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第一部 三章
19騒がしい奴ら(挿絵あり)
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「ジークが見当たらないようだが」
「彼ならまた、外をほっつき歩いてますよ。貴方の許可もなしに」
大理石の王室に淡々とした会話が響いた。全く自由な奴だ、と荘厳な女声が短く切るようにして放たれる。玉座に座る女性は限りなく白髪近い、透き通るような金髪をしていた。一見すると鋭い青眼には、女性らしい艶麗さが垣間見れる。
彼女はエリザベート・ルーヴェンス・オブ・レヴィナンテ。レヴィナンテ朝第六代女王及びグランゼルス教首長である。
「私もジークのように、たまには外に出て羽休めでもしたいものだな」
にっ、と口角を上げ細められたエリザの目に「いけませんよ、陛下」と隣に立つ赤髪の青年がすかさず告げた。騎士という名を取ってつけたような気高く、凛々しい横顔は端麗で、男性にしては丸みのあるグレーのタレ目がきつく細められる。
「そう言って王室を抜け出したら、貴方一人の為に何万と兵を捜索に出さなくてはなりません……楽しいことになりそうです」
「ルーファスは皮肉屋だな。そんなことをしなくても、私は自力で城に帰れる」
「何と言おうとダメなものはダメです」
頑なに引き下がらないルーファスに軽く笑ってから「冗談だ」とエリザは鼻を鳴らした。
「時に、ルーファス。ジークのご子息の様子はどうだ? 彼の血を引いているのなら、大人しくしているとは思えないが」
話を切り替えられ、ルーファスは未だ不満があるようだったが「いいえ。彼は父親とは違って大人しいですよ」と返す。
「ずっと意気消沈で、そもそも兵として機能するかも分かりません」
「それは困るな。ジークに子供がいると聞いて、兵力になると思ったから彼を連れてきたんだ。近年は各地での魔物の出現が増大。ギルドハンターと今の国の兵力を合わせても、正直心許ないのが現状だ。他国との協定を結んだものの、どこも手一杯な様子。噂じゃこの状況に乗じて、他国に攻め入ると画策する国もあるとか」
頬杖し、エリザは嘆息した。問題事というものは重なりやすい。近頃は魔族の方でも動きが見られる。彼らへの警戒も緩められない。
「……前任者である彼女の事は残念だったが、彼が彼女と戦ったのは本当らしいしな。実力は間違いない」
「さあ、どうでしょう。あんな頼りない青年に打ち負かされているようなら、そこまでの人間だっただけです」
かつての同士の黒髪を思い浮かべて、ルーファスは冷たく言葉を吐く。「私の前では冷酷ぶらなくてもいいんだぞ」頬杖をついて、尻目でこちらを見つめるエリザに、心境を悟られまいと思わず目を逸らした。
「どの道彼に協力してもらうなら、しばらくは躾ける必要がありますね」
表情のない目で切り替えるように口をついて出る。それを聞いたエリザは思わずふふっ、と口元に手を当てて笑った。
「驚いたな。ルーファスは人に躾という言葉を使う趣味があったのか」
知らなかったと、含むように笑うエリザにルーファスはぱちくりと瞬きして考えてから「はっ!」と赤面する。
「ち、違います! 決してそういう意味では……! 第一彼は半分狼ですから……それで……!」
先程の凛々しく、厳格なイメージとは打って代わり、ルーファスは慌てたように訂正した。眉を下げ、ワタワタと口を開く様子は少年のように見える。
「別にいいではないか。そういうものに目覚める時期もある」
「か、からかわないでください……」
「ははっ。久々にルーファの顔が見られたな。私は生真面目なロイヤルガードの君より、そっちの君の方が愉快で好きだぞ」
本当にこの人はと、熱くなった顔を隠すように手を当てた。「まあ、その躾とやらでなんとか助力を促してくれ」エリザは独り言ちるように告げてからそういえば、と横目のまま続ける。
「悪魔の反逆者についてはどうだ? 解決したか?」
「……はい。月狼と行動を共にしたグレッグという男が始末したようです」
目を見開いてから背筋をぴんと伸ばし、ルーファスが元の落ち着いた口調に戻る。それを聞き、エリザはホッとしてから肩を脱力させた。ひとつの心労がなくなり「……そうか」と目を閉じる。
「あの予言の実現は阻止出来たようだな。正直、悪魔の話が出てきた時は、久々に怖くなったよ……今後もこういうことがないようにより政策を徹底しなければな」
目を伏せぽつりと呟くエリザに「はい。どこまでもお供致します」とルーファスが微笑んだ。願わくは今より悪化することがないと信じたい。エリザは一人そう思った。
◆
「うおおおお!」
飛びかかってくる連中をリカルドはその巨腕で容赦なく殴り飛ばしていく。続けて、リーゼロッテも負けてられないと弓を構え、岩場の上部に撃ち込み爆破させた。ガラガラと割れて小さくなった石が自分たちの立つ道に転がり込み、賊達は叫びながら避けていく。
「てめぇ! 小賢しいことを!」
視界外からサーベルで斬りかかってくる賊の一人をリーゼロッテはやむなく弓で受け止めた。それを見て、リカルドがすかさずリーゼロッテから賊を引き剥がす。
「ありがとう!」
「いいってことよ! おらぁ!」
賊の首根っこを掴み、岩に向かって投げ飛ばす。数に対して圧倒的な戦力を見せるも、これではキリがなかった。
「よし……!」
早速出番が来たと、左腕につけたガジェットアームを見つめた。弓矢を構えたままアームを向け、ワイヤーを射出し、岩場に突き刺す。自動的に引き寄せる力のまま仰ぐようにしてサーベルの切っ先を素早く避けると、足を軸に方向転換しながら向かってくる連中の手前に矢を放ち、爆破させる。
「わあ、すご……」
これなら素早く移動もでき、近距離でも弓矢が使えると、リーゼロッテは目を輝かせた。とはいえ、弓矢を構えたまま動くと、狙い目からズレるのでなかなか難しい。感動しているうちにも背後から斬りかかられ、素早く地面を転げながら、弓を放つ。気がつけば周囲の賊は皆地面に伏していた。
「すげえな、お嬢ちゃん。みんな倒しちまったぞ」
背中を合わせながら話しかけるリカルドにリーゼロッテは周囲を見ながら「おかしい」と呟いた。
「さっきの命令していたやつがどこにもいない」
疑問はすぐに解消された。崩れた岩を吹き飛ばして現れたのは、見上げるほど大きなコバルトバイソンだった。青く毛深い体よりも大きな顔。頭には二本の鋭利な角が生え揃っている。そして連中の頭らしき人物がその背中に跨っていた。
「なっ……」
なんだコイツは。通常よりも大きく育ちすぎではないかと目を見開く。それを見越してなのか、背中に跨る賊の頭は「ふっふっふっ」と余裕ある笑いでリーゼロッテ達を見下ろした。鼻頭に三本傷があり、ピアスや宝石のついたネックレスをジャラジャラと身につけている。バンダナの巻かれた髪は暗めの金髪で、後ろでひとつにまとめられていた。
「待たせたなあ! 俺様、キッド様の登場だぜ! って、お前らぁ!!」
真打ち登場といった様子で現れた賊の頭、キッドは伸びている仲間を目にして狼狽える。気づくのが遅い、と呆れたように見上げるリーゼロッテに「くっ……お前らの仇は俺が必ず……とってやるぜ!」と意気込んでみせる。
「おい! そこのチビとトカゲェ! 分かってんだろうな! こいつは凶暴な魔物と恐れられているコバルトバイソンのブルーだ! 俺たちはこいつでいくつもの村から金銀財宝を奪ってきた! つまり! 俺たちの最終兵器ってわけだ! 逆らうやつはみんなこいつの角の餌食になってもらうぜ!」
キラリと二本の角が輝く。しかもここは岩場に囲まれた一本道。この巨体では逃げる隙間さえない。その圧迫感に後退する二人を見て「今更後悔しても遅い!」とキッドは高らかに声を上げた。
足でコバルトバイソンの体をノックし、それを合図に前足をあげ、地面に振り下ろした。地面が揺れ、二人がバランスを崩している最中にコバルトバイソンが走り出す。
「いっけえ! ブルー! こいつらをぶっ飛ばせ!」
