純粋で一途な命の恩人を50年放置してたらグレた。

そら。

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94.愛しい存在

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今から数時間前、ルイが帰宅すると部屋にグレイとルーフはいなかった。執事からルーフの手紙を預かっていると渡された。

『グレイとシーラの店で飲んでくるから心配するな。まあ、グレイがお持ち帰りされても責任はとらないけどな。ガハハ。』

ルイはルーフの手紙を破り捨て、シーラの店に向かった。



シーラの店に着きドアノブに手をかけると、中からは陽気な笑い声が聞こえてきた。ルイは急に怖くなった。

今のグレイは私の事を好きじゃない。
むしろ拒絶されている。

もしかしたら、ルイのいない場所で心置きなく楽しんでいるかもしれない。
シーラの店には血液パックを扱う魔女もいるからそれを飲んでいるかもしれないし、誰かから血を貰っているかもしれない。
気の合う人が見つかって、2人で楽しく飲んでいるかもしれないし、そのままどこかに行くかもしれない。


「はぁー…。呼ばれてもない私が現れたら迷惑だよな…。」

ルイはドアノブから手を離し、入口の前から離れた。

やっぱり帰ろう。
せっかく自由になれたグレイの行動を制限することはしたくない。
でもきっと目の前で知らない奴とグレイが仲良く飲んでいたらきっと連れて帰ってきてしまう。
体調が良くなるまではルイの屋敷で過ごす事を約束してくれた。今日はどこかに泊まったとしても、きっと戻って来てくれるだろうし…。

誰かがグレイとホテルへ行く想像をすると胸が苦しくなった。すぐにでも自分のところへ帰ってきて欲しい。やっぱり今すぐにでも連れ戻したい。

帰ろうとした足はなかなか動かず、立ち尽くしているとカランカラン、と店の扉が開く音がした。

顔を上げればグレイが飛び立とうと羽をパタパタと広げている。

「どこに行くんだ?」

ルイは思い切って声を掛けた。

グレイはびっくりした顔をしてから目線を逸らし「お前の屋敷に帰るんだよ。」と言って自分の鼻を掻いた。

ルイは嬉しくてグレイを思い切り抱きしめたくなった。でもきっと嫌がると思い、なんとか我慢した。

「じゃあ一緒に帰ろう。執事からお前たちがシーラの店に行ったと聞いて迎えにきたんだ。邪魔したら悪いとは思ったんだけど…。」

なんだか勝手に言い訳をしてるな、と恥ずかしくなり、歯切れの悪い話し方をした。

「ルイは邪魔じゃないよ。それより早く屋敷へ帰ろう。…血をくれるんだろ?」

「ーっ!!」

ルイはもう我慢できず思いきりグレイに抱き付いた。

「うわっ!急になにするんだよっ!」

グレイがバタバタと暴れたが今は離したくない。

「ありがとう、グレイ。あげるよ。私の血なんかいくらでもあげる。だから一緒に帰ろう。」

「…うん。」

グレイが小さく返事をした。

ああ、なんて可愛いんだ。
ちょっとした言動でルイの気持ちを掻き乱し、最後は必ず幸せな気持ちにしてくれる。
可愛くて愛しい大切な存在だ。




自室に戻るとルイはグレイを膝に乗せ向き合ってソファに座った。

「なに、この格好。恥ずかしいんだけど…。」

グレイは恥ずかしそうに少し呆れながら言った。

「この体勢の方が血を飲みやすいだろ。ほら、好きなだけ飲んでくれ。」

ルイはシャツの襟を広げた。
グレイはドキドキしながら首筋に顔を近づけると、痣が残っていた。

「あ、前に噛んだところ、痣になってるな。この間は急に噛み付いてごめん…。」

「全然いいさ。むしろグレイが付けた痕は一生残しておきたいくらいだ。」

ルイは嬉しそうに、ふふっと笑う。

「よくそんな恥ずかしい事言えるな…。じゃあ噛むぞ?」

「ああ、好きなだけどうぞ。」


首筋をペロリと舐められた後、チクリと痛みが走る。

ああ、痛みさえ愛おしい。

ルイはこの時間が一生続いて欲しいと願った。
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