竜人嫌いの一匹狼魔族が拾った竜人を育てたらすごく愛された。

そら。

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竜人の子、旅立つ

5.試したい事

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「シロ、調子はどうだ?」

何十人目かの治癒魔法を終えたシロに、シャオルが話しかけた。

「あ、シャオルさん。戻ってきてたんですね」

「ああ、街の救助活動はとりあえず目処がついた。あとは怪我人の治療に回れと指示があったんだ。お前も随分魔力を消費したんじゃないか?大丈夫か?」

「はい、まだ平気です。それに俺、魔力は多い方なんです。それより騎士団のほとんどが、魔力不足になってしまったみたいで…」

「ああ。騎士団の方々は、昨日の魔獣討伐でかなり魔力も体力も消費していた状態だったからな…。くそっ、歯痒いな…」

まだ竜人騎士学校の学生であるシャオルでは、学生自身の安全のため救助活動に制限がされており、騎士団ほど役に立てていない。力不足の己に悔しくなって、握る拳に力が入る。

また、シロも高度な治療魔法を使うスノウの背中を見て、自身の未熟さに不甲斐なさを感じていた。
魔力は多くても魔法技術がなければ、助けられる命だって目の前でこぼれ落ちていく。

(悔しいな…)

シロは痛みに苦しむ人々を見て、強くそう思った。


「2人とも、魔力は大丈夫か?」

ユーロンに声を掛けられ、2人は顔を上げる。

「…父上。俺たちはまだ大丈夫です。それより騎士団の方々がそろそろ限界ですよ」

シャオルはやるせない気持ちで、疲弊した騎士たちを見渡す。ユーロンもつられて騎士たちに視線を移す。医療班の騎士は、魔力不足になりながらも懸命に治療を行なっているが、このままでは長く持たないだろう…。焦りと、もどかしい気持ちに落胆のため息が出る。

「ああ、分かっている。しかし聖水も残り僅かだ。アスディアにも応援要請を出しているが、到着までまだ時間がかかるそうだ。…せめて医療班だけでも魔力を完全回復出来れば良いのだが…」

「魔力の完全回復…」

シロは呟き、治療魔法を使い続けるスノウを見る。スノウはまだ魔力不足になっていない。おそらく、先程シャオルの口付けによって魔力が回復したからだ。

シロは自分の掌を見た。
自分の魔力量の測り方は、ルーフに教わっていた。
目を瞑り、シロの身体中を巡る、こんこんと湧き出るような魔力を感じる。

(俺の魔力は、まだ充分ある…!)

「シャオルさん!さっきスノウさんに魔力を分けていたのって、キス以外でも出来るんですか?」

「キ、キスだとっ!?」

シャオルより先にユーロンが反応し、咄嗟に父親から目を背けたシャオルを見た。

「出来れば、一気に大勢の竜人に、魔力を供給する方法ってあるんですか!?」

「…あー、まぁ、直接触れれば移せる。握手とかでも出来るが、一気に大勢は難しいと思うぞ…」

シャオルは腰に手を当て、頭を掻きながら答えた。

「…シャオル、お前。それを知ってるなら握手でしてやれ…。ったく、お前は昔からスノウに執着しすぎ…いや、今そんな事はどうでもいいか」

ユーロンは腕を組み、今度はシロを見た。

「シロ。竜人の魔力供給は、接触が必要な高度魔法だ。それにお前の属性は闇魔力だろ?光魔力を属性とする竜人には供給しづらいと言われている」

「そう、ですか…」

やはり俺には無理か…。
シロは再び自分の掌を見つめる。自分には、こんなに魔力があるのに供給する事さえ出来ないなんて…。

シロは悔しい気持ちで顔を上げると、水バケツを運ぶカワウソ魔族が目に入った。
そのカワウソ魔族は、自分の子どもを水バケツに入れて煤を落としている。子どもは腕を火傷した、と泣いている。カワウソ魔族は治癒魔法をかけようとするが、上手くできないようだ。

『魔王様は魔力が多すぎて、他の魔族にも魔力供給してしまう体質だったー…』

いつかのルーフの言葉を思い出す。
先代魔王は、触れずとも大勢の魔族たちに魔力供給が出来ていた。

『ー…シロの闇魔力は、魔王の力を継承している』

シロは一か八か、目を閉じた。
カワウソ魔族に魔力を送るイメージをする。

自身の身体に巡る魔力を、心臓から足先へ、足先から地面へ。地面を這う闇魔力は、治癒魔法をかけるカワウソ魔族へー…。

次の瞬間、カワウソ魔族から治癒魔法が飛び出した。
あっという間に子どもの火傷が治り、カワウソ魔族は、子どもを抱きしめた。

出来るー…!!

シロは手を握りしめた。

「ユーロンさん!俺、試したい事があるんです!」
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