「ブルゥ!!」
雄叫びのような声に二人の体が強ばる。が、岩場と道の間に黄色いタンポポが生えているのを見て、コバルトバイソンは急に方向を変えると、それをむしゃむしゃと食べだした。沈黙が辺りを包み込む。
「……あの……何してるんですか? 」
「黙って見てろ! ブルーはタンポポが大好物なんだよ! 楽しみだから食べる時はめっちゃ時間かけるんだ!」
「ブルゥ!」
ご機嫌そうなコバルトバイソンの声にリーゼロッテは一気に肩の力が抜けてしまった。顔前で身構えていたリカルドも腕を下ろす。
「……オレたちは何を見せられてるんだ?」
「さあ……?」
デレデレと顔を擦り寄せながら撫でるキッドの様子に呆れたような目線を向ける。恐らく食べ終わったらまた突進してくるのだろう。ふむ、と顎に手を当てて考えてからリーゼロッテはなにか思いついたように腕からガジェットアームを外した。
「すみません、リカルドさん。これ、つけてもらえますか?」
「ん? ああ、いいぞ?」
何が何だかよく分からないといった様子のままカチャカチャと左腕に装着した。似合ってます、とリーゼロッテが軽く拍手してみせる。しばらくして食べ終わったのか、コバルトバイソンがぐるりとこちらを向いた。
「よし! 気を取り直して行くぜ!」
リーゼロッテとリカルドを指さし、キッドが命令する。先程と同じように地面を揺らしてから駆け出す様子に、リーゼロッテは「今です!」とリカルドの体を抱きしめながら言った。おう! と答え、リカルドが真上に向かってワイヤーを放つ。あっという間にコバルトバイソンより上に引き上げられ、突進を避けた。
「うう……頭……?」
「わ!! お前ら!避けろ!!」
うわああ! と背後から叫び声と共に衝突音が響いた。空中でその様子を見送り「上手くいったな」とリカルドがゆっくり地面に降りる。
「しっかし、凄いなお嬢ちゃん。あの隙に避ける方法を思いつくなんて」
「時間は十分すぎるほどありましたからね。あ、大丈夫です? 肩、結構負担来ると思うんですが」
「これぐらい平気だ。確かに、嬢ちゃんじゃ二人分はきつかったな。オレにつけて正解だ……にしても」
どうしたものか、とリカルドが付け足した。肩をぐるりと一周まわしながら、衝突し、山のようになった連中を見つめる。先程火薬筒の矢で爆破した岩にも埋まり、一味全員で伸びているようだ。
「お前ら……避けるなんて卑怯だぞ! 俺の仲間が……!」
「いや、避けるに決まってるし、仲間は貴方のせいでしょ」
唯一意識があるキッドに呆れて目を細めた。ここまで来ると、流石に分かってしまう。彼らがとびっきりの馬鹿だということに。崩れた岩に衝突したコバルトバイソンは目を回し、もはや戦闘不能。リーゼロッテはキッドの前まで歩き、持っていた剣鉈を鼻に触れる直前の距離で向けた。
「降参する? それとも、まだ貴方が相手してくれる?」
「ひぃ! な、情けはいらないぞ! 殺すなら殺せ!! ただ、こいつらの命だけは見逃してくれえ! あと、俺も……」
「どっちだよ。別に殺そうなんて考えてないよ。殺す価値もない。私はここを通りたかっただけ」
あまりの情けなさに怒りも失せる。なんでこんなやつが賊の一味の頭をやっているのだろう。
「どうぞ! どうぞ! いくらでも自由に通ってください!」
「はあ……始めからそうしてよね。次、こんなくだらないことしたら許さないよ」
キッ、と剣鉈を突きつけて睨んでから、肩を脱力させて鞘に収める。
「おい! ちょっと待て! オレの斧はどこにやった!」
解決したリーゼロッテを横に退かせ、リカルドは乱暴にキッドの胸ぐらを掴んだ。見るからに凶悪なギザギザ歯の口を開け、怒号をあげながら揺さぶるリカルドに小さな悲鳴が飛ぶ。
「あの、リカルドさん」
「ああ?」
「そいつ、気絶しています」
腹立たしさが見える声で振り返ったリカルドが慌てて目線を戻すと、胸ぐらを掴まれていたキッドは額から青ざめて完全に気を失っていた。これでは斧の場所は聞けない。
「あー……ひとまず。彼らを動けないように縛り上げますか」
また襲われても面倒だし、とリーゼロッテは縄を張るように構えた。一味を引きずり出し、何人かに分けて縛っていく。あらかた終え、ひと仕事を終えたような達成感で息をつき、ふう、と汗を拭った。
「お互い災難だったな」
リカルドの方も縛り終えたようで、背後から声をかけられる。はい、と振り返り、しばらく沈黙が続いてから「そういえば」と口火を切った。
「初対面なのにゴタゴタしてて、まだ自己紹介してませんでした。私はリーゼロッテ・ヴェナトルです。先程は助けて下さりありがとうございました」
「ああ。いいんだ。オレもこいつらには用事があったんでな。知ってると思うが、オレはリカルド。収容施設でアレクと少し行動を共にしてな……それで……あー……」
気まずそうにしている理由が何となくわかった。自分たちを繋ぐ彼がいないことについてだろう。「兄ちゃんは元気か?」遠回しなその言葉にリーゼロッテは目を伏せた。
「少し、長くなりますが」
元気のない様子で見上げ、リーゼロッテは何度か口を開閉させてから、アレクが連れてかれた過程を話し出した。
◆
「……そうか」
話し終え、リカルドが黙り込んでいた口を重々しく開いた。リーゼロッテは俯いたまま、あの時のことを思い出して、苦悶の表情を浮かべる。
「よし……そういうことならオレも付き合うぜ」
切り出された言葉に「えっ」と目を見開いて顔を上げる。
「お嬢ちゃんは兄ちゃんを助けに行くんだろ? オレも兄ちゃんには色々と恩があるからな。無事にあそこから抜け出せたことも言いたいし、助けに行く理由はある」
「ですが……それじゃあ、リカルドさんまで反逆者になってしまいますよ? それに、私と行動するのは、危険です……」
これまでのことを思い出す。出発してからずっと自分は面倒事ばかりを引き寄せ、そして周りを巻き込んできた。最愛の父を失い、リサを、クリフを失い―――特にアレクには苦労ばかりさせてしまったと、涙が浮かぶ。
「どうせ王城から連れ戻すってなったら危険はつきものだろう? オレはあの施設を抜け出してお尋ね者だし、別に今更恐れるものはない」
「私は悪魔なんです!!」
切迫した怒鳴り声が遮った。俯き、腕を掴むようにして震えを抑えながらリーゼロッテが続ける。
「王城に行けばきっと無事では済みません。私は、今言ったように死んでも生き返る。けど、リカルドさんはたった一つの命です。せっかく生きているってわかったのに、救出で死んでしまったらアレクが悲しみます。それでなくてもずっと、彼は後悔していたので……全て押し付けてしまったと……アレクは私が絶対連れ戻してみせます、から……どうか……」
頭を下げるリーゼロッテに「それは違うぞ、嬢ちゃん」とリカルドが言い放った。ゆっくりと顔を上げてみれば、爬虫類独特の金目が真っ直ぐとこちらを捉えている。
「不死だからって命を投げ出されて、兄ちゃんが喜ぶと思うか? 自分のために傷ついて、何度も死ぬ姿を見て、兄ちゃんがなんとも思わないとでも? 嬢ちゃんは死に抵抗がなくても、周りの人間に悲しみや辛さは残るんだぜ。嬢ちゃんは兄ちゃんに罪悪感を植え付けて苦しませたいのか?」
「それは……」
そんなつもりはないとばかりに気付かされて、首を振る。いいか、とリカルドが自分に目線を合わせるように屈んだ。
「生きていればいつか終わりが来る。例えそれが永遠になったとしても、命の重さを忘れるようなことがあってはいけない。勿論それは不死の嬢ちゃんもだ。兄ちゃんを苦しませたくなかったら、軽々しく死のうとするな」
にっ、と口を半開きにしてリカルドが笑ってみせる。確かに自分は死んでもまた生き返るという安心から死への抵抗も恐怖も薄まっていた。この人は分かっていたのか―――何度も死ぬつもりだと。
「まあ、そういうことだ。一人で抱え込んで、無茶なんてするなよ。オレたちは明日をアレクと生きるために王城へ行く。勿論、一度も死なずにな。そのためにも仲間は必要だろ?」
