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21.父よ!
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「お父様。一言連絡してから来て下さい!」
「ははは。すまん。今日は城に行って来た。陛下に報告があったからな。それでここに寄ることにしたんだ」
辺境にいると思っていた父もビンガム侯爵領で調査を手伝っていたらしい。その報告で城にきたそうだ。しかも騎馬で。そんな強行軍はさすがに馬が可哀想だ。
「馬は休憩させているし交代もさせたぞ」
「夜にはメイナード様が帰宅するから晩餐を一緒に摂りましょう」
「いや、すぐに帰る。お前の顔だけ見ておこうと思ってな。オーロラが私の帰りを待っているはずだ」
いや~。お母様はたぶん羽を伸ばして伸び伸びと過ごしていると思うけど。お母様もお父様を愛しているけど四六時中べったりされると息が詰まるって言っていた。仕事が忙しい時は離れている時間があったけど、昨年からお父様がお兄様に仕事を任せるようになったから辛いってこぼしていた。『亭主元気で時々留守がいいのよ~』これはお父様が知ったらショックを受けるから黙っておいてあげよう。
「まあ、エルシィが幸せそうでよかった。それで今日は一応教えておこうと思ってな。メイナードが先物取引で負債を抱えたというのは嘘だ。借金なんぞないから支援もしていない。普通に持参金は払ってあるから安心してくれ。それは我が家の沽券に係わるからな。それとビンガム侯爵の娘とメイナードの縁談については『ミッシェル』の店長にお前に吹き込むよう頼んだ」
「えっ?! 何で」
借金はなかった? それなら噂にならなくて当然だ。完全に父の嘘に騙された。ジリアンとメイナードとの縁談の話は私の諜報活動の成果じゃなくて父の仕業だった。くっ!
「そりゃあ、可愛い娘には好いた男と結婚させてやりたいからだ。きっかけもなくメイナードとの婚約の話を出してもお前はうんと言わないだろう。納得させるための理由付けだ。ダリウスからの報告でエルシィがメイナードに好意を抱いていると聞いてお膳立てしてやったんだ。エルシィはじゃじゃ馬で行動派なのに恋に対して奥手とはなあ。あそこで背中を押してやらなければエルシィは一生結婚出来なさそうだった。私はなかなかいい仕事をしたと思わないか?」
確かにいい仕事をしてくれたけれども。父に恋とか言われるとむず痒い。ダリウス(護衛のおじいちゃん)がそんな話まで報告するなんて思わなかった。確かにメイナードが好きだったけれど見ているだけで満足するつもりでいた。あのときは変装して身分を隠していたし恥ずかしくて自分からは話しかけられなかった。ましてや結婚したいなんて親に言い出せない。だからといってあの時「メイナードが好きなら婚約を打診してやる」と父から言われたら恥ずかし過ぎて「別に好きじゃない」とか天邪鬼が出てきただろう。
「あと婚約後にエルシィに会いにメイナードが何度か辺境まで来ていたが、娘を取られると思うとしゃくで会わせなかったぞ」
「メイナードが私に会いに来てくれていたの?」
会いたかったのに酷い。娘を取られるってお父様が進めた話なのに……。
「じゃあ、私は帰る。仲良くやれよ!」
父は自分の言いたいことだけ言うと馬に跨り帰って行った。嵐のような男である。
要するに私は父の手のひらで踊らされたのかあ……。夜帰宅したメイナードに父のことを報告すると笑っていた。
「今日、義父上とは王城で挨拶してある。義母上が心配だからすぐに辺境に戻るとおっしゃっていたがエルシィの顔を見るために寄ったのだな」
「本当に顔だけ見てすぐに帰ってしまったわ。ところでメイナード。父から婚約の打診をされたときどう思った?」
