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竜人の子、旅立つ
3.好きだ
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街の中心街ー…。爆発によりパニックになった大通りは逃げる人々で溢れかえっている。
怪我をして苦しむ者、家族や友人、大切な人と逸れて泣き叫ぶ者、我先にと逃げる者。
砂埃の立つ道の隅でアリスは、気を失ったルカを抱きかかえて泣いている。
「ルカっ、ルカっ…!目を覚ましてよ…!ルカぁ…」
ルカの後頭部を触るとぬるりと血が付いた。
「ああ、どうしよう…血が…。ルカ、頑張ってよ…、死なないで…」
アリスは涙を拭いて、慣れない治癒魔法をかける。
シロやルーフは治癒魔法を使いこなしているが、治癒魔法は高等魔法と呼ばれる部類で、普通の魔族では中々使いこなせない。
アリスも簡単な擦り傷程度なら治せるが、深い傷などは治せた事がない。
震える手でルカの後頭部を触るが、やはり血は止まらず、ルカの顔色はどんどんと青白くなってくる。
「ルカのバカ…。弱い人間のくせに私を庇うからいけないのよ…」
アリスはもう一度、治癒魔法をかけた。
ー…数十分前。突然、爆発が起こり目の前が真っ白になった。アリスは咄嗟に防御魔法を使い、ルカを庇った。
「ルカっ、大丈夫!?」
飛んできた木屑やガラスの破片を払いながら、ルカに話しかける。
「ああ、助けてくれてありがとう…。何が起こったんだ?」
するとまた爆発音が鳴り響き出した。
アリスたちがいた場所には石造りの頑丈な教会があり、衝撃波の被害を免れた。しかし教会の壁が崩れ始めている。逃げる人々の中で、1人の男性がルカたちに声を掛けた。
「君たち、その教会はもうすぐ崩れるかもしれないぞ!向こうに昔の地下シェルターがある!そこへ逃げるんだ!!」
「分かりましたっ!ありがとうございます!」
ルカはアリスの手を引いて立ち上がった。
「俺たちもそこへ行こう!」
「うん!…あ」
立ちあがろうとしたアリスだったが、貧血のような眩暈と体に力が入らず動けない。
(魔力不足だわ…)
アリスは咄嗟の防御魔法で、思った以上に魔力を使ってしまったのだ。
でも少し休めば魔力は回復するだろう。
「ルカ、先に逃げて!私の体は頑丈だけど、人間のあなたにこの場所は危ないわ!」
「ここが危ないなら一緒に逃げるべきだろっ」
「きゃあっ!」
ルカはアリスを横抱きにして走り出した。爆発と共に瓦礫が吹き飛んでくる。ルカは必死で走った。
「大丈夫!俺が絶対守るから!」
こんな状況なのに、ルカはアリスにニカッと笑いかける。
ルカの太陽みたいな笑顔。安心させる力強い言葉。
アリスは鼓動が早くなるのを感じた。
(ああ。私、やっぱりルカの事が好きなんだ…)
シェルターまであと少しー…。
その瞬間、爆発と共に教会が吹き飛んだ。
衝撃波でルカとアリスは飛ばされ、石畳の道に叩きつけられた。
しかしアリスはルカに抱きしめられていたおかげで体に痛みをほとんど感じなかった。
「ルカ、大丈夫ー…?」
アリスが起き上がり、ルカを見ると、頭から血を流して硬く目を瞑ったルカが横たわっていた。
「ルカっ!!」
アリスはルカの体を引き寄せ、治癒魔法を使う。しかし、必死に逃げる人々がアリスたちを邪魔だと蹴り飛ばす。
アリスはルカを抱きしめ、道の隅に移動した。
ルカに声を掛け続け、なけなしの魔力で治療を施す。周りに助けを求めても、パニックでアリスの声は掻き消されれる。
だれか、だれか助けて…。ルカを救って…。
「ルカ…、ルカ…」
たった数分が、アリスにとって永遠に感じた。
神の存在など信じたことも無いのに、『神様、助けてください』と強く祈った。
涙で濡れたアリスの頬を冷たい手が触れた。
「うーわ…、最悪。…何、泣いてんだよ」
「ルカっ!」
ルカの意識が戻り、アリスの頬に触れていた。
「…大丈夫か?…もしかして怪我したのか?」
まだ視点が合わないルカは、アリスの無事を確認したかった。アリスはルカの手を握りしめた。
「怪我してるのはルカの方でしょ!…私は…、私はルカが守ってくれたから傷一つないわ。ねぇ、ルカ。大丈夫よね?きっとすぐに助けが来るから、もう少しだけ頑張って…」