自分より遥かに大きな緑の手を差し出された。リーゼロッテは目が潤み、光をより多く映し出す。
「オレにも手伝わせてくれ。兄ちゃんの救出。それまではオレが嬢ちゃんを守ってやる。もう、一人で戦おうとなんてするな」
全部見破られていた。一人で立ち向かおうとすることも、死を覚悟した上での決意も。初対面のはずなのに、彼からはアレクと同じ温かさを感じる。
リサを失ってからずっと考えていた。大切なものを作るから失う度に足を掬われるのだと。自分と一緒にいるから誰かが傷つくのだと。だったら初めから一人の方が気は楽だ。一人だったら悲しむことも、失うこともない。だから、アレクを引き離そうとした。一人旅のために馬を借りることもやめた。リカルドのことも―――なのに。
「な、なんで……わ、わた、私……一人でもっ……」
言葉が吃る。不定期に嗚咽で呼吸がひくつき、まともな言葉にならない。涙が溢れ出し、顔を覆った。泣いてばかりで本当に自分はダメなやつだ。これじゃあ、アレクに何も言えない。泣きじゃくる少女の様子に相当無理をしていたんだろうと、リカルドはリーゼロッテの黒髪を撫でてやった。
◆
「兄ちゃんのこと、初めはただの腰抜けだと思っていた」
泣きじゃくる声が落ちついてきた頃。無言になるリーゼロッテの気を紛らわせようと、リカルドが口を開いた。
「だが、ボロボロになりながらも希望を捨てようとはしなかった。それに、本当の力も隠し持っていてよ。殺そうとしたオレを哀れな奴隷からただのリザードマンにしてくれた。噛み殺す気になれば出来たのに。本能に屈しなかった。そんな兄ちゃんが嬢ちゃんを殺すなんて何かの間違いさ。だから、兄ちゃんを責めないでやってくれよ」
隣に座るリカルドの横顔を見つめてから「勿論です」とリーゼロッテが前に向き直る。空が高く、雲の流れが早かった。
「私もあれがアレクの意思だとは思ってません。きっと月狼が何かしたんです……そうに決まってる」
「月狼?」
「はい。アレクの父は月狼と呼ばれる魔族で……彼の変身も父の影響らしいです。あの時も父親に操られているように見えたので……」
三角座りをしながらあの日のことを思い出す。確か、魔族は実力主義だと言っていた。強いものが支配し、強い者に従う。恐らく言葉通り、アレクは父の命令に従ったまでだ。そうなれば、アレクは今も父親の命令に背けず、従わされているのかもしれない。わざわざ生かした状態でアレクだけを連れ去ったとなれば、必ずなにか目的があるはずだ。絶対にまだ生きている、そう心の中で唱えた。
「んが……?」
背後から声が聞こえ、振り返る。どこだここは? と寝ぼけた様子で周囲を見回すキッドに、ようやく起きたかとリカルドが立ち上がった。
「さあて、さっきの続きだ。いい加減に斧の場所を吐き出してもらおうか……」
先程までの湿っぽい空気が一転した。胸ぐらを掴まれ「ひぃぃ!」とまたも小さな悲鳴が飛ぶ。
「ブルゥ! 助けてくれぇ!」
足をじたばたしながら涙目になって助けを乞うキッドの声に、先程から眠っていたコバルトバイソンが目を覚ました。すぐさま状況を把握し、威嚇してくる様子にリーゼロッテは無言で近づいてから、たんぽぽを渡し、ゆっくりと撫で回した。
「ブルゥ!?」
たんぽぽを見たコバルトバイソンは大きな口で咥え、少しずつ食べながら撫でられる手に委ねる。その場で膝をつく姿に「おい! 俺様以外に懐くんじゃない!」とキッドが不満を爆発させて暴れだした。
「そんなことより自分の心配をしたらどうだ? あ?」
縛られたまま胸ぐらを掴んで持ち上げるリカルドにキッドが背中を反らして怯える。本当に馬鹿な奴らだとリーゼロッテは呆れたように嘆息した。これでは先程と全く同じことを繰り返しそうだ。「リカルドさん落ち着いて」すかさずリカルドの腕を抑える。
「ここは私に任せてください。リカルドさんだとまた気絶するかもしれないんで」
リカルドを背中の方に押すリーゼロッテに「そ、そうだ! お前は下がれ下がれ!」とキッドが笑ってみせる。小娘相手ならとでも思ったのだろう。が、次の瞬間、キッドの首元に冷たいものが当てられた。少し目線を下ろしてみれば先程の剣鉈がきらりと光って見える。
「早く吐け。気絶したら動けないように足を切り落とす。その後に喉を切り付ける。次は貴方の子分に同じように聞き出す。斧はどこ?」
「ひぃぃ! あ、アジトだ!! 俺たちのアジトにある!」
「そう……だそうです」
リカルドの方を振り向いてリーゼロッテは剣鉈を下ろした。結局自分と大して変わらないと思いつつも「お、おう」とリカルドが返す。けど、無理なんだよ、とキッドが震えた声で口を開いた。
「俺たちのアジト、実は今……厄介な魔物に乗っ取られていて……」
「魔物?」
「ああ……そいつがとんでもねえ化け物なんだよ! 俺たちが集めた金品ごと全部奪いやがって! だから最近はアジトにも帰れず、食い物はここで旅人から奪って生活してたんだ! そいつが……!」
声を張り上げるキッドに、他のメンバーも次々と目を覚ました。ぎゃあぎゃあとそれぞれ違った言葉で騒ぎ出す。
「っ、うるさい! 早く黙らせて」
「うおい! お前ら騒ぎ立てるんじゃねえ!! 堂々と構えろ!」
冷たく見下ろすリーゼロッテにキッドが慌てて声を張り上げた。随分当たりが強い。かなり苛立っているのか、よく見れば眉間に皺が寄っている。ひとまず元気になって良かったと、リカルドは深く考えることをやめた。
「で? 魔物って?」
「コルウスって鳥の化け物……知ってるか?」
その言葉にリーゼロッテは眉を顰めた。確か森に住む怪鳥……見た目は黒く、どこにでもいる野鳥のようだが、その狂暴さと大きさは野鳥の比じゃない。
「あいつが突然現れて、俺たちのアジトの上に巣を作りやがった! あそこに近づく奴らはみんなあいつに食われちまうでろくに近づけねえんだよ……俺たちの仲間も……」
俯き、悔しそうに唇を噛み締める様子に、リーゼロッテも強くは言えなかった。どの道賊には変わりないようだが、ここで旅人を襲ってるのにも理由があるようだ。
「……金品ごとっていったよね。もしかしてアジトに穴とか空いてたりする? 集めた金品が上から見えそうな」
「よく分かったな! 日が出てる時は岩で隠していた穴を解放して光を取り込んでいるんだよ! その方がキラキラ輝いて綺麗に見えるだろ?」
俺の考えだ! と鼻を鳴らせるキッドに「ばっかじゃないの」とリーゼロッテが目を細めた。
「コルウスは光りものが大好きなの。正確には光を識別してるってところだけど。大方、その宝の光に反応して巣にしたんでしょ。あいつらは光り物で遊んだり巣を作ったりするから……」
「ってことは! オレの斧も!?」
ふざけんな! と胸ぐらを掴んで激しくキッドを揺らすリカルドに「また気絶しちゃうよ」とリーゼロッテが止める。
「だって……キラキラしてたからつい、高額な何かと……!」
「オレの宝だから曇り一つつけずに毎日欠かさず磨いてたんだよ!! どうしてくれるんだ!!」
「んな事言われましても……」
その光景にはあ、とため息をついた。キラキラしたものに反応しているなら、奪ったこいつの脳もコルウスと同等レベルだなと心の中で毒を吐く。
「ちくしょう……オレの斧が……」
ガックリと膝をつく様子に余程大切なものだったのだと思った。先程、自分に投げかけてくれた言葉の数々を思い出しいたたまれない気持ちになってから「じゃあ」と口を開く。
「コルウスを巣から追い出したら、貴方達はここで旅人を襲うことはしないんだね」
えっ、とキッドが顔を上げる。リカルドも驚いたように目を見開いた。
「嬢ちゃん! 何を!?」
「害鳥退治。リカルドさんの斧も取り戻せるし」
どちらかと言うと後者がメインだが。「無茶を言うな!」慌ててキッドが声を張り上げた。
「ブルーよりも一回り大きい上に空も飛ぶ! あんなの火を吹かないドラゴンと一緒だ!」
「大きい相手と戦うのは慣れてるからさ」
最近ちゃんと魔物と戦えていなかったし、ガジェットアームの練習にもなる。人喰いだと言われても動じる様子のないリーゼロッテに、リカルドは何度も瞬きを繰り返した?
