悪役令嬢vs腹黒王子〜時々性悪ヒロインと毒舌執事〜

そら。

文字の大きさ
上 下
24 / 38
2.婚約破棄まであと5ヶ月

7.悪役令嬢と髪飾り

しおりを挟む
夏祭りの準備で大通りはとても賑やかな雰囲気だった。
私はその雰囲気だけでも楽しかったが、アレンはまだ難しい顔をしている。それに周りを気にしているようだった。まあ、ひったくりに遭遇したから街の警備について考えているのだろう。
アレンはいつも街や国の治安を気にしている。
子供の頃、みんなが平和で暮らせる国にしたいと言っていた。きっと今もその気持ちは変わっていないのだろう。


「…アレン様、食事は今度にしますか?」

「え?」

「街の警備が気になっているのではありませんか?夏祭りに向けて警備の見直しが必要だと思っていますよね。」

本当は私を優先して欲しい。
だって今日のデートはすごく久しぶりだったし楽しみだった。それにもしかしたら今日が最後のデートになるかもしれない。
でも私はすべての負の感情に蓋をする。

第一王子の婚約者として、物分かりのいいフリをして笑って彼をサポートするべきだ。

アレンは自分の手を顎に当て少し考えてから話し出した。

「…そう、だな。白昼堂々と犯罪が起こるようでは警備が足りないのだと実感した。夏祭りの時期は外国からの要人や観光客も増えるからフィルコート王国の信用問題にも関わってくるしな。だが、食事はしよう。キーナとの約束は守らないとな。」

難しい顔をしていたアレンは私を見て僅かに微笑んだ。

ああ、まずい…。

なんて眩しい微笑みなんだろう。
真剣な表情からの砕けた微笑み。このギャップ。正直言ってカッコいい。

どうせ婚約破棄されるなら、いっそ嫌いになりたいのに…。
私はきっとアレンを嫌いになるなんて一生出来ないのだろう。
これが惚れた弱みってヤツなのね。





私たちは食事を終え、帰宅することにした。
トラブルにも巻き込まれ、予定よりも早い帰宅になってしまったが、高級レストランの食事は美味しかったし、大通りの観光もできた。何よりアレンとの久しぶりのデートはやっぱり楽しく充実した1日だった。

帰りの馬車の中、アレンは私に可愛くラッピングされた袋を渡した。

「これは?」

「髪飾りだ。さっき出店で買った。本当はキーナが欲しいものを買いたかったが、お前は何もいらない、と言っただろ。…だから勝手に選んだ。」

アレンはぶっきらぼうに答えて外を眺めた。照れ隠しだろうか。
私は少し可笑しくなり、こっそり笑った。
袋を開けてみると、金の細い装飾とエメラルドが散りばめられた綺麗な髪飾りだった。
アレンは勝手に選んだと言ったが、この髪飾りは出店で可愛いなと思い、私が手に取った物だった。

気付いてくれてたんだ…。

私は髪飾りを手に取り、オレンジ色に変わりはじめた太陽の光に透かした。
金の装飾がキラキラと光り、エメラルドは美しく輝きを放つ。

「きれい…。」

嬉しいのに悲しくて涙が出そうになった。

アレンとはこんなにも幸せで穏やかな時間が過ごせるのに、5ヶ月後にはこの関係も終わってしまう。

私の何がいけなかったのだろうか。
私はこんなにも幸せなのに、アレンは私と居ても幸せを感じていないのだろうか。
今、こうして私と過ごしている間もメアリーの事を想っているのだろうか。
もうアレンが私の事を好きになる事はないのだろうか。

ー…アレン様は酷い男ね。
好きでもない女に優しくするなんて。

私は髪飾りをそっと握りしめ胸に抱いた。

「ありがとうございます、アレン様。この髪飾りは一生大切にします。」

私は涙を飲み込み、笑顔を作った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでのこと。 ……やっぱり、ダメだったんだ。 周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中 ※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

処理中です...