アリスの目から、また大粒の涙が溢れ出す。
「…ん。…なぁ、もしかしてアリスは俺のせいで泣いてるの?ははっ…、初デートで女の子を泣かせるなんて、俺、最低じゃん」
ルカは力無く笑う。
「もうっ、こんな状況でよくそんな事が言えるわね…。本当、ばか…」
アリスが何度も涙を拭うせいで、目の周りは真っ赤になってしまった。
ルカは自分の怪我よりアリスの目の周りの方が痛そうだな、とぼんやり思った。
(俺が魔法を使えたら治してやれるのにな…)
「もう泣くなよ…。俺は大丈夫だからさ…」
「どこが大丈夫なのよ!このままルカが死んだら一生泣いてやるわ。…だから、助けが来るまで…あと少し頑張ってよ…」
ルカの体はどんどん冷えていく。アリスは魔力に集中し、治癒魔法をかけ続けた。
だんだんアリスの視界が歪み始めた。
きっともうすぐ魔力が切れてしまう。魔力がなくなればアリスの命も危ない。
だけど、そんな事よりルカを助けたい。アリスはさらに魔力を強めた。
「はは、そりゃ困るな。頑張らないと…。なぁ、アリス」
「何?」
「本当は言うつもりなかったんだけどさ…」
「うん」
「俺、アリスが好きだ。…俺と付き合ってくれない?」
「…ふふっ。本当、よくこの状況で告白なんてできるわね」
「だよなぁ…。でも今、言わなきゃ後悔しそうでさ…」
ルカの目が再び閉じていく。アリスも視界が狭くなりルカの顔もぼやけ見える。
どんな表情で告白しているのか、ちゃんと見たかったな…。
アリスはルカの額にそっとキスを落とた。
「…私の答えを聞かないと、もっと後悔するわよ」
「ははっ、それって期待していいって事…?」
「さあ、どうかしら…」
ルカとアリスは笑っておでこを合わせ、ゆっくりと目を閉じた。
暖かい風が2人を包む。
痛みが消えていく感覚がしたー…。
「あひゃひゃっ!!告白大会かっ!?だったら2人ともまだくたばれねぇよなぁ!」
いつの間にか現れたルーフが「いよっ!青春真っ盛り!お熱いねぇ!なぁなぁ、ちゅーした?ちゅーしたか?」などと笑って茶化しながら、2人に治療魔法をかけていた。
「……。」
ルーフのデリカシーのなさにアリスとルカは無表情になる。
この時、2人は「シロはルーフのどこに惚れたんだ…?」と思ったらしい。
怪我をして苦しむ者、家族や友人、大切な人と逸れて泣き叫ぶ者、我先にと逃げる者。
砂埃の立つ道の隅でアリスは、気を失ったルカを抱きかかえて泣いている。
「ルカっ、ルカっ…!目を覚ましてよ…!ルカぁ…」
ルカの後頭部を触るとぬるりと血が付いた。
「ああ、どうしよう…血が…。ルカ、頑張ってよ…、死なないで…」
アリスは涙を拭いて、慣れない治癒魔法をかける。
シロやルーフは治癒魔法を使いこなしているが、治癒魔法は高等魔法と呼ばれる部類で、普通の魔族では中々使いこなせない。
アリスも簡単な擦り傷程度なら治せるが、深い傷などは治せた事がない。
震える手でルカの後頭部を触るが、やはり血は止まらず、ルカの顔色はどんどんと青白くなってくる。
「ルカのバカ…。弱い人間のくせに私を庇うからいけないのよ…」
アリスはもう一度、治癒魔法をかけた。
ー…数十分前。突然、爆発が起こり目の前が真っ白になった。アリスは咄嗟に防御魔法を使い、ルカを庇った。
「ルカっ、大丈夫!?」
飛んできた木屑やガラスの破片を払いながら、ルカに話しかける。
「ああ、助けてくれてありがとう…。何が起こったんだ?」
するとまた爆発音が鳴り響き出した。
アリスたちがいた場所には石造りの頑丈な教会があり、衝撃波の被害を免れた。しかし教会の壁が崩れ始めている。逃げる人々の中で、1人の男性がルカたちに声を掛けた。
「君たち、その教会はもうすぐ崩れるかもしれないぞ!向こうに昔の地下シェルターがある!そこへ逃げるんだ!!」
「分かりましたっ!ありがとうございます!」
ルカはアリスの手を引いて立ち上がった。
「俺たちもそこへ行こう!」
「うん!…あ」
立ちあがろうとしたアリスだったが、貧血のような眩暈と体に力が入らず動けない。
(魔力不足だわ…)
アリスは咄嗟の防御魔法で、思った以上に魔力を使ってしまったのだ。
でも少し休めば魔力は回復するだろう。