「嬢ちゃん、無理はいけねえよ。さっき言ったろ? なんで会ったばかりでそこまでする……?」
「斧はリカルドさんの大切なものなんでしょ?」
私にもあります、そう首から下げたものをギュッと握りしめた。矢筒についたお守りが風に吹かれキラリと光る。
「大切なものを取り返すのに理由が必要ですか?」
アレクを連れ戻すのと何ら変わりない。その言葉に、リカルドは真っ向から風を感じた。そうか、アレクが彼女のために命を張った理由がわかった気がすると、笑う。
「……わかった。オレも行く。元よりオレの斧だしな」
「ええ!?」
この人たちは話を聞いていなかったのだろうかとキッドは目を丸くした。下手したら死ぬかもしれないと言ってるのに―――こんな、襲ってきた自分たちのためにと、胸が熱くなる。
「ちょっと待ってくれ。それなら、俺も連れて行ってくれないか?」
あ? と未だ機嫌が悪そうにリカルドが見下ろす。その圧に少しびびったが「斧を奪ったのは謝る!」とキッドが頭を下げた。
「アジトに行くまでは少し複雑でな。そこまで案内してやる! そして、俺にも戦わせてくれ! 仲間の仇を打ちたい……」
先程の情けない様子とは打って変わっていた。 一人のリーダーとしてのキッドの顔がそこにはある。
「そう言ってお前、逃げる気じゃねえよなあ?」
「逃げるつもりはない! 正直、ここにいるヤツらは居場所を失って道を外れた奴らばかりでよ……かく言う俺もその一人だ。一緒に何年も馬鹿やってたりしたら、そりゃあ家族も同然みたいなもんだ。見捨てる訳にはいかねえ……なにより頭としてアジトを取り戻す責任がある! 頼む!」
頭ァ、涙ぐむ声があちこちから聞こえてくる。なるほど。こんな馬鹿な頭にこれだけ多くの人達がついてきている理由が何となくわかった気がした。「リカルドさん、彼を連れていこう」とリーゼロッテが見上げる。
「でも……こんなやつだぞ! 嘘かもしれねえ……!」
「嘘じゃないよ。私が保証する」
そう言ってリーゼロッテはキッドだけの縄を解いた。すまねえ、とキッドが頭を下げる。
「頭が行くなら俺達も行きます!」
「おい! お前! 俺たちの縄を解け!!」
頭だけには行かせないと、声を上げる様子に「うるせえ!」とキッドが怒鳴る。
「俺はレヴィナンテ一の大盗賊、キッド様だぞ! そんな俺があんな化け物にやられるとでも?」
へい! 仲間たちが元気よく声を合わせて言った。んだと! と大口を開けていうキッドに、本当になんでこの人が頭なのかと疑問に思う。
「とにかく! お前らみてえな馬鹿共を置いて死なねえ! 大人しく待ってろ!」
ガニ股でズカズカと怒り散らしながら歩き出すキッドに、二人は呆れて嘆息する。本当に子供のような男だ。
◆
キッドの言うように岩の迷路は思いの外複雑で、数十分かけて奴らのアジトにたどり着く。森を背にした、岩のアジトだ。岩を重ねるようにしたそれは自然にできたものとは考えにくい形状をしており、その上に黒く丸い物体が乗っている。
「……うわあ、いる……」
あれだけ威勢を張っていたキッドが首を竦め、リカルドの後ろに隠れる。隠れてんな、と腹立たしさが見える口調でキッドの首根っこを掴み、リカルドが引きずり出した。
「……っ、くる」
丸い物体は縦長に変形し、大きく両の翼を広げた。目から何まで真っ黒な顔を現し、かと思えばその大きな嘴を開け、鼓膜を劈くような声で鳴いた。最早、擬音にも表せない声だ。
「……っう!!」
強風に髪をバタバタとなびかせた。あまりの轟音に耳を抑え、上半身を丸め込むように堪える。コルウスは大きな翼で宙を仰ぎ、更にこちらに風を送り込んだ。
「わっ……」
他と二人とは違って体格のないリーゼロッテが風に飛ばされそうになる。が、リカルドは「しっかりしろ!」と手を掴んだ。
「あ、ありがとう!」
その言葉を聞いてリカルドが前を向くと、コルウスはゆっくりと宙に浮いた。突進してくるように飛んでこられ、三人は二手の方向に逃げる。その間、当たった木は倒され、半ば災害のようだった。
「困ったな。飛んでいたら攻撃なんてできない……」
見上げるリカルドに「でも、離れた」と余裕そうなリーゼロッテが答える。
「今のうちに金品を隠しましょう。岩で隠していたってことは、隠せる方法はある。興味がなくなればあいつがここにいる理由はない」
「なるほどな」
キッド! とリーゼロッテが周囲を見回す。が、先程バラバラに逃げたキッドの姿がどこにもない。逃げたか? と思った矢先、空から「助けてくれぇ~」と声が聞こえてきた。
「うげっ、あのバカ……光り物なんて身につけてるから……」
先程ちゃんと習性を伝えていたのに。助けようにも今矢を放ったら、確実に叩き落とされて死ぬだろう。空を旋回するコルウスに困ったと眉を下げた。攻撃しなくても地面に叩きつけられるのは時間の問題かもしれない。
「……仕方ない。私が奴を引きつけるので、隙を見てキッドの救出を。その後に、金品をなんとか隠してください」
「えっ、隙って!?」
「頼みます!」
半ば押し付けるようにしてアジトから少し離れる。リカルドの体じゃ怪我の治りが遅い。多少のことでは壊れない自分が戦った方がいいと思ったのだ。引きつけるといえば光り物―――あるのはこれしかないと、矢筒からお守りを取り出す。
「こい!!」
ルシールのお守りを掲げ、太陽光を反射させる。それに気づいたコルウスが急旋回し、リーゼロッテに向かってきた。距離を離すようにして走り出す。興味を惹いたせいか、地面に近づきながらコルウスがキッドから手を離す。
「うわあああ!!」
滝のような涙が、重力に逆らって上に登っていく。リカルドも全力で走るが間に合いそうにない。もうダメだ、とキッドが目をつぶった時、何やら裏の森から黒い物体が飛び出してきた。ぼよん、と柔らかな体に弾かれて落ち着く。
「ぶ、ブルー!!!」
キッドを受け止めたブルーはどすんとその場に座った。背中のキッドは「お前なら来てくれると思ったぜぇ~」と背中に顔を擦り付ける。
「はあ……驚いたな」
先程たんぽぽに負けていたが、こいつとブルーの友情は本物みたいだ。一息つくリカルドに「これがブルーと俺の絆だ!」とキッドが声を張る。
「……まあ、それはいい。金品の隠し方、お前知ってんだろ?」
「ああ! 実は天井に薄い岩の板があって……と言ってもかなりの重さなんだが……」
「それならさっさと行くぞ!」
今はあの嬢ちゃんを信じるしかない。無理やり首根っこを掴んで引きずるリカルドの反対側ではリーゼロッテがコルウスと向き合っていた。ギリギリまで引き寄せてから「渡すもんか」とお守りを懐にしまい、火薬筒矢を弓に装填した。飛んでくるコルウスに構える。外したら死を覚悟しなくては。
「まずは、片目」
パッと思い切りよく手を離し、矢を放つ。目が回復した今では、狙いを撃ち抜くのは造作もない。突き刺さった矢は爆発し、その衝撃で飛んできたコルウスが傾いた。倒れた隙にもう片方、と思っていたが、よたつきながらもこちらに向かってきたコルウスは体当たりし、お守りを奪うと、リーゼロッテを足で鷲掴んだ。
「なっ……!」
どんどん遠くなる地面と、急激に上昇したことで目眩がした。足をバタバタさせながら離れようとしたが、大きな鉤爪の足は隙間もできない。剣鉈を取り出し何とか指の隙間に差し込もうとすると、コルウスが足を離した。
「あっ……」
この位置から落とされるのは流石に死ぬ。けど、死んだらまた時間がかかるかもしれない。そしたら、ルシールさんが……と見えていた両手を拳にした。ガジェットアームからワイヤーを放ち、コルウスの足に引っ掛けた。宙ぶらになりながらもゆっくりと足の方に戻っていき、更にコルウスの体に上っていく。
「ふぅ……ふぅ……」
寒い。酸素が少ない。体に上られ、嫌がったコルウスがわざと激しく方向を変えたりして飛行する。振り落とされそうになりながらも何とかしがみつき、コルウスの頭に近づいた。
「それを……返せ!!」
大きく振り上げた剣鉈をコルウスの目に突き刺した。ビギュイイイイ! 悲痛な声がはっきりと聞こえ、羽ばたく行為が止まる。同時に口から離れたお守りをしっかりと掴み、リーゼロッテは強く抱きしめた。雲を突き抜け、ぐるぐると回るようにして落ちていくコルウスに、必死でしがみつく。
「嬢ちゃんが!」
落ちていくコルウスに、リカルドは声を上げた。金品を隠し終え、アジトの上から落ちていくコルウスにどうすることも出来ずに眺める。
ドゴォン!
大きな音が振動とともに辺りに響いた。アジトの近くに落ちたコルウスに、リカルドは慌てて駆け寄る。砂煙が立ちのぼる中、閉じきっていない半開きの羽がぴくぴくと痙攣していた。
「はあ……っ」
その中で勢いよく細い腕が突き上げられた。ふう、と長い息をついて立ち上がったのは、赤頭巾の少女である。その手には取り返したお守りがあった。
