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もしかして、男の胸って仰りました?
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華やかな結婚式が終わり、高揚した気分が醒めやまぬ内に豪奢なウエディングドレスから今度は薄く上質な夜着に着替えさせられた私は、緊張で震えそうになる手を胸に抱いていた。
そんな私を、今日夫になったアロイス様が優しくベッドに押し倒す。
ああ、私は、今から身も心もアロイス様の妻になるのね。
「アロイス……様」
「大丈夫、怖がらないで」
戸惑いと喜びと、少しの恐れに強張る私の体をアロイス様の手が優しく撫で、肩紐がスルリと落される。
ああ……私の全てをアロイス様に暴かれてしまう。
「は、恥ずかしいので、あまり……見ないで……下さい」
「ふふ、羞恥に震える君も可愛いよ。アンヌ、君の全ては僕のものだ。さぁ――」
痛い程に早まる私の胸の上にアロイス様の手が触れ……ピタリ、とその動きを止めた。
え?
「アロイス様?」
「き、貴様!! 男だったのか!!」
「はぁ!?」
急に険しい表情になられたアロイス様が私の上から飛びのき、指を突き付けて来る。
男? 私が!!??
「何を仰っているのですか!? 私が男だなんて、そんな!」
「黙れ! そんな胸で言い逃れが出来ると思っているのか! 明らかに男の胸ではないか!!」
「はぁあ!?」
今、アロイス様はなんて? もしかして、男の胸って仰りました? 私の胸を? え?
それは、あんまりにも失礼過ぎじゃございません!? きちんと私の胸には女性らしい膨らみも柔らかさもあります!! ほんの少し……慎ましやかではありますけど……それだって! 今年十八になったばかりの私はまだまだ成長期なんですから!
それなのに、男の胸とされるのは納得出来ませんわ!!
「何が目的で私に近付き結婚までした! 男を女だと偽って私に差し向けるとは。貴様の実家、コルベール子爵もグルか。クソッ! まんまと騙されて結婚までしてしまうなんて……さぞかし貴様らからしたら、俺は滑稽だった事だろう」
「近づいたって……。そのような事はしておりません! アロイス様から夜会でお声をかけて来られたんじゃございませんか! それなのに差し向けたとか、言い掛かりにしても酷過ぎます!!」
そう、私とアロイス様の出会いは約一年前の夜会での事。家族と一緒に参加していた私に声を掛けて来られたのはアロイス様。そして、一目惚れだとその場で求婚して来られたのもアロイス様。その後、事あるごとに我が家にやって来ては愛を語り、恋文なんて両手で抱えきれない程送り続けたのもアロイス様。
だと言うのに! まるで私達子爵家がアロイス様を陥れようとしている様な言われ様は、我慢出来ませんわ!!
それに、私は女です!!
怒りで震える私をどう思ったのか、アロイス様は蔑んだ目で私を見下ろし鼻で笑う。
「今更、どれだけ言い訳を並べた所でもう遅い。明日にでも直ぐ教会へ婚姻の取り消しを願い出る! 通常では許されない事だが、女と偽って男と婚姻させられたとなれば話は別だ!!」
「お待ちください! アロイス様! 私は正真正銘女です!! ちゃんと私を見て下さい!」
「えーい、やめろ!! 男の裸体など見たくもない! 気色の悪い!!」
「きゃぁっ!」
男と思われるくらいなら、と、乙女の恥じらいもかなぐり捨てて夜着に手を掛けた私に、アロイス様は近くのクッションを投げつけて来た。
「今すぐ屋敷から出て行け! 貴様の様な詐欺師がこの屋敷に居座れると思うな! 誰か! こいつを今すぐ屋敷から放り出せ!」
「待って! 話を聞いて下さい!」
「うるさい!!」
寝室の扉を大きく開き、大声で叫ぶアロイス様の声に何事だ、と直ぐに数人の使用人が飛んで来たが、現状を一目見て一様に驚いた顔をして立ち尽くしていた。
それもそうでしょう。ついさっきまで絵に描いたように幸せの絶頂だった二人が、怒鳴り怒鳴られているのですから。
「い、いかがされたのですか!?」
「この男を外に放り出せ! こいつは自分を女だと偽り、我がアングラード侯爵家に潜り込もうとした不届き者だ!!」
「男!? そんな……まさか、アンヌ様が」
「違います! 私は女です!! 信じて下さい!」
私は薄い夜着一枚だというのに、男の使用人達が部屋に入って来るというあまりの辱めに涙が出そうになるのを耐えて必死に否定する。
「犯罪者に情けはいらん。その情けない姿のまま放り出してやれ! どうせ男だ。どうとでもしてコルベール子爵の所に戻るだろ」
「アロイス様! やめて! アロイス様ぁぁ!!」
なのに、アロイス様が聞き入れて下さる事は無く。使用人達も主人であるアロイス様が強くそう言われるのなら、と私をベッドの上から乱暴に引きずり降ろした。そして、そのまま着替える事も許されず、私はアロイス様との新居だったはずの屋敷から外に放り出されてしまった。
そんな私を、今日夫になったアロイス様が優しくベッドに押し倒す。
ああ、私は、今から身も心もアロイス様の妻になるのね。
「アロイス……様」
「大丈夫、怖がらないで」
戸惑いと喜びと、少しの恐れに強張る私の体をアロイス様の手が優しく撫で、肩紐がスルリと落される。
ああ……私の全てをアロイス様に暴かれてしまう。
「は、恥ずかしいので、あまり……見ないで……下さい」
「ふふ、羞恥に震える君も可愛いよ。アンヌ、君の全ては僕のものだ。さぁ――」
痛い程に早まる私の胸の上にアロイス様の手が触れ……ピタリ、とその動きを止めた。
え?
