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竜人嫌いの魔族、竜人の子供を育てる
1.ユーロンの訪問
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ミール王国のルーフの家に戻ってきてから5日が経ち、必要最低限の家具しか置いていなかったルーフの部屋は、着々とシロの物が増えていった。
そして今日は頼んでもいないシロの勉強机が設置された。持ってきたのは毎日のようにやって来るユーロンだ。
「学校はミール王国が管理する教会に併設されている。この家からなら徒歩20分程度だ。竜人の子供は少ないが人間と魔族の子が多く通っている。どの子も活発で勤勉だからシロもすぐに馴染めるだろう。明日からそこへ通え。これが通学用鞄、教科書、筆記用具。ああ、あとこれは最近街の子供たちの間で流行っているカードだ」
シロを椅子に座らせ、ユーロンは学校の資料と道具を次々と並べた。
「おいおいおい、散らかすんじゃねぇよ」
ベッドの上でくつろいでいたルーフは眉間に皺を寄せ注意した。
「散らかしてなどいない。これはシロに必要な物だ」
ユーロンは心外だ、という表情で言い返した。しかし椅子に座っていたシロは気まずそうにユーロンをチラチラと見た。
「あのー、ユーロンさん。お気持ちは嬉しいですけど、僕、お金を持っていないのでお支払いできませんよ?」
「ああ、気にするな。これは全て俺の子供たちのお下がりだ。新しい物が欲しいなら今度持ってくるぞ」
「ありがとうございます。でも新しい物は用意しなくて大丈夫ですよ。どれも素敵な物ばかりなので」
ユーロンが持ってきた物はお下がりといえど、かなり状態も良い。シロは自分専用の鞄や初めてみるカードが嬉しくて、にこにこしながらひとつひとつ丁寧に眺めていた。
ユーロンはルーフの方はやって来て「少し話せるか?」と親指で外を指した。
おそらくシロには聞かれたくない内容なのだろう。
ルーフは頷き、シロに留守番を頼んで2人は近くの個室のあるバーへ移動した。さらにユーロンは防音の結界を張った。
「随分厳重じゃねぇか。なんの話だよ?」
ルーフは頬杖をしながら酒を一口飲んだ。
「ああ。お前とは色々話さないといけないと思っていたんだ。まず、シロを保護してくれた事に改めて礼を言う。お前がシロを見つけていなかったらあの子は今頃死んでいただろう。ありがとう」
深々頭を下げるユーロンを見てルーフは「うぜぇー。」と呟き、また酒を一口飲んだ。ユーロンは「お前はそう言うと思ったよ」と少し笑った。
「…街で少しルーフの噂を聞いたよ。たまにケガをしたり迷子になった魔獣を保護してるって。昔からそうしていたのか?」
ユーロンの質問にルーフは答えようか躊躇った。魔獣の保護は別に隠すような話じゃないが、わざわざ話すような事でもない。ただ、ユーロンはシロの保護者としてルーフ自身を見定めたいのだろう。きっとここでユーロンの質問を適当にあしらっても余計面倒になるだけだ。ルーフはため息をついて答えた。
「…昔は、魔王様が魔獣を保護していたんだ。あの人は魔王のくせに優しかったからな。森でケガをした魔獣を見つけては手当して保護してたよ。俺も子供の頃、怪我して森で倒れていたところを魔王様に助けられたんだ。その縁あって魔王様の元で働くようになったんだ。魔獣の保護にもよく付き合わされたよ。俺はそれが結構面倒だったんだけどな。今じゃ習慣になっちまって魔獣がケガしたって話を聞きゃ勝手に体が動いてるんだ。最悪だよ」
ルーフは話しながら少し思い出し笑いをした。普段は部屋に静かに閉じこもっていた魔王だったが、魔獣を保護する時は楽しそうだった。魔獣に噛みつかれても引っ掻かれても「大丈夫、大丈夫。」と笑っていた。
何がそんなに楽しいんだ、と思ったが暴れる魔獣と魔王のやり取りを見ているとルーフも自然と笑っていた。
(あの頃は楽しかったな。俺が今も魔獣の保護を続けているのはあの時の楽しさが忘れないからだ。)