「すげぇ……本当に嬢ちゃん一人で倒しちまった……」
フラフラしながらコルウスから降りてくるリーゼロッテに感心していると、背後にゆらりと黒い影が立った。
「ガッ、グァッ……ゼェ……ソレヲ……ガエセ……!」
濁点混じりの、どこかで聞いたことがある言葉だ。ブルーの存在に気が大きくなっているキッドは「まだ生きてるのか」と呟き、足で青い体をノックする。
「奴はどうせ死にかけてる! ブルー! 俺たちがトドメを刺してやろうぜ!」
走り出すキッドに「待って! 迂闊に動いたら……」とリーゼロッテが止めようとする。次の瞬間、コルウスが大きく反ると、向かってくるブルーに向かって強く嘴を振り下ろした。その凄まじい速さと強さは爆発のようで、ブルーは地面にめり込み、白目をむいて地に伏す。
「なっ……」
死にかけでもこの力なのか。血肉の糸を引いて上げられた嘴に「ブルー!!」とキッドが目の色を変える。
「……っ、よくも! ブルーを!」
怒りのまま振りかざしたキッドのサーベルに反応し、コルウスは翼で受け止めた。その鋼鉄の如く硬い翼に呆気なくサーベルが折れる。
「ピギャッギャッギャッ!!!」
羽を振り払うようにして吹き飛ばし、キッドは背中を強く打ち付け、項垂れる。地面に倒れながら、リーゼロッテはコルウスを見上げた。自分はこいつのおかげで地面直撃を逃れたが、奴は直で地面に叩きつけられたというのに。なんて丈夫なやつだ。骨折し、動けない体を引きずるように尻をつきながら後退する。再びコルウスが自分に向かって嘴をふりかざそうとした時だ。
軽快な足音が背後から聞こえてくる。それはきらりと光る斧を持ち、コルウスに飛びかかると、横切るようにして斬りつけた。着地と同時に、コルウスの首がずり落ち、噴水のように真っ赤な体液が溢れ出す。
「取りに行ってる時間を稼いでくれてありがとうよ、ブルーとキッド」
血に濡れながらリカルドは呟いた。動けないリーゼロッテの方を振り返り、ニッと笑う。
「悪いな、嬢ちゃん。一番いいところ持っていっちまって。これがオレの相棒の力だ」
「リカルドさん……」
斧を回して地面を突いてから「立てるか?」と手を差し伸べる。「ありがとう」リーゼロッテは力なく微笑んでその手を取った。
「うーん……」
「キッド、大丈夫?」
どうやら気絶しているみたいだ。まあ、彼がそんな簡単に死ぬとは思えないがと、ブルーの方を見る。
「ブルー……」
じわりと涙が滲むリーゼロッテに、リカルドは無言で頭を撫でた。
「彼ならまた、外をほっつき歩いてますよ。貴方の許可もなしに」
大理石の王室に淡々とした会話が響いた。全く自由な奴だ、と荘厳な女声が短く切るようにして放たれる。玉座に座る女性は限りなく白髪近い、透き通るような金髪をしていた。一見すると鋭い青眼には、女性らしい艶麗さが垣間見れる。
彼女はエリザベート・ルーヴェンス・オブ・レヴィナンテ。レヴィナンテ朝第六代女王及びグランゼルス教首長である。
「私もジークのように、たまには外に出て羽休めでもしたいものだな」
にっ、と口角を上げ細められたエリザの目に「いけませんよ、陛下」と隣に立つ赤髪の青年がすかさず告げた。騎士という名を取ってつけたような気高く、凛々しい横顔は端麗で、男性にしては丸みのあるグレーのタレ目がきつく細められる。
「そう言って王室を抜け出したら、貴方一人の為に何万と兵を捜索に出さなくてはなりません……楽しいことになりそうです」
「ルーファスは皮肉屋だな。そんなことをしなくても、私は自力で城に帰れる」
「何と言おうとダメなものはダメです」
頑なに引き下がらないルーファスに軽く笑ってから「冗談だ」とエリザは鼻を鳴らした。
「時に、ルーファス。ジークのご子息の様子はどうだ? 彼の血を引いているのなら、大人しくしているとは思えないが」
話を切り替えられ、ルーファスは未だ不満があるようだったが「いいえ。彼は父親とは違って大人しいですよ」と返す。
「ずっと意気消沈で、そもそも兵として機能するかも分かりません」
「それは困るな。ジークに子供がいると聞いて、兵力になると思ったから彼を連れてきたんだ。近年は各地での魔物の出現が増大。ギルドハンターと今の国の兵力を合わせても、正直心許ないのが現状だ。他国との協定を結んだものの、どこも手一杯な様子。噂じゃこの状況に乗じて、他国に攻め入ると画策する国もあるとか」
頬杖し、エリザは嘆息した。問題事というものは重なりやすい。近頃は魔族の方でも動きが見られる。彼らへの警戒も緩められない。
「……前任者である彼女の事は残念だったが、彼が彼女と戦ったのは本当らしいしな。実力は間違いない」
「さあ、どうでしょう。あんな頼りない青年に打ち負かされているようなら、そこまでの人間だっただけです」
かつての同士の黒髪を思い浮かべて、ルーファスは冷たく言葉を吐く。「私の前では冷酷ぶらなくてもいいんだぞ」頬杖をついて、尻目でこちらを見つめるエリザに、心境を悟られまいと思わず目を逸らした。
「どの道彼に協力してもらうなら、しばらくは躾ける必要がありますね」
表情のない目で切り替えるように口をついて出る。それを聞いたエリザは思わずふふっ、と口元に手を当てて笑った。
「驚いたな。ルーファスは人に躾という言葉を使う趣味があったのか」
知らなかったと、含むように笑うエリザにルーファスはぱちくりと瞬きして考えてから「はっ!」と赤面する。
「ち、違います! 決してそういう意味では……! 第一彼は半分狼ですから……それで……!」
先程の凛々しく、厳格なイメージとは打って代わり、ルーファスは慌てたように訂正した。眉を下げ、ワタワタと口を開く様子は少年のように見える。
「別にいいではないか。そういうものに目覚める時期もある」
「か、からかわないでください……」
「ははっ。久々にルーファの顔が見られたな。私は生真面目なロイヤルガードの君より、そっちの君の方が愉快で好きだぞ」
本当にこの人はと、熱くなった顔を隠すように手を当てた。「まあ、その躾とやらでなんとか助力を促してくれ」エリザは独り言ちるように告げてからそういえば、と横目のまま続ける。
「悪魔の反逆者についてはどうだ? 解決したか?」
「……はい。月狼と行動を共にしたグレッグという男が始末したようです」
目を見開いてから背筋をぴんと伸ばし、ルーファスが元の落ち着いた口調に戻る。それを聞き、エリザはホッとしてから肩を脱力させた。ひとつの心労がなくなり「……そうか」と目を閉じる。
「あの予言の実現は阻止出来たようだな。正直、悪魔の話が出てきた時は、久々に怖くなったよ……今後もこういうことがないようにより政策を徹底しなければな」
目を伏せぽつりと呟くエリザに「はい。どこまでもお供致します」とルーファスが微笑んだ。願わくは今より悪化することがないと信じたい。エリザは一人そう思った。
◆
「うおおおお!」
飛びかかってくる連中をリカルドはその巨腕で容赦なく殴り飛ばしていく。続けて、リーゼロッテも負けてられないと弓を構え、岩場の上部に撃ち込み爆破させた。ガラガラと割れて小さくなった石が自分たちの立つ道に転がり込み、賊達は叫びながら避けていく。
「てめぇ! 小賢しいことを!」
視界外からサーベルで斬りかかってくる賊の一人をリーゼロッテはやむなく弓で受け止めた。それを見て、リカルドがすかさずリーゼロッテから賊を引き剥がす。
「ありがとう!」
「いいってことよ! おらぁ!」
賊の首根っこを掴み、岩に向かって投げ飛ばす。数に対して圧倒的な戦力を見せるも、これではキリがなかった。
「よし……!」
早速出番が来たと、左腕につけたガジェットアームを見つめた。弓矢を構えたままアームを向け、ワイヤーを射出し、岩場に突き刺す。自動的に引き寄せる力のまま仰ぐようにしてサーベルの切っ先を素早く避けると、足を軸に方向転換しながら向かってくる連中の手前に矢を放ち、爆破させる。
「わあ、すご……」
これなら素早く移動もでき、近距離でも弓矢が使えると、リーゼロッテは目を輝かせた。とはいえ、弓矢を構えたまま動くと、狙い目からズレるのでなかなか難しい。感動しているうちにも背後から斬りかかられ、素早く地面を転げながら、弓を放つ。気がつけば周囲の賊は皆地面に伏していた。
「すげえな、お嬢ちゃん。みんな倒しちまったぞ」
背中を合わせながら話しかけるリカルドにリーゼロッテは周囲を見ながら「おかしい」と呟いた。
「さっきの命令していたやつがどこにもいない」
疑問はすぐに解消された。崩れた岩を吹き飛ばして現れたのは、見上げるほど大きなコバルトバイソンだった。青く毛深い体よりも大きな顔。頭には二本の鋭利な角が生え揃っている。そして連中の頭らしき人物がその背中に跨っていた。
「なっ……」
