純粋で一途な命の恩人を50年放置してたらグレた。

そら。

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45.愚か者(ルイ視点)

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「ルインハルト、竜人の血は高貴なものだ。他種の血が混ざると力を失う。特に聖騎士団は純血であることが条件だ。お前の恋愛に口を出すつもりはないが、結婚相手は貴族出身の竜人しか認めない。」

それはルイが聖騎士団への入団が決まった日に父から言われた言葉だった。
純血にこだわるなど時代錯誤も甚だしいが、竜人聖騎士団の入団資格には暗黙の条件として「純血」がある。

もちろん竜人は人間や魔族と婚姻する事も可能だが、陰で『混血に落ちた』と中傷する竜人もいる。

ルイの父親は特に竜人である事のプライドが高く、純血にこだわる人だった。
ルイがまだ幼かった頃、魔族との戦いで大怪我を負った父は医者から輸血を勧められた。
しかし、父は「どこの誰かも分からない種族の血を体内に取り込むなど出来ない。もし魔族の血でも混じっていたらどうするのだ。魔力を失って死んでしまう。」と断った。
生きるか死ぬかの瀬戸際で何を言っているのかと怒った家族に対して「私が竜人の力を失ってもいいのか」と怒り治療を長引かせ、後遺症で体に麻痺が残ってしまい騎士団には戻れなくなった。
現在は聖騎士総括司令官という立場で騎士団のトップに君臨しているが、ルイは輸血しなかったせいで結局戦う力を失っているではないか、と皮肉に思った事もあった。

しかし、幼い頃から『純血の竜人であること』を教えられてきたルイもいつの間にか純血は守らなければいけないと思うようになった。


グレイから「輸血した」と聞いて動揺した。
しかも、父があれほど嫌がった魔族からの輸血だ。

しかし、実際はどうだ。
体力も魔力も失っていないし、特に副作用も後遺症もない。何より拷問を受けあれほど瀕死だった状態がこれほど回復したのはグレイの治療と輸血のおかげではないか。

街で暴れ回る魔族だけを見て「すべての魔族は悪」と思い込み、グレイやルーフに向き合おうとしなかった。
グレイが純粋で一生懸命な性格だと分かっても「どうせ魔族だ」と一線引いた。
ルーフは横柄なところもあるが、ルイとグレイを城まで乗せてきてくれて、話せば面白い印象を受けた。
魔王もどんな人物かも知らないくせに殺してやろうと戦いに挑んだ。
いざ会ってみれば魔王である苦しみに耐え、自分の犠牲で平穏を願う少年だった。

自分の手首に指を当てれば脈拍を感じる。
生きている証拠だ。
魔族の血によって生かされた命だ。
力など一切失っていない。

ルイは改めて自分が偏見の塊だった事に気付き、情けなくなり自嘲の笑みが溢れた。

「…なんでそんな風に笑うの?もしかして魔族の血で輸血されたのがショックだった?」

グレイのいつもとは違う低い声がした。
金色の瞳がゆらりと光った。

「ルイは魔族の血を勝手に輸血したから嫌だったんでしょ。嫌いだもんね、魔族のこと。どうせ嫌いな魔族の血で輸血された事が許せないんだろ?勝手な事して悪かったな!!」

また傷付けてしまった。

すぐに理解したが、大した言葉が出てこない。
グレイの瞳が光ったのは涙を溜めているせいだ。

「あーあ、俺はなんで竜人なんか助けちゃったんだろ。本当馬鹿みてぇ。竜人なんか助けたって感謝されるどころか、いいように使われてゴミみたいに扱われるだけなのにな!
…なあ、ルイ、俺にだって感情はあるんだよ。
言葉や暴力で痛みを感じるんだよ。傷付くんだよ!」

グレイの怒りと悲痛な訴えが、今まで自分の言葉でどれほどグレイを傷付けてきたのか実感する。
いや、きっと自分が思う以上にグレイは傷付いている。
自分はなんてひどい事をしてきてしまったんだろう。

グレイにちゃんと謝りたい。
今度こそちゃんと話がしたい。
グレイに本当のルイを知ってもらいたい。

そう思ったが、もうそれは叶わない。
グレイからは拒絶の言葉。

もうルイに愛想も尽きて当然なのに、結局グレイは「逃がす手伝いはしてやる」と言って出て行った。

「グレイ!!グレイ!!!」

少し前まで呼べばすぐに来てくれた。
もう名前を呼んでも来てくれない。
すべて自分の行いのせいだ。

ルイは自分の愚かさを悔いた。
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