「ルカ、先に逃げて!私の体は頑丈だけど、人間のあなたにこの場所は危ないわ!」
「ここが危ないなら一緒に逃げるべきだろっ」
「きゃあっ!」
ルカはアリスを横抱きにして走り出した。爆発と共に瓦礫が吹き飛んでくる。ルカは必死で走った。
「大丈夫!俺が絶対守るから!」
こんな状況なのに、ルカはアリスにニカッと笑いかける。
ルカの太陽みたいな笑顔。安心させる力強い言葉。
アリスは鼓動が早くなるのを感じた。
(ああ。私、やっぱりルカの事が好きなんだ…)
シェルターまであと少しー…。
その瞬間、爆発と共に教会が吹き飛んだ。
衝撃波でルカとアリスは飛ばされ、石畳の道に叩きつけられた。
しかしアリスはルカに抱きしめられていたおかげで体に痛みをほとんど感じなかった。
「ルカ、大丈夫ー…?」
アリスが起き上がり、ルカを見ると、頭から血を流して硬く目を瞑ったルカが横たわっていた。
「ルカっ!!」
アリスはルカの体を引き寄せ、治癒魔法を使う。しかし、必死に逃げる人々がアリスたちを邪魔だと蹴り飛ばす。
アリスはルカを抱きしめ、道の隅に移動した。
ルカに声を掛け続け、なけなしの魔力で治療を施す。周りに助けを求めても、パニックでアリスの声は掻き消されれる。
だれか、だれか助けて…。ルカを救って…。
「ルカ…、ルカ…」
たった数分が、アリスにとって永遠に感じた。
神の存在など信じたことも無いのに、『神様、助けてください』と強く祈った。
涙で濡れたアリスの頬を冷たい手が触れた。
「うーわ…、最悪。…何、泣いてんだよ」
「ルカっ!」
ルカの意識が戻り、アリスの頬に触れていた。
「…大丈夫か?…もしかして怪我したのか?」
まだ視点が合わないルカは、アリスの無事を確認したかった。アリスはルカの手を握りしめた。
「怪我してるのはルカの方でしょ!…私は…、私はルカが守ってくれたから傷一つないわ。ねぇ、ルカ。大丈夫よね?きっとすぐに助けが来るから、もう少しだけ頑張って…」
アリスの目から、また大粒の涙が溢れ出す。
「…ん。…なぁ、もしかしてアリスは俺のせいで泣いてるの?ははっ…、初デートで女の子を泣かせるなんて、俺、最低じゃん」
ルカは力無く笑う。
「もうっ、こんな状況でよくそんな事が言えるわね…。本当、ばか…」
アリスが何度も涙を拭うせいで、目の周りは真っ赤になってしまった。
ルカは自分の怪我よりアリスの目の周りの方が痛そうだな、とぼんやり思った。
(俺が魔法を使えたら治してやれるのにな…)
「もう泣くなよ…。俺は大丈夫だからさ…」
「どこが大丈夫なのよ!このままルカが死んだら一生泣いてやるわ。…だから、助けが来るまで…あと少し頑張ってよ…」
ルカの体はどんどん冷えていく。アリスは魔力に集中し、治癒魔法をかけ続けた。
だんだんアリスの視界が歪み始めた。
きっともうすぐ魔力が切れてしまう。魔力がなくなればアリスの命も危ない。
だけど、そんな事よりルカを助けたい。アリスはさらに魔力を強めた。
「はは、そりゃ困るな。頑張らないと…。なぁ、アリス」
「何?」
「本当は言うつもりなかったんだけどさ…」
「うん」
「俺、アリスが好きだ。…俺と付き合ってくれない?」
「…ふふっ。本当、よくこの状況で告白なんてできるわね」
「だよなぁ…。でも今、言わなきゃ後悔しそうでさ…」
ルカの目が再び閉じていく。アリスも視界が狭くなりルカの顔もぼやけ見える。
どんな表情で告白しているのか、ちゃんと見たかったな…。
アリスはルカの額にそっとキスを落とた。
「…私の答えを聞かないと、もっと後悔するわよ」
「ははっ、それって期待していいって事…?」
「さあ、どうかしら…」
ルカとアリスは笑っておでこを合わせ、ゆっくりと目を閉じた。
暖かい風が2人を包む。
痛みが消えていく感覚がしたー…。
「あひゃひゃっ!!告白大会かっ!?だったら2人ともまだくたばれねぇよなぁ!」
いつの間にか現れたルーフが「いよっ!青春真っ盛り!お熱いねぇ!なぁなぁ、ちゅーした?ちゅーしたか?」などと笑って茶化しながら、2人に治療魔法をかけていた。
「……。」
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