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51.突破(ルイ視点)
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ルイはグレイを抱えたままジルドの攻撃から逃げていた。
ジルドはドグライアス城の中でさえ平気で攻撃してくる。
グレイの輸血のおかげて魔力は戻っているものの、今だ本調子ではないルイはなんとか応戦している。
「ルイ!ジルドの相手をしていたらキリがない!あいつを撒いて時計台を目指そう!!」
腕の中からグレイが叫ぶ。
ジルドを倒したい気持ちはあるが、グレイの意見に従った。
「おい!バカコウモリ!!どうせ時計台から逃がすつもりだろう!!テメェの陳腐な計画なんざお見通しだ!!相変わらず使えねぇ脳みそ持った下等魔族だぜ!!」
ジルドの笑い声が廊下に響き渡る。
「グレイ、やはりアレを殺していいか?」
ルイが怒りをあらわにしてジルドを睨みつけている。
「ほっとけよ!お見通しだなんて言ってるけど、ジルドこそ計画性もなくただ突っ込んでくることしか出来ない能無しなんだ!」
「はは、確かにな。じゃあ時計台へ向かうぞ。」
ルイはジルドに向かって光魔法を放った。直撃したジルドはそのまま壁へ激突したが、すぐに立ち上がって追いかけてくる。ルイの何度目かの攻撃がジルドの体を吹き飛ばした。ジルドの体はすぐに再生し始めたが時間はかかりそうだ。
ルイとグレイは時計台の最上階まで行くとグレイはルイの腕から滑り降りた。
「どうした、グレイ?このまま地上へ向かうぞ。」
「分かっている。でも行くのはルイだけだ。」
グレイはそう言って手を鉤爪に変化させ、自分の腹に突き刺した。
「何やってんだ!グレイ!」
ルイは慌てて止めようとしたが、「大丈夫、ちょっと待ってて。」と言ってグレイは笑った。
確かに手を刺した腹の周りは光っているだけで血が流れている様子はない。
「ぐっ…。」
グレイは顔を歪ませ、脂汗も流れている。
「お、おい、グレイ!」
ルイが心配してグレイの肩を抱くと、グレイは腹から手を抜き出した。
手には石のようのものが握られていた。
「ルイはこれを持って結界を突破しろ。」
そう言ってその石を渡された。
ルイの手のひらに収まるほどの石は、周りは黒曜石のように黒く半透明で、中心は金色に輝く不思議な石だった。
「これは原魔石だ。魔族と同じ力を持つ石で、これを持っていれば結界も簡単に抜けられる。」
「何言ってるんだよ、一緒に逃げるんだろ?」
ルイはグレイの肩を掴む。
「やっぱりやめとく。俺はドグライアスの暮らしが好きなんだ。」
「だったら私もここに残る。」
「ルイがここに残ってもジルドに殺されるだけだよ。どうせ一緒にはいられない。」
「じゃあ今からジルドを倒す。」
「ルイ、魔力は?さっきの光魔法でだいぶ消費しちゃったでしょ?今の魔力じゃジルドには勝てない。」
グレイはルイをしっかり見つめて淡々と話す。
もうグレイの意思は固まっているのだ。
「でもグレイがここに残ったらお前がジルドに酷い目に遭うだろ?」
「俺は大丈夫、このまま身を隠すよ。城内には隠れる所がいっぱいあるからね。
それにいざとなれば魔王様に守ってもらうさ。魔王様が優しいのは分かっただろ?」
「グレイ…。」
「だけどまたいつか会おう。約束!」
グレイがニコッと笑い、小指を立てた。
ルイは納得できないまま小指を出した。
小指を交わし、そっと離す。
ルイは翼を広げた。
「必ず会いにくるよ、グレイ。」
「うん、待ってる。」
ルイは本当にこのままグレイを置いていっていいのか分からなかった。
しかし、グレイの言うとおり魔力は残りわずかだ。
ためらいながら翼をはためかせる。
体が浮き、グレイから少しづつ離れていく。
「行けっ、ルイ!お前の結界を突破する姿を見届けないと俺も安心して逃げられないよ!」
「グレイ、絶対また会いにくる!どこにいてもお前を探し出すから元気でいてくれ!」
「うん、ルイも!もう魔族に捕まるなよ!」
グレイが笑顔で手を振る。
ルイはそんなグレイに断腸の思いで背を向けた。
連れて行きたい。
離れたくない。
一緒にいたい。
ルイはそんな自分のわがままを押し殺し、思い切り羽ばたいた。
地上を目指し高速飛行する。
結界はあっという間に抜け、洞窟を抜け、地上へと飛び出た。
後ろを振り返ったがジルドや魔族が追ってくる様子もない。
「ルインハルト!!」
「師団長!」
すぐ近くで自分の本名を呼ぶ聞き慣れた声がした。
「…ユーロン、エドワード」
「お前…本当に心配させやがって。」
冷徹の副師団長と呼ばれているユーロンが泣きそうな顔をしてルイに抱きついてきた。
「ははは、心配させて悪かったな。」
ルイもユーロンの頭をガシガシと撫でた。
「わっ、ユーロンさんが泣いてるところ初めて見た!!」
相変わらずのエドワードも笑っているが、目に涙を溜めている。
「うるさい!!お前こそ涙目じゃないか!!」
ルイは2人のやりとりを見ると改めて無事に戻れたのだと安堵した。
これもすべてグレイのおかげだ。
グレイはちゃんとジルドから逃げられたのだろうか。
