純粋で一途な命の恩人を50年放置してたらグレた。

そら。

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42.グレイとリリィの約束

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昼下がりに、グレイはリリィの元へやって来た。

「あら、グレイ!今日はずいぶん遅かったわね!」

リリィはすぐにグレイに気付き、かけ寄ってきた。

「うん、ちょっと忙しくて…。リリィ、昨日は弁当すごく美味かった。ありがとう。」

グレイはそう言ってリリィに弁当箱を返した。

「それは良かったわ。それよりいつもより顔色が悪いわね。お昼ご飯は食べたの?」

「え?ああ、そっか、もうそんな時間だったのか。」

いつも元気なグレイの様子が明らかにおかしい。

…熱でもあるのかしら。

リリィは心配になってグレイのおでこを触ろうとした。

急に目の前に手を伸ばされたグレイは反射的に目を閉じて両手で頭を庇った。

「グレイ?」

リリィの心配そうな声でグレイは我に返る。

「あ…。」

リリィが暴力を振るわけがないのに、グレイは恐怖を感じてしまった。
原因は先程ユーロンたちに突然襲われたからだろう。
さっきの出来事が引き金となり、今まで竜人や人間にやられた仕打ちを思い出してしまったのだ。
それほどグレイにとってユーロンたちが怖かったのだ。

グレイが戸惑っていると、リリィはグレイを抱きしめた。

「大丈夫よ、グレイ。大丈夫。私はあなたの味方よ。だから大丈夫。」

リリィがグレイの頭や背中をゆっくりと優しく撫でる。

温かくて柔らかいリリィの体温にグレイの視界が歪む。

今まで傷付いても気付かないフリをしてきた感情が涙と共に溢れ出す。

「辛い事でもあったの?私でよければ話を聞くわ。」

「…っふぅ、うぅ…、辛い事ばっかりだよ、リリィ。
俺はなんで魔族なんだろう。好きで魔族に生まれて来たわけじゃない。
なのにルイは俺が嫌いなんだって。魔族だから嫌いなんだって。ちっとも俺自身の事を見てくれない。
優しくしたのは利用するためで、お守りだって言ってくれた鱗は監視するためのものだって。しかも俺の事、何回も馬鹿って言うんだ。もうルイなんか嫌いだ。竜人も大っ嫌いだ。魔族よりあいつらの方がよっぽど傲慢で暴力的で頭の固いつまんない奴らだよ!」

「まあ、酷い男ね、ルイは。そんな器の小さい男なんかもう放っておきなさい。話すだけ時間の無駄よ。人を見る目がない大馬鹿者ね。優しくて可愛いグレイには釣り合わないわ。
それに竜人たちもプライドばかり高くて話にならないわね。きっと面白い話ひとつも出来やしないわ。コミュニケーション能力が低いから馬鹿にされないように威張っているのよ。」

リリィの毒舌っぷりにグレイは固まった。しかしなんだか可笑しくなって吹き出した。

「…ははっ、俺はそこまで思ってないよ。リリィって案外性格悪いんだね。」

リリィも自分の言葉に吹き出した。

「ふふっ、そうよ、私は性悪で案外強いのよ。だから相手がルイだろうと竜人だろうとグレイ1人くらいなら守れるわ。こんな私がグレイの味方なんだから心強いでしょ?だから安心して、グレイ。大丈夫よ。」

リリィはそう言ってグレイを再び抱きしめた。

「うん。ありがとうリリィ。元気出た。
…笑っちゃうけど、それでも俺はルイが好きなんだよね。ルイの言う通り、俺って馬鹿だよ。」

「あらら、グレイも見る目がないわね。」

「はは、そうみたい。ていうかリリィは俺が魔族だって事もルイが竜人だって事も驚かないんだね。もしかして気付いてた?やっぱりリリィは魔女でしょ。」

「ふふふ、どうかしら。それよりご飯食べてないんでしょう?お弁当はないけど家に戻れば簡単な食事なら作れるわ。食べていったら?」

「わぁ、嬉しいな。リリィの料理また食べたいと思ってたんだ。でも今日はもう行かなくちゃ。
…また来ていい?金は払うから、また弁当作って欲しいんだ。」

「お金なんていらないわ。そうね、またグレイの話を聞かせてくれればいいわ。あなたと過ごす時間は楽しいの。いつでも来なさい。」

「俺も!リリィの話も聞かせてね。」

2人は指切りをして別れた。

グレイは何度も振り返ってリリィに手を振り、リリィはグレイの姿が見えなくなるまで見送った。

これが最期の別れになるとは思わずに。
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