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竜人嫌いの魔族、竜人の子供を拾う。
8.シロの10年間
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シロの母フレアは、竜人の国アスディアのローハン公爵家出身だった。
竜人至上主義者のローハン公爵は、魔族を毛嫌いし、人間との関わりも避けるような竜人だった。
教育方針も厳しく偏った思想の元、フレアは父に反抗する事なく、父の用意したレールの上を歩き続けた。
ある日、フレアの妊娠が発覚した。
相手は屋敷の新入りの使用人だった貧しい竜人。
2人はお互いを愛していたわけではなく、ただ寂しさを埋めるため体だけの関係だった。
ローハン公爵は怒り、フレアを部屋に閉じ込め、使用人の竜人は始末した。
子を堕ろす事がタブーな竜人の掟に従い、フレアは秘密裏で子を産んだ。
“シロ”が生まれたのは雷鳴が轟く嵐の夜。
薄紅色のフレアと若草色だった使用人の間に生まれた子は、あろうことか漆黒の鱗に真紅の瞳を持つ竜だった。
「くそっ、呪われたな…。」
ローハン公爵は子を見るなり顔を歪めた。
赤い瞳の黒竜は、ドグライアスの魔王と同じ特徴を持つため、『呪われた竜』と呼ばれる存在だったのだ。
「だったら殺せばいいじゃない。」
出産をしたばかりのフレアは、虚な瞳で外を見た。
バシッー!!
ローハン公爵は、思いきりフレアの頬を叩いた。
「だまれっ!竜人が子を殺すなど、お前は竜人の禁忌さえも侵すつもりか!!フレア、お前は一刻も早く体を治しいつも通りの生活に戻れ。…子はしばらく地下室に隠す。シッターを用意するからお前は二度と子に関わるな。いや、忘れろ。全て無かったことだと思え。」
ローハン公爵が部屋を去ると、フレアは産まれたばかりの我が子をぼんやり眺めた。
「ごめんなさいね。私、あなたのことを好きになれないわ。」
フレアは、子を抱く事も触れる事も目を合わせる事さえせず、再び外を眺めた。
そして“シロ”は名前さえ付けられることもなく、生まれた日から地下室での生活が始まった。
ローハン公爵が用意したシッターは、長年ローハン公爵家に勤めていた竜人のメイド長のジェーンだった。
すでに1000年以上生きている彼女も竜人至上主義思想を持ち、ローハン公爵を崇拝することが生きがいのような人物だった。
「あー、嫌だ嫌だ。本当に気味の悪い赤い瞳だね。お前がローハン公爵様と血が繋がっているなんて考えられないわ。お前はローハン公爵家の恥だよ。」
ジェーンは、まだ言葉も分からないシロに毎日のように嫌味を言い、シロの世話も最低限の事しかせず、満足な食事も与えなかった。しかしそれはローハン公爵の指示でもあった。
そしてローハン公爵もたまに地下室に訪れては、順調に成長するシロに眉を顰めた。
「お前が生まれて3年か。大した食事を与えていないのに無駄に成長するものだな。お前、本当は醜い魔族の子ではないのか?」
ローハン公爵はため息をつきながらも、今後のシロについて考えていた。
このまま地下室に閉じ込めていても何の役にも立たない。このまま成長し、暴れるようになっても困る。
ー…だったら、いっその事、従順な駒として育てるか…。
ローハン公爵は、従者の中からシロの教育係を用意した。教育係の名前はジン。戦闘能力に長けた竜人だ。
彼もまたローハン公爵の信者で、全てローハン公爵の指示のもとシロを教育した。
鉄のブーツを履いたジンに蹴飛ばされ、シロは地下室の壁に激突した。
「げほっげほっー!!」
腹を蹴られた衝撃で空っぽの胃から胃液を吐いた。
苦しい、痛い、辛いー…。
「立て。お前のような弱き者でもローハン公爵様は見捨てずに育ててくださってるのだぞ。心優しき公爵様に感謝し、自分の弱さに恥を知れ」
シロは衝撃で目眩がするのを我慢しながら立ち上がった。
ジンの教育が始まって、すでに7年の月日が過ぎていた。教育科目は一般教養と戦闘訓練の2つだけだった。
特に戦闘訓練は、血を吐くほどの辛く厳しいものだった。
今日も遅くまで訓練、というより一方的な暴力を受けたシロは、ボロボロの体で牢のような地下室に戻り、治療もせず体を丸めて目を閉じた。
眠りに落ちる瞬間、耳元でネズミの鳴き声が聞こえた。
そっと目を開けると、ネズミの親子が目の前を通過した。
どこから入って来たのだろう…。
シロは体を起こして地下室を隅々まで見て回った。
すると壁にある僅かな隙間からネズミがもう1匹出てきた。
「ここから入ってきたんだね」
シロは出てきたネズミを見送ってから隙間を除き込んだ。
風が流れている…。
シロは無意識に手を伸ばし、攻撃魔法を放った。
壁はあっという間に崩れ、外の世界が広がった。
教科書の写真でしか見た事のなかった外の世界。
外の世界に憧れた事など一度もない。
別にここから逃げたいわけじゃない。
でもここに居たいわけでもない。
シロは本能的に羽を広げ、遥かに広がる夜空へ飛び立っていった。
竜人至上主義者のローハン公爵は、魔族を毛嫌いし、人間との関わりも避けるような竜人だった。
教育方針も厳しく偏った思想の元、フレアは父に反抗する事なく、父の用意したレールの上を歩き続けた。
ある日、フレアの妊娠が発覚した。
相手は屋敷の新入りの使用人だった貧しい竜人。
2人はお互いを愛していたわけではなく、ただ寂しさを埋めるため体だけの関係だった。
ローハン公爵は怒り、フレアを部屋に閉じ込め、使用人の竜人は始末した。
子を堕ろす事がタブーな竜人の掟に従い、フレアは秘密裏で子を産んだ。
“シロ”が生まれたのは雷鳴が轟く嵐の夜。
薄紅色のフレアと若草色だった使用人の間に生まれた子は、あろうことか漆黒の鱗に真紅の瞳を持つ竜だった。
「くそっ、呪われたな…。」
ローハン公爵は子を見るなり顔を歪めた。
赤い瞳の黒竜は、ドグライアスの魔王と同じ特徴を持つため、『呪われた竜』と呼ばれる存在だったのだ。
「だったら殺せばいいじゃない。」
出産をしたばかりのフレアは、虚な瞳で外を見た。
バシッー!!