なんだコイツは。通常よりも大きく育ちすぎではないかと目を見開く。それを見越してなのか、背中に跨る賊の頭は「ふっふっふっ」と余裕ある笑いでリーゼロッテ達を見下ろした。鼻頭に三本傷があり、ピアスや宝石のついたネックレスをジャラジャラと身につけている。バンダナの巻かれた髪は暗めの金髪で、後ろでひとつにまとめられていた。
「待たせたなあ! 俺様、キッド様の登場だぜ! って、お前らぁ!!」
真打ち登場といった様子で現れた賊の頭、キッドは伸びている仲間を目にして狼狽える。気づくのが遅い、と呆れたように見上げるリーゼロッテに「くっ……お前らの仇は俺が必ず……とってやるぜ!」と意気込んでみせる。
「おい! そこのチビとトカゲェ! 分かってんだろうな! こいつは凶暴な魔物と恐れられているコバルトバイソンのブルーだ! 俺たちはこいつでいくつもの村から金銀財宝を奪ってきた! つまり! 俺たちの最終兵器ってわけだ! 逆らうやつはみんなこいつの角の餌食になってもらうぜ!」
キラリと二本の角が輝く。しかもここは岩場に囲まれた一本道。この巨体では逃げる隙間さえない。その圧迫感に後退する二人を見て「今更後悔しても遅い!」とキッドは高らかに声を上げた。
足でコバルトバイソンの体をノックし、それを合図に前足をあげ、地面に振り下ろした。地面が揺れ、二人がバランスを崩している最中にコバルトバイソンが走り出す。
「いっけえ! ブルー! こいつらをぶっ飛ばせ!」
「ブルゥ!!」
雄叫びのような声に二人の体が強ばる。が、岩場と道の間に黄色いタンポポが生えているのを見て、コバルトバイソンは急に方向を変えると、それをむしゃむしゃと食べだした。沈黙が辺りを包み込む。
「……あの……何してるんですか? 」
「黙って見てろ! ブルーはタンポポが大好物なんだよ! 楽しみだから食べる時はめっちゃ時間かけるんだ!」
「ブルゥ!」
ご機嫌そうなコバルトバイソンの声にリーゼロッテは一気に肩の力が抜けてしまった。顔前で身構えていたリカルドも腕を下ろす。
「……オレたちは何を見せられてるんだ?」
「さあ……?」
デレデレと顔を擦り寄せながら撫でるキッドの様子に呆れたような目線を向ける。恐らく食べ終わったらまた突進してくるのだろう。ふむ、と顎に手を当てて考えてからリーゼロッテはなにか思いついたように腕からガジェットアームを外した。
「すみません、リカルドさん。これ、つけてもらえますか?」
「ん? ああ、いいぞ?」
何が何だかよく分からないといった様子のままカチャカチャと左腕に装着した。似合ってます、とリーゼロッテが軽く拍手してみせる。しばらくして食べ終わったのか、コバルトバイソンがぐるりとこちらを向いた。
「よし! 気を取り直して行くぜ!」
リーゼロッテとリカルドを指さし、キッドが命令する。先程と同じように地面を揺らしてから駆け出す様子に、リーゼロッテは「今です!」とリカルドの体を抱きしめながら言った。おう! と答え、リカルドが真上に向かってワイヤーを放つ。あっという間にコバルトバイソンより上に引き上げられ、突進を避けた。
「うう……頭……?」
「わ!! お前ら!避けろ!!」
うわああ! と背後から叫び声と共に衝突音が響いた。空中でその様子を見送り「上手くいったな」とリカルドがゆっくり地面に降りる。
「しっかし、凄いなお嬢ちゃん。あの隙に避ける方法を思いつくなんて」
「時間は十分すぎるほどありましたからね。あ、大丈夫です? 肩、結構負担来ると思うんですが」
「これぐらい平気だ。確かに、嬢ちゃんじゃ二人分はきつかったな。オレにつけて正解だ……にしても」
どうしたものか、とリカルドが付け足した。肩をぐるりと一周まわしながら、衝突し、山のようになった連中を見つめる。先程火薬筒の矢で爆破した岩にも埋まり、一味全員で伸びているようだ。
「お前ら……避けるなんて卑怯だぞ! 俺の仲間が……!」
「いや、避けるに決まってるし、仲間は貴方のせいでしょ」
唯一意識があるキッドに呆れて目を細めた。ここまで来ると、流石に分かってしまう。彼らがとびっきりの馬鹿だということに。崩れた岩に衝突したコバルトバイソンは目を回し、もはや戦闘不能。リーゼロッテはキッドの前まで歩き、持っていた剣鉈を鼻に触れる直前の距離で向けた。
「降参する? それとも、まだ貴方が相手してくれる?」
「ひぃ! な、情けはいらないぞ! 殺すなら殺せ!! ただ、こいつらの命だけは見逃してくれえ! あと、俺も……」
「どっちだよ。別に殺そうなんて考えてないよ。殺す価値もない。私はここを通りたかっただけ」
あまりの情けなさに怒りも失せる。なんでこんなやつが賊の一味の頭をやっているのだろう。
「どうぞ! どうぞ! いくらでも自由に通ってください!」
「はあ……始めからそうしてよね。次、こんなくだらないことしたら許さないよ」
キッ、と剣鉈を突きつけて睨んでから、肩を脱力させて鞘に収める。
「おい! ちょっと待て! オレの斧はどこにやった!」
解決したリーゼロッテを横に退かせ、リカルドは乱暴にキッドの胸ぐらを掴んだ。見るからに凶悪なギザギザ歯の口を開け、怒号をあげながら揺さぶるリカルドに小さな悲鳴が飛ぶ。
「あの、リカルドさん」
「ああ?」
「そいつ、気絶しています」
腹立たしさが見える声で振り返ったリカルドが慌てて目線を戻すと、胸ぐらを掴まれていたキッドは額から青ざめて完全に気を失っていた。これでは斧の場所は聞けない。
「あー……ひとまず。彼らを動けないように縛り上げますか」
また襲われても面倒だし、とリーゼロッテは縄を張るように構えた。一味を引きずり出し、何人かに分けて縛っていく。あらかた終え、ひと仕事を終えたような達成感で息をつき、ふう、と汗を拭った。
「お互い災難だったな」
リカルドの方も縛り終えたようで、背後から声をかけられる。はい、と振り返り、しばらく沈黙が続いてから「そういえば」と口火を切った。
「初対面なのにゴタゴタしてて、まだ自己紹介してませんでした。私はリーゼロッテ・ヴェナトルです。先程は助けて下さりありがとうございました」
「ああ。いいんだ。オレもこいつらには用事があったんでな。知ってると思うが、オレはリカルド。収容施設でアレクと少し行動を共にしてな……それで……あー……」
気まずそうにしている理由が何となくわかった。自分たちを繋ぐ彼がいないことについてだろう。「兄ちゃんは元気か?」遠回しなその言葉にリーゼロッテは目を伏せた。
「少し、長くなりますが」
元気のない様子で見上げ、リーゼロッテは何度か口を開閉させてから、アレクが連れてかれた過程を話し出した。
◆
「……そうか」
話し終え、リカルドが黙り込んでいた口を重々しく開いた。リーゼロッテは俯いたまま、あの時のことを思い出して、苦悶の表情を浮かべる。
「よし……そういうことならオレも付き合うぜ」
切り出された言葉に「えっ」と目を見開いて顔を上げる。
「お嬢ちゃんは兄ちゃんを助けに行くんだろ? オレも兄ちゃんには色々と恩があるからな。無事にあそこから抜け出せたことも言いたいし、助けに行く理由はある」
「ですが……それじゃあ、リカルドさんまで反逆者になってしまいますよ? それに、私と行動するのは、危険です……」
これまでのことを思い出す。出発してからずっと自分は面倒事ばかりを引き寄せ、そして周りを巻き込んできた。最愛の父を失い、リサを、クリフを失い―――特にアレクには苦労ばかりさせてしまったと、涙が浮かぶ。
「どうせ王城から連れ戻すってなったら危険はつきものだろう? オレはあの施設を抜け出してお尋ね者だし、別に今更恐れるものはない」
「私は悪魔なんです!!」
切迫した怒鳴り声が遮った。俯き、腕を掴むようにして震えを抑えながらリーゼロッテが続ける。
「王城に行けばきっと無事では済みません。私は、今言ったように死んでも生き返る。けど、リカルドさんはたった一つの命です。せっかく生きているってわかったのに、救出で死んでしまったらアレクが悲しみます。それでなくてもずっと、彼は後悔していたので……全て押し付けてしまったと……アレクは私が絶対連れ戻してみせます、から……どうか……」
頭を下げるリーゼロッテに「それは違うぞ、嬢ちゃん」とリカルドが言い放った。ゆっくりと顔を上げてみれば、爬虫類独特の金目が真っ直ぐとこちらを捉えている。
「不死だからって命を投げ出されて、兄ちゃんが喜ぶと思うか? 自分のために傷ついて、何度も死ぬ姿を見て、兄ちゃんがなんとも思わないとでも? 嬢ちゃんは死に抵抗がなくても、周りの人間に悲しみや辛さは残るんだぜ。嬢ちゃんは兄ちゃんに罪悪感を植え付けて苦しませたいのか?」
「それは……」
そんなつもりはないとばかりに気付かされて、首を振る。いいか、とリカルドが自分に目線を合わせるように屈んだ。
