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35.ルーフと魔王

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「やあ、ルーフ。心配して見に来てくれたの?安心して。師団長は殺してないよ。」

魔王は割れたお面を魔法で直して、水際に来たルーフの元へ移動した。

「いや、竜人の心配なんかしてねぇっすよ。ただの野次馬ってやつです。…でも結構派手にやりましたね。」

ルーフはグレイに抱きかかえられているルイを見た。
治癒の泉の中にいるとはいえ、かなり重症に見える。

「うん。闇魔法がまた暴走しちゃった。あと少しで師団長も殺しちゃうところだったけど、グレイの泣き声が聞こえて、なんとか踏み止まれた。」

魔王は自分の掌をそっと握りしめた。
その掌は少し震えている。

「…大丈夫でしたか?今回も体にかなり負担がかかったんじゃないですか?」

ルーフが心配していたのは魔王の方だった。

魔王の闇魔法は本人の意に反し暴走する。
それを力ずくで止める事はかなり負荷がかかる。
その代償として魔王の体中に痛みが襲い、息をするだけでも苦しそうに寝込み続ける。

ルーフは魔王のそんな姿を何度も見てきた。

まだルーフが子供だった頃、野垂れ死にそうな所を魔王に拾われた時からルーフの忠誠心は常に魔王にある。
強さの実力は凶暴化したジルド並みにあるルーフが城の看守係をしているのは、魔王をすぐそばで支えたいからだ。
本当は側近を希望をしたが、孤独を好む魔王に断られてしまった。仕方なく空きがあった看守係に就くことにしたのだ。

「ふふ、相変わらずルーフは優しいね。僕は大丈夫。それより心配なのは師団長の方だ。
傷はかなり深いけど、あと1時間くらい泉の中にいれば傷は治るだろうし、2、3日安静していれば元気になるはずなんだけどね。
…ジルドが5日後に城に戻ってくるみたい。また師団長に拷問するとか言い出しそうで心配なんだ。
それに師団長を外に連れ出したことがバレたら怒るよね。」

魔王も気性の荒いジルドが苦手のようだ。

さすがに魔王に対して怒る事はしないだろうが、ルイにとどめを刺しにくるかもしれない。

「もしジルドに何か言われたら俺に言ってください。ぶん殴ってやりますよ。」

ルーフはニヤッと笑い、拳を魔王に向けた。

「ふふ、ありがとう。頼もしいな。
さて、僕は城へ帰るよ。」

魔王がゆっくり伸びをした。

「じゃあ送ります。俺の背中に乗ればいい。」

「ルーフはあの2人を城に運んであげて。きっと師団長はしばらく目を覚まさないだろうし、グレイ1人じゃ師団長を運べないだろ。」

「…わかりました。」

魔王に頼まれたらしょうがない。
ルーフは心の中でため息をついた。

「ありがとう。じゃあまた。」

そう言って魔王は姿を消した。

「ええ。また。」

ルーフは少し寂しい気持ちで消えた魔王を見送った。
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