の自信だと、ミシェルが腹立たしく思う。けれどもラニウスは変わらない声で「だってホントのことだしぃ」と間延びして答えた。
「ミシェルは死ぬのが怖い?」
その問いにミシェルは思わず固まる。思い出されるのは、アレイス村での事件。肩を撃ち抜かれて、出血多量で死にかけたあの日のことだ。よく分からない、少し間を置いて話を続ける。
「……一度死にかけたことはあったけど、別に怖かったわけじゃないんだ。生きてる時の方が、恐怖も辛さもある」
「哲学だねえ。色々できるんだから、生きている方が楽しいに決まってんじゃん」
「あんたのそう言う気楽なところ、ブライアンにそっくりだ」
「またそうやってブライアンの名前出す~」
そんなに出しているかと不思議に思いながらも、寝返りをうって窓を見つめる。よくは見えないけど、多分、綺麗な星空だ。きっと、あれだけの事をした自分はこんなに綺麗には死ねない。なんとなくそんな事を思った。
「……知ってるか? 死ぬのは寒くて、一人ぼっちなんだ。戦争で死ぬ人間ってそんな感覚になるらしい。何十年も共にした家族でさえいずれ声も、顔も忘れていく。なら、僕の事は一体誰が覚えててくれるんだろうな」
アシュリーもいない。それでいて人殺しの犯罪者。その事実が時折自身の存在を押しつぶそうとする。ブライアンもエミリアも、そのうち生まれた子供に気を取られて自分の事なんて忘れていくんだろう。忘れられたくないと、昼間の事を思い出して憂鬱になりながら呟くミシェルに、心配症だなあとラニウスはゆっくり話を続けた。
「なら、俺がずっと覚えててあげるよ」
寝落ちするミシェルの耳に、そんな優しい声が聞こえた気がした。
「試験結果、やばかったなあ。こうして見ると、結構人減ってんの」
「まあな。でも実際、地獄はここからだろ。ここにいる多くは兵士として紛争に向かわされる。憲兵になったらなったで教官より厳しい先輩からの理不尽ないじめとかあるらしいし。お前、所属は?」
「北西の駐屯地。まさかあんな田舎に飛ばされるとはな……どうせならディオネールに留まりたかったよ。まあ、憲兵になれたから勝ち組だけどよ……お前は?」
「そうか。俺は東中央。ただの兵士だよ。なんとなく軍人になるってなった時に覚悟はしていたが……実際になるとやっぱり怖いもんだな……」
渡された所属表を見て若年兵は嘆息した。税金生活を夢見て軍人を目指す人間は多い。地方で農作物を作るより、やはり戦いというものに憧れる節があるのだろう。だが、実際憲兵になれなければ、いつかは紛争に駆り出される兵士として、怯えながら日々を過ごすことになるのだ。
また憲兵になったとしても、地方に飛ばされる兵の待遇があまり良くないことは知っている。地方独特の治安の悪さも相まって、激務だということは容易に想像がついた。死に物狂いで軍人になったのに、と二人の新兵は肩を落とす。
「今回の本部入りはたった二人だっけ? 首席は確か座学実技共に満点だったとか」
「あー、代表で挨拶してたな。ゴリラみたいな見た目かと思ったら意外に華奢なやつなの。片方の奴も最年少で卒業だろ? 本当、化け物」
そこまで言った時「おーい、待ってよ」と二人の新兵を間延びした声が遮った。止まって駄べる二人の後ろを栗毛頭の人物が早足で通り過ぎていく。
「ついてくんじゃねえよ、クソガキ」
「え~。二つしか変わらないだろ? 首席取ったのに不機嫌だなあ」
横切る会話に、新兵は「あっ」と振り返る。栗毛頭の目つきの悪さは、代表挨拶で見たものと同じだ。そんな目つきの悪い少年を、赤髪がヘラヘラと愉快そうにからかっている。今期の最終試験、首席のミシェル・ベイカー(18)と最年少合格のラニウス・ダートル(16)だ。
「なに? もしかして、残り一点で満点だったのがそんなに悔しかったの? ミシェルは神経質だねえ。そんなに満点がいいならまた試験受ければー?」
「てめえがそうやっていちいち掘り返すからムカつくんだよ!! 座学ギリギリのまぐれ野郎!」
「いやいや。座学なんてなんの役に立つのさ。俺は実技満点だからね。しかも、君に対人で勝った。実質俺の方が軍人としての力は上だね」
