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85.泥酔グレイ

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「弱体化した魔族の言葉っすか?それは魔族でも理解できるヤツは少ないっすよ。」

そう答えたのは商会の仲間で人の姿をしたタヌキ魔族のククルだった。
仕事の休憩中にククルに会ったルイは、グレイの言葉を理解するにはどうすればいいか相談したのだ。

「あれは言語ってより気配を感じ取って理解するみたいですよ。まあ、魔族の感覚的なセンスと相当な魔力がないと無理っすね。だからいくらルイさんでも習得は出来ないと思いますよー。ちなみに俺も無理っすね。」

ククルもかなり強い魔力を持っているがそれでも難しいのか…。

ルイはまた頭を抱えた。どんな方法を使ってでもグレイの言葉を理解したいと思っていたが、努力でなんとかなるものではないらしい。

「でもそのルーフって魔族は凄いヤツっすね。そもそも魔族の気配だってそんな簡単に感じ取れるものじゃないっすよ。相当強い魔族だと思います。グレイさんの事は彼に任せておけば大丈夫なんじゃないですか?」

「そうなんだけどな。でも、やっぱり私もグレイの言葉を直接理解したいと思ってしまうんだよ。」

ルイはため息をついて、窓から自分の屋敷の方角を眺めた。
しかしすぐにカノが現れて「休憩は終わりです!仕事は山のように残ってますよ!!」と言って大量の書類をルイに渡した。





商会での仕事を終え、ルイは急いで帰宅した。
時刻は真夜中の12時を回っている。
カノに渡された書類を全て確認し、溜まっていた仕事もなんとか終わらせた。おかげで脳も体も疲れ切っている。
そんな状態でも頭に浮かぶのはグレイの事だった。

グレイはもう寝ているだろうか。
ちゃんと食事は取っただろうか。
体調は悪くなっていないだろか。

ルイが自室の前まで行くと中から大きな笑い声が聞こえてきた。

部屋に入ってみれば、グレイとルーフが酒盛りをしていた。2人の周りには結構な量の酒の空きボトルが転がっている。

「お前たち2人で全部飲んだのか!?」

ルイがびっくりして訊ねた。

「よーぉ、ちゃんと稼いできたか?片思いボーイ!アヒャヒャ!お前ん家、質素だけど美味い酒が揃ってて最高だな!さすが社長!!ヒャヒャヒャ!」

キキキキィ!

ルーフは飲むと笑い上戸になるのかずっと笑っている。
そしてコウモリ姿のグレイも空きボトルを抱きしめ肩を揺らして鳴いている。
きっと笑っているのだろう。

そんな姿も可愛いなと思い、ルイの口元も自然に緩んでしまう。

「グレイ、楽しかったか?」

キキッ!

ルイに呼ばれたグレイは、ルイの胸元に向かって飛んできた。

『おかえり!ルイ!!遅かったな!
仕事は終わったのか!?俺、ずっと待ってたんだぞ!ひひっ!ルイの匂いだー!!いい匂いー!』

完全に酔っ払ったグレイは頭をルイの胸元にグリグリ擦り付け、熱烈な歓迎をした。

しかしグレイの言葉が分からないルイは「うわっ、グレイ、かなり酒臭いぞ。大丈夫なのか?具合が悪いのか?ルーフ、グレイは何て言ってるんだ?」とオロオロしている。

「んー?もっと酒持って来いだって。ははっ!」

ルーフは空になった酒瓶を床に置いた。

「それはお前の気持ちだろ。それにルーフだって飲み過ぎだ。もうそのくらいにしとけよ。」

「うわっ、うぜぇ!竜人うぜぇ!もう俺は帰る。酒場で飲み直す。」

ルーフはそう言ってフラフラ立ち上がった。

「おい、本当に大丈夫なのか?今夜はうちに泊まっていくか?」

ルイはルーフを支えようとしたが、手を振り解かれた。

「誰が泊まるかよ。あ、そーいえばお前グレイに原魔石返してやれよ。そうすりゃ多少魔力も改善されるかもしれないからよー。」

そう言い終わった瞬間、ルーフは指を鳴らし姿を消した。

「すごい…。あんな泥酔状態で移動魔法も使えるのか。」

ルイは思わず感心してしまった。

すると胸元にいたグレイがキィキィと鳴き出した。

『あー!ルイ、ルーフのことが好きなのかぁー!?俺はぁー?俺のことはどー思ってんだよぅ!!』

グレイはルイの胸に頭突きをしながら怒った。

「何を怒ってるんだ、グレイ。頭をそんなにぶつけたら危ないだろ?ああ、そうか、原魔石の事か。私が返さなかったから怒っているのか?ごめんな。すぐ返すよ。」

ルイは片手でグレイを抱きしめながら胸ポケットから原魔石を出そうとした。

『ちーがーうー!原魔石なんてどーでもいいよ!俺はぁー、ルイが俺のこと好きか聞いてるんだってばー!』

グレイはキィキィと鳴きながらまた頭突きを始めた。

「分かった、分かった。すぐ返すから暴れないでくれ。ほら、グレイの原魔石だよ。」

『だから原魔石じゃなくて、俺の事好きか聞いてるんだよ!なんでルイは俺の質問に答えてくれないんだよぉ!ううっ…、本当にルイはいじわるだぁ~!』

先ほどまで怒っていたグレイは今度はメソメソと泣き始めた。

「ええー、泣いてるのかグレイ。原魔石はちゃんと返すよ。ありがとうな。グレイの原魔石がなかったら私は死んでいたかもしれない。本当にありがとうな。」

『原魔石なんかどーでもいいんだよぅ!こんなもの捨ててやるっー!』

グレイは原魔石を投げ捨てようと触れた瞬間、原魔石は強い光を放ちグレイの体に取り込まれていった。

ルイはその様子を見守っていたが、酔っ払ったグレイはまたキィキィと怒り出した。

『ルイのバカー!なんで俺の言葉が分からないんだ!もういい!離せっ!ルイなんて嫌いになってやる!』

「グレイ、大丈夫か?苦しくないか?」

「キイー…か…!キィキィ…だ!もう…キィキィ!…せ!」

「グレイ、言葉が…!!」

グレイの言葉が少しずつ戻ってきている。
ずっと聞きたかったグレイの言葉だ。
ルイは嬉しくて涙が出そうになった。
思わず抱きしめようとした瞬間…。

「離せ、バカ!!俺はルイが大っ嫌いなんだ!!」

グレイのはっきりとした言葉が広い部屋に響き渡った。
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