「生きていればいつか終わりが来る。例えそれが永遠になったとしても、命の重さを忘れるようなことがあってはいけない。勿論それは不死の嬢ちゃんもだ。兄ちゃんを苦しませたくなかったら、軽々しく死のうとするな」
にっ、と口を半開きにしてリカルドが笑ってみせる。確かに自分は死んでもまた生き返るという安心から死への抵抗も恐怖も薄まっていた。この人は分かっていたのか―――何度も死ぬつもりだと。
「まあ、そういうことだ。一人で抱え込んで、無茶なんてするなよ。オレたちは明日をアレクと生きるために王城へ行く。勿論、一度も死なずにな。そのためにも仲間は必要だろ?」
自分より遥かに大きな緑の手を差し出された。リーゼロッテは目が潤み、光をより多く映し出す。
「オレにも手伝わせてくれ。兄ちゃんの救出。それまではオレが嬢ちゃんを守ってやる。もう、一人で戦おうとなんてするな」
全部見破られていた。一人で立ち向かおうとすることも、死を覚悟した上での決意も。初対面のはずなのに、彼からはアレクと同じ温かさを感じる。
リサを失ってからずっと考えていた。大切なものを作るから失う度に足を掬われるのだと。自分と一緒にいるから誰かが傷つくのだと。だったら初めから一人の方が気は楽だ。一人だったら悲しむことも、失うこともない。だから、アレクを引き離そうとした。一人旅のために馬を借りることもやめた。リカルドのことも―――なのに。
「な、なんで……わ、わた、私……一人でもっ……」
言葉が吃る。不定期に嗚咽で呼吸がひくつき、まともな言葉にならない。涙が溢れ出し、顔を覆った。泣いてばかりで本当に自分はダメなやつだ。これじゃあ、アレクに何も言えない。泣きじゃくる少女の様子に相当無理をしていたんだろうと、リカルドはリーゼロッテの黒髪を撫でてやった。
◆
「兄ちゃんのこと、初めはただの腰抜けだと思っていた」
泣きじゃくる声が落ちついてきた頃。無言になるリーゼロッテの気を紛らわせようと、リカルドが口を開いた。
「だが、ボロボロになりながらも希望を捨てようとはしなかった。それに、本当の力も隠し持っていてよ。殺そうとしたオレを哀れな奴隷からただのリザードマンにしてくれた。噛み殺す気になれば出来たのに。本能に屈しなかった。そんな兄ちゃんが嬢ちゃんを殺すなんて何かの間違いさ。だから、兄ちゃんを責めないでやってくれよ」
隣に座るリカルドの横顔を見つめてから「勿論です」とリーゼロッテが前に向き直る。空が高く、雲の流れが早かった。
「私もあれがアレクの意思だとは思ってません。きっと月狼が何かしたんです……そうに決まってる」
「月狼?」
「はい。アレクの父は月狼と呼ばれる魔族で……彼の変身も父の影響らしいです。あの時も父親に操られているように見えたので……」
三角座りをしながらあの日のことを思い出す。確か、魔族は実力主義だと言っていた。強いものが支配し、強い者に従う。恐らく言葉通り、アレクは父の命令に従ったまでだ。そうなれば、アレクは今も父親の命令に背けず、従わされているのかもしれない。わざわざ生かした状態でアレクだけを連れ去ったとなれば、必ずなにか目的があるはずだ。絶対にまだ生きている、そう心の中で唱えた。
「んが……?」
背後から声が聞こえ、振り返る。どこだここは? と寝ぼけた様子で周囲を見回すキッドに、ようやく起きたかとリカルドが立ち上がった。
「さあて、さっきの続きだ。いい加減に斧の場所を吐き出してもらおうか……」
先程までの湿っぽい空気が一転した。胸ぐらを掴まれ「ひぃぃ!」とまたも小さな悲鳴が飛ぶ。
「ブルゥ! 助けてくれぇ!」
足をじたばたしながら涙目になって助けを乞うキッドの声に、先程から眠っていたコバルトバイソンが目を覚ました。すぐさま状況を把握し、威嚇してくる様子にリーゼロッテは無言で近づいてから、たんぽぽを渡し、ゆっくりと撫で回した。
「ブルゥ!?」
たんぽぽを見たコバルトバイソンは大きな口で咥え、少しずつ食べながら撫でられる手に委ねる。その場で膝をつく姿に「おい! 俺様以外に懐くんじゃない!」とキッドが不満を爆発させて暴れだした。
「そんなことより自分の心配をしたらどうだ? あ?」
縛られたまま胸ぐらを掴んで持ち上げるリカルドにキッドが背中を反らして怯える。本当に馬鹿な奴らだとリーゼロッテは呆れたように嘆息した。これでは先程と全く同じことを繰り返しそうだ。「リカルドさん落ち着いて」すかさずリカルドの腕を抑える。
「ここは私に任せてください。リカルドさんだとまた気絶するかもしれないんで」
リカルドを背中の方に押すリーゼロッテに「そ、そうだ! お前は下がれ下がれ!」とキッドが笑ってみせる。小娘相手ならとでも思ったのだろう。が、次の瞬間、キッドの首元に冷たいものが当てられた。少し目線を下ろしてみれば先程の剣鉈がきらりと光って見える。
「早く吐け。気絶したら動けないように足を切り落とす。その後に喉を切り付ける。次は貴方の子分に同じように聞き出す。斧はどこ?」
「ひぃぃ! あ、アジトだ!! 俺たちのアジトにある!」
「そう……だそうです」
リカルドの方を振り向いてリーゼロッテは剣鉈を下ろした。結局自分と大して変わらないと思いつつも「お、おう」とリカルドが返す。けど、無理なんだよ、とキッドが震えた声で口を開いた。
「俺たちのアジト、実は今……厄介な魔物に乗っ取られていて……」
「魔物?」
「ああ……そいつがとんでもねえ化け物なんだよ! 俺たちが集めた金品ごと全部奪いやがって! だから最近はアジトにも帰れず、食い物はここで旅人から奪って生活してたんだ! そいつが……!」
声を張り上げるキッドに、他のメンバーも次々と目を覚ました。ぎゃあぎゃあとそれぞれ違った言葉で騒ぎ出す。
「っ、うるさい! 早く黙らせて」
「うおい! お前ら騒ぎ立てるんじゃねえ!! 堂々と構えろ!」
冷たく見下ろすリーゼロッテにキッドが慌てて声を張り上げた。随分当たりが強い。かなり苛立っているのか、よく見れば眉間に皺が寄っている。ひとまず元気になって良かったと、リカルドは深く考えることをやめた。
「で? 魔物って?」
「コルウスって鳥の化け物……知ってるか?」
その言葉にリーゼロッテは眉を顰めた。確か森に住む怪鳥……見た目は黒く、どこにでもいる野鳥のようだが、その狂暴さと大きさは野鳥の比じゃない。
「あいつが突然現れて、俺たちのアジトの上に巣を作りやがった! あそこに近づく奴らはみんなあいつに食われちまうでろくに近づけねえんだよ……俺たちの仲間も……」
俯き、悔しそうに唇を噛み締める様子に、リーゼロッテも強くは言えなかった。どの道賊には変わりないようだが、ここで旅人を襲ってるのにも理由があるようだ。
「……金品ごとっていったよね。もしかしてアジトに穴とか空いてたりする? 集めた金品が上から見えそうな」
「よく分かったな! 日が出てる時は岩で隠していた穴を解放して光を取り込んでいるんだよ! その方がキラキラ輝いて綺麗に見えるだろ?」
俺の考えだ! と鼻を鳴らせるキッドに「ばっかじゃないの」とリーゼロッテが目を細めた。
「コルウスは光りものが大好きなの。正確には光を識別してるってところだけど。大方、その宝の光に反応して巣にしたんでしょ。あいつらは光り物で遊んだり巣を作ったりするから……」
「ってことは! オレの斧も!?」
ふざけんな! と胸ぐらを掴んで激しくキッドを揺らすリカルドに「また気絶しちゃうよ」とリーゼロッテが止める。
「だって……キラキラしてたからつい、高額な何かと……!」
「オレの宝だから曇り一つつけずに毎日欠かさず磨いてたんだよ!! どうしてくれるんだ!!」
「んな事言われましても……」
その光景にはあ、とため息をついた。キラキラしたものに反応しているなら、奪ったこいつの脳もコルウスと同等レベルだなと心の中で毒を吐く。
「ちくしょう……オレの斧が……」
ガックリと膝をつく様子に余程大切なものだったのだと思った。先程、自分に投げかけてくれた言葉の数々を思い出しいたたまれない気持ちになってから「じゃあ」と口を開く。
「コルウスを巣から追い出したら、貴方達はここで旅人を襲うことはしないんだね」
えっ、とキッドが顔を上げる。リカルドも驚いたように目を見開いた。
「嬢ちゃん! 何を!?」
「害鳥退治。リカルドさんの斧も取り戻せるし」
どちらかと言うと後者がメインだが。「無茶を言うな!」慌ててキッドが声を張り上げた。
「ブルーよりも一回り大きい上に空も飛ぶ! あんなの火を吹かないドラゴンと一緒だ!」
「大きい相手と戦うのは慣れてるからさ」
最近ちゃんと魔物と戦えていなかったし、ガジェットアームの練習にもなる。人喰いだと言われても動じる様子のないリーゼロッテに、リカルドは何度も瞬きを繰り返した?
