竜人嫌いの一匹狼魔族が拾った竜人を育てたらすごく愛された。

そら。

文字の大きさ
上 下
91 / 112
竜人の子、旅立つ

18.ジェスの訪問

しおりを挟む
「…ありゃ、なんか空気悪くねぇ?」

ジェスは頭を掻きながら気まずそうに笑った。

「お前のせいでな。つか、勝手に入ってくんなよ。さっさと出てけ」

ルーフは苛つきながら腕を組んで、ジェスを睨んだ。

「はは、機嫌悪りぃな。せっかく土産持ってきてやったのによ。ほら、やるよ」

そう言ってジェスは、ルーフに酒を渡した。

「…ドア壊してまでする用じゃねぇだろ」

「へへっ、細かい事言うなよ。あ、シロ坊にも用があったんだ。爆発事故の時、ずいぶん活躍したってな。俺のセフレもお前に助けられたらしくてな。これ、渡してくれって頼まれたんだよ」

ジェスは、シロに手のひらサイズの黒い箱を渡した。

「ああ、そうなんですね…。でもあの時は、俺だけの力じゃなくて、みんなで助け合っていたので貰えませんよ」

「ははっ、相変わらず謙虚っつーか、真面目だな。まあ、そうかもしれないけど、奴はお前に感謝してるんだ。俺の可愛いセフレの気持ちなんだから受け取ってくれよ。そいつは彫金師だから、指輪かネックレスが入ってると思うぞ」

ジェスは自分のネックレスを摘んで「これもそいつに作ってもらったんだ。格好良いだろ」と笑った。

「…いや、でも…」

困っているシロを見かねて、ルーフが口を開いた。

「貰っとけよ、シロ。いらなきゃ売るなり捨てるなりすればいいさ。ジェス、用は済んだろ。今日は帰れよ」

「ルーフ、お前本当に機嫌悪いな。わざわざ別れの挨拶に来たってのによ」

「別れ?」

「ああ。俺はしばらくモンド王国で暮らすんだ。今、あの国は経済が盛り上がってて、金が稼ぎやすいらしい。金も女も美味い酒も全部、あの国に集まってるって話らしいぜ」

「そりゃ、奇遇だな。シロが卒業したら、俺たちもモンド王国へ行くつもりだ。なぁ、シロ?」

ルーフに話を振られて、シロはビクッと体を震わせた。

ー…今だ。今、しっかり話さないと。
ジェスの前で話す内容ではないが、ここで誤魔化してしまったら、ルーフに嘘をつく事になってしまう。


シロは拳を握り、ルーフを見た。

「ルーフ。その事なんだけど…、俺はモンド王国へは進学しないつもりだ」

「…は?」

ルーフの金色の瞳が見開いた。

「せっかく準備してくれていたのに、本当にごめん。俺、やっぱり竜人騎士学校で医療を学びたいんだ」

「……」

ルーフは目を見開いたまま、何も言わずにシロを見ている。

やはり失望されてしまったのだろうかー…。

シロは、ルーフと目を合わせていられなくなって、自分の握りしめた手に目線を落とした。

でも自分の気持ちを伝えないとー…。

シロは緊張で口が渇くのを感じながら、自分の考えを伝えようと一生懸命に話し出した。

「話すのが遅くなって、ごめん。病室で話そうとしたのは、進学先の事だったんだ。
正直に言うと、俺、ずっと悩んでたんだ。ルーフの傷跡を治すためには、竜人騎士学校で治療魔法を身に付ける必要があるし、高度な医療を学ぶこともできる。でもルーフはアスディアには一緒に来てくれないだろ?
…俺は、これからもルーフと一緒に暮らしたい。だから最初は離れたくなくて、モンド王国の学校に進学しようと思っていた。
でも、あの爆発事故で自分の非力さを実感したんだ。ルーフの傷跡の異変にも気付かなかった…。俺、悔しくて悔しくて…。もっと医学を学びたいと思ったんだ。そうすればルーフだって…」

ダンッー!!

ルーフが机を叩いた。

シロが顔を上げると、ルーフは低い声で「…別にいいだろ」と呟いた。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 魔族 vs 人間。 冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。 名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。 人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。 そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。 ※※※※※※※※※※※※※ 短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。 お付き合い頂けたら嬉しいです!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

処理中です...