【完結】幼き王は傀儡となりて

兎卜 羊

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少年王クラウザール

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「このたび、サカリアス陛下が遠路はるばる我が国を御訪問になられた事は、我がルシアプ王国とギトメア国の永い歴史の上で特筆すべきことであり、余は、ここに心から歓迎の意を表するとともに、再びお会い出来た事を、誠に嬉しく思う」

 齢12~13歳ほどの少年が白を基調とした正装に身を包み、広い謁見の間の数段高い王座の上に立ち、白い紙を手に式辞を読む。
 山吹色のフワフワと緩いカールを描く髪を赤いリボンで一纏めにし、蒼色の大きな瞳を手に持った紙と王座の下の人物とを行ったり来たりさせている。その姿は、まるで宗教画に描かれた天使が抜け出して来たかの様な愛らしさで、将来、あと10年も経てば目も眩むような美しい青年に成長するだろう事が容易に想像が出来る程だった。

 そんな少年が小さなピンク色の唇を一生懸命に動かし、小難しい言葉を並べている姿は見る人に寄っては一見健気で微笑ましく、または、哀れで滑稽にも見える物であった。
 そして、そんな少年から少し離れた斜め後ろには、青白磁色の長い髪を背中に流した美丈夫と言える青年が立ち、朗々と淀みなく式辞を読む少年の後ろ姿を、その美しい顔に溢れんばかりの慈愛の表情を浮かべて見ていた。

 少年の聖歌を奏でているかの様なソプラノが満ちる謁見の間の真ん中、少年の目の前である王座の下では従属国であるギトメア国の王、その後ろには同行の騎士や外交官などの従者達が膝を折って傅き、少年の言葉恭しく聞いていた。
 その顔は頭を深く下げ、周りからは見えてはいないが苦々しく歪み、明らかに若輩な少年に傅かねばならない事に納得がいっていない様子だった。
 さらには、両脇の壁沿いにズラリとルシアプ王国の貴族も立ち並んでいたが、そちらもどこかシラケた雰囲気を醸し出していた。

 おおよそ好意的では無い空気が流れる中、その事に気が付いているのかいないのか、壇上の少年も青年も表情一つ変える事無く式辞が読み続けられて行く。

「サカリアス陛下の我が国滞在は、短期間ではあるが、我が国の実情を親しく御視察願うかたわら、伝統芸能や文化遺産を心おきなく御鑑賞頂きたいと願う。そして新緑に萌える風光をお楽しみになる事が、御来訪の思い出の良きよすがとなるよう、心から希望いたす」

 少年が全ての式辞を読み上げ、斜め後ろにいる青年にやり切った、と言わんばかりの得意げな顔を向ける。そして、顔を向けられた青年は眩しそうに眼を細め頷くと、少年に向けていた蕩ける様な顔とは180度違う冷淡と言える程の冷めた表情で前を向き、王座下に控える者達を一瞥する。

「これにてクラウザール国王陛下のお言葉は以上で御座います。この後はギトメア国の皆様を歓迎する晩餐会をご用意しております。それまで、どうぞ我が国自慢の迎賓館でお寛ぎ下さい」

 そう言い終えると、ニコニコと微笑み王座下の人々を眺める少年、若きルシアプ王国国王クラウザールの横へと進み出て、一言「参りましょう」と白い手袋を嵌めた小さな手を取り、さりげなく背中に手を添えながら退席していった。

 クラウザールの姿が見えなくなるまで謁見の間に集まった者達は形式通り頭を垂れ続けていた。だが、クラウザールが退出し扉が閉められた後、頭を上げた全員がどこか複雑な、釈然としない顔をしてした。

「とんだ傀儡だ……」

 誰が呟いたのか。一国の王を屈辱する言葉が何処からともなく聞こえた。
 しかし、ただ、バツの悪そうなな雰囲気が漂うだけで、その場の誰もがその声の主を探す事も、不敬だと憤る事もしなかった。それは自国の貴族だけでなく王を守る為に存在している筈の貴族ですらそうであるならば、あの美しくも幼い少年王がどう思われているか一目瞭然であった。
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