ぎゃあぎゃあと言い合いながらさっさとこの場から離れていく本部入り二人を、新兵達は呆然と見送った。ああしてみると、意外に化け物も普通の人間なんだと感じられるものである。
「そういや。あんたって、所属は誰?」
本部を出て街を歩いている際に、ミシェルは素っ気ない口振りで問いかけた。相変わらず頭の後ろに腕を組んで「あれ、言ってなかったけ」とラニウスが空を仰ぐ。
「俺はアードラーって奴のところ。ミシェルと出会う前、世話になっててさ。ぶっちゃけ軍人になるのも約束されたようなものだったんだよね」
「はあ? 初耳なんだけど。というか、アードラーって軍の幹部にいたやつじゃなかったか?」
兵士は十五歳からなる少年達で構成されるのだが、ラニウスは何故か上の特例でわざわざミシェルと同時期の十三歳に入隊したのである。その時は何かあるのではないのかと思っていたが、まさか上層部のコネ持ちだったとは。
「ってことは、今回の試験……!」
「いやいや。不正とかしてないし。試験はれっきとした俺の実力だよ。そこまで優しくないしあの人」
ケラケラと笑うラニウスに舌打ちをし、不満そうに「残念だ」と嘆息する。とはいえ、不正でもなくラニウスが本当の実力者であることはミシェルも認めてはいた。
幼い頃から共に過ごしていたが、ラニウスの身体能力は異常である。自分を含む子供達を飛び抜けており、どんな不意打ちにも素早く反応していた。まるで手馴れているように。
ラニウスとはよく喧嘩をしていたが、何故かわざと手を抜いている大人と対峙しているかのような力の差を感じていたのだ。喧嘩後は同じようにボロボロになっているけど、こいつにはいつも余裕がある。それはずっとミシェルがラニウスに感じていた疑念でもあった。
「……そういや、あんたがベイカー家に来たのって、僕とほぼ同時期だよな? それまでアードラーって奴の所にいたなら、親は……」
「殺したよ」
ぞわり。心臓に氷が刺さったようだった。苦しさにも近しいそれに後ろ肩から腕にかけて鳥肌が立つ。ここに来て普段ヘラヘラしているラニウスの態度に恐怖を感じた。母親を殺した経緯もあり、ミシェルはその場でただ青ざめる。が、すぐに「なんて、冗談」とラニウスが嘲笑いながらミシェルの顔を覗きこんだ。
「言わなかったけ? 俺、孤児なんだ。ほら、ちょっと前に東南部が紛争で荒れてた時期あったでしょ? 結構長引いて、紛争止めにきた軍隊と三つ巴になってさ~。そこでアードラーに拾われたの。だから両親は紛争中に死んだよ」
殺されたにしては軽い口調でラニウスが答える。内心ほっとしつつも聞くべきではなかったという後悔があり、あっ、としばらく言葉を探した後に「ごめん」とミシェルは目を伏せた。
「嫌だなあ。なんで謝んだよ。俺は別に気にしてないよ。今が楽しいし、ミシェルって言う素敵なからかい相手にも会えた」
「そこはせめて友達にしろよな」
「え~なになに? ミシェルは俺と友達になりたかったの?」
少し早く前を行き、おちょくるように振り返って歩くラニウスに「そういうんじゃねえ。変にポジティブ思考なのやめろ」とそっぽを向く。こんな奴と友達だなんてたまったものじゃない。前を阻む赤髪を避けて先に進むミシェルに「照れちゃっても~」とラニウスが後を追いかけた。
「まあ、ミシェルとは友達って柄じゃないしなあ。兄弟? 相棒……まあ、同類だなあとは思うけど」
「はあ? あんたと一緒にすんじゃねえ」
前に向かってひたすら進めていた足を止め、見下すように顔を顰蹙させた。だが、狼狽えず、変わらない声色で「一緒だよ」とラニウスが口角を上げる。
「初めて会った時にビビッときたんだ。ミシェルは俺と同じ人殺しの目をしてる」
含んだような低い声は小さく、威圧感がある。風が、雑踏の声が、一瞬止まったかのように思えた。先程と同じような震えが背中に襲い「どういう事……」までミシェルの口が開く。
「あ! 二人ともおかえりなさい!」
少し離れた場所から聞こえる溌剌とした声。この声を聞くのは三年ぶりだろうか。二人揃って声のする方に目を移すと、そこには少し髪の伸びたエミリアの姿がある。意識が目の前の人物に集中したことで、先程までの背中の不快感はなくなり、思わず「エミリア!」と声を上げた。
