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25 さようなら
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「あの男がウォレン様の元番ですって?」
「義理の妹と!? なんていかがわしい」
「ふしだらな……」
「確か、クリストフ商会の……」
「品性の欠片も無い。そんな商会からの取引なんて出来るか」
「なんて親だ。おぞましい」
「酷い……お辛い経験をされて来たのね、ウォレン様」
「そんな障害を乗り越えて結ばれたなんて、なんてロマンティックなのかしら」
父様も母様も、オクトーもジョセリンも黙った事で、周りでコソコソと囁かれる声が良く聞こえる。
その声で自分の素性がバレた事を悟ったオクトーは頭を抱え蹲り。ジョセリンはその場から逃げようとしたが、ぐるりと自分達の周りを取り囲んでいる軽蔑の籠った冷たい眼差しにヘナヘナと座り込み、みっともなく泣き出した。
父様と母様もこの段階になって、やっと自分達の立場がどれだけ悪いのか気が付いた様だ。縋るような目で僕を見て来た。
そんな目で見て、僕に一体どうしろって言うのか。僕を役立たずと切り捨てて、今度はイサーク様に妹をけしかける様な事までしておいて、あまりにも都合が良すぎる。
フイ、と顔を背ければ「ウォレン?」と戸惑った声で名前を呼ばれたけれど、本気で僕がどうにかしてくれると思っていたんだろうか? だとしたら、何処まで舐められているんだか。
「ひとつ、誤解しているようだから言わせて貰うが。なぜ、ウォレンが不妊だ、などと決めつけているんだ?」
イサーク様の質問に、父様と母様から「お前が言い出したんだから、お前が答えろ!」と小突かれ、オクトーが顔を上げる事もせず震える声で答える。
以前はオクトーに媚びへつらいペコペコしていたというのに、立場が悪いとなった途端横柄な態度になるとか、これ以上実の両親を幻滅させないで欲しい。
「誤解では無く……事実、ウォレンは一年間も妊娠の兆候すらなく」
「医者の診断では異常が無い、と出ているが? それに……これは私の勘だが、ウォレンは私の子を宿しているよ」
「えっ!!!」
これにはこの場の誰よりも僕が一番ビックリしているんじゃないだろうか!?
だって妊娠だよ? 僕が? あり得ないだろう!?
どういう事? と見上げる僕のお腹に手を当てイサーク様がニッコリと笑う。
「ウォレン、最近体が怠いだろう? それに、余り食べられていないし。妊娠の兆候じゃないかな?」
「なんで、ご存知なんですか!? でも、確かにそうですけど……」
それに、いっぱい愛し合ったしね。と耳元で囁かれ、顔が火を噴く程に熱い。小声だったから僕にしか聞こえないだろうけれど、こんな大勢いる所で!
確かに怠かったり食欲が無かったりはしたけれど……それが妊娠の兆候? たったそれだけの変化で妊娠って……とても僕にはそうは思えないけれど。
でも、イサーク様が言うなら、ほんの少し、希望を持っても良いかな。
「一年間妊娠しなかったって言うけれど。それって、原因は本当にウォレンだったのかな?」
「な……なにを、おっしゃら、れ。僕には、ちゃんと子供が」
オクトーが側で泣いていたジョセリンを手で指し示すと、目に見えてジョセリンは肩を震わせ、青い顔で狼狽え出した。
「ジョセリン?……」
「そっ、そうですわよ! わたくしのお腹の中にはオクトー様の子が宿ってるんですのよ!!」
「ふーん……そうだね。生まれて来るのが楽しみだ。元気な子が生まれて来るのを祈っているよ」
青い顔を真っ白にしたオクトーと、落ち着かない様子でオクトーと目も合わさないジョセリンを興味無さ気に一瞥した後、イサーク様が二度、手を打ち鳴らす。
途端、ザワついていた場が静かになり、一斉にイサーク様に視線が集中する。
