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102.あの人の願い

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「ルーフって意外と面倒見いいよな。」

「あ?」

「だって、俺たちの事なんて興味ないって言ってたけど、結局俺の魔力が戻るまでそばにいてくれただろ。ルイも色々アドバイスもらって助かった、って言ってたぞ。」

ルイとルーフが再会していなければ、グレイはまだ洞窟の中だったかもしれない。そしてルイと結ばれたのもルーフが動いてくれたからだ。

「ルーフ、本当にありがとう。」

グレイが頭を下げてお礼を言うとルーフは「それは違うな。」と笑った。

「俺は本当にお前らの事なんかどうでもいいんだよ。そもそも俺は竜人が嫌いだしな。…ただ『あの人』がお前の幸せを願ってたんだ。」

「あの人?」

グレイはピンと来ない顔をしている。

ルーフは空を見上げ、50年前に姿を消した魔王を思い出す。


それは時計台から爆発音が聞こえ、ルイとグレイの気配が消えた日。
魔王は2人の無事と幸せを願うようにポツリと言った。

ー…『あの2人には幸せになってほしいからさ。』

ルーフはその言葉がずっと気にかかっていた。

元々魔王は誰もやりたがらない城の雑用係を一生懸命こなすグレイを可愛がっていた。
グレイが会いたいと願えば会いに行っていたし、グレイが手入れをした庭園を好んで散歩していた。
だから魔王がグレイを気にかける事は分かるが、なぜルイの無事まで願うのか、その時のルーフには理解できなかった。

しかし、今ルイと結ばれ幸せそうなグレイを見てその理由が分かった。

ー…あの時、魔王様にはグレイを幸せにする相手がルイだと見抜いていたんだろうな。

結局、魔王はグレイの幸せを願っていたのだ。
そんな魔王の願いを叶えるためにルーフはルイとグレイに手を貸しただけだった。

ルーフはグレイの頭をガシガシと撫でた。

「わっ、何すんだよ!」

「グレイ、もしあの竜人が嫌になればさっさと捨てたっていいんだ。自分を大切にして自分の幸せを一番に考えろ。それが魔族の生き方だ。困った時はシーラにでも頼るといい。お前は馬鹿だけど純粋で可愛いところもある。きっと誰か手を貸してくれるさ。」

ルーフはニカッと笑った。グレイもつられて笑ってしまう。

「ひひっ、捨てないよ!ルイと一緒にいる事が俺の一番の幸せだもん。でも、ありがとう。ルーフも元気でいてね。困った時は俺が手を貸すよ。」

「うーん、そりゃ頼りない手だけど覚えといてやるよ。じゃあな。」

ルーフは最後まで意地悪そうな笑い方をして片手を上げた。

「うん!じゃあね、またね!!」

グレイも思い切り手を振る。

強い風が吹き目を瞑ると、もうそこにはルーフの姿はなかった。






仕事の連絡で呼ばれていたルイがグレイの元へ戻るため廊下を歩いていると、風が吹きルーフが現れた。

「もう帰るのか?」とルイが尋ねようとした瞬間、ルーフの拳が飛んできた。
すぐに腕で防御し攻撃を躱す。しかし次は回し蹴りが飛んできた。ギリギリのところで躱すが、ルイはバランスを崩して膝をついた。なぜルーフが攻撃してくるのか理解が出来ない。

「急に何をするんだ!」

「急じゃないさ。ずっとお前をぶん殴りたかった。」

会話をしている間も次々とルーフは攻撃を仕掛けてくる。ルイも応戦し、ルーフを蹴飛ばした。壁まで飛ばされたルーフはその反動を使って、再びルイに飛びかかる。
ルイが攻撃魔法の構えをした瞬間、ルーフは「あ、グレイだ。」と言って外を見た。ルイもつられて外に目を向けた一瞬の隙にルーフは思い切りルイを殴って、今度はルイが壁まで飛ばされた。

「いってー、お前、防御魔法使ったろ。指の骨折れたわ。」

ルーフは殴った手を痛そうに振った。

「防衛本能だ。それよりどういうことだ。」

腫れた頬を押さえ、ルイが睨む。
ルーフは真剣な表情で言った。

「お前、絶対グレイを幸せにしろよ。グレイはお前を命懸けで守ったせいでこの50年間、何度も傷付いたんだ。今度はお前が死ぬ気で守れ。」

ルイも真剣な表情で「もちろんだ。誓うよ。」と答えた。するとルーフは得意げにニヤッと笑い、頬を指差した。

「へへっ、痛かったか?」

「いや、全然。」

ルイはあえて平然と答えた。

「…あっそ。」

ルーフはつまらなそうに腕を組んだが、すぐに悪戯を思いついたような笑みをした。

「そういえばグレイ、シーラの店でモテてたぞ。シーラが目を光らせてたから言い寄られはしなかったみたいだけど、庇護欲掻き立てられる、つって狙ってる奴が何人かいたってさ。もしかしたらお前以上にグレイの好みの奴もいたかもな。まあ、守る前に捨てられないように励めよ。じゃあな。」

拳よりも強い精神的攻撃を受けて動けなくなったルイを残し、ルーフは姿を消した。
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