2 / 29
2 これから
しおりを挟む
訳も分からぬままの怒濤の二日間だった。そう、たったの二日間。
僕は夫と妹の不義理を知らされてから、たったの二日で離婚され、元夫は僕の妹とその場で婚姻を結んだ。
離婚したからには、今まで住んでいたスタンホープ邸から出て行かなければならないのは当然としても、私物を取りに戻る事すら許されなかった。
しかも実家だと言うのに出戻りΩな僕の肩身は狭く、居場所なんて無く、結婚前まで自室として使っていた部屋にいるしかなかった。
約一年間空室だった元自室は倉庫の様に埃っぽく、ベッドだけの何も無い部屋に着替えと貴重品を少しだけ詰め込んだ鞄が一つ。訳も分からないまま実家に帰された時に辛うじて持ち出した物だ。
そうして一人だけになって考えるのは、なぜこんな事になったのか、一体全体何が起きたのか……
僕は別にオクトーの事を愛していた訳では無い。それはオクトーも一緒だと理解していたし、オクトーも分かっていたと思う。
だけど、例え政略結婚で愛は無くとも、結婚したからには信頼関係は築き上げて行きたいと僕は思っていた。子を作り生涯共にするのだから、愛は無くとも情は交わせる間柄になりたかった。
だから、僕なりに精一杯オクトーに歩み寄ったし理解し合おうと努力もした。子を産むのだって僕の仕事で義務だと思ったから、発情期が近づけばオクトーに知らせ一緒に過ごして貰った。
発情期での性交だと妊娠はほぼ確実と言われているのに一年近く出来ない事には僕だって気にはしていた。だから、妊娠しやすくなると言われている食品を取ったり、お医者様に何度も見て貰って異常が無いのも確認して貰っていた。
なのに、こんな仕打ちってあるか? 信頼関係を築き、良き関係であろうと思っていたのは僕だけだったのか!?
結婚前だったら、何も思わなかった。「ああそうなんだ、良かったね。じゃぁ、お幸せに」って割り切れた。
だけど、結婚後はそうはならない! 僕にだってプライドがある! 実の妹と不倫されて離婚されたなんて! しかも妊娠まで!! それが、どれだけ僕のプライドを傷つける事か!
僕という存在全てを馬鹿にされ軽んじられて、誰が笑っていられる!!
しかも、オクトーは僕の項を噛んで番にまでなっていた。番を解除されてしまったΩがどうなるかも分かっている筈……
番を解除されたΩは体と心が新たな番を作る事を拒み、発情の度に失われた番を求めて苦しみ精神を病み、死んでいく。それに反してαは何も無い。何度でも、何人でも番を作り、捨てる事が出来る。
幸か不幸か、僕はまだオクトーから番を解除されていない。番を解除されてしまったら、僕は狂い死んでいくだけになる、それはあまりにも忍びない、と。だから、敢えて番を解除しないという『恩情』らしい。
それに番相手以外でも妊娠は出来る。なら、優秀な子を産む『Ω』が欲しいと望む所に再度嫁ぐ事も出来るだろう、と……
だけど「妊娠しないから離婚された」「項に噛み痕がある」なんて瑕疵を付けられたΩを欲しがる者なんている訳が無いじゃないか!!
