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18.旦那様が駆け付けてくれました
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「エルシィ!!」
現れたのは綺麗な金髪を振り乱し焦った表情のメイナードだった。後ろでケントが睨んでいる。すでに告げ口されていた模様……。
「メ、メイナード。怒鳴り込んでくるなんて、あ……あまりに不躾だわ」
ジリアンは抗議したいようだけど動揺している。そしてエルシィの手に持っている小瓶をチラチラ見ている。
「それは失礼。妻を迎えに来た」
メイナードが心配してきてくれた! と浮かれるには彼の顔は怖すぎる。誤魔化すようにそっと手に持っている小瓶を彼の目の前に差し出した。
「メイナード。これを彼女が――」
彼は目を眇めそれを受け取ると蓋を開け匂いを嗅いだ。そしてジリアンを睨みつけた。
「ビンガム侯爵令嬢。今、侯爵はどちらに?」
「あっあっ、お父様は今領地に。それよりそれを返して! お父様に見つかったら叱られてしまうわ」
やはりこれは違法薬物のようだ。見つかったらまずいのはお父様よりもお役人様なのだけど分かっていない。随分甘やかされて生きて来たのだろう。メイナードがケントに目で合図をすると騎士たちが入って来た。騎士まで手配していたとは有能な旦那様……。
「彼女を城に連れて行け。私も陛下に報告に行く」
「メイナード、助けて。お願い!」
ジリアンの懇願をメイナードは無視した。彼女は喚きながら騎士に引きずられていった。
「エルシィ。お手柄だ。だが……いや、あとでゆっくり話そう。義父上の苦悩が察せられる。私は王城に行くからエルシィは今度こそケントと真っ直ぐ屋敷に帰りなさい」
「はい……。真っ直ぐ帰ります」
今日は本当ならメイナードと楽しくケーキを食べる予定だったけれどたぶん無理だろう。屋敷に戻るとすでに話を聞いていたジャスミンに叱られた。ケントは後ろで頷いていて助けてくれなかった。
「頑張ったのに誉めてもらえないって悲しい」
夜遅くに帰宅したメイナードについ言ってしまった。彼は大袈裟なほど大きなため息をついた。
「みんなエルシィを心配している。それは分かるな?」
「はい。でも薬の入った紅茶は飲んでいないし、薬も奪ったわ」
「結果論だ。今回はビンガム侯爵が不在でジリアンがマヌケだから何事もなかった。これは運がよかったんだ。もし侯爵が不在でなければどうなっていたか」
最初は不満を漏らしてしまったがメイナードの辛そうな顔を見ていたらいかに自分が軽率な行動を取ったのかを思い知らされた。
「ごめんなさい。もう、絶対にしません」
メイナードは両手を広げエルシィをぎゅっと強く抱きしめた。
「私は両親を守れなかった。もしも……エルシィまで失っていたら……」
その言葉に頭を金槌でがつんと殴られたような気がした。エルシィは焼きもちで証拠を手に入れようとした。そのためにメイナードに心配をかけ悲しませてしまった。自分はなにも分かっていなかった。家族を失った彼の気持ちを恐怖を理解していなかった。メイナードを不安にさせて私ったら最低だ……。瞳からぽろぽろと涙が溢れ出す。泣くなんてずるいことはしたくないのに止まらない。
「ごめんなさい。ごめんなさい……」
メイナードは何も言わず泣き止むまでずっと強くエルシィを抱き締めていた。
泣き止み落ち着いたところでソファーに座る。ジャスミンがお茶を用意してくれた。泣き過ぎて喉が渇いていたので頂くことにする。爽やかな香りのお茶が喉を潤す。全身が温まってくる。メイナードの怒りも少しは収まったようで彼も静かにお茶を飲んでいる。
「実はすでに陛下がビンガム侯爵領に騎士を送り屋敷を強行で捜索した。侯爵は薬を領地に保管していたが足をつくのを恐れ処分しようとしていた所だった。先程城にその報告が上がった」
「えっ……それじゃあ私のしたことは無駄?」
「……気持ちだけもらっておく」
残念な子を見るような眼差しでメイナードはエルシィを見た。
「う~~~~」
思わず頭を抱えてうずくまった。完全に余計なことをして心配をかけただけだった。いいところが一つもない。さすがに猛省です……。
「それと前王の子だと言い張っていた子だがライアンと髪と目の色が同じ乳児をどこかからか攫って来た。地方の街で子供が誘拐されたと被害届が出されていてその子で間違いないことが分かった。ビンガム侯爵は違法薬物の輸入及び保持、それと前王の子だと虚偽の申告をしたこと、さらに誘拐の嫌疑で収監した。もう一族は終りだ。繋がっていた貴族たちも裁かれるだろう。連座を恐れたある貴族が自分の罪を軽くしようと、私の両親やバークリー伯爵の殺害、あと先々代王の後宮放火について喋り出した。他の貴族も薬の流れについて自白を始めた。陛下は早急に取り調べを進めこの件を終わらせるはずだ」
「そう……」
良かったと言っていいのか。あまりにも犠牲者の多い出来事だった。諸悪の根源は先々代王がビンガム侯爵を利用していたせいだ。息子であるライアンの譲位を見送るくらいならビンガム侯爵だって裁くべきだったのに、後宮での生活を優先するためにビンガム侯爵の薬を利用することを選んだ。そしてビンガム侯爵に過大な力を与えてしまった。彼は賢王ではなかった。己の欲望を優先する愚王だった。メイナードはご両親も親友も失った。解決しても悲しみは晴れない。
「処罰される貴族が多いからしばらく王宮内は混乱するだろう。きっと……陛下ならよい治世を敷いてくださると思う」
「ええ。そうね」
しんみりと頷くとメイナードがニヤリと口角を上げた。
「えっ?」
そして長い夜が始まった。
現れたのは綺麗な金髪を振り乱し焦った表情のメイナードだった。後ろでケントが睨んでいる。すでに告げ口されていた模様……。
「メ、メイナード。怒鳴り込んでくるなんて、あ……あまりに不躾だわ」
ジリアンは抗議したいようだけど動揺している。そしてエルシィの手に持っている小瓶をチラチラ見ている。
「それは失礼。妻を迎えに来た」
メイナードが心配してきてくれた! と浮かれるには彼の顔は怖すぎる。誤魔化すようにそっと手に持っている小瓶を彼の目の前に差し出した。
「メイナード。これを彼女が――」
彼は目を眇めそれを受け取ると蓋を開け匂いを嗅いだ。そしてジリアンを睨みつけた。
「ビンガム侯爵令嬢。今、侯爵はどちらに?」
「あっあっ、お父様は今領地に。それよりそれを返して! お父様に見つかったら叱られてしまうわ」
やはりこれは違法薬物のようだ。見つかったらまずいのはお父様よりもお役人様なのだけど分かっていない。随分甘やかされて生きて来たのだろう。メイナードがケントに目で合図をすると騎士たちが入って来た。騎士まで手配していたとは有能な旦那様……。
「彼女を城に連れて行け。私も陛下に報告に行く」
「メイナード、助けて。お願い!」
ジリアンの懇願をメイナードは無視した。彼女は喚きながら騎士に引きずられていった。
「エルシィ。お手柄だ。だが……いや、あとでゆっくり話そう。義父上の苦悩が察せられる。私は王城に行くからエルシィは今度こそケントと真っ直ぐ屋敷に帰りなさい」
「はい……。真っ直ぐ帰ります」
今日は本当ならメイナードと楽しくケーキを食べる予定