ローハン公爵は、思いきりフレアの頬を叩いた。
「だまれっ!竜人が子を殺すなど、お前は竜人の禁忌さえも侵すつもりか!!フレア、お前は一刻も早く体を治しいつも通りの生活に戻れ。…子はしばらく地下室に隠す。シッターを用意するからお前は二度と子に関わるな。いや、忘れろ。全て無かったことだと思え。」
ローハン公爵が部屋を去ると、フレアは産まれたばかりの我が子をぼんやり眺めた。
「ごめんなさいね。私、あなたのことを好きになれないわ。」
フレアは、子を抱く事も触れる事も目を合わせる事さえせず、再び外を眺めた。
そして“シロ”は名前さえ付けられることもなく、生まれた日から地下室での生活が始まった。
ローハン公爵が用意したシッターは、長年ローハン公爵家に勤めていた竜人のメイド長のジェーンだった。
すでに1000年以上生きている彼女も竜人至上主義思想を持ち、ローハン公爵を崇拝することが生きがいのような人物だった。
「あー、嫌だ嫌だ。本当に気味の悪い赤い瞳だね。お前がローハン公爵様と血が繋がっているなんて考えられないわ。お前はローハン公爵家の恥だよ。」
ジェーンは、まだ言葉も分からないシロに毎日のように嫌味を言い、シロの世話も最低限の事しかせず、満足な食事も与えなかった。しかしそれはローハン公爵の指示でもあった。
そしてローハン公爵もたまに地下室に訪れては、順調に成長するシロに眉を顰めた。
「お前が生まれて3年か。大した食事を与えていないのに無駄に成長するものだな。お前、本当は醜い魔族の子ではないのか?」
ローハン公爵はため息をつきながらも、今後のシロについて考えていた。
このまま地下室に閉じ込めていても何の役にも立たない。このまま成長し、暴れるようになっても困る。
ー…だったら、いっその事、従順な駒として育てるか…。
ローハン公爵は、従者の中からシロの教育係を用意した。教育係の名前はジン。戦闘能力に長けた竜人だ。
彼もまたローハン公爵の信者で、全てローハン公爵の指示のもとシロを教育した。
鉄のブーツを履いたジンに蹴飛ばされ、シロは地下室の壁に激突した。
「げほっげほっー!!」
腹を蹴られた衝撃で空っぽの胃から胃液を吐いた。
苦しい、痛い、辛いー…。
「立て。お前のような弱き者でもローハン公爵様は見捨てずに育ててくださってるのだぞ。心優しき公爵様に感謝し、自分の弱さに恥を知れ」
シロは衝撃で目眩がするのを我慢しながら立ち上がった。
ジンの教育が始まって、すでに7年の月日が過ぎていた。教育科目は一般教養と戦闘訓練の2つだけだった。
特に戦闘訓練は、血を吐くほどの辛く厳しいものだった。
今日も遅くまで訓練、というより一方的な暴力を受けたシロは、ボロボロの体で牢のような地下室に戻り、治療もせず体を丸めて目を閉じた。
眠りに落ちる瞬間、耳元でネズミの鳴き声が聞こえた。
そっと目を開けると、ネズミの親子が目の前を通過した。
どこから入って来たのだろう…。
シロは体を起こして地下室を隅々まで見て回った。
すると壁にある僅かな隙間からネズミがもう1匹出てきた。
「ここから入ってきたんだね」
シロは出てきたネズミを見送ってから隙間を除き込んだ。
風が流れている…。
シロは無意識に手を伸ばし、攻撃魔法を放った。
壁はあっという間に崩れ、外の世界が広がった。
教科書の写真でしか見た事のなかった外の世界。
外の世界に憧れた事など一度もない。
別にここから逃げたいわけじゃない。
でもここに居たいわけでもない。
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