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1 突然の宣告

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「ウォレン、君の妹が身籠ったんだ。やっと私に子供が出来たんだよ。これほど喜ばしい事は無いだろう?」
「なにを、言って……意味が分からない」
「だから、君の妹ジョセリンと僕の間に子供が出来たんだよ。なかなか子供が出来なかった僕に待望の子供だよ? 君だって嬉しいだろう?」

 僕の妹との間に子供? それって、不倫であり不義の子では無いのか?

 今、目の前で喜色満面の笑みで僕に、僕の妹を妊娠させたと報告をしている男性はオクトー・スタンホープ。
 僕の夫だ。




 僕は第一の性は『男』で第二の性は『Ω』の、子供を産む事が出来る性だった。
 その為、『男』で『α』であるオクトーと政略結婚ではあるが、昨年結婚し夫夫となった。あくまでも、両家の繋がりの為、家のしがらみによる結婚だったが、そんな事は良くある話だろう。上流階級に連なる裕福な商家の次男でΩなんて、家の為に政略結婚するのは世の常だ。
 それは家より格上の大地主ジェントリ階級の長男で『α』であるオクトーも同じはずだし、納得した上での結婚だったはずだ。
 なのに、この裏切りは一体なんなんだ。

 あまりの事に込み上げる怒りと悲しみ、それから困惑と……あと、なんだろう? 兎に角、僕の感情はグチャグチャで心の中は重いタールが充満しているみたいだ。





「我が愚息が至らないばっかりに、スタンホープ家の御子息にはお手数をお掛けしてしまい申し訳ございません」

 媚びたニヤケ面を隠しもしない父親に僕は後頭部を押さえ付けられ、無理やり頭を下げさせられる。
 意味が分からない。なぜ、僕が頭を下げなきゃいけないんだ? 
 頭を下げるべきは、夫の妹に手を出し孕ませたオクトーじゃないのか?
 世間一般的には、その筈だ。だけど、僕の家も向こうの家もそうでは無かったらしい。

 孕む性であるはずのΩの僕が孕まなかったのが悪い、だそうだ。
 僕らが結婚してから約一年。その間に発情期は数回あったにも関わらず妊娠しなかった僕は不出来な夫だった、と言うのがオクトーをはじめ両家の見解だった。
 その為、不出来な夫を娶ってしまったオクトーは『β』ではあるが、女性で孕む事の出来る義理の妹であるジョセリンとの間に子供を作った、と。
 『α』と『Ω』の間ならば優秀な『α』が高確率で望めるだろうとの目論見で僕とオクトーは結婚したのだが、『β』との間でも『α』は生まれる可能性は十分にあるし、オクトー曰く、優秀なαである自分の遺伝子が入っているのならΩだろうがβだろうが、きっと優秀なαが生まれて来る筈だから問題ない、と。

 そして僕の両親はそんな彼の行動に、「両家の関係を崩さない為にも、夫の妹であるジョセリンを孕ませ、新たに娶って下さるという格段の配慮に感謝いたします」と揉み手で感謝を述べている。

 本当に意味が分からない。

 夫から衝撃の告白を受けたその日に僕は諸々の手続きがあるから、と訳が分からないまま実家に帰され。両親からは出来損ない、役立たず、と叱責され、妹からは自分がどれだけ魅力的で、どれだけオクトーに求められ、如何に僕が夫として相応しくなかったかを嘲笑いながら語られ。次の日には夫が義両親を連れて実家へとやって来て……今に至る。

 実家の応接室のソファーで両脇を両親で固められ、テーブルを挟んだ向かいには夫のオクトーと妹のジョセリンが笑顔で並んで座り、その隣に義両親が座っていた。
 そして、目の前のテーブルの上には記入済みの離婚届と婚姻届が並んでいる。
 僕は純粋に喜んでいるオクトーの笑顔も、勝ち誇った笑顔のジョセリンも見ていられず、だからと言って下げた目線の先にある離婚届と婚姻届も視界に入れる事が我慢出来ず、父親に無理やり下げさせられた頭をそのままに、自分のつま先だけを見ていた。

「お兄様、お辛いかもしれませんが、これも家の為を思えばの事ですのよ。オクトー様も孕まぬ男より、孕む女のわたくしをお選びになられたのですから、ご理解下さいまし?」
「大丈夫だよ、ウォレンはちゃんと分かっているから。君は何も心配しなくて良いんだ。むしろ僕に子供が授かった事をウォレンは凄く喜んでくれているんだから。ねぇ?」
「勿論でございますとも。ウォレンも心より祝福しているからこそ、この様に離婚届も記入させて頂いているのですから」

 なんで僕が裏切られ、浮気されて出来た子供を喜んでいるなんて言えるんだろう?
  何が祝福か。こんなにも僕という存在を馬鹿にしておいて、何を祝福しろって言うんだ。
 僕を置き去りに、勝手に進んでいく話に吐き出したくなる悪態を飲み込み、心の中のタールを増やしていく。

「それでは、この離婚届と婚姻届は私の方で提出しておきますので」
「重ね重ね、お手数をお掛け致しますが、宜しくお願いいたします」
「お父様、お母様。わたくしオクトー様をお見送りして参りますわ」
「あらあら、ジョセリンたら。あなたは今、とっても大事な時期なんですから無理をしては駄目よ?」
「でもぅ、わたくしお輿入れはまだでもオクトー様の妻なんですのよ? 妻たるもの夫を見送るのも勤めでしょ?」
「まぁ、この子ったら」
「あらあら、可愛らしい事を言うお嫁さんじゃない。オクトー良かったわね」

 未だ自分のつま先しか見ていない僕を置いて六人は席を立ち、僕なんていないかの様に朗らかな会話を弾ませながら応接室を出て行った。
 去り際、今回の事は全て息子に任せる、と発言を控えていた義父が一言「短い間だったが、息子が世話になったね」とだけ僕に告げ、応接室の扉は閉められた。

 そうして、誰一人として僕に謝罪の言葉一つ掛けず、それどころか僕には意見1つ、要望1つ聞く事も無く全て決定事項として話は進み、オクトーは元夫となり、僕はαに捨てられた出戻りΩとなってしまった。

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