「最初は断るつもりだった」
「えっ?」
ショック! 聞かなきゃよかった。
「ビンガム侯爵を失脚させるまでは結婚するつもりはなかった。きっとエルシィを巻き込んで危険な目に遭わせてしまうから。だが義父上に今すぐ婚約、結婚しないのなら別の家と縁組してしまうと脅された。それで結婚を決めた」
「それは私のことを少しは好きでいてくれたと思っていいの?」
メイナードは愛おしそうな眼差しでエルシィを見た。
「最初はエルシィのピアノが好きだった。でも店で観察するうちに素直で優しくて、その姿を愛おしく思うようになった。すべてが片付いたら正式に婚約を申し込むつもりだったが義父上に先手を打たれた」
「それなら私たち、相思相愛で結婚できたということでいいのかな?」
「そうだ。私は最初からエルシィに愛していると伝えていたが信じてくれていなかったな」
「あ……」
持参金に感謝してのリップサービスだと思っていたので信じなかった。
「しかもエルシィからは愛してるってなかなか言ってくれないね」
「あ……」
抱かれている時と心の中では言っていたけど、普通に過ごしているときに言うのは難しい。照れてしまうのよ。
「えーー。今後はガンバリマス」
「じゃあ、早速練習しようか」
「えっ。今すぐ?」
メイナードが期待を滲ませて頷いた。
「ああ、今すぐに」
エルシィは意を決して大きく息を吸った。そして――。
「あ、あ、あ、あーーぃしてます」
必至で出した声は小さかった。だって改まって言うのはやっぱり恥ずかしい。
「聞こえない」
メイナードの鬼! ちょっとやけになって大声で叫んだ。
「愛してます!」
「私も愛してるよ」
メイナードはそのキラキラした顔に何とも言えない優しい笑みを浮かべた。この顔を見れたらどうしようもなく幸せを感じた。この笑顔を見るために頑張ります。きっと恥ずかしくても慣れる日が来るでしょう。もう浮気を心配する必要がなくなり夜会でもヤキモキせずにすむ。エルシィは次の夜会に出席する日が待ち遠しくなった。
麗しい夫を持った妻はもう苦悩する必要がなくなったのである。
「ははは。すまん。今日は城に行って来た。陛下に報告があったからな。それでここに寄ることにしたんだ」
辺境にいると思っていた父もビンガム侯爵領で調査を手伝っていたらしい。その報告で城にきたそうだ。しかも騎馬で。そんな強行軍はさすがに馬が可哀想だ。
「馬は休憩させているし交代もさせたぞ」
「夜にはメイナード様が帰宅するから晩餐を一緒に摂りましょう」
「いや、すぐに帰る。お前の顔だけ見ておこうと思ってな。オーロラが私の帰りを待っているはずだ」
いや~。お母様はたぶん羽を伸ばして伸び伸びと過ごしていると思うけど。お母様もお父様を愛しているけど四六時中べったりされると息が詰まるって言っていた。仕事が忙しい時は離れている時間があったけど、昨年からお父様がお兄様に仕事を任せるようになったから辛いってこぼしていた。『亭主元気で時々留守がいいのよ~』これはお父様が知ったらショックを受けるから黙っておいてあげよう。
「まあ、エルシィが幸せそうでよかった。それで今日は一応教えておこうと思ってな。メイナードが先物取引で負債を抱えたというのは嘘だ。借金なんぞないから支援もしていない。普通に持参金は払ってあるから安心してくれ。それは我が家の沽券に係わるからな。それとビンガム侯爵の娘とメイナードの縁談については『ミッシェル』の店長にお前に吹き込むよう頼んだ」
「えっ?! 何で」
借金はなかった? それなら噂にならなくて当然だ。完全に父の嘘に騙された。ジリアンとメイナードとの縁談の話は私の諜報活動の成果じゃなくて父の仕業だった。くっ!