「皆々様、大変お見苦しい所をお見せしてしまい、誠に申し訳ございません。この後、場所を移して会食のご用意をさせて頂いておりますので、ご案内させて頂きましょう。あなた方は……このままこの場にいるのも居づらいでしょう? 妊婦もいる事だ、早くご自宅で休まれてはどうかな? クリストフ家からの出席はファリオンがいるから、なんの問題もないからね。どうぞ、馬車はお貸ししましょう」
「お待ち下さい! イサーク様! 何か、何か誤解がある様でっ!! 話を——」
「父様、止しましょう。これ以上は恥の上塗りだ」
父様がイサーク様の足に縋り付こうとした所を、いつから側に来ていたのか、兄様が体を滑り込ませ遮った。
「ファリオン! お前! 今まで何処にいたんだ!! 今すぐイサーク様に取り成してくれ!! 誤解なんだ!」
「だから、止しましょうって言ってるじゃ無いですか。コルトハーク伯爵様、御来場の皆様。この様な祝いの席で大変お見苦しいものをお見せしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。クリストフ家の代表として謝罪いたします」
兄様が深々と頭を下げ、チラリ、と僕に目配せをしてニヤリと笑う。正にしてやったり、って顔だ。
『クリストフ家の代表』 暗に父様と代替わりをする、と言う兄様に父様の顔色が赤くなったり青くなったり忙しい。
これだけの騒ぎの時に何処にいたのか、と疑問はあれど、兄様が来てくれた事でこの場が一応は収まりそうな雰囲気に安堵の息が漏れる。
その後は、イサーク様の合図で使用人達が招待客を案内して行く。床に崩れ落ちている四人へ冷めた目を向けつつ全ての人が別室へと移動すると、今度は屈強な警備兵がやって来て四人を立たせ連れて行ってしまった。
最後に……
「下手な欲をかかず、大人しく私達の結婚を祝福してくれていたなら、結果はもう少しマシだっただろうに。今後、義理の両親としても、親友の両親としてもお会いする事は無いだろうが、くれぐれもこれ以上ウォレンに関わる事の無いように願うよ」
と、イサーク様から告げられ、父様達は何か言いたそうにモゴモゴとしていたけれど、結局は抵抗する事も無くスゴスゴと立ち去って行った。
この時から、僕が両親にも妹やオクトーにも会う事は無かった。
「義理の妹と!? なんていかがわしい」
「ふしだらな……」
「確か、クリストフ商会の……」
「品性の欠片も無い。そんな商会からの取引なんて出来るか」
「なんて親だ。おぞましい」
「酷い……お辛い経験をされて来たのね、ウォレン様」
「そんな障害を乗り越えて結ばれたなんて、なんてロマンティックなのかしら」
父様も母様も、オクトーもジョセリンも黙った事で、周りでコソコソと囁かれる声が良く聞こえる。
その声で自分の素性がバレた事を悟ったオクトーは頭を抱え蹲り。ジョセリンはその場から逃げようとしたが、ぐるりと自分達の周りを取り囲んでいる軽蔑の籠った冷たい眼差しにヘナヘナと座り込み、みっともなく泣き出した。
父様と母様もこの段階になって、やっと自分達の立場がどれだけ悪いのか気が付いた様だ。縋るような目で僕を見て来た。
そんな目で見て、僕に一体どうしろって言うのか。僕を役立たずと切り捨てて、今度はイサーク様に妹をけしかける様な事までしておいて、あまりにも都合が良すぎる。
フイ、と顔を背ければ「ウォレン?」と戸惑った声で名前を呼ばれたけれど、本気で僕がどうにかしてくれると思っていたんだろうか? だとしたら、何処まで舐められているんだか。
「ひとつ、誤解しているようだから言わせて貰うが。なぜ、ウォレンが不妊だ、などと決めつけているんだ?」
イサーク様の質問に、父様と母様から「お前が言い出したんだから、お前が答えろ!」と小突かれ、オクトーが顔を上げる事もせず震える声で答える。
以前はオクトーに媚びへつらいペコペコしていたというのに、立場が悪いとなった途端横柄な態度になるとか、これ以上実の両親を幻滅させないで欲しい。
「誤解では無く……事実、ウォレンは一年間も妊娠の兆候すらなく」
「医者の診断では異常が無い、と出ているが? それに……これは私の勘だが、ウォレンは私の子を宿しているよ」
「えっ!!!」
これにはこの場の誰よりも僕が一番ビックリしているんじゃないだろうか!?
