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14.ルール

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「ルイ、…俺のこと嫌いになった?」

グレイは勇気を出して聞いてみた。

「嫌いじゃないよ。
グレイがまた私に会いに来てくれて嬉しかったし、梨を持って来てくれたことも嬉しかった。
でも誰かの物を盗んだらダメなんだよ。相手が人でも竜人でも、もちろん魔族でも。
その梨だって、農園の人が丹精込めて作ったものだ。
誰かに美味しいって喜んでもらえるよう、時間とお金をかけて一生懸命育てたものなんだよ。それを頂くなら、ちゃんと対価お金を払わなくちゃいけない。
人の世界はそうやって廻ってるんだ。グレイも地上に行くなら、その場所のルールを守らないと知らないうちに誰かを困らせたり傷付けてしまうんだ。
それってすごく悲しいことなんだよ。
…私の言いたいこと分かるかな?」

ルイは子供に諭すようにゆっくり優しく話した。

「うん、わかった。もう盗まない。」

正直グレイには、ルイの言っていることがあまり理解出来なかった。
ドグライアスでは、窃盗、略奪などは日常茶飯事で、誰かに咎められることは、ほとんどない。
逆になにか盗られても泣き寝入りするしかない。むしろ弱いお前が悪いんだ、と責められるくらいだ。
それがグレイとって普通の事なのだ。

でもルイがそう言うなら、グレイは〝その場所のルール〟を守ろうと思った。

「じゃあグレイ、私からお願いがある。」

「なに?」

ルイが縛られている腕に力を込めると、急にルイの腕が青白く光り出した。
あまりにも不思議で幻想的な現象にグレイが食い入るように見ていると、ルイの光った腕の皮膚が鱗に変わった。

「グレイ、この鱗を3枚剥がしてくれ。」

「え?剥がしても痛くないの?」

グレイはびっくりしてルイを見た。

「ああ、また再生されるから大丈夫だ。鱗はかなり硬いから手を怪我しないように気を付けて剥がしてくれ。」

「うん。やってみる。」

グレイは、ルイの腕の鱗をそっと触る。
鱗はチューリップの花びらサイズで、手触りはツルツルしていてガラスのようだった。
鱗の隙間に爪をかけ、ゆっくり剥がす。

パキンッー…。

美しい音とともに水色の鱗が剥がれた。

「ルイ、1枚取れたよ。ねえ、本当に痛くない?」

血は出ていないようだが、少し心配になる。

「はは、グレイは意外と心配性だな。大丈夫だよ。さあ、あと2枚剥がしてごらん。」

グレイは同じようにして鱗を剥がした。

鱗を剥がし終わるとルイの腕は、人間の腕に戻った。特に傷も付いていない。

「グレイ、その梨は私が買う。今日お前が行った農園の人にお金の代わりにその鱗を持っていってくれ。
竜人の鱗は、お金としても使えるからね。
グレイには悪いが、突然魔族が尋ねてくれば農園の人も驚いてしまうだろう。だから直接会わず、玄関に置いてきてくれ。」

「え、駄目だ、俺が持ってきた梨だから俺が金を払う。リヨンは持っているんだ。ちゃんと城で働いた給料だから問題ないだろ?」

「ああ。じゃあ次からはそのリヨンを使ってくれ。」

「でも…。」

「いいから。グレイ、お願いだ。
鱗を持っていってくれ。」


ルイの有無を言わせない圧に負け、結局梨はルイの鱗で支払うことになった。
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