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16.梨の木の下

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年老いた女性はしばらく固まって驚いたような顔をしていたが、徐々に表情がゆるみ、にっこり面白そうに笑った。

「…これはこれは、珍しい子供が迷い込んできたわねぇ。」

「こ、子供!?俺は子供じゃない!もう80年以上生きてるんだぞ!」

人間の寿命を知らないグレイは、自信満々で答えた。

「あらあら、そうしたら私より年上なのねぇ。じゃあ、珍しいお客様が迷い込んできたのね。」

「お前、俺より年下なのにそんなシワシワなのか。す、すごいな。」

グレイはちょっとショックだった。
自分より年下の人間の方が貫禄がある。

「ふふふ、失礼なお客様。ところで、なぜ、こんな所にいるのかしら?」

「ああ、えっと。昨日、この農園の梨を取ったんだ。でも対価を払わなかったから今日持ってきた。竜人の鱗だぞ。すごい綺麗な竜人の鱗だ。リヨンより価値がある。2枚もあるんだぞ。俺も持ってるんだー!」

グレイは自慢げに鱗を出して、自分のペンダントも女性に見せた。

「…竜人様の?あらまあ、随分綺麗な鱗ねぇ。こんな高価な物どこで手に入れたの?」

「どこでもいいだろ?早く受け取ってくれ。」

グレイはその女性の顔の前に鱗を突き付けた。
しかし、女性はすぐには受け取らず、暫く考え事をするように口元に手を当てていた。

「なんだよ。リヨンの方がいいのか?」

価値を知らないヤツだな、とグレイは少し不満に思った。

「そんな事ないわ。とても綺麗な鱗でつい見入ってしまったわ。ありがたく頂戴するわね。
あなた時間はまだ大丈夫?渡したいものがあるから少し待っててくれる?」

渡したいもの?
何企んでるんだ、この女。

グレイは少し警戒したが、相手は年老いた女。
まあ、大丈夫だろうと、頷いた。

「うん、少しなら良いけど…。」

女性は「すぐ用意してくるから」とその場を去った。

グレイは、梨の木の下で腰をかけて待った。

頬にそよそよと柔らかい風が当たって心地良い。
空は雲ひとつなく、突き抜けるような青さだ。
梨の果樹園は少し高い丘にあるため、農園が遠くまで見渡せる。
遠くには赤い実をつけた木がある。

「あれはリンゴの木かなぁ。」

お腹がぐぅーと鳴る。

「…お腹、空いたなぁ。」

ルイは自然から精気を吸うって言ってたけど、こういう綺麗な場所で吸うのかな。

グレイは深呼吸した。

気持ちいいなぁ。
ルイも連れてきたかったなぁ。

薄暗い地下牢で鎖で繋がれたルイを思い出す。
グレイは少し悲しい気持ちになって遠くを見つめた。
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