竜人嫌いの一匹狼魔族が拾った竜人を育てたらすごく愛された。

そら。

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竜人嫌いの魔族、竜人の子供を拾う。

11.レニーとの会話

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「ほらよ」

次の日の朝、シロの目の前にはホカホカと湯気が立つシチューとパンが置かれた。
今までシロの食事は、竜人の命の糧となる聖水がコップに一杯と味のない冷えたスープだけだった。

本当に自分が食べていいのか戸惑っていると、その魔族に「早く食えよ」と怒られた。
怒られた、と言っても全然怖くない言い方だった。

ー…なんでこの人は、僕にこんなに優しくしてくれるんだろう。

シロは不思議に思いながら、シチューを一口食べた。
温かくて優しい味が口中に広がった。

「…美味しい」

思わず口元が緩んだ。
食事ってこんなに美味しいものなのか。
シロはあっという間にシチューとパンを平らげた。

その後また病院に行き、点滴を打つことになった。魔族は「終わる頃に迎えにくる」と言って、シロを置いてさっさと出掛けてしまった。

たった1日一緒に居ただけなのに、遠ざかる魔族の後ろ姿を見ていると、シロは寂しくて悲しくて、無意識に「置いていかないで…」と呟いた。

「魔力が随分戻っているな。ルーフに分けてもらったのか?」

「え?」

医者のレニーは、シロの額を触りながらニコッと笑った。
言われてみれば、動けないほど消費していた魔力がほとんど回復している。

「ルーフって、僕を連れてきてくれたあの人の名前ですか?」

「ああ、そうだ。なんだ、あいつは自分の名前も名乗っていなかったのか。相変わらず適当なヤツだな」

レニーは呆れながら毛むくじゃらの顎をガリガリと掻いた。

(そっか、ルーフって名前なんだ。あの人によく似合ったかっこいい名前だな。それに魔力もルーフさんが分けてくれたんだ…。なんだか心が温かい。)

ルーフに置いてかれた寂しさもあったが、彼の名前を知れた事と魔力を分けてもらった事が嬉しくて、シロは座っていた足を揺らしながら小さく微笑んだ。






「それでお前はどこからやって来た?親はいないのか?」

レニーは点滴を用意しながらシロに尋ねた。

「えっと…、その…。」

正直に話した方がいいのだろうか。レニーもシロを助けてくれた恩人だ。ルーフとレニーには嘘をつきたくない。しかしローハン公爵の事を話したら、連れ戻されるのではないかと不安になって話せない。

そんなシロの様子に気付いたレニーは「まあ、いいさ。話したい時に聞かせておくれ。」と優しく笑った。

「とりあえず体の具合が良くなるまではルーフの所で世話になればいい。あいつは口も態度も悪いが、面倒見はいい方だ。まあ、ルーフが嫌なら他の家を探してやるぞ。竜人の子供は、里親に人気があるからな」

「嫌だなんて!ルーフさんは優しいです。出来ればルーフさんの家に置いてほしいです。その…迷惑じゃなければ…」

「あははっ、ならルーフに直接頼んでみればいい。でもルーフはそこまで優しいヤツじゃないぞ。傲慢で自分勝手な性格だ。雑用係になれとか言いそうだが大丈夫か?」

大丈夫に決まっている。
瀕死だった自分を助け、フワフワの体で温めてくれて、美味しい食事と魔力を与えてくれた恩人だ。

シロは大きく頷き、ルーフが戻ってくるのを待った。

その後、レニーの予想通り、ルーフは「雑用係が欲しかった」と言ったので、シロとレニーは目を合わせてこっそり笑った。
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