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 訳も分からぬままの怒濤の二日間だった。そう、たったの二日間。
 僕は夫と妹の不義理を知らされてから、たったの二日で離婚され、元夫は僕の妹とその場で婚姻を結んだ。

 離婚したからには、今まで住んでいたスタンホープ邸から出て行かなければならないのは当然としても、私物を取りに戻る事すら許されなかった。
 しかも実家だと言うのに出戻りΩな僕の肩身は狭く、居場所なんて無く、結婚前まで自室として使っていた部屋にいるしかなかった。
 約一年間空室だった元自室は倉庫の様に埃っぽく、ベッドだけの何も無い部屋に着替えと貴重品を少しだけ詰め込んだ鞄が一つ。訳も分からないまま実家に帰された時に辛うじて持ち出した物だ。

 そうして一人だけになって考えるのは、なぜこんな事になったのか、一体全体何が起きたのか……

 僕は別にオクトーの事を愛していた訳では無い。それはオクトーも一緒だと理解していたし、オクトーも分かっていたと思う。
 だけど、例え政略結婚で愛は無くとも、結婚したからには信頼関係は築き上げて行きたいと僕は思っていた。子を作り生涯共にするのだから、愛は無くとも情は交わせる間柄になりたかった。
 だから、僕なりに精一杯オクトーに歩み寄ったし理解し合おうと努力もした。子を産むのだって僕の仕事で義務だと思ったから、発情期が近づけばオクトーに知らせ一緒に過ごして貰った。
 発情期での性交だと妊娠はほぼ確実と言われているのに一年近く出来ない事には僕だって気にはしていた。だから、妊娠しやすくなると言われている食品を取ったり、お医者様に何度も見て貰って異常が無いのも確認して貰っていた。

 なのに、こんな仕打ちってあるか? 信頼関係を築き、良き関係であろうと思っていたのは僕だけだったのか!?
 結婚前だったら、何も思わなかった。「ああそうなんだ、良かったね。じゃぁ、お幸せに」って割り切れた。
 だけど、結婚後はそうはならない! 僕にだってプライドがある! 実の妹と不倫されて離婚されたなんて! しかも妊娠まで!! それが、どれだけ僕のプライドを傷つける事か!
 僕という存在全てを馬鹿にされ軽んじられて、誰が笑っていられる!!

 しかも、オクトーは僕の項を噛んで番にまでなっていた。番を解除されてしまったΩがどうなるかも分かっている筈……
 番を解除されたΩは体と心が新たな番を作る事を拒み、発情の度に失われた番を求めて苦しみ精神を病み、死んでいく。それに反してαは何も無い。何度でも、何人でも番を作り、捨てる事が出来る。

 幸か不幸か、僕はまだオクトーから番を解除されていない。番を解除されてしまったら、僕は狂い死んでいくだけになる、それはあまりにも忍びない、と。だから、敢えて番を解除しないという『恩情』らしい。
 それに番相手以外でも妊娠は出来る。なら、優秀な子を産む『Ω』が欲しいと望む所に再度嫁ぐ事も出来るだろう、と……
 だけど「妊娠しないから離婚された」「項に噛み痕がある」なんて瑕疵を付けられたΩを欲しがる者なんている訳が無いじゃないか!! 
 いたとしても、それは……まともな相手じゃない。

 αの父様とβの母様と言えど、それが分からない筈が無いのに。なのに……元夫も両親も妹も、僕を切り捨てた。
 まるで使えない道具を交換するかのように、簡単に僕を今まで組み込んでいた歯車から外した。それで、僕がどうなろうと知った事ではない、とばかりに……

 両親からは普通に親と子として愛情を貰っていたと思っていたんだけどな。どうやら、両親的には家の為の一つの駒としか思われて無かったみたいだ。
 今まで僕を育てて来たのも、優しく時には厳しく接してくれていたのも、全ては僕が家にとって利用価値のある『Ω』だったから。その『Ω』が使えない、となれば……
 今回の事で、良く分かった。妊娠もしない不良品、と捨てられた駒に与える情は無いんだって事が。

 これから僕は一体どうなるんだろう、という不安が、怒りや悲しみと混ざり合ってどんどん重たくなって来る。
 誰かの子を産む為だけに育てられた僕は、一人では生きる術を持たない。持てないように育てられたんだと、今なら分かる。分かった所で、どうしようも無いけど……
 ベッドに腰掛けた僕の足元にある小さなボストンバッグが今の僕の全財産。スタンホープ邸にある僕の私物を全て渡して貰えたとしても、大した額にもならないだろう。この家から逃げ出して一人で生きて行こうとしても数か月で底を付く金額だ。

 考えれば考える程、心の中で充満して零れ出したタールが全身を重くしていく様だった。

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