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竜人の子、旅立つ
13.治療室
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上空の巨大な雲を抜けると、空に浮かぶ大きな島が現れた。広い大地に豊かな自然。まるで神の加護が与えられたような美しい国。これが竜人の国、アスディアだ。
アスディアの都市に着くと、ルーフは直ぐに聖騎士団が管理する病院へ運ばれた。
イビキを掻きながら気持ち良さそうに寝ているルーフは、とても病人には見えない。しかし竜人の医者や看護師が手際良くルーフを清潔なベッドに乗せ、点滴のチューブが付けられていく姿をみると、シロの心はどんどん苦しくなった。
心配そうにルーフの手を握るシロに、スノウが優しく笑いかけた。
「ルーフさんの傷跡の影響は、まだごく僅かなものだから簡単な治療で済むから心配いらないよ。念の為、精密検査もするから時間がかかると思う。シロ君はアスディアに来たのは初めてだよね。気分転換に散策でもしておいで」
「…散策をする気分じゃないです。スノウさん、俺、このままルーフの側にいたら駄目ですか?絶対に治療の邪魔にならないようしますから。手伝える事があれば、なんだってやります。お願いします!」
シロはスノウに頭を下げた。
まだ子供の自分が同席しても邪魔になるだけだ。だけど、どうしてもルーフの側にいたい。
スノウは「うーん、そうは言ってもなぁ。治療室は医療関係者以外立ち入り禁止だし…」と困って頬を掻いた。
「おいっ、スノウ!何をグズグズしている!?さっさと治療を始めるぞ!」
いかにも大ベテランの雰囲気がある竜人の医者が、スノウを怒鳴りつける。
「はいはーいっ!今行きますっ!ふー、レイズ先生は短気だなぁ。ごめん、シロ君。治療室には連れて行けないよ。でも治療室の隣の部屋がガラス張りになっていて、治療の様子を見ることができる。本来は研修生が見学する場所なんだけど、僕が許可を取っておく。それでもいい?」
本当は自分でルーフを助けたい。しかし今の自分には見守ることしか出来ないのか…。
シロは悔しさで流れる涙を拭って、もう一度スノウに頭を下げた。
「…はい、十分です。ありがとうございます。スノウさん…、ルーフをよろしくお願いします」
「うん。まかせて。絶対大丈夫だから」
スノウはシロを安心させるように背中を叩き、治療室へと入っていった。
治療室の外に一人取り残されたシロは、スノウに言われた通り、治療室の隣の部屋へ移動した。
ガラス張りの部屋は、見学用に作られているだけあって治療の様子がよく見える。
竜人医師たちの治療が始まり、シロは言葉を失った。
それは今まで見たこともない高度な治癒魔法だった。また魔法だけでなく、人間が行うような手術も手早くこなしている。
特にスノウが『レイズ先生』と呼んでいた竜人医師の技術は本当に素晴らしいものだった。
シロは、治療魔法には多少の自信があったが、自分の力はまだまだ微々たるものだと実感した。
数時間後、治療室の扉が開いた。
シロはすぐに、ベッドでまだ眠るルーフに駆け寄った。
「ルーフ!」
ルーフの左目の上には白いガーゼが貼られ、腕には点滴が繋がっている。
顔色はいつも通りだし、朝、感じた違和感も無くなっている。
ルーフはもう大丈夫なのだろうか…。
ベッドの横に立つスノウは、泣きそうな顔をしているシロに向かってピースサインを作った。
「とりあえず治療は無事終わったよ。今は麻酔で眠ってるけど、あと1時間くらいで目も覚ますよ。まあ、目を覚ましたルーフさんが勝手にアスディアに連れてきた事を怒りそうで心配だけど…」
「…っ!そっか、よかった…。よかった…。スノウさん、ありがとうございます…。よかったね、ルーフ」
シロは安堵から流れた涙を拭って、ルーフの頬をそっと撫でた。
しかし安心したのも束の間。
スノウの心配事は的中し、目を覚ましたルーフの怒号が病院中に鳴り響いた。
アスディアの都市に着くと、ルーフは直ぐに聖騎士団が管理する病院へ運ばれた。
イビキを掻きながら気持ち良さそうに寝ているルーフは、とても病人には見えない。しかし竜人の医者や看護師が手際良くルーフを清潔なベッドに乗せ、点滴のチューブが付けられていく姿をみると、シロの心はどんどん苦しくなった。
心配そうにルーフの手を握るシロに、スノウが優しく笑いかけた。
「ルーフさんの傷跡の影響は、まだごく僅かなものだから簡単な治療で済むから心配いらないよ。念の為、精密検査もするから時間がかかると思う。シロ君はアスディアに来たのは初めてだよね。気分転換に散策でもしておいで」
「…散策をする気分じゃないです。スノウさん、俺、このままルーフの側にいたら駄目ですか?絶対に治療の邪魔にならないようしますから。手伝える事があれば、なんだってやります。お願いします!」
シロはスノウに頭を下げた。
まだ子供の自分が同席しても邪魔になるだけだ。だけど、どうしてもルーフの側にいたい。
スノウは「うーん、そうは言ってもなぁ。治療室は医療関係者以外立ち入り禁止だし…」と困って頬を掻いた。
「おいっ、スノウ!何をグズグズしている!?さっさと治療を始めるぞ!」
いかにも大ベテランの雰囲気がある竜人の医者が、スノウを怒鳴りつける。
「はいはーいっ!今行きますっ!ふー、レイズ先生は短気だなぁ。ごめん、シロ君。治療室には連れて行けないよ。でも治療室の隣の部屋がガラス張りになっていて、治療の様子を見ることができる。本来は研修生が見学する場所なんだけど、僕が許可を取っておく。それでもいい?」
本当は自分でルーフを助けたい。しかし今の自分には見守ることしか出来ないのか…。
シロは悔しさで流れる涙を拭って、もう一度スノウに頭を下げた。
「…はい、十分です。ありがとうございます。スノウさん…、ルーフをよろしくお願いします」
「うん。まかせて。絶対大丈夫だから」
スノウはシロを安心させるように背中を叩き、治療室へと入っていった。
治療室の外に一人取り残されたシロは、スノウに言われた通り、治療室の隣の部屋へ移動した。
ガラス張りの部屋は、見学用に作られているだけあって治療の様子がよく見える。
竜人医師たちの治療が始まり、シロは言葉を失った。
それは今まで見たこともない高度な治癒魔法だった。また魔法だけでなく、人間が行うような手術も手早くこなしている。
特にスノウが『レイズ先生』と呼んでいた竜人医師の技術は本当に素晴らしいものだった。
シロは、治療魔法には多少の自信があったが、自分の力はまだまだ微々たるものだと実感した。
数時間後、治療室の扉が開いた。
シロはすぐに、ベッドでまだ眠るルーフに駆け寄った。
「ルーフ!」
ルーフの左目の上には白いガーゼが貼られ、腕には点滴が繋がっている。
顔色はいつも通りだし、朝、感じた違和感も無くなっている。
ルーフはもう大丈夫なのだろうか…。
ベッドの横に立つスノウは、泣きそうな顔をしているシロに向かってピースサインを作った。
「とりあえず治療は無事終わったよ。今は麻酔で眠ってるけど、あと1時間くらいで目も覚ますよ。まあ、目を覚ましたルーフさんが勝手にアスディアに連れてきた事を怒りそうで心配だけど…」
「…っ!そっか、よかった…。よかった…。スノウさん、ありがとうございます…。よかったね、ルーフ」
シロは安堵から流れた涙を拭って、ルーフの頬をそっと撫でた。
しかし安心したのも束の間。
スノウの心配事は的中し、目を覚ましたルーフの怒号が病院中に鳴り響いた。
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