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105.祖母との約束
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グレイは持ってきた花束をリリィの墓の前に置き、手を合わせた。
楠の葉が穏やかな風に吹かれ、カサカサと心地良い音を降らす。
ー…「グレイ、あなた日差しが苦手なんでしょう?私の麦わら帽子だけど被ってなさい。古いけど、涼しいでしょ。ふふ、よく似合ってるわ。」
いつしかの帽子を被せてくれたリリィを鮮明に思い出す。
今も果樹園からリリィがひょっこり現れ「いらっしゃい。」と笑いかけてくれるんじゃないかと期待してしまう。
「リリィが死んじゃったなんて実感湧かないなぁ…。」
グレイはしばらく楠の下で果樹園を眺めていた。
すると、男性がこちらへ向かってくるのが見えた。さっき挨拶したデイビットだ。
しゃがみ込んでいたグレイは立ち上がってデイビットを迎えた。
「今日はいつもに増して心地よい風が吹いてますね。ここは祖母のお気に入りの場所だったんですよ。」
「うん。素敵な場所だ。」
「グレイさんに渡したいものがあって持ってきたんです。ちょっと俺と話しませんか?」
そう言ってデイビットは優しく微笑みかけた。
やっぱりリリィの目元によく似ている。
「うん。いいよ。」
2人は楠の下に腰を下ろした。
そしてデイビットは白い封筒をグレイに渡した。
「祖母から預かったあなた宛の手紙です。受け取ってくれませんか?」
「えっ、リリィから俺に!?」
グレイはその封筒を受け取った。
「そうです。祖母が死ぬ間際、グレイさんが来たら絶対渡すようにと言われていたんです。あー、やっと祖母との約束を果たせました。」
「そっか、ずっと持っててくれたんだな。ありがとう。俺、手紙なんて初めてもらった。
リリィには弁当も初めて作ってもらったんだ。それに俺の話もいっぱい聞いてくれてさ。なのに俺はリリィに何も返せなかったな。」
グレイは悔しそうに封筒を見た。
「まあ、世話好きの祖母でしたからね。見返りなんて求めてないと思いますよ。グレイさんの可愛い恋の話を聞くのは随分楽しかったみたいですし、お弁当もすごく喜んでくれて嬉しかったと何度も話してましたよ。グレイさんの話をしている時の祖母は本当に楽しそうでしたよ。」
「なら良いけど…。」
すると果樹園の方で誰かがデイビットに向かって手を振っていた。
「ああ、もう呼ばれてしまいました。俺は仕事に戻りますね。あ、今日はぜひ夕飯も食べていってください。あそこに見える緑の屋根の家が俺たちの家です。」
そう言ってデイビットは指を刺した。
整備された庭の中にシンプルで可愛らしい家がぽつんと建っている。
「グレイさんに夕食をごちそうするのも祖母との約束なんです。ルインハルトさんにはすでに許可は取ってあるので、後で寄ってもらえますか?」
「分かった。色々ありがとうな。」
「いや、お礼を言うのは俺たちの方です。グレイさんには本当に感謝してるんですよ。」
デイビットは相変わらず優しそうに笑っている。
「…?俺、お礼言われるような事なんてしてないけど?」
グレイが不思議そうに尋ねると、デイビットは少し面白そうな顔をして「理由はその手紙に書いてあると思いますよ。」と答えた。
「じゃあまた後で。」
デイビットは頭を下げ、来た道を戻っていった。
グレイは渡された封筒を開けた。
楠の葉が穏やかな風に吹かれ、カサカサと心地良い音を降らす。
ー…「グレイ、あなた日差しが苦手なんでしょう?私の麦わら帽子だけど被ってなさい。古いけど、涼しいでしょ。ふふ、よく似合ってるわ。」
いつしかの帽子を被せてくれたリリィを鮮明に思い出す。
今も果樹園からリリィがひょっこり現れ「いらっしゃい。」と笑いかけてくれるんじゃないかと期待してしまう。
「リリィが死んじゃったなんて実感湧かないなぁ…。」
グレイはしばらく楠の下で果樹園を眺めていた。
すると、男性がこちらへ向かってくるのが見えた。さっき挨拶したデイビットだ。
しゃがみ込んでいたグレイは立ち上がってデイビットを迎えた。
「今日はいつもに増して心地よい風が吹いてますね。ここは祖母のお気に入りの場所だったんですよ。」
「うん。素敵な場所だ。」
「グレイさんに渡したいものがあって持ってきたんです。ちょっと俺と話しませんか?」
そう言ってデイビットは優しく微笑みかけた。
やっぱりリリィの目元によく似ている。
「うん。いいよ。」
2人は楠の下に腰を下ろした。
そしてデイビットは白い封筒をグレイに渡した。
「祖母から預かったあなた宛の手紙です。受け取ってくれませんか?」
「えっ、リリィから俺に!?」
グレイはその封筒を受け取った。
「そうです。祖母が死ぬ間際、グレイさんが来たら絶対渡すようにと言われていたんです。あー、やっと祖母との約束を果たせました。」
「そっか、ずっと持っててくれたんだな。ありがとう。俺、手紙なんて初めてもらった。
リリィには弁当も初めて作ってもらったんだ。それに俺の話もいっぱい聞いてくれてさ。なのに俺はリリィに何も返せなかったな。」
グレイは悔しそうに封筒を見た。
「まあ、世話好きの祖母でしたからね。見返りなんて求めてないと思いますよ。グレイさんの可愛い恋の話を聞くのは随分楽しかったみたいですし、お弁当もすごく喜んでくれて嬉しかったと何度も話してましたよ。グレイさんの話をしている時の祖母は本当に楽しそうでしたよ。」
「なら良いけど…。」
すると果樹園の方で誰かがデイビットに向かって手を振っていた。
「ああ、もう呼ばれてしまいました。俺は仕事に戻りますね。あ、今日はぜひ夕飯も食べていってください。あそこに見える緑の屋根の家が俺たちの家です。」
そう言ってデイビットは指を刺した。
整備された庭の中にシンプルで可愛らしい家がぽつんと建っている。
「グレイさんに夕食をごちそうするのも祖母との約束なんです。ルインハルトさんにはすでに許可は取ってあるので、後で寄ってもらえますか?」
「分かった。色々ありがとうな。」
「いや、お礼を言うのは俺たちの方です。グレイさんには本当に感謝してるんですよ。」
デイビットは相変わらず優しそうに笑っている。
「…?俺、お礼言われるような事なんてしてないけど?」
グレイが不思議そうに尋ねると、デイビットは少し面白そうな顔をして「理由はその手紙に書いてあると思いますよ。」と答えた。
「じゃあまた後で。」
デイビットは頭を下げ、来た道を戻っていった。
グレイは渡された封筒を開けた。
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