純粋で一途な命の恩人を50年放置してたらグレた。

そら。

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6.竜人の名前

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竜人は怪訝な顔でグレイの様子を見ていたが、自分の体の傷が治療されている事に気付いた。

血を流し続けて、意識も朦朧として瀕死の状態だったにも関わらず、今はだいぶ楽になっている。
よく見れば汚れていた体もきれいになっている。

竜人は、戦争の最前線で多くの魔族たちを見てきた。

どの魔族も残酷非道で、こんな最低な生き物にも血が通っていることが不思議でたまらなかった。

しつこいほどの拷問を受けてる時は、全ての魔族を根絶やしてやると歯を食いしばって耐えていた。


魔族は最低最悪な存在。
殺すべき対象。


昔からそう言われて育ってきたし、戦争に出て自分自身もそう実感した。

そんな魔族がこんな事をするわけがない。

いや、でも目の前で無邪気に笑うこの魔族以外誰がやるだろうか。

竜人は半信半疑でグレイに聞いた。


「…私の怪我は、お前が治したのか?」

「うん、まぁね。お前ほど完璧には治せなかったけど。」

グレイは頭を掻き、照れながら笑った。

「…そうか。ありがとう。」

竜人は少し頭を下げ、目を閉じた。






突然、竜人がお礼を言うので、グレイは一瞬固まってしまった。

竜人の治療は自分が勝手にした事だ。
お礼を言われるとは思わなかった。

それなのに喉の奥がきゅーっと痛くなり、目頭が熱くなる。

竜人のたった一言が、すごく嬉しい。

グレイは、何故か溢れそうになった涙を思いっきり手で拭いた。

「き、気にすんなよ!俺が勝手にやった事だからさ!
それより腹減らない?冷めちゃったけど、昼メシあるんだ!」

「ああ、用意してくれたんだな。ありがとう。
でも私たち竜人は、食事を取らなくても生きていける。それはお前が食べろ。お前は小さいし細すぎる。私が見てきた魔族たちはもっと大きかったぞ。」

そう言って竜人は少し困ったように微笑んだ。

わ、わ、笑ったー!

グレイはさらに嬉しくなり、竜人に近づいた。

「へぇ!そうなんだ!そうなんだ!
俺、お前の好きな食い物聞きたかったのに、竜人はそもそもメシ食べないんだ!
でも、なにも食わないのに何で生きていられるんだ?
何も食った事ないなんて信じられない!」

「自然の精気を吸っている。あとは竜人の国に流れる聖水を飲めば生きていける。
まあ、食事はしなくても生きていけるだけで、味を楽しむために食事をする事もある。
そうだな、私の好きな食べ物は梨だ。」

「梨!!俺も梨、好きだ!でもリンゴが一番好きだ!
あとネズミの丸焼きも好きなんだー。あ、今度持ってきてやるよ!」

「いや、いらないよ。私はネズミは食べないからね。」

竜人がクスクスと笑った。

グレイはその表情に見惚れてしまう。
最初は瞳が綺麗だと思っていたが、顔も声も表情も全てが綺麗だ。
こんな綺麗な竜人を閉じ込めておくなんてもったいない。
それにまた誰かに傷付けられるのも絶対に嫌だ。

竜人は竜の姿になれば空を飛べる。
きっとこの美しい竜人は竜の姿も美しく、空を飛ぶ姿は幻想的だろうな。
一緒に空を飛んだらきっと楽しくて幸せな気分になるだろうな。

「なあ、お前の名前は?」

「ああ、そういえばまだ名乗っていなかったな。
私の名前はルイ。」

「そうか、ルイ。名前も綺麗だな。
ルイ、俺、お前の事好きだ。お前を助けたい。」

グレイは力強くルイを見つめた。
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