「久しぶりね! 二人ともしばらく見ないうちにこんなに大きくなって……! 軍服を着てるってことは、二人とも立派な軍人になったのね……」
始めはどうなるかと思ったのに、とエミリアが目縁に涙を溜める。近づいて気がついたが、三年経っていつの間にかエミリアの身長を追い抜かしていたようだ。見下ろした育ての親にこんなに小さな人だったのかと、ミシェルはなんだか心穏やかな気持ちになる。
ルーデラの火災後、軍人になることを決意した時、一番反対したのはエミリアだった。過去に人殺しをした自分が、軍人になった事で力を持ち更に危険性を生み出してしまうと思ったのだろう。
もうひとつの気がかりとして、エミリアはミシェルが「女」である事を知っていたのだ。知られたのは恐らく、ミシェルが軍医に運ばれた時だろう。勿論、この事は軍医に連れていったブライアンも承知している(ラニウスには知られていない)
二人はミシェルをベイカー家に迎え入れた後、女として生きるよう導いた。自分の性を見失うような事をすれば、神に与えられたものを粗末にしていると教会側に訴えられるからである。そしてなにより、生まれ持った性の幸福をミシェルに掴んで欲しいと願っての事だ。
だが、女である事実は売人との性経験によってできたミシェルの傷をさらに深いものにさせた。か弱い存在だからこそ、組み敷かれ、支配されてしまう。恐怖に取り憑かれ、だからこそミシェルは自らの性を否定したのだ。
そんな傷の抱えた幼き少女を正そうとは流石の二人にもできはしない。いつの間にか、二人はミシェルが男児だと受け入れるようになっていた。世間的視点で言う「間違い」だったとしても、彼女が生きていくための「正しい」を二人は尊重したのである。
とはいえ、男として育てられてきた心と反し、体は次第に女性へと変化していく。十四で初経を迎え、そろそろ偽るのも限界に見えてきたミシェルに、エミリアが男だらけの兵士養成学校に行かせるわけもない。時折現れる怖いエミリアと大喧嘩し、ようやく説得して現在に至るというわけだ。正直、あのエミリアとはもう二度と喧嘩なんてしたくない。
「本当におめでとう。お腹の子もきっと喜んでいるわ」
引き寄せ、二人の頬にキスをするエミリアに「お腹の子?」とミシェルが返す。そうしてから、少し膨らんだエミリアの腹に注目して、あっ、と声を漏らした。
「そう。この前、この子がいるって分かったの。無事に会えるといいんだけど」
そうか、ブライアンと―――過去の記憶が過ぎり、ミシェルは苦笑してみせる。こういう時どんな顔をしたらいいのだろう。純粋な気持ちで喜ぶことが出来ずに言葉を探していると、隣に立っていたラニウスが「へえ、エミリア。ブライアンと」まで口を開いた。何を言い出すのかと、思わずミシェルが無言で足を踏みつける。
「いった! 何す……!」
「おめでとう。その子の名前はもう決めたの?」
隣で痛がる赤髪を無視し、笑顔で在り来りな話を続ける。ええ勿論よと、エミリアは優しく膨れた腹を撫でながら答えた。
「この子が男の子なら、ルーク。女の子ならエリー。私とブライの希望の光……」
「光……」
思わずオウム返しする。恐怖と気持ち悪さしかなかったあの行為で生み出された命に光だなんて。いや、ブライアンとだからこそそんなに尊いように思えるのだろうか。ミシェルにはよく分からなかった。もし、本当にそうだとしたら血の繋がりのない自分達は一体何なのだろう。実の子が生まれたとすれば、自分がここにいる存在意義とは、一体なんだ。
「……僕達は、二人の光になれたか?」
口に出してからハッとする。前までは家族なんて嫌いだと言っていたくせに。何を不安がってしまっているのだろう。何も考えずに発されたその言葉にエミリアは長いまつ毛に縁取られたアクアマリンの瞳をぱちぱちと瞬きさせた。そうしてから「当たり前でしょ」と口元に手を添えてくすくすと笑ってみせる。
「二人が来て、私達の生活は色付いたの。毎日がキラキラしていて、あっという間に過ぎていったわ。少し前まで一緒になってブライアンの帰りを待つ側だったのに、今じゃ私だけがここに取り残されて……ちょっと残念。でも、離れてもあなた達が元気にやっているなら、それは私の生きる希望になる。光のように先にある未来を照らし出してくれるから、私はこうして生きていけるのよ」