だって妊娠だよ? 僕が? あり得ないだろう!?
どういう事? と見上げる僕のお腹に手を当てイサーク様がニッコリと笑う。
「ウォレン、最近体が怠いだろう? それに、余り食べられていないし。妊娠の兆候じゃないかな?」
「なんで、ご存知なんですか!? でも、確かにそうですけど……」
それに、いっぱい愛し合ったしね。と耳元で囁かれ、顔が火を噴く程に熱い。小声だったから僕にしか聞こえないだろうけれど、こんな大勢いる所で!
確かに怠かったり食欲が無かったりはしたけれど……それが妊娠の兆候? たったそれだけの変化で妊娠って……とても僕にはそうは思えないけれど。
でも、イサーク様が言うなら、ほんの少し、希望を持っても良いかな。
「一年間妊娠しなかったって言うけれど。それって、原因は本当にウォレンだったのかな?」
「な……なにを、おっしゃら、れ。僕には、ちゃんと子供が」
オクトーが側で泣いていたジョセリンを手で指し示すと、目に見えてジョセリンは肩を震わせ、青い顔で狼狽え出した。
「ジョセリン?……」
「そっ、そうですわよ! わたくしのお腹の中にはオクトー様の子が宿ってるんですのよ!!」
「ふーん……そうだね。生まれて来るのが楽しみだ。元気な子が生まれて来るのを祈っているよ」
青い顔を真っ白にしたオクトーと、落ち着かない様子でオクトーと目も合わさないジョセリンを興味無さ気に一瞥した後、イサーク様が二度、手を打ち鳴らす。
途端、ザワついていた場が静かになり、一斉にイサーク様に視線が集中する。
「皆々様、大変お見苦しい所をお見せしてしまい、誠に申し訳ございません。この後、場所を移して会食のご用意をさせて頂いておりますので、ご案内させて頂きましょう。あなた方は……このままこの場にいるのも居づらいでしょう? 妊婦もいる事だ、早くご自宅で休まれてはどうかな? クリストフ家からの出席はファリオンがいるから、なんの問題もないからね。どうぞ、馬車はお貸ししましょう」
「お待ち下さい! イサーク様! 何か、何か誤解がある様でっ!! 話を——」
「父様、止しましょう。これ以上は恥の上塗りだ」
父様がイサーク様の足に縋り付こうとした所を、いつから側に来ていたのか、兄様が体を滑り込ませ遮った。
「ファリオン! お前! 今まで何処にいたんだ!! 今すぐイサーク様に取り成してくれ!! 誤解なんだ!」
「だから、止しましょうって言ってるじゃ無いですか。コルトハーク伯爵様、御来場の皆様。この様な祝いの席で大変お見苦しいものをお見せしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。クリストフ家の代表として謝罪いたします」
兄様が深々と頭を下げ、チラリ、と僕に目配せをしてニヤリと笑う。正にしてやったり、って顔だ。
『クリストフ家の代表』 暗に父様と代替わりをする、と言う兄様に父様の顔色が赤くなったり青くなったり忙しい。
これだけの騒ぎの時に何処にいたのか、と疑問はあれど、兄様が来てくれた事でこの場が一応は収まりそうな雰囲気に安堵の息が漏れる。
その後は、イサーク様の合図で使用人達が招待客を案内して行く。床に崩れ落ちている四人へ冷めた目を向けつつ全ての人が別室へと移動すると、今度は屈強な警備兵がやって来て四人を立たせ連れて行ってしまった。
最後に……
「下手な欲をかかず、大人しく私達の結婚を祝福してくれていたなら、結果はもう少しマシだっただろうに。今後、義理の両親としても、親友の両親としてもお会いする事は無いだろうが、くれぐれもこれ以上ウォレンに関わる事の無いように願うよ」
と、イサーク様から告げられ、父様達は何か言いたそうにモゴモゴとしていたけれど、結局は抵抗する事も無くスゴスゴと立ち去って行った。
この時から、僕が両親にも妹やオクトーにも会う事は無かった。
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