出てきた洞窟に視線を向けると、視界がぐにゃりと歪んだ。
急に力が抜け、ルイはその場で意識を失った。
ジルドはドグライアス城の中でさえ平気で攻撃してくる。
グレイの輸血のおかげて魔力は戻っているものの、今だ本調子ではないルイはなんとか応戦している。
「ルイ!ジルドの相手をしていたらキリがない!あいつを撒いて時計台を目指そう!!」
腕の中からグレイが叫ぶ。
ジルドを倒したい気持ちはあるが、グレイの意見に従った。
「おい!バカコウモリ!!どうせ時計台から逃がすつもりだろう!!テメェの陳腐な計画なんざお見通しだ!!相変わらず使えねぇ脳みそ持った下等魔族だぜ!!」
ジルドの笑い声が廊下に響き渡る。
「グレイ、やはりアレを殺していいか?」
ルイが怒りをあらわにしてジルドを睨みつけている。
「ほっとけよ!お見通しだなんて言ってるけど、ジルドこそ計画性もなくただ突っ込んでくることしか出来ない能無しなんだ!」
「はは、確かにな。じゃあ時計台へ向かうぞ。」
ルイはジルドに向かって光魔法を放った。直撃したジルドはそのまま壁へ激突したが、すぐに立ち上がって追いかけてくる。ルイの何度目かの攻撃がジルドの体を吹き飛ばした。ジルドの体はすぐに再生し始めたが時間はかかりそうだ。
ルイとグレイは時計台の最上階まで行くとグレイはルイの腕から滑り降りた。
「どうした、グレイ?このまま地上へ向かうぞ。」
「分かっている。でも行くのはルイだけだ。」
グレイはそう言って手を鉤爪に変化させ、自分の腹に突き刺した。
「何やってんだ!グレイ!」
ルイは慌てて止めようとしたが、「大丈夫、ちょっと待ってて。」と言ってグレイは笑った。
確かに手を刺した腹の周りは光っているだけで血が流れている様子はない。
「ぐっ…。」
グレイは顔を歪ませ、脂汗も流れている。
「お、おい、グレイ!」
ルイが心配してグレイの肩を抱くと、グレイは腹から手を抜き出した。
手には石のようのものが握られていた。
「ルイはこれを持って結界を突破しろ。」
そう言ってその石を渡された。
ルイの手のひらに収まるほどの石は、周りは黒曜石のように黒く半透明で、中心は金色に輝く不思議な石だった。
「これは原魔石だ。魔族と同じ力を持つ石で、これを持っていれば結界も簡単に抜けられる。」
「何言ってるんだよ、一緒に逃げるんだろ?」
ルイはグレイの肩を掴む。
「やっぱりやめとく。俺はドグライアスの暮らしが好きなんだ。」
「だったら私もここに残る。」
「ルイがここに残ってもジルドに殺されるだけだよ。どうせ一緒にはいられない。」
「じゃあ今からジルドを倒す。」
「ルイ、魔力は?さっきの光魔法でだいぶ消費しちゃったでしょ?今の魔力じゃジルドには勝てない。」
グレイはルイをしっかり見つめて淡々と話す。
もうグレイの意思は固まっているのだ。
「でもグレイがここに残ったらお前がジルドに酷い目に遭うだろ?」
「俺は大丈夫、このまま身を隠すよ。城内には隠れる所がいっぱいあるからね。
それにいざとなれば魔王様に守ってもらうさ。魔王様が優しいのは分かっただろ?」
「グレイ…。」
「だけどまたいつか会おう。約束!」
グレイがニコッと笑い、小指を立てた。
ルイは納得できないまま小指を出した。
小指を交わし、そっと離す。
ルイは翼を広げた。
「必ず会いにくるよ、グレイ。」
「うん、待ってる。」
ルイは本当にこのままグレイを置いていっていいのか分からなかった。
しかし、グレイの言うとおり魔力は残りわずかだ。
ためらいながら翼をはためかせる。
体が浮き、グレイから少しづつ離れていく。
「行けっ、ルイ!お前の結界を突破する姿を見届けないと俺も安心して逃げられないよ!」
「グレイ、絶対また会いにくる!どこにいてもお前を探し出すから元気でいてくれ!」
「うん、ルイも!もう魔族に捕まるなよ!」
グレイが笑顔で手を振る。
ルイはそんなグレイに断腸の思いで背を向けた。
連れて行きたい。
離れたくない。
一緒にいたい。
ルイはそんな自分のわがままを押し殺し、思い切り羽ばたいた。
地上を目指し高速飛行する。
結界はあっという間に抜け、洞窟を抜け、地上へと飛び出た。
後ろを振り返ったがジルドや魔族が追ってくる様子もない。
「ルインハルト!!」
「師団長!」
すぐ近くで自分の本名を呼ぶ聞き慣れた声がした。
「…ユーロン、エドワード」
「お前…本当に心配させやがって。」
冷徹の副師団長と呼ばれているユーロンが泣きそうな顔をしてルイに抱きついてきた。
「ははは、心配させて悪かったな。」
ルイもユーロンの頭をガシガシと撫でた。
「わっ、ユーロンさんが泣いてるところ初めて見た!!」
相変わらずのエドワードも笑っているが、目に涙を溜めている。
「うるさい!!お前こそ涙目じゃないか!!」
ルイは2人のやりとりを見ると改めて無事に戻れたのだと安堵した。
これもすべてグレイのおかげだ。
グレイはちゃんとジルドから逃げられたのだろうか。
出てきた洞窟に視線を向けると、視界がぐにゃりと歪んだ。
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