いたとしても、それは……まともな相手じゃない。
αの父様とβの母様と言えど、それが分からない筈が無いのに。なのに……元夫も両親も妹も、僕を切り捨てた。
まるで使えない道具を交換するかのように、簡単に僕を今まで組み込んでいた歯車から外した。それで、僕がどうなろうと知った事ではない、とばかりに……
両親からは普通に親と子として愛情を貰っていたと思っていたんだけどな。どうやら、両親的には家の為の一つの駒としか思われて無かったみたいだ。
今まで僕を育てて来たのも、優しく時には厳しく接してくれていたのも、全ては僕が家にとって利用価値のある『Ω』だったから。その『Ω』が使えない、となれば……
今回の事で、良く分かった。妊娠もしない不良品、と捨てられた駒に与える情は無いんだって事が。
これから僕は一体どうなるんだろう、という不安が、怒りや悲しみと混ざり合ってどんどん重たくなって来る。
誰かの子を産む為だけに育てられた僕は、一人では生きる術を持たない。持てないように育てられたんだと、今なら分かる。分かった所で、どうしようも無いけど……
ベッドに腰掛けた僕の足元にある小さなボストンバッグが今の僕の全財産。スタンホープ邸にある僕の私物を全て渡して貰えたとしても、大した額にもならないだろう。この家から逃げ出して一人で生きて行こうとしても数か月で底を付く金額だ。
考えれば考える程、心の中で充満して零れ出したタールが全身を重くしていく様だった。
僕は夫と妹の不義理を知らされてから、たったの二日で離婚され、元夫は僕の妹とその場で婚姻を結んだ。
離婚したからには、今まで住んでいたスタンホープ邸から出て行かなければならないのは当然としても、私物を取りに戻る事すら許されなかった。
しかも実家だと言うのに出戻りΩな僕の肩身は狭く、居場所なんて無く、結婚前まで自室として使っていた部屋にいるしかなかった。
約一年間空室だった元自室は倉庫の様に埃っぽく、ベッドだけの何も無い部屋に着替えと貴重品を少しだけ詰め込んだ鞄が一つ。訳も分からないまま実家に帰された時に辛うじて持ち出した物だ。
そうして一人だけになって考えるのは、なぜこんな事になったのか、一体全体何が起きたのか……
僕は別にオクトーの事を愛していた訳では無い。それはオクトーも一緒だと理解していたし、オクトーも分かっていたと思う。
だけど、例え政略結婚で愛は無くとも、結婚したからには信頼関係は築き上げて行きたいと僕は思っていた。子を作り生涯共にするのだから、愛は無くとも情は交わせる間柄になりたかった。
だから、僕なりに精一杯オクトーに歩み寄ったし理解し合おうと努力もした。子を産むのだって僕の仕事で義務だと思ったから、発情期が近づけばオクトーに知らせ一緒に過ごして貰った。
発情期での性交だと妊娠はほぼ確実と言われているのに一年近く出来ない事には僕だって気にはしていた。だから、妊娠しやすくなると言われている食品を取ったり、お医者様に何度も見て貰って異常が無いのも確認して貰っていた。
なのに、こんな仕打ちってあるか? 信頼関係を築き、良き関係であろうと思っていたのは僕だけだったのか!?
結婚前だったら、何も思わなかった。「ああそうなんだ、良かったね。じゃぁ、お幸せに」って割り切れた。
だけど、結婚後はそうはならない! 僕にだってプライドがある! 実の妹と不倫されて離婚されたなんて! しかも妊娠まで!! それが、どれだけ僕のプライドを傷つける事か!
僕という存在全てを馬鹿にされ軽んじられて、誰が笑っていられる!!
しかも、オクトーは僕の項を噛んで番にまでなっていた。番を解除されてしまったΩがどうなるかも分かっている筈……
番を解除されたΩは体と心が新たな番を作る事を拒み、発情の度に失われた番を求めて苦しみ精神を病み、死んでいく。それに反してαは何も無い。何度でも、何人でも番を作り、捨てる事が出来る。
幸か不幸か、僕はまだオクトーから番を解除されていない。番を解除されてしまったら、僕は狂い死んでいくだけになる、それはあまりにも忍びない、と。だから、敢えて番を解除しないという『恩情』らしい。
それに番相手以外でも妊娠は出来る。なら、優秀な子を産む『Ω』が欲しいと望む所に再度嫁ぐ事も出来るだろう、と……
だけど「妊娠しないから離婚された」「項に噛み痕がある」なんて瑕疵を付けられたΩを欲しがる者なんている訳が無いじゃないか!!