しっかりと目を見つめ、エミリアは両腕で二人を優しく抱きしめた。フローラルのいい匂いが鼻をかすめ、その心地のいい温かさに戸惑いながらも脱力して受け入れる。
「これからも、迷わないように私たちを導いてね。愛しているわ」
愛してる。その言葉にゆっくりと目を細め、瞬きした。そんな事を生みの親に言われたことがあっただろうか。記憶にはない。考えるも煩わしかった。でも、こんなに温かい気持ちになれるなら、家族というのも悪くないかもしれない。
もっと早く知りたかった。この人たちの元に生まれたかった。幸福な家庭に生まれ、二人の愛を真っ向から受け入れられるお腹の子がただ羨ましい。ミシェルはエミリアの肩に顔を埋めて、人知れずそう思った。
◆
「ぷはあ……やっぱりルートレンは最高だなあ~!」
本部近くにある酒場のカウンター。そこには二人のガタイのいい軍人がジョッキを片手に並んで座っていた。今にも踊り出してしまいそうなほど上機嫌なブライアンを見て、隣にいた金髪男が嘆息する。
「貴様……もっと静かに飲めないのか」
「んだよ~エリック。酒っつうものはもっと楽しんで飲むものだろ? お前みたいに眉間にシワ寄せながら飲んでいる方が、酒に失礼だなあ~」
無理やり肩を組んでげらげらと笑うブライアンに、眉間をぐりぐりと押され、エリックと呼ばれた男は不機嫌そうにその手を払った。オールバックにされた金髪。彫りの深い端正な強面の中央には灰色の双眸があり、ブライアンを呆れたように見つめている。
「いいや。酒は人間の嗜好品だ。貴様のような飲み方は下品で理想的ではない。まるで理性を欠いた獣だ。人間になってから出直せ」
「うわ~、相変わらずそういう所ほんっと気が合わねえよなあ。人間も本来は動物だぜ? 節度を持てとは言うが、ハメを外す時は外して、欲望のまま楽しむ事が本来の人間ってもんよ。プライベートでも堅苦しくしてたら、いつまで経っても嫁さんができねえぞ」
固まった頬を指先でつつくブライアンに「やめろ」と顔面を鷲づかんで引き剥がす。
「ちっ。これだから、貴様と酒場に行くのは嫌なんだ」
「なんでだよお。なんだかんだいつも付き合ってくれる癖に。素直じゃねえなあ」
「貴様が話をしたいと言っていたからだろ。何も本部内ですればいいものを……」
「あー。あの堅っ苦しい雰囲気が嫌なんだよ。やっぱり、こうして気軽に話せる方がなあ」
ぐびぐびと喉を鳴らし、酒を飲み干してから、再度幸福の息をついて口元についたものを拭う。
「実はこの前、エミリーに子供が出来たって手紙が来てな」
ジョッキに口をつけたエリックはその言葉に思わず手を止めた。本当か? と流れるように隣の人物を見る。
「いや、俺も驚いてさ。まだ、エミリーに直接会ってないし、イマイチ実感湧かないんだけど、そりゃあ嬉しくて。ほら、俺もエミリーも今年で三十二だし。正直諦めていた節があったからさ」
照れくさそうに後頭部を掻き、ブライアンは空のジョッキを見つめる。エミリアとの性交渉は何度かしていたが、それまで子供に恵まれず、医者にはもうダメだと言われて諦めていた。そんな中で授かった小さな命。これはエミリアとブライアンの最後の希望でもあった。
「父親の経験はしているが、出産は初めてだからさ。少し不安なんだ。ちゃんと無事に生まれてきてくれるかとか……その後自立するまで育てられるかとか……なにより、エミリーが命を落とさないかとかな」
無事に産まれたとしても、若年で死んでしまう可能性がある現代。また、出産したことで母体が命を落とすケースは決して少なくはなかった。ましてや、三十代出産は体力的にもリスクが高いとされている。王都内の最新技術で出産を考えたとしても、覚悟を持って挑まなくてはならない。
「エミリーはこれが最後のチャンスになるかもしれないから産みたいって言ってくれたけど、正直俺はエミリーを失うリスクを背負ってまで出産を望んでいるわけじゃない。こんな事を言ったらあいつに怒られるけどな」
いつになく真剣に指先を組んで項垂れる。そんなブライアンを横目に、エリックはただ黙り込んだまま先程の続きを喉に流した。
「……最後にあったのは?」
「ひと月前に一度戻ったきり。軍の決まりがなければ、すぐにでも会いに行くんだがな。次に戻れるのはいつか……」
カウンターに突っ伏し、空のジョッキを意味もなく揺らしながら、深い嘆息をつく。本部入りを果たすぐらいには地位があがったものの、以前より家に戻れる回数は少なくなった。自分の昇進をエミリアは喜んでくれたが、やはり数ヶ月も会えないのは寂しさと不安がある。
「そうか……」
言葉が思い浮かばず、エリックは返答が詰まる。性格が真面目故に「規則なんて無視して会いに行け」とは口に出せなかった。そんな事をしたら、昇進したブライアンの地位も危ういからである。もし、それがきっかけで除隊命令を下されたら、エミリアを守るどころの話ではない。普段お気楽なブライアンが規則を破って会いにいこうとしないのはそのためだ。同期の中で一番仲のいいブライアンの悩みに答えようと言葉を探すが、どれも喉奥で止まってしまう。二人の間にはしばらく沈黙が流れた。
「……まっ、グチグチ考えてても仕方ねえか」
先にブライアンが沈黙を破り、いつの間にか追加で注文した新しい酒に口をつけた。
「なあに、そんなにやわな女じゃねえってのは昔から知ってんだ。あいつが俺を信じてくれたように、俺もあいつを信じてやらないとな! それに、俺の家はちょうどエリックの地区だから安心出来る」
気を遣わせたくなかったのだろう。笑顔で切り替えるブライアンに「……おい、どういう理屈だ」とエリックが眉を顰めた。
「お前を信頼しているって事だよ。今は、あいつらも出ていって一人だからな。エミリーが寂しくならないようにたまに会いに行ってやってくれ。ただし、不倫するような事があったら……俺はきっと泣く」
「するわけないだろ……というか、不倫がその程度で済まされるのか……もっと殺すつもりでこい」
「まあ、不倫は悲しいけどなあ……エミリアが幸せなら別に誰が相手でもいいんだ。本気で惚れた女には心の底から幸せになって欲しい。ただそれだけなんだ。その相手がお前なら尚更。俺は二人とも好きだからな」
にいと歯を見せて笑うブライアンにエリックは少し気恥しい気持ちになった。全く貴様はと、残りの酒を飲み干し「安心しろ」と話を続ける。
「あんな暴力女と付き合えるのは無駄に丈夫なお前しかいない。あと、そもそも俺の趣味じゃない」
「無駄にってなんだよ。ひでえな~。人の嫁にむかって言いたい放題~エミリアにチクるぞ」
先程とは違って頬杖をつきながらケラケラと笑うブライアンにエリックは一度咳払いをした。エミリアにチクられるのはマズいと思ったに違いない。間を置かずに「あー」と言葉を伸ばして目を逸らした。
「……だから、つまり。信頼されているのは光栄だが、彼女を守るのも真剣に心から愛するのも俺には務まらないって事だ。貴様以外に適任がいない。理解しろ」
少しだけ直された言葉にブライアンは一度キョトンとしてから、ニヤリと口角を上げる。普段は何かと威圧ある嫌な言い方をするのがエリックだが、珍しく柔らかな表現だ。きっと彼なりに弱気になっていた自分を励まそうとしていたのだろう。
「そうかそうか。全然理解できないなあ。もっと馬鹿な俺にも分かりやすく言ってくれないと~」
ニヤついた笑みを浮かべるブライアンに「調子に乗るな」とエリックがこめかみに青筋を立てて、顔を逸らしたまま答えた。ええ~いいじゃんよおと、筋肉でごつごつしたエリックの肩を再度抱いて揺さぶりながら軽快な笑い声をあげる。
「……そういえば、今日は兵卒の最終試験だったろ。貴様のとこにいたガキ共はどうだったんだ」
酒に酔ったブライアンにウザ絡みされるのが億劫になったエリックはなんとなく話を逸らした。今日はたまたま担当である南地区を離れてこちらに来ていたが、最終試験の結果は未だ知らされていない。聞いて驚け! ブライアンは唇の間から含むような笑い声を上げた後にエリックを見つめた。
「二人とも無事に卒業した! しかも一人は最年少合格、もう一人は首席だ!」
