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竜人の子、旅立つ

28.トンカツ定食

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季節は巡り、いよいよ明日はシロの入学試験だ。試験は筆記、実技を2日に分けて実施され、両方の試験結果によって特待生になれるか否かも決まる。
入試会場はアスディアにある竜人聖騎士学校。
ミール王国から向かうには遠いので、午後にスノウが迎えにきて前泊して試験を受ける予定にした。

既に準備を終えたシロは、鼻歌を歌いながら昼食の準備をしていた。

「明日は試験だってのに随分余裕じゃねぇか。良い事でもあったのか?」

キッチンに顔を出したルーフがシロに話しかけた。

「だって今日は久々にお昼をルーフと一緒に食べれるんだもん。嬉しいに決まってる」

シロはニコニコしながら答えた。
最近出掛けてばかりいるルーフが、今日は予定がないと言ってずっと家にいる。本当に予定がないだけなのかもしれないが、きっとシロの試験前日という事であえて家にいてくれたのだろう。
その事をルーフに聞けば「そんなわけねぇだろ」と言われそうなので黙っているが、絶対シロの為に時間を作ってくれたのだ。
ルーフの不器用な優しさが嬉しい。シロはご機嫌で料理の盛り付けをした。

「じゃーん!今日はトンカツ定食です!試験に合格してサクッと卒業するという気持ちを込めてみました!」

「なんだそりゃ。へへっ、でも美味そうだな」

久しぶりに顔を向き合わせてする昼食はいつもの何十倍も美味しく感じる。
そして美味い美味いと食べるルーフが愛しい。本当はひと時も離れたくない。
でも騎士学校で治療魔法を身に付ければ、何かあってもルーフを守れる。この幸せな時間を、命ある限り続けることができるんだ。そのために自分が出来る事は全てやってやる。シロは気合いを入れてごはんを掻き込んだ。

「ルーフ、俺、絶対特待生として合格するよ」

「…ふーん」

素っ気なく答えるルーフを見つめて、シロは誓う。

「あと、飛び級もする。そうすれば3年で卒業できるからね」

「そりゃすげぇ」

「その時、俺は18歳になる」

「まあ、そうだな」

「竜人の成人は18歳だよ。つまり大人だよね」

「そうだな」

「じゃあ卒業したらすぐエッチしよう」

シロの発言にルーフが飲んだお茶を吹き出した。

「っゴホッ、ゴホッ…!!は、はあ!?」

「俺が大人になったら考えてくれるって言ったでしょ。もちろんエッチだけしたいわけじゃないよ。ルーフと恋愛して体を繋げて心も体も一緒になりたいんだ。それに俺、3年でルーフがメロメロになっちゃうくらい良い男になる努力もするから!」

シロはルーフの手を掴み、キラキラした目で熱弁した。シロの勢いに飲み込まれそうになったルーフは、何をどうツッコむべきか分からず口をパクパクさせたが、諦めてため息をついた。

「はあ…、お前って本当に…。もういいや。はいはい、好きにしろ」

「やった!約束ね!!俺、絶対3年で戻るから」

「その前に試験だろ。それで落ちたらシャレになんねぇぞ」

「うん!頑張るね」

丁度その時チャイムが鳴った。スノウが迎えに来たのだ。



シロは荷物を詰めたリュックを背負ってルーフに抱きついた。ゆっくり深呼吸をして肺をルーフの匂いで満たす。

「いってきます」

ルーフの肩に顔を埋めていたシロには見えなかったが、ルーフは少しだけ顔を歪ませた。シロを抱きしめ返そうとした腕を止め、代わりにシロの頭をガシガシと乱暴に撫でた。

「いててっ!!」

びっくりしたシロが顔をあげると、ルーフはいつもと変わらない表情でニカッと笑った。

「行ってこい、シロ。気を付けてな」

「うん!」

シロは元気よく頷いて、アスディアへ向かった。
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