「嬢ちゃん、無理はいけねえよ。さっき言ったろ? なんで会ったばかりでそこまでする……?」
「斧はリカルドさんの大切なものなんでしょ?」
私にもあります、そう首から下げたものをギュッと握りしめた。矢筒についたお守りが風に吹かれキラリと光る。
「大切なものを取り返すのに理由が必要ですか?」
アレクを連れ戻すのと何ら変わりない。その言葉に、リカルドは真っ向から風を感じた。そうか、アレクが彼女のために命を張った理由がわかった気がすると、笑う。
「……わかった。オレも行く。元よりオレの斧だしな」
「ええ!?」
この人たちは話を聞いていなかったのだろうかとキッドは目を丸くした。下手したら死ぬかもしれないと言ってるのに―――こんな、襲ってきた自分たちのためにと、胸が熱くなる。
「ちょっと待ってくれ。それなら、俺も連れて行ってくれないか?」
あ? と未だ機嫌が悪そうにリカルドが見下ろす。その圧に少しびびったが「斧を奪ったのは謝る!」とキッドが頭を下げた。
「アジトに行くまでは少し複雑でな。そこまで案内してやる! そして、俺にも戦わせてくれ! 仲間の仇を打ちたい……」
先程の情けない様子とは打って変わっていた。 一人のリーダーとしてのキッドの顔がそこにはある。
「そう言ってお前、逃げる気じゃねえよなあ?」
「逃げるつもりはない! 正直、ここにいるヤツらは居場所を失って道を外れた奴らばかりでよ……かく言う俺もその一人だ。一緒に何年も馬鹿やってたりしたら、そりゃあ家族も同然みたいなもんだ。見捨てる訳にはいかねえ……なにより頭としてアジトを取り戻す責任がある! 頼む!」
頭ァ、涙ぐむ声があちこちから聞こえてくる。なるほど。こんな馬鹿な頭にこれだけ多くの人達がついてきている理由が何となくわかった気がした。「リカルドさん、彼を連れていこう」とリーゼロッテが見上げる。
「でも……こんなやつだぞ! 嘘かもしれねえ……!」
「嘘じゃないよ。私が保証する」
そう言ってリーゼロッテはキッドだけの縄を解いた。すまねえ、とキッドが頭を下げる。
「頭が行くなら俺達も行きます!」
「おい! お前! 俺たちの縄を解け!!」
頭だけには行かせないと、声を上げる様子に「うるせえ!」とキッドが怒鳴る。
「俺はレヴィナンテ一の大盗賊、キッド様だぞ! そんな俺があんな化け物にやられるとでも?」
へい! 仲間たちが元気よく声を合わせて言った。んだと! と大口を開けていうキッドに、本当になんでこの人が頭なのかと疑問に思う。
「とにかく! お前らみてえな馬鹿共を置いて死なねえ! 大人しく待ってろ!」
ガニ股でズカズカと怒り散らしながら歩き出すキッドに、二人は呆れて嘆息する。本当に子供のような男だ。
◆
キッドの言うように岩の迷路は思いの外複雑で、数十分かけて奴らのアジトにたどり着く。森を背にした、岩のアジトだ。岩を重ねるようにしたそれは自然にできたものとは考えにくい形状をしており、その上に黒く丸い物体が乗っている。
「……うわあ、いる……」
あれだけ威勢を張っていたキッドが首を竦め、リカルドの後ろに隠れる。隠れてんな、と腹立たしさが見える口調でキッドの首根っこを掴み、リカルドが引きずり出した。
「……っ、くる」
丸い物体は縦長に変形し、大きく両の翼を広げた。目から何まで真っ黒な顔を現し、かと思えばその大きな嘴を開け、鼓膜を劈くような声で鳴いた。最早、擬音にも表せない声だ。
「……っう!!」
強風に髪をバタバタとなびかせた。あまりの轟音に耳を抑え、上半身を丸め込むように堪える。コルウスは大きな翼で宙を仰ぎ、更にこちらに風を送り込んだ。
「わっ……」
他と二人とは違って体格のないリーゼロッテが風に飛ばされそうになる。が、リカルドは「しっかりしろ!」と手を掴んだ。
「あ、ありがとう!」
その言葉を聞いてリカルドが前を向くと、コルウスはゆっくりと宙に浮いた。突進してくるように飛んでこられ、三人は二手の方向に逃げる。その間、当たった木は倒され、半ば災害のようだった。
「困ったな。飛んでいたら攻撃なんてできない……」
見上げるリカルドに「でも、離れた」と余裕そうなリーゼロッテが答える。
「今のうちに金品を隠しましょう。岩で隠していたってことは、隠せる方法はある。興味がなくなればあいつがここにいる理由はない」
「なるほどな」
キッド! とリーゼロッテが周囲を見回す。が、先程バラバラに逃げたキッドの姿がどこにもない。逃げたか? と思った矢先、空から「助けてくれぇ~」と声が聞こえてきた。
「うげっ、あのバカ……光り物なんて身につけてるから……」
先程ちゃんと習性を伝えていたのに。助けようにも今矢を放ったら、確実に叩き落とされて死ぬだろう。空を旋回するコルウスに困ったと眉を下げた。攻撃しなくても地面に叩きつけられるのは時間の問題かもしれない。
「……仕方ない。私が奴を引きつけるので、隙を見てキッドの救出を。その後に、金品をなんとか隠してください」
「えっ、隙って!?」
「頼みます!」
半ば押し付けるようにしてアジトから少し離れる。リカルドの体じゃ怪我の治りが遅い。多少のことでは壊れない自分が戦った方がいいと思ったのだ。引きつけるといえば光り物―――あるのはこれしかないと、矢筒からお守りを取り出す。
「こい!!」
ルシールのお守りを掲げ、太陽光を反射させる。それに気づいたコルウスが急旋回し、リーゼロッテに向かってきた。距離を離すようにして走り出す。興味を惹いたせいか、地面に近づきながらコルウスがキッドから手を離す。
「うわあああ!!」
滝のような涙が、重力に逆らって上に登っていく。リカルドも全力で走るが間に合いそうにない。もうダメだ、とキッドが目をつぶった時、何やら裏の森から黒い物体が飛び出してきた。ぼよん、と柔らかな体に弾かれて落ち着く。
「ぶ、ブルー!!!」
キッドを受け止めたブルーはどすんとその場に座った。背中のキッドは「お前なら来てくれると思ったぜぇ~」と背中に顔を擦り付ける。
「はあ……驚いたな」
先程たんぽぽに負けていたが、こいつとブルーの友情は本物みたいだ。一息つくリカルドに「これがブルーと俺の絆だ!」とキッドが声を張る。
「……まあ、それはいい。金品の隠し方、お前知ってんだろ?」
「ああ! 実は天井に薄い岩の板があって……と言ってもかなりの重さなんだが……」
「それならさっさと行くぞ!」
今はあの嬢ちゃんを信じるしかない。無理やり首根っこを掴んで引きずるリカルドの反対側ではリーゼロッテがコルウスと向き合っていた。ギリギリまで引き寄せてから「渡すもんか」とお守りを懐にしまい、火薬筒矢を弓に装填した。飛んでくるコルウスに構える。外したら死を覚悟しなくては。
「まずは、片目」
パッと思い切りよく手を離し、矢を放つ。目が回復した今では、狙いを撃ち抜くのは造作もない。突き刺さった矢は爆発し、その衝撃で飛んできたコルウスが傾いた。倒れた隙にもう片方、と思っていたが、よたつきながらもこちらに向かってきたコルウスは体当たりし、お守りを奪うと、リーゼロッテを足で鷲掴んだ。
「なっ……!」
どんどん遠くなる地面と、急激に上昇したことで目眩がした。足をバタバタさせながら離れようとしたが、大きな鉤爪の足は隙間もできない。剣鉈を取り出し何とか指の隙間に差し込もうとすると、コルウスが足を離した。
「あっ……」
この位置から落とされるのは流石に死ぬ。けど、死んだらまた時間がかかるかもしれない。そしたら、ルシールさんが……と見えていた両手を拳にした。ガジェットアームからワイヤーを放ち、コルウスの足に引っ掛けた。宙ぶらになりながらもゆっくりと足の方に戻っていき、更にコルウスの体に上っていく。
「ふぅ……ふぅ……」
寒い。酸素が少ない。体に上られ、嫌がったコルウスがわざと激しく方向を変えたりして飛行する。振り落とされそうになりながらも何とかしがみつき、コルウスの頭に近づいた。
「それを……返せ!!」
大きく振り上げた剣鉈をコルウスの目に突き刺した。ビギュイイイイ! 悲痛な声がはっきりと聞こえ、羽ばたく行為が止まる。同時に口から離れたお守りをしっかりと掴み、リーゼロッテは強く抱きしめた。雲を突き抜け、ぐるぐると回るようにして落ちていくコルウスに、必死でしがみつく。
「嬢ちゃんが!」
落ちていくコルウスに、リカルドは声を上げた。金品を隠し終え、アジトの上から落ちていくコルウスにどうすることも出来ずに眺める。
ドゴォン!
大きな音が振動とともに辺りに響いた。アジトの近くに落ちたコルウスに、リカルドは慌てて駆け寄る。砂煙が立ちのぼる中、閉じきっていない半開きの羽がぴくぴくと痙攣していた。
「はあ……っ」
その中で勢いよく細い腕が突き上げられた。ふう、と長い息をついて立ち上がったのは、赤頭巾の少女である。その手には取り返したお守りがあった。
「すげぇ……本当に嬢ちゃん一人で倒しちまった……」
フラフラしながらコルウスから降りてくるリーゼロッテに感心していると、背後にゆらりと黒い影が立った。
「ガッ、グァッ……ゼェ……ソレヲ……ガエセ……!」
濁点混じりの、どこかで聞いたことがある言葉だ。ブルーの存在に気が大きくなっているキッドは「まだ生きてるのか」と呟き、足で青い体をノックする。
「奴はどうせ死にかけてる! ブルー! 俺たちがトドメを刺してやろうぜ!」
走り出すキッドに「待って! 迂闊に動いたら……」とリーゼロッテが止めようとする。次の瞬間、コルウスが大きく反ると、向かってくるブルーに向かって強く嘴を振り下ろした。その凄まじい速さと強さは爆発のようで、ブルーは地面にめり込み、白目をむいて地に伏す。
「なっ……」
死にかけでもこの力なのか。血肉の糸を引いて上げられた嘴に「ブルー!!」とキッドが目の色を変える。
「……っ、よくも! ブルーを!」
怒りのまま振りかざしたキッドのサーベルに反応し、コルウスは翼で受け止めた。その鋼鉄の如く硬い翼に呆気なくサーベルが折れる。
「ピギャッギャッギャッ!!!」
羽を振り払うようにして吹き飛ばし、キッドは背中を強く打ち付け、項垂れる。地面に倒れながら、リーゼロッテはコルウスを見上げた。自分はこいつのおかげで地面直撃を逃れたが、奴は直で地面に叩きつけられたというのに。なんて丈夫なやつだ。骨折し、動けない体を引きずるように尻をつきながら後退する。再びコルウスが自分に向かって嘴をふりかざそうとした時だ。
軽快な足音が背後から聞こえてくる。それはきらりと光る斧を持ち、コルウスに飛びかかると、横切るようにして斬りつけた。着地と同時に、コルウスの首がずり落ち、噴水のように真っ赤な体液が溢れ出す。
「取りに行ってる時間を稼いでくれてありがとうよ、ブルーとキッド」
血に濡れながらリカルドは呟いた。動けないリーゼロッテの方を振り返り、ニッと笑う。
「悪いな、嬢ちゃん。一番いいところ持っていっちまって。これがオレの相棒の力だ」
「リカルドさん……」
斧を回して地面を突いてから「立てるか?」と手を差し伸べる。「ありがとう」リーゼロッテは力なく微笑んでその手を取った。
「うーん……」
「キッド、大丈夫?」
どうやら気絶しているみたいだ。まあ、彼がそんな簡単に死ぬとは思えないがと、ブルーの方を見る。
「ブルー……」
じわりと涙が滲むリーゼロッテに、リカルドは無言で頭を撫でた。
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