自分のことのように得意げになって告げるブライアンに、ふんっと鼻で笑ってから「貴様と違って優秀だな」とエリックが冷めたコメントをする。
「まあ、俺はあいつらなら卒業できると確信していたがな! いきなり本部入りなんて天才だと思わないか!?」
「親バカめ。今年のレベルが低かったんだろ」
「へえ。やっぱり俺らの首席様は言うことがちげえなあ。でも、歴代二位って聞いたから、多分お前の成績、抜かされたぞ」
「はあ!? 本気か!?」
凄いだろと言わんばかりの興奮具合で自慢するブライアンにエリックは思わず身を乗り出した。
「くそっ……またか! これで二回目だぞ!」
「俺らの時は天才だって言われてたのにな。よっ、歴代三位」
「ありえん……馬鹿なっ……! しかもよりによってお前のところのガキに……!」
両の拳をカウンターに叩きつけ、項垂れながら悶える。かつて自身が叩きだし、周囲に天才だとまで言われた成績がこうも簡単に抜かされるとは。プライドが高く、完璧主義なエリックに屈辱の二文字が脳内に浮かんだ。
「くっ……きっと最終試験のレベルが落ちていたんだ……きっとそうに違いない……」
「情けねえな。最近兵の質をあげるために試験はどんどん難しくなってんだって。レベルが上がった上に成績まで抜かされてんだから、お前の完全敗北だよ」
おちょくるように言い放ってから、ブライアンは次々と酒を飲んでいく。未だ納得のいかない表情で眉間に皺を寄せながらエリックが小さく舌打ちすると、目の前を通った店主に酒を追加で注文した。
「俺みたいに飲みまくるのは良くないんじゃなかったか?」
「誰もそんなことは言っていない。俺が言ったのは、酒に吞まれる貴様の飲み方についてだ」
追加で来た酒に口をつけるエリックにブライアンは頬杖をつきながら「ふうん。ひねくれてるねえ」と一緒になって飲んだ。互いの喉が上下に動く度にゴクリゴクリと音が鳴る。
「……そいつらが優秀なのは認めよう。だが、本部入りについては違う可能性もあるだろうな」
「違う可能性?」
「監視だよ」
ゴクリ、最後に一度大きく喉が鳴ってからエリックはジョッキをカウンターに置く。顔は少しだけ赤くなっていて、先程の取り乱し方からみても酔っているのが分かった。
「一人はアレイス村の残虐事件。教会は誤魔化せたようだが、軍の上層部は事件の真実を知っている。だから、拾ってきた貴様に監視を任せた」
「ああ。そうだな。でも、ミシェルはその後も特に問題は……」
ブライアンの声を遮り、まあ聞けと言わんばかりに咳払いをして「もう一人」と続けた。
「赤髪の方……東南紛争でアードラが拾った、ローゼ族との混血児。両親殺害の疑い。そして、助けにきた兵を数名、殺したという事実がある。今後の危険人物になりかねない連中を貴様は預かっていた。そいつらが力をつけて軍人になる。これを上が放っておくわけにもいかないだろう」
当時養子二人を預かった経緯を思い出して、ブライアンは何も答えずにそれを聞いた。
ローゼ族―――古くからヴァルテナ大陸に先住していたとされる、赤髪緑目の戦闘民族だ。血に飢えており、その身体能力の高さから事実上大陸最強の種族だと言われている。だが、ノルワーナの近代攻撃によって数は減少。現在は奴隷として売り買いされていることが多く、純粋な血族は少ないとされている。
ラニウスの明るい赤髪、身体能力からみても、ローゼ族との混血児だというのは確信していた。そして、実力のある兵士を齢九歳にして殺したという事実。上が監視の為にわざわざ本部入りを認めたと言われても納得できるものがあった。
「まあ……言われてみればそんな感じがしてきたな。元よりラニウスを預かったのは、一般的な生活をさせろとの命令だった。ミシェルの件についても、教会と争うようなことを避けたがる癖にその時は許しが出たのが不思議だったしな」
「……まんまと利用されているじゃないか、ポンコツめ。とはいえ、逆に考えれば本部に身を置いて問題を起こすことはまずないだろう。むしろ良かったじゃないか」
隣で豪快に上を向いて飲むエリックに「いや……問題はあるんだがな」とブライアンが目を逸らして呟く。また何かを真剣に考え出すブライアンに、眉を寄せて強面を更に強くさせながら「とにかく、貴様は目の前の問題に集中しろ」とエリックがカウンターにジョッキを置いた。
