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竜人の子、旅立つ

1.爆発事故

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数え切れないほどの爆発と衝撃波で建物が揺れ、人々の悲鳴やガラスの割れる音や物が壊れる音がそこら中から聞こえてきた。

シロは何が起こったか分からず、ルーフの腕の中で身動きが取れずにいた。

数十秒後、爆発音がピタッと止まった。

「ねぇ!ルーフっ!何があったの!?大丈夫?」

周りの様子を確認したいのに、ルーフに力強く抱きしめられているせいで周りを見ることさえ出来ない。

「…っ分かんねぇ」

ルーフはシロを庇った体勢のまま、全神経を集中させる。
周りから混乱の声や泣き声が聞こえてくるが、もう嫌な感じはしない。

きっともう爆発は起こらないだろう。

安堵感で体の力が抜けると、シロが腕の中から抜け出した。バランスを崩したルーフは床に倒れそうになる。シロがすぐに支えて心配そうに「大丈夫?」と声を掛けてくる。

「…くそっ」

背中が燃えるように痛い。息をする事さえ苦しい。

ルーフの苦しそうな様子に、シロがルーフの背中に視線を移すと無数のガラスと角材がルーフの背中に刺さっていた。ルーフの周りにどんどん血の水溜りが広がっていく。

「ルーフっ!!」

シロは慌てて治癒魔法をかけた。
ルーフの背中に刺さっていたものが全て抜け落ち、傷口はすぐに塞がった。
一気に呼吸も楽になり、ルーフは安堵のため息をついた。

「っはぁー…。マジで死ぬかと思った。お前の治癒魔法すげぇな。へへっ」

ルーフが笑ってシロを見ると、硬直していたシロの顔からぶわっと涙が溢れ出した。

「ルーフのバカっ!!俺の事より自分を守れよ!ううっ…、うぅーっ!!」

シロはルーフに抱きつきながら子供のように大泣きした。

「しょうがねぇだろ、体が勝手に動いちまったんだから。あー、くそ。一気に酔いが覚めた。ったく、いつまで泣いてんだ!」

ルーフがシロを宥めていると、さっきルーフと飲んでいた男が慌ててやってきた。

「おい!君、治癒魔法が使えるのか!?怪我人が沢山いるんだ!助けてくれ!」

そう言われてシロが周りを見渡すと、ルーフと同じような怪我をした人々が何人も倒れている。

「わ、分かりました!」

きっと一人一人治癒魔法をかけていたらキリがない。
シロは集中して治癒魔法の風を起こした。
風に包まれた人々の怪我がゆっくりと治っていく。

シロが治癒魔法をかけている間、ルーフは建物の下へ降りて聴力を強化した。周囲から聞こえてくる会話を聞き取り情報を集めた。



どうやら備えの打ち上げ花火の火薬に火が移り、爆発事故になったらしい。
すぐに竜人騎士団が駆け付け、消火に当たったため爆発は止められたが、かなり広い規模で被害が出ている。
騎士団や医者たち総出で救助活動をしているが、人手が全く足りていない。
街で暮らす竜人たちは、竜人騎士団と合流し指示に従って動いている。
いつも自由気ままな魔族でさえ、治癒魔法が使える者は救助にあたっている。


「ママぁー!ママぁー!!」

子供の声に振り返ると、小さな女の子が倒れた母親の前で泣いている。

ルーフはすぐに駆け寄り、治癒魔法をかけた。
母親の意識は戻り、怪我も治った。

するとルーフは腕を掴まれ「あんた魔法が使えるのか!?頼む!こっちにも怪我人がいるんだ!助けてくれ!」と頭から血を流した男性に助けを求められた。

「分かったから引っ張るなよ!つか、お前も怪我してんじゃん」

ルーフは男性の頭に手を触れ怪我を治す。

「ああ、すまない…。だが、私の妻が建物の下敷きになっていて…とにかく急いできてくれ!」

男は泣きながらルーフを引っ張り、崩れた建物まで連れて行った。

すでに何人か集まり、救助活動にあたっている。
ルーフは「どけっ!俺が瓦礫を退かす」と怒鳴って、魔法で瓦礫を退かせた。
下敷きになっていた人々に治癒魔法をかけていたら、また他の人から「助けてくれ」と腕を引っ張られる。

「くそっ、キリがねぇな」

ルーフが小言を言いながら次の場所へ向かっていると、シロが走ってやってきた。

「ルーフ、俺も手伝うよ!」

「いや、お前は竜人騎士団を手伝え。竜人を集めて救助に当たってるそうだ。ユーロンやスノウの指示を受けろっ」

「嫌だよ!ルーフと一緒にいる!」

シロの赤い瞳が真っ直ぐにルーフを見つめる。

魔王のような見た目でもシロは立派な竜人だ。
ルーフより、ユーロンたちの方がシロの力を活かせるだろう。
その方が多くの人を救えるはずだ。

ルーフはシロの頭を優しく撫でた。

「竜人のお前だから出来ることがあるはずだ。俺はここにいるから、行ってこい!」

ルーフに背中を強く叩かれ、シロの背中から竜の翼が広がり、シロの体がふわりと浮いた。

ルーフのそばに居たい。でも自分だから出来る事があるなら…。
シロは唇を噛み締め、翼を羽ばたかせた。

「…っ分かった、行ってくる!!」

シロは力強く飛び立っていった。
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