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3 その白い手袋、受け取って差し上げますわ
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「エリック様が婚約者様をどのように思われているのかは、よく分かりましたわ。で? その婚約者様はどちらに? 本日の夜会はパートナーを伴っての来場が決まりだったはずですけれども……。どちらにいらっしゃるのか、ご存知ですか?」
目の前に、そのボロッカスに言われた婚約者がおりますけれど、お分かり?
ほんの少しの嫌みを含ませて言えば、エリック様はこれ見よがしに溜息を吐いて首を振られた。
「さぁね。今日はエスコートも断わられ、会場に来ているのかすら分からないんだ。来ているのなら挨拶の一つもして来ると思っていたんだが、来ない所を見ると来ていないんじゃないかな? 随分と私も軽んじられたものだ。もしかして、私が貴女に心を奪われてしまったから、睨まれるのじゃないかと心配しているのですか? 大丈夫ですよ。そんな事はさせませんし、あの女には文句を言う権利も意気地もありませんよ」
権利位はありますでしょう。何を言ってるんですの? このお方……
それにエスコートを断られた? 可笑しいですわね、断られたのは私の方ではなかったかしら?
今日の夜会は何ヵ月も前から招待を受けているにもかかわらず、ドレスも宝石も贈られておりませんでしたけれど? まぁ、贈られて来た所でエリック様の言う所の堅苦しくて地味なドレスにガラス玉の様な宝石ですから、いりませんけど。
大体、エスコートをされたのだって、この五年間で最初の三年間だけではありませんか。
それ以降は贈り物も無く、エスコートの申し入れもございませんよね? 仕方なく、本当に仕方なく! エスコートはどうされますか? というお手紙を出しても定型文なお断りの手紙が戻って来るだけでしたわよね?
本当、どの口が軽んじられてる、なんて仰るのかしら。
「あの女はね、必死に私に贈り物を贈って私の気を引こうとする浅ましい女なんです。事ある毎に贈り物やカードを贈って来て、私が物で左右される様な男だと思っているのか……嘆かわしい」
贈り物やカードが浅ましい……はぁー、初めて聞きましたわ。
そう言えば、エリック様からは誕生日の贈り物どころかカードすら届いた事がありませんでしたわね。
なるほど、ミュラトール伯爵家では贈り物をするのは非常識だと……そういう事ですのね。よーく、分かりましたわ。
「エリック様、そこまで仰るのに、なぜいまだに婚約をお続けになられていらっしゃるのですか? そんなに嫌なのでしたら婚約解消の申し出をされたら宜しいんじゃございませんこと?」
本当に。そこまで文句がおありならさっさと婚約解消して欲しいですわ。
私だって、好き好んでエリック様と婚約している訳ではございませんし、むしろ、そうして頂いた方が大変喜ばしいのですが。
私の父も母も、エリック様の所業には大変ご立腹で、どこかで婚約を白紙に出来ないかと虎視眈々とチャンスを窺っていた所なんですのよ。
ただ悲しいかな、子爵家な私の家から伯爵家への婚約解消はなかなか難しいものですから。エリック様、伯爵家から仰っていただけるとなると、まさに渡りに船! ですわ!!
「なんと! 貴女からその様な提案を言われるとは!! 私は、期待してもよろしいのでしょうか」
「いいえ、私はあくまで一般的観点から疑問を投じただけで他意はございません」
変な誤解をしないで下さいまし! おぞまし……いえ、なんでも……失礼いたしました。
「そうですね、今迄あの女に泣いて縋り付かれても面倒臭いと思って放置していたのですが、貴女の為なら、そんな面倒も苦にもならない」
「さようでございますか」
誰が縋り付きますか。むしろ、三日三晩踊り明かす程の狂喜乱舞で屋敷を揺らしますわ。
「明日にでも、早速あの女の家に行って婚約破棄を突き付けて参りましょう! その暁には……貴女に――」
「連れが参りましたので失礼致しますわ」
「あ!! せめてお名前だけでも!!!」
これ以上エリック様と話していては頭痛と吐き気がして来そうですし、時間が勿体ないだけですわ。これなら、お猿さんが豆を拾っているのを延々と見ている方が有意義なくらい。
さっさとこの場を立ち去ろうと身を翻し、テラスから立ち去ろうとする私の手を掴もうするエリック様の手を躱し、怒りのままにカツカツとヒールを鳴らして屋敷の中へ戻る。
それにしたって婚約破棄ってなんなんですの!? まるで、私に非がある様ではございませんか!!