カラン。先程から口をつけずにいたブライアンのジョッキ内で溶けかかっている氷が、音を立てて崩れ落ちた。
◆
「そういえば。ミシェルはせっかく首席だったのに、憲兵にならなくて良かったの?」
端街で夕飯を終えた養子二人は、久々に我が家のベッドで横になっていた。
軍人というのはあくまで総称であり、所属は憲兵と兵士で大きく二つに分かれている(兵士にも陸、海などの種類がある)税金生活でぬくぬくしている憲兵に目を向けられがちだが、それはあくまで本当に成績の優秀な人間だけ。最終試験の成績から出される軍人ランクの高い兵卒だけが、憲兵に昇格する権利を与えられるのだ。首席であるミシェルはもちろん憲兵になることができるのだが、昇格を見送り、現状維持(兵士)を選択した。
「……嫌なんだよ。教会連中の近くにいるのが。憲兵ってのは教会の手駒みたいなもんだろ。アイツらを守る騎士も、いいように使われる憲兵も、嫌いだ」
後頭部で腕を組んで天井を見上げながら「ミシェルらしいや」とラニウスが笑った。
「あんたは……兵士で良かったのか?」
「俺が憲兵にいくとでも? ないね。つまらなさそうだし。さっきも言ったけど、アードラーの部隊って所属が決まってたようなもんだから」
「特殊部隊? だったな。兵士とは何が違うんだ?」
「それはよく分からない」
おい、と呆れたような声が暗室に飛ぶ。こうして普通通り話をしているが、実際のところ未だに軍人になったという実感がないのだ。この先、紛争地帯に送り込まれ戦死する可能性だってあるのに、心は波風ひとつ立たない湖面のように穏やかなままだった。
「僕、いつか戦地で死ぬのかな」
「うーん、どうだろ」
「あんたは死ぬのが怖くないのか?」
「別に。俺は強いから死なないし。戦争に行くのはむしろ楽しみ」
「よくそんな余裕ぶったこと言えるな。そういう奴は早死にするって決まってんだよ」
新兵によくある謎の自信だと、ミシェルが腹立たしく思う。けれどもラニウスは変わらない声で「だってホントのことだしぃ」と間延びして答えた。
「ミシェルは死ぬのが怖い?」
その問いにミシェルは思わず固まる。思い出されるのは、アレイス村での事件。肩を撃ち抜かれて、出血多量で死にかけたあの日のことだ。よく分からない、少し間を置いて話を続ける。
「……一度死にかけたことはあったけど、別に怖かったわけじゃないんだ。生きてる時の方が、恐怖も辛さもある」
「哲学だねえ。色々できるんだから、生きている方が楽しいに決まってんじゃん」
「あんたのそう言う気楽なところ、ブライアンにそっくりだ」
「またそうやってブライアンの名前出す~」
そんなに出しているかと不思議に思いながらも、寝返りをうって窓を見つめる。よくは見えないけど、多分、綺麗な星空だ。きっと、あれだけの事をした自分はこんなに綺麗には死ねない。なんとなくそんな事を思った。
「……知ってるか? 死ぬのは寒くて、一人ぼっちなんだ。戦争で死ぬ人間ってそんな感覚になるらしい。何十年も共にした家族でさえいずれ声も、顔も忘れていく。なら、僕の事は一体誰が覚えててくれるんだろうな」
アシュリーもいない。それでいて人殺しの犯罪者。その事実が時折自身の存在を押しつぶそうとする。ブライアンもエミリアも、そのうち生まれた子供に気を取られて自分の事なんて忘れていくんだろう。忘れられたくないと、昼間の事を思い出して憂鬱になりながら呟くミシェルに、心配症だなあとラニウスはゆっくり話を続けた。
「なら、俺がずっと覚えててあげるよ」
寝落ちするミシェルの耳に、そんな優しい声が聞こえた気がした。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixabay並びにUnsplshの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名などはすべて仮称です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる