純粋で一途な命の恩人を50年放置してたらグレた。

そら。

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その後の勇者と魔王(短編)

1.魔王様は小学生

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(俺がこの人を幸せにしたい。)

倒すつもりだった魔王に会った瞬間、大和はそう思った。

人生で一目惚れなんてした事はなかったが、きっとこの感情が一目惚れだ。俺がこの人を一生守っていくんだ。

大和はそう確信して魔王を自分の世界へ連れていった。


魔王の手を握ると眩い光に包み込まれ、元の世界へ戻ってきた。

「すげー!こんなに簡単に戻れるのか!あ、魔王様!ここが俺の世界です!…へ?」

大和はそう言って魔王を見ると言葉を失った。
先程まで自分より背の高かった魔王の姿は子供の姿に変わっていたのだ。

「え!?なんで魔王様、子供になってるんすか!?」

魔王も自分の両手や足を見ながら「本当だ。小さくなってる…。」と冷静に驚いていた。

「体は大丈夫ですか?痛い所はないっすか?」

「うん、大丈夫。でもすごいね。本当に魔力が消えてる。」

魔王は嬉しそうに顔を輝かせた。
大和はその笑顔を見ただけで、心がじんわり温かくなった。

「そうですか。良かった!魔力が使えなくて不便に感じる時もあるかもしれないすけど、その分この世界はテクノロジーが進化してるから安心してください!っつっても、これからどーするかな。戸籍とかどーすればいいんだ?つか、魔王様が子供なら学校行くべきだよな?つか、なんで魔王様は子供になっちゃったんだろ…。」

大和が頭を抱えていると、老人が魔王に近づいてきた。

「あんた、異世界人かね?珍しいねぇ。」

「え?なんで分かるの?」

魔王と大和はびっくりして老人を見た。

「私も大昔に異世界からやって来たんじゃ。あんた、来たばかりかい?それなら市役所へ行きなさい。異世界人申請をすれば、戸籍が貰えるよ。」

「異世界人申請?そんなことを市役所でやってくれるんですか?」

「そうじゃよ。この世界は意外と異世界人が人間に紛れて暮らしているんじゃよ。いやぁー、異世界かぁ。懐かしいのぉ。ふぁっふぁっふぁっ。」

そういって老人は笑いながら去っていった。

大和は、魔王を連れて半信半疑で市役所へ向かった。





「異世界人申請ですね。ではこちらの用紙にご記入ください。」

市役所の窓口で笑われるかと思いながら恐る恐る聞いてみると、受付の女性は当たり前のように申請書を差し出した。

「すごい、本当にあるんだ…。」

大和は感心しながら申請書を見た。

申請書には名前、住所、生年月日などを書く欄があった。

「魔王様、名前と生年月日と住所って分かります?」

「僕には名前が無いんだ。いつ生まれたかも分からない。住所も知らない。」

「ですよねー。あの、すみません。彼、前の世界では魔王様で名前とか何も分からないんですけど…。」

大和は受付の女性に一応相談してみた。

「そうですか。であれば、ご自身でお好きな名前と生年月日をお決めください。住所は同居する方と同じ住所で良いですよ。」

あまりにも淡々と答える女性に、大和は気になっていたことを聞いてみた。

「わかりました。すみません、あとー、彼、前の世界では大人だったんですけど、こっちの世界に来たら子供の姿になっちゃったんです。その理由って分かります?」

「ああ、おそらく異世界移転時に適応年齢調整があったんでしょうね。」

「適応年齢調整?」

「はい。元の世界で大人だったとしても、新しい世界の常識や教養を学び直す必要がある時に年齢が調整されるんですよ。そちらの方はー…そうですね、12歳くらいに見えますね。この世界で暮らしていくなら小学生から学ぶべきだと年齢調整が入ったんでしょう。
例えば12歳で申請を出せば、小学6年生として学校に通えますよ。」

「そう、なんすね。」

大和は魔王を見た。

「だってさ、魔王様。小学6年生からこの世界で生きてみます?」

「よく分からないけど、いいよ。小学校行ってみたい。」

「了解っす。あと名前はどうします?自分で決めていいってさ。」

「名前はなんでもいいよ。大和が決めてくれ。」

「えー…、魔王様、まおうさま…まお。真央マオなんてどうっすか?」

「うん、いいよ。」

大和は安易すぎか、と思いながら提案した名前に魔王は嬉しそうに微笑んだ。

こうして大和と魔王改め稲川真央(12歳)とのこの世界での暮らしが始まった。
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