いたとしても、それは……まともな相手じゃない。
αの父様とβの母様と言えど、それが分からない筈が無いのに。なのに……元夫も両親も妹も、僕を切り捨てた。
まるで使えない道具を交換するかのように、簡単に僕を今まで組み込んでいた歯車から外した。それで、僕がどうなろうと知った事ではない、とばかりに……
両親からは普通に親と子として愛情を貰っていたと思っていたんだけどな。どうやら、両親的には家の為の一つの駒としか思われて無かったみたいだ。
今まで僕を育てて来たのも、優しく時には厳しく接してくれていたのも、全ては僕が家にとって利用価値のある『Ω』だったから。その『Ω』が使えない、となれば……
今回の事で、良く分かった。妊娠もしない不良品、と捨てられた駒に与える情は無いんだって事が。
これから僕は一体どうなるんだろう、という不安が、怒りや悲しみと混ざり合ってどんどん重たくなって来る。
誰かの子を産む為だけに育てられた僕は、一人では生きる術を持たない。持てないように育てられたんだと、今なら分かる。分かった所で、どうしようも無いけど……
ベッドに腰掛けた僕の足元にある小さなボストンバッグが今の僕の全財産。スタンホープ邸にある僕の私物を全て渡して貰えたとしても、大した額にもならないだろう。この家から逃げ出して一人で生きて行こうとしても数か月で底を付く金額だ。
考えれば考える程、心の中で充満して零れ出したタールが全身を重くしていく様だった。
81
お気に入りに追加
2,003
あなたにおすすめの小説
βの僕、激強αのせいでΩにされた話
ずー子
BL
オメガバース。BL。主人公君はβ→Ω。
αに言い寄られるがβなので相手にせず、Ωの優等生に片想いをしている。それがαにバレて色々あってΩになっちゃう話です。
β(Ω)視点→α視点。アレな感じですが、ちゃんとラブラブエッチです。
他の小説サイトにも登録してます。
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
婚約者は愛を見つけたらしいので、不要になった僕は君にあげる
カシナシ
BL
「アシリス、すまない。婚約を解消してくれ」
そう告げられて、僕は固まった。5歳から13年もの間、婚約者であるキール殿下に尽くしてきた努力は一体何だったのか?
殿下の隣には、可愛らしいオメガの男爵令息がいて……。
サクッとエロ&軽めざまぁ。
全10話+番外編(別視点)数話
本編約二万文字、完結しました。
※HOTランキング最高位6位、頂きました。たくさんの閲覧、ありがとうございます!
※本作の数年後のココルとキールを描いた、
『訳ありオメガは罪の証を愛している』
も公開始めました。読む際は注意書きを良く読んで下さると幸いです!
捨てられオメガの幸せは
ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。
幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。
【完結】あなたの妻(Ω)辞めます!
MEIKO
BL
本編完結しています。Ωの涼はある日、政略結婚の相手のα夫の直哉の浮気現場を目撃してしまう。形だけの夫婦だったけれど自分だけは愛していた┉。夫の裏切りに傷付き、そして別れを決意する。あなたの妻(Ω)辞めます!
すれ違い夫婦&オメガバース恋愛。
※少々独自のオメガバース設定あります
(R18対象話には*マーク付けますのでお気を付け下さい。)
偽物の運命〜αの幼馴染はβの俺を愛しすぎている〜
白兪
BL
楠涼夜はカッコよくて、優しくて、明るくて、みんなの人気者だ。
しかし、1つだけ欠点がある。
彼は何故か俺、中町幹斗のことを運命の番だと思い込んでいる。
俺は平々凡々なベータであり、決して運命なんて言葉は似合わない存在であるのに。
彼に何度言い聞かせても全く信じてもらえず、ずっと俺を運命の番のように扱ってくる。
どうしたら誤解は解けるんだ…?
シリアス回も終盤はありそうですが、基本的にいちゃついてるだけのハッピーな作品になりそうです。
書き慣れてはいませんが、ヤンデレ要素を頑張って取り入れたいと思っているので、温かい目で見守ってくださると嬉しいです。
傾国の美青年
春山ひろ
BL
僕は、ガブリエル・ローミオ二世・グランフォルド、グランフォルド公爵の嫡男7歳です。オメガの母(元王子)とアルファで公爵の父との政略結婚で生まれました。周りは「運命の番」ではないからと、美貌の父上に姦しくオメガの令嬢令息がうるさいです。僕は両親が大好きなので守って見せます!なんちゃって中世風の異世界です。設定はゆるふわ、本文中にオメガバースの説明はありません。明るい母と美貌だけど感情表現が劣化した父を持つ息子の健気な奮闘記?です。他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる