竜人嫌いの一匹狼魔族が拾った竜人を育てたらすごく愛された。

そら。

文字の大きさ
上 下
86 / 112
竜人の子、旅立つ

13.治療室

しおりを挟む
上空の巨大な雲を抜けると、空に浮かぶ大きな島が現れた。広い大地に豊かな自然。まるで神の加護が与えられたような美しい国。これが竜人の国、アスディアだ。

アスディアの都市に着くと、ルーフは直ぐに聖騎士団が管理する病院へ運ばれた。

イビキを掻きながら気持ち良さそうに寝ているルーフは、とても病人には見えない。しかし竜人の医者や看護師が手際良くルーフを清潔なベッドに乗せ、点滴のチューブが付けられていく姿をみると、シロの心はどんどん苦しくなった。
心配そうにルーフの手を握るシロに、スノウが優しく笑いかけた。

「ルーフさんの傷跡の影響は、まだごく僅かなものだから簡単な治療で済むから心配いらないよ。念の為、精密検査もするから時間がかかると思う。シロ君はアスディアに来たのは初めてだよね。気分転換に散策でもしておいで」

「…散策をする気分じゃないです。スノウさん、俺、このままルーフの側にいたら駄目ですか?絶対に治療の邪魔にならないようしますから。手伝える事があれば、なんだってやります。お願いします!」

シロはスノウに頭を下げた。
まだ子供の自分が同席しても邪魔になるだけだ。だけど、どうしてもルーフの側にいたい。

スノウは「うーん、そうは言ってもなぁ。治療室は医療関係者以外立ち入り禁止だし…」と困って頬を掻いた。

「おいっ、スノウ!何をグズグズしている!?さっさと治療を始めるぞ!」

いかにも大ベテランの雰囲気がある竜人の医者が、スノウを怒鳴りつける。

「はいはーいっ!今行きますっ!ふー、レイズ先生は短気だなぁ。ごめん、シロ君。治療室には連れて行けないよ。でも治療室の隣の部屋がガラス張りになっていて、治療の様子を見ることができる。本来は研修生が見学する場所なんだけど、僕が許可を取っておく。それでもいい?」

本当は自分でルーフを助けたい。しかし今の自分には見守ることしか出来ないのか…。

シロは悔しさで流れる涙を拭って、もう一度スノウに頭を下げた。

「…はい、十分です。ありがとうございます。スノウさん…、ルーフをよろしくお願いします」

「うん。まかせて。絶対大丈夫だから」

スノウはシロを安心させるように背中を叩き、治療室へと入っていった。

治療室の外に一人取り残されたシロは、スノウに言われた通り、治療室の隣の部屋へ移動した。

ガラス張りの部屋は、見学用に作られているだけあって治療の様子がよく見える。
竜人医師たちの治療が始まり、シロは言葉を失った。

それは今まで見たこともない高度な治癒魔法だった。また魔法だけでなく、人間が行うような手術も手早くこなしている。
特にスノウが『レイズ先生』と呼んでいた竜人医師の技術は本当に素晴らしいものだった。

シロは、治療魔法には多少の自信があったが、自分の力はまだまだ微々たるものだと実感した。



数時間後、治療室の扉が開いた。
シロはすぐに、ベッドでまだ眠るルーフに駆け寄った。

「ルーフ!」

ルーフの左目の上には白いガーゼが貼られ、腕には点滴が繋がっている。
顔色はいつも通りだし、朝、感じた違和感も無くなっている。
ルーフはもう大丈夫なのだろうか…。

ベッドの横に立つスノウは、泣きそうな顔をしているシロに向かってピースサインを作った。

「とりあえず治療は無事終わったよ。今は麻酔で眠ってるけど、あと1時間くらいで目も覚ますよ。まあ、目を覚ましたルーフさんが勝手にアスディアに連れてきた事を怒りそうで心配だけど…」

「…っ!そっか、よかった…。よかった…。スノウさん、ありがとうございます…。よかったね、ルーフ」

シロは安堵から流れた涙を拭って、ルーフの頬をそっと撫でた。

しかし安心したのも束の間。
スノウの心配事は的中し、目を覚ましたルーフの怒号が病院中に鳴り響いた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

IMprevu ―予期せぬ出来事―

天野斜己
恋愛
「一杯、おごらせて頂けませんか?」女子力0のアラサー干物女に訪れた、ドラマのようなシチュエーションから始まるシンデレラストーリー。しかし彼女を誘った、見た目も家柄もパーフェクトなエリート、実は彼の裏の顔は腹黒マックロくろすけなヤンデレ男だった。 ※ 言うまでもない事ではありますが、この話はあくまでフィクションであり、実在の人物、団体、店舗、建造物etcの名称が出て参りましても、それらのものとは一切関係がない事を改めて明記させて頂きます。多少の矛盾は軽く流して(笑)、あくまでも“天野の脳内ファンタジー世界”の出来事としてお楽しみ下さいマセ。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、 アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。 特効薬も見つからないまま、 国中の女性が死滅する異常事態に陥った。 未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。 にも関わらず、 子供が産めないオメガの少年に恋をした。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

21時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

処理中です...