魔王の事を思い出すと楽しい記憶と同時にいなくなってしまった寂しさに襲われる。ルーフは思い出を流し込むようにグラスの酒を飲み干した。
そして今日は頼んでもいないシロの勉強机が設置された。持ってきたのは毎日のようにやって来るユーロンだ。
「学校はミール王国が管理する教会に併設されている。この家からなら徒歩20分程度だ。竜人の子供は少ないが人間と魔族の子が多く通っている。どの子も活発で勤勉だからシロもすぐに馴染めるだろう。明日からそこへ通え。これが通学用鞄、教科書、筆記用具。ああ、あとこれは最近街の子供たちの間で流行っているカードだ」
シロを椅子に座らせ、ユーロンは学校の資料と道具を次々と並べた。
「おいおいおい、散らかすんじゃねぇよ」
ベッドの上でくつろいでいたルーフは眉間に皺を寄せ注意した。
「散らかしてなどいない。これはシロに必要な物だ」
ユーロンは心外だ、という表情で言い返した。しかし椅子に座っていたシロは気まずそうにユーロンをチラチラと見た。
「あのー、ユーロンさん。お気持ちは嬉しいですけど、僕、お金を持っていないのでお支払いできませんよ?」
「ああ、気にするな。これは全て俺の子供たちのお下がりだ。新しい物が欲しいなら今度持ってくるぞ」
「ありがとうございます。でも新しい物は用意しなくて大丈夫ですよ。どれも素敵な物ばかりなので」
ユーロンが持ってきた物はお下がりといえど、かなり状態も良い。シロは自分専用の鞄や初めてみるカードが嬉しくて、にこにこしながらひとつひとつ丁寧に眺めていた。
ユーロンはルーフの方はやって来て「少し話せるか?」と親指で外を指した。
おそらくシロには聞かれたくない内容なのだろう。
ルーフは頷き、シロに留守番を頼んで2人は近くの個室のあるバーへ移動した。さらにユーロンは防音の結界を張った。
「随分厳重じゃねぇか。なんの話だよ?」
ルーフは頬杖をしながら酒を一口飲んだ。
「ああ。お前とは色々話さないといけないと思っていたんだ。まず、シロを保護してくれた事に改めて礼を言う。お前がシロを見つけていなかったらあの子は今頃死んでいただろう。ありがとう」
深々頭を下げるユーロンを見てルーフは「うぜぇー。」と呟き、また酒を一口飲んだ。ユーロンは「お前はそう言うと思ったよ」と少し笑った。
「…街で少しルーフの噂を聞いたよ。たまにケガをしたり迷子になった魔獣を保護してるって。昔からそうしていたのか?」
ユーロンの質問にルーフは答えようか躊躇った。魔獣の保護は別に隠すような話じゃないが、わざわざ話すような事でもない。ただ、ユーロンはシロの保護者としてルーフ自身を見定めたいのだろう。きっとここでユーロンの質問を適当にあしらっても余計面倒になるだけだ。ルーフはため息をついて答えた。
「…昔は、魔王様が魔獣を保護していたんだ。あの人は魔王のくせに優しかったからな。森でケガをした魔獣を見つけては手当して保護してたよ。俺も子供の頃、怪我して森で倒れていたところを魔王様に助けられたんだ。その縁あって魔王様の元で働くようになったんだ。魔獣の保護にもよく付き合わされたよ。俺はそれが結構面倒だったんだけどな。今じゃ習慣になっちまって魔獣がケガしたって話を聞きゃ勝手に体が動いてるんだ。最悪だよ」
ルーフは話しながら少し思い出し笑いをした。普段は部屋に静かに閉じこもっていた魔王だったが、魔獣を保護する時は楽しそうだった。魔獣に噛みつかれても引っ掻かれても「大丈夫、大丈夫。」と笑っていた。
何がそんなに楽しいんだ、と思ったが暴れる魔獣と魔王のやり取りを見ているとルーフも自然と笑っていた。
(あの頃は楽しかったな。俺が今も魔獣の保護を続けているのはあの時の楽しさが忘れないからだ。)
魔王の事を思い出すと楽しい記憶と同時にいなくなってしまった寂しさに襲われる。ルーフは思い出を流し込むようにグラスの酒を飲み干した。
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