「アロイス様?」
「き、貴様!! 男だったのか!!」
「はぁ!?」
急に険しい表情になられたアロイス様が私の上から飛びのき、指を突き付けて来る。
男? 私が!!??
「何を仰っているのですか!? 私が男だなんて、そんな!」
「黙れ! そんな胸で言い逃れが出来ると思っているのか! 明らかに男の胸ではないか!!」
「はぁあ!?」
今、アロイス様はなんて? もしかして、男の胸って仰りました? 私の胸を? え?
それは、あんまりにも失礼過ぎじゃございません!? きちんと私の胸には女性らしい膨らみも柔らかさもあります!! ほんの少し……慎ましやかではありますけど……それだって! 今年十八になったばかりの私はまだまだ成長期なんですから!
それなのに、男の胸とされるのは納得出来ませんわ!!
「何が目的で私に近付き結婚までした! 男を女だと偽って私に差し向けるとは。貴様の実家、コルベール子爵もグルか。クソッ! まんまと騙されて結婚までしてしまうなんて……さぞかし貴様らからしたら、俺は滑稽だった事だろう」
「近づいたって……。そのような事はしておりません! アロイス様から夜会でお声をかけて来られたんじゃございませんか! それなのに差し向けたとか、言い掛かりにしても酷過ぎます!!」
そう、私とアロイス様の出会いは約一年前の夜会での事。家族と一緒に参加していた私に声を掛けて来られたのはアロイス様。そして、一目惚れだとその場で求婚して来られたのもアロイス様。その後、事あるごとに我が家にやって来ては愛を語り、恋文なんて両手で抱えきれない程送り続けたのもアロイス様。
だと言うのに! まるで私達子爵家がアロイス様を陥れようとしている様な言われ様は、我慢出来ませんわ!!
それに、私は女です!!
怒りで震える私をどう思ったのか、アロイス様は蔑んだ目で私を見下ろし鼻で笑う。
「今更、どれだけ言い訳を並べた所でもう遅い。明日にでも直ぐ教会へ婚姻の取り消しを願い出る! 通常では許されない事だが、女と偽って男と婚姻させられたとなれば話は別だ!!」
「お待ちください! アロイス様! 私は正真正銘女です!! ちゃんと私を見て下さい!」
「えーい、やめろ!! 男の裸体など見たくもない! 気色の悪い!!」
「きゃぁっ!」
男と思われるくらいなら、と、乙女の恥じらいもかなぐり捨てて夜着に手を掛けた私に、アロイス様は近くのクッションを投げつけて来た。
「今すぐ屋敷から出て行け! 貴様の様な詐欺師がこの屋敷に居座れると思うな! 誰か! こいつを今すぐ屋敷から放り出せ!」
「待って! 話を聞いて下さい!」
「うるさい!!」
寝室の扉を大きく開き、大声で叫ぶアロイス様の声に何事だ、と直ぐに数人の使用人が飛んで来たが、現状を一目見て一様に驚いた顔をして立ち尽くしていた。
それもそうでしょう。ついさっきまで絵に描いたように幸せの絶頂だった二人が、怒鳴り怒鳴られているのですから。
「い、いかがされたのですか!?」
「この男を外に放り出せ! こいつは自分を女だと偽り、我がアングラード侯爵家に潜り込もうとした不届き者だ!!」
「男!? そんな……まさか、アンヌ様が」
「違います! 私は女です!! 信じて下さい!」
私は薄い夜着一枚だというのに、男の使用人達が部屋に入って来るというあまりの辱めに涙が出そうになるのを耐えて必死に否定する。
「犯罪者に情けはいらん。その情けない姿のまま放り出してやれ! どうせ男だ。どうとでもしてコルベール子爵の所に戻るだろ」
「アロイス様! やめて! アロイス様ぁぁ!!」
なのに、アロイス様が聞き入れて下さる事は無く。使用人達も主人であるアロイス様が強くそう言われるのなら、と私をベッドの上から乱暴に引きずり降ろした。そして、そのまま着替える事も許されず、私はアロイス様との新居だったはずの屋敷から外に放り出されてしまった。
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