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64.勇者の力(ルイ視点)

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「ルイー!夕飯作ったんだ、一緒に食おうぜー!」

王宮の厨房の窓からヤマトが外を歩くルイに向かって手を振った。

「ヤマト殿!またこんな所にいたんですか!?」

ルイは呆れながらヤマトの元へ駆け寄った。

「おいおい、神聖な厨房をこんな所なんて言うなよ。それに今日の鍛練も勉強も全部終わったんだ。好きな事ぐらいやってもいいだろー?」

「まあ、そうかもしれませんが、明日は魔王の元へ行くんですよ。もう少し緊張感というか、気を引き締めて欲しいというか…。」

「だから敢えて料理作ったんだ。俺にとって料理は気持ちを整える役目もある。もう2年も一緒に過ごしたんだからそれくらい知ってるだろ?」

ヤマトは腕を組み楽しそうに笑うのでルイもつられて笑ってしまう。

「相変わらずヤマト殿はお気楽ですね。」

ヤマトの明るくて何事にも楽しんで取り組む姿を見ているとルイも自然と前向きになれる。
それはルイだけではなく他の人間や竜人たちも同じで、ヤマトが居るだけでその場の雰囲気が明るくなる。

これはヤマトの性格なのか、勇者の力なのか。

ヤマトは元の世界では日本料理店で料理人として働いていたそうだ。
とにかく様々な国の美味しい物を作りたくて、他にもフレンチやイタリアン、エスニックなど店を転々としながら料理について学んできたという。
この国へ召喚された時も「勇者でもなんでもやるからこの世界の料理を教えてくれ」と言って、こうして度々王宮の調理場へ来ては料理長と一緒にみんなの食事を作っている。

最初の頃はヤマトの職業が料理人と聞き、本当に『勇者』なのかと心配になったルイたちだったが、それは全く問題なかった。
ヤマトも今までケンカの一つもしたことがないと言っていたが、体術、武術、剣術もすぐに身に付け、「一般人の俺が魔法なんて使えるわけがない」と言っていたのに、魔力の使い方を教えればあっという間に使いこなした。
これが『勇者』なのか、と驚き喜んだルイたちだったが、一番びっくりしていたのはヤマト自身で「これが『チート』ってやつか!」とよく分からない独り言を言っていた。

ただヤマトの欠点は優しすぎる性格だった。
いざ魔族と戦ってみるとヤマトの攻撃が魔族に当たるとすぐに駆け寄って「ごめん!大丈夫か?」と治癒魔法をかけて治してしまうのだ。
しかし不思議な事にヤマトと接した魔族は「そんなキラキラした目で俺をみるな!もう俺は人は襲わないからほっといてくれ!!」と言って逃げていく。しかし逃げる魔族を捕まえて「それじゃあ俺の気が済まない。美味いもん作ってやるから付いて来い」と魔族の首根っこを掴み王宮の調理場へ連れてくる事も何度もあった。
中にはそのまま王宮に住み付く魔族もいて今では真面目に王宮の仕事をこなしている。

ある意味「無敵」とも言えるこの性格で魔王と戦えるのだろうか。
まあ、魔王と戦わなくても魔王の闇魔法さえ封じることが出来ればいいのだが。

ルイが1人真剣な顔をしているとヤマトが食事を持って来て「じゃん!魔王にカツカレーだ!!しっかり食えよ!」とニカッと笑った。
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