竜人嫌いの一匹狼魔族が拾った竜人を育てたらすごく愛された。

そら。

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竜人の子、旅立つ

18.ジェスの訪問

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「…ありゃ、なんか空気悪くねぇ?」

ジェスは頭を掻きながら気まずそうに笑った。

「お前のせいでな。つか、勝手に入ってくんなよ。さっさと出てけ」

ルーフは苛つきながら腕を組んで、ジェスを睨んだ。

「はは、機嫌悪りぃな。せっかく土産持ってきてやったのによ。ほら、やるよ」

そう言ってジェスは、ルーフに酒を渡した。

「…ドア壊してまでする用じゃねぇだろ」

「へへっ、細かい事言うなよ。あ、シロ坊にも用があったんだ。爆発事故の時、ずいぶん活躍したってな。俺のセフレもお前に助けられたらしくてな。これ、渡してくれって頼まれたんだよ」

ジェスは、シロに手のひらサイズの黒い箱を渡した。

「ああ、そうなんですね…。でもあの時は、俺だけの力じゃなくて、みんなで助け合っていたので貰えませんよ」

「ははっ、相変わらず謙虚っつーか、真面目だな。まあ、そうかもしれないけど、奴はお前に感謝してるんだ。俺の可愛いセフレの気持ちなんだから受け取ってくれよ。そいつは彫金師だから、指輪かネックレスが入ってると思うぞ」

ジェスは自分のネックレスを摘んで「これもそいつに作ってもらったんだ。格好良いだろ」と笑った。

「…いや、でも…」

困っているシロを見かねて、ルーフが口を開いた。

「貰っとけよ、シロ。いらなきゃ売るなり捨てるなりすればいいさ。ジェス、用は済んだろ。今日は帰れよ」

「ルーフ、お前本当に機嫌悪いな。わざわざ別れの挨拶に来たってのによ」

「別れ?」

「ああ。俺はしばらくモンド王国で暮らすんだ。今、あの国は経済が盛り上がってて、金が稼ぎやすいらしい。金も女も美味い酒も全部、あの国に集まってるって話らしいぜ」

「そりゃ、奇遇だな。シロが卒業したら、俺たちもモンド王国へ行くつもりだ。なぁ、シロ?」

ルーフに話を振られて、シロはビクッと体を震わせた。

ー…今だ。今、しっかり話さないと。
ジェスの前で話す内容ではないが、ここで誤魔化してしまったら、ルーフに嘘をつく事になってしまう。


シロは拳を握り、ルーフを見た。

「ルーフ。その事なんだけど…、俺はモンド王国へは進学しないつもりだ」

「…は?」

ルーフの金色の瞳が見開いた。

「せっかく準備してくれていたのに、本当にごめん。俺、やっぱり竜人騎士学校で医療を学びたいんだ」

「……」

ルーフは目を見開いたまま、何も言わずにシロを見ている。

やはり失望されてしまったのだろうかー…。

シロは、ルーフと目を合わせていられなくなって、自分の握りしめた手に目線を落とした。

でも自分の気持ちを伝えないとー…。

シロは緊張で口が渇くのを感じながら、自分の考えを伝えようと一生懸命に話し出した。

「話すのが遅くなって、ごめん。病室で話そうとしたのは、進学先の事だったんだ。
正直に言うと、俺、ずっと悩んでたんだ。ルーフの傷跡を治すためには、竜人騎士学校で治療魔法を身に付ける必要があるし、高度な医療を学ぶこともできる。でもルーフはアスディアには一緒に来てくれないだろ?
…俺は、これからもルーフと一緒に暮らしたい。だから最初は離れたくなくて、モンド王国の学校に進学しようと思っていた。
でも、あの爆発事故で自分の非力さを実感したんだ。ルーフの傷跡の異変にも気付かなかった…。俺、悔しくて悔しくて…。もっと医学を学びたいと思ったんだ。そうすればルーフだって…」

ダンッー!!

ルーフが机を叩いた。

シロが顔を上げると、ルーフは低い声で「…別にいいだろ」と呟いた。

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