「そりゃあ、可愛い娘には好いた男と結婚させてやりたいからだ。きっかけもなくメイナードとの婚約の話を出してもお前はうんと言わないだろう。納得させるための理由付けだ。ダリウスからの報告でエルシィがメイナードに好意を抱いていると聞いてお膳立てしてやったんだ。エルシィはじゃじゃ馬で行動派なのに恋に対して奥手とはなあ。あそこで背中を押してやらなければエルシィは一生結婚出来なさそうだった。私はなかなかいい仕事をしたと思わないか?」
確かにいい仕事をしてくれたけれども。父に恋とか言われるとむず痒い。ダリウス(護衛のおじいちゃん)がそんな話まで報告するなんて思わなかった。確かにメイナードが好きだったけれど見ているだけで満足するつもりでいた。あのときは変装して身分を隠していたし恥ずかしくて自分からは話しかけられなかった。ましてや結婚したいなんて親に言い出せない。だからといってあの時「メイナードが好きなら婚約を打診してやる」と父から言われたら恥ずかし過ぎて「別に好きじゃない」とか天邪鬼が出てきただろう。
「あと婚約後にエルシィに会いにメイナードが何度か辺境まで来ていたが、娘を取られると思うとしゃくで会わせなかったぞ」
「メイナードが私に会いに来てくれていたの?」
会いたかったのに酷い。娘を取られるってお父様が進めた話なのに……。
「じゃあ、私は帰る。仲良くやれよ!」
父は自分の言いたいことだけ言うと馬に跨り帰って行った。嵐のような男である。
要するに私は父の手のひらで踊らされたのかあ……。夜帰宅したメイナードに父のことを報告すると笑っていた。
「今日、義父上とは王城で挨拶してある。義母上が心配だからすぐに辺境に戻るとおっしゃっていたがエルシィの顔を見るために寄ったのだな」
「本当に顔だけ見てすぐに帰ってしまったわ。ところでメイナード。父から婚約の打診をされたときどう思った?」
「最初は断るつもりだった」
「えっ?」
ショック! 聞かなきゃよかった。
「ビンガム侯爵を失脚させるまでは結婚するつもりはなかった。きっとエルシィを巻き込んで危険な目に遭わせてしまうから。だが義父上に今すぐ婚約、結婚しないのなら別の家と縁組してしまうと脅された。それで結婚を決めた」
「それは私のことを少しは好きでいてくれたと思っていいの?」
メイナードは愛おしそうな眼差しでエルシィを見た。
「最初はエルシィのピアノが好きだった。でも店で観察するうちに素直で優しくて、その姿を愛おしく思うようになった。すべてが片付いたら正式に婚約を申し込むつもりだったが義父上に先手を打たれた」
「それなら私たち、相思相愛で結婚できたということでいいのかな?」
「そうだ。私は最初からエルシィに愛していると伝えていたが信じてくれていなかったな」
「あ……」
持参金に感謝してのリップサービスだと思っていたので信じなかった。
「しかもエルシィからは愛してるってなかなか言ってくれないね」
「あ……」
抱かれている時と心の中では言っていたけど、普通に過ごしているときに言うのは難しい。照れてしまうのよ。
「えーー。今後はガンバリマス」
「じゃあ、早速練習しようか」
「えっ。今すぐ?」
メイナードが期待を滲ませて頷いた。
「ああ、今すぐに」
エルシィは意を決して大きく息を吸った。そして――。
「あ、あ、あ、あーーぃしてます」
必至で出した声は小さかった。だって改まって言うのはやっぱり恥ずかしい。
「聞こえない」
メイナードの鬼! ちょっとやけになって大声で叫んだ。
「愛してます!」
「私も愛してるよ」
メイナードはそのキラキラした顔に何とも言えない優しい笑みを浮かべた。この顔を見れたらどうしようもなく幸せを感じた。この笑顔を見るために頑張ります。きっと恥ずかしくても慣れる日が来るでしょう。もう浮気を心配する必要がなくなり夜会でもヤキモキせずにすむ。エルシィは次の夜会に出席する日が待ち遠しくなった。
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