純粋で一途な命の恩人を50年放置してたらグレた。

そら。

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63.崩落

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グレイが魔石の採掘作業をするようになってすでに7年の月日が流れた。

暗い洞窟の中でグレイはジルドにいきなり殴られた。

「おい、魔石の量が減ってるじゃねぇか!ちゃんと働けよ!」

最近のジルドはかなりイライラしている。
何かにつけて怒鳴ったり殴ったりしてくる。
少し前にトトから聞いた話では、ここしばらく竜人との戦争で魔族軍は劣勢が続いているらしい。

今までトトが魔石の回収に来ていたが、近頃はジルド自らやって来て魔石を回収がてらグレイに暴力を振るって憂さ晴らしをしていくのだ。しかしグレイもやられっぱなしでは気が済まない。
殴られた頬を拭ってジルドを睨みつけた。

「もう7年も採掘してるんだ、そりゃ無くなるよ!魔石だって無限にあるわけじゃない。そんな事バカでも分かるだろ!?」

グレイが言い返すとジルドの眼光が鋭く光った。

「…何の役にも立たねぇ雑用が生意気な口利くんじゃねぇよ!!」

ジルドは何度もグレイを蹴りつけ、動かなくなったグレイに唾を吐き、「お前は黙って魔石集めてろ。」と言って去っていった。

グレイはジルドがいなくなったのを確認すると近くに転がっていた魔石で治癒魔法をかけた。

「クソっ、ジルドのやつ!俺はサンドバッグじゃないっつーの。」

蹴られた怪我が治っても一方的に蹴られたことが悔しくて涙が出そうになる。
毎日寒い暗闇でたった1人で採掘作業をしていると心も擦れていく。
グレイは心が折れそうな時、今だにルイの言葉を思い出す。

ー…「絶対また会いにくる!どこにいてもお前を探し出すから元気でいてくれ!」

グレイはゆっくり立ち上がり、光が差し込む洞窟の入り口へ移動した。

「ルイ、俺はここにいるよ。俺はここから出られないんだ。だから早く俺を見つけてよ…。」

グレイは祈るように呟いた。

その時、見上げた空に激しい光が走り、地下から突き上げてくるような地響きと共に爆発音が鳴り響いた。
そして大地が揺れ洞窟の入り口にある岩が崩れ始めた。

「え!?なになに!?く、崩れる…!」

グレイは慌てて洞窟の奥へ逃げようとしたが洞窟の中もどんどん崩れはじめ、逃げる場所がなくなった。

「ど、どうしよう…!あ、魔石!」

転がり落ちてきた魔石を拾いバリアを張った。
メキメキッと木が割れるような音が聞こえると洞窟の入り口から大量の瓦礫が落ちてきた。

これって時計台の建物だ!
建物が崩れているのか!?
入り口が埋まったらどうしよう!

グレイは怖くなり目を閉じ、不安になりながらもバリアの中で揺れが収まるのを待った。
長い時間、爆発音がしたり、空に激しい光が飛び散ったりしていた。

どのくらいの時間が過ぎただろうか。
周りが静かになり、グレイが目を開けるとバリアの周りは岩と瓦礫で完全に埋まってしまっていた。
恐る恐るバリアを解くと少し石が崩れる程度でグレイのいるスペースは空洞が保っていた。
見上げれば崩れた岩の隙間から僅かに懐かしい青色が見える。

「あれって空…?」

それは地上に出た時に見た空と同じ色だった。
ドグライアスは魔王様の結界魔法で年中薄暗い空だったのに…。
もしかして…。

グレイは嫌な予感がした。

「魔王様が死んだのか…?」

だとしたら先ほどの崩落はドグライアスの結界が消えたことが原因なのではないだろうか。

いつもグレイが手入れをした庭園を「きれいだね。」と褒めてくれた魔王。
表情は分からなかったが、落ち着いた声のトーンはグレイを幸せな気持ちにさせてくれた。
怪我をした魔獣を保護していると噂があった魔王。
グレイはいつかその噂が本当かどうか魔王に聞きたいと思っていた。

魔王様が死んだなんて思いたくない。
外に出て確かめなくちゃ。

「誰かー!!助けてー!!ここから出してー!!」

もし結界が消えたのならルイが会いに来てくれるかもしれない。
ルイなら俺を助けてくれるばず。

「ルイー!俺はここだー!!助けてくれー!!!」

グレイは声が枯れるほど何度も何度も叫び続けた。

何度も何度も。

何年も何十年も。

声は枯れ、人間の姿も保てなくなったグレイは本来の姿のコウモリになっていた。

助けを呼ぶことを諦め、岩の隙間から空を見上げるだけの日々。


寒かった洞窟の中の温度さえ今では心地良い。
不思議とお腹は減らず、餓死することもない。

ただ寝て起きての繰り返し。

でも最近は眠っている時間の方が増えてきた。

ルイはもう俺の事忘れちゃったのかな…。

グレイは一粒の涙を流し、深い眠りについた。
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