どこまでも私、ひいては我がデシャネル家を馬鹿にされる様で……よろしい、その白い手袋、受け取って差し上げますわ。
目の前に、そのボロッカスに言われた婚約者がおりますけれど、お分かり?
ほんの少しの嫌みを含ませて言えば、エリック様はこれ見よがしに溜息を吐いて首を振られた。
「さぁね。今日はエスコートも断わられ、会場に来ているのかすら分からないんだ。来ているのなら挨拶の一つもして来ると思っていたんだが、来ない所を見ると来ていないんじゃないかな? 随分と私も軽んじられたものだ。もしかして、私が貴女に心を奪われてしまったから、睨まれるのじゃないかと心配しているのですか? 大丈夫ですよ。そんな事はさせませんし、あの女には文句を言う権利も意気地もありませんよ」
権利位はありますでしょう。何を言ってるんですの? このお方……
それにエスコートを断られた? 可笑しいですわね、断られたのは私の方ではなかったかしら?
今日の夜会は何ヵ月も前から招待を受けているにもかかわらず、ドレスも宝石も贈られておりませんでしたけれど? まぁ、贈られて来た所でエリック様の言う所の堅苦しくて地味なドレスにガラス玉の様な宝石ですから、いりませんけど。
大体、エスコートをされたのだって、この五年間で最初の三年間だけではありませんか。
それ以降は贈り物も無く、エスコートの申し入れもございませんよね? 仕方なく、本当に仕方なく! エスコートはどうされますか? というお手紙を出しても定型文なお断りの手紙が戻って来るだけでしたわよね?
本当、どの口が軽んじられてる、なんて仰るのかしら。
「あの女はね、必死に私に贈り物を贈って私の気を引こうとする浅ましい女なんです。事ある毎に贈り物やカードを贈って来て、私が物で左右される様な男だと思っているのか……嘆かわしい」
贈り物やカードが浅ましい……はぁー、初めて聞きましたわ。
そう言えば、エリック様からは誕生日の贈り物どころかカードすら届いた事がありませんでしたわね。
なるほど、ミュラトール伯爵家では贈り物をするのは非常識だと……そういう事ですのね。よーく、分かりましたわ。
「エリック様、そこまで仰るのに、なぜいまだに婚約をお続けになられていらっしゃるのですか? そんなに嫌なのでしたら婚約解消の申し出をされたら宜しいんじゃございませんこと?」
本当に。そこまで文句がおありならさっさと婚約解消して欲しいですわ。
私だって、好き好んでエリック様と婚約している訳ではございませんし、むしろ、そうして頂いた方が大変喜ばしいのですが。
私の父も母も、エリック様の所業には大変ご立腹で、どこかで婚約を白紙に出来ないかと虎視眈々とチャンスを窺っていた所なんですのよ。
ただ悲しいかな、子爵家な私の家から伯爵家への婚約解消はなかなか難しいものですから。エリック様、伯爵家から仰っていただけるとなると、まさに渡りに船! ですわ!!
「なんと! 貴女からその様な提案を言われるとは!! 私は、期待してもよろしいのでしょうか」
「いいえ、私はあくまで一般的観点から疑問を投じただけで他意はございません」
変な誤解をしないで下さいまし! おぞまし……いえ、なんでも……失礼いたしました。
「そうですね、今迄あの女に泣いて縋り付かれても面倒臭いと思って放置していたのですが、貴女の為なら、そんな面倒も苦にもならない」
「さようでございますか」
誰が縋り付きますか。むしろ、三日三晩踊り明かす程の狂喜乱舞で屋敷を揺らしますわ。
「明日にでも、早速あの女の家に行って婚約破棄を突き付けて参りましょう! その暁には……貴女に――」
「連れが参りましたので失礼致しますわ」
「あ!! せめてお名前だけでも!!!」
これ以上エリック様と話していては頭痛と吐き気がして来そうですし、時間が勿体ないだけですわ。これなら、お猿さんが豆を拾っているのを延々と見ている方が有意義なくらい。
さっさとこの場を立ち去ろうと身を翻し、テラスから立ち去ろうとする私の手を掴もうするエリック様の手を躱し、怒りのままにカツカツとヒールを鳴らして屋敷の中へ戻る。
それにしたって婚約破棄ってなんなんですの!? まるで、私に非がある様ではございませんか!!
どこまでも私、ひいては我がデシャネル家を馬鹿にされる様で……よろしい、その白い手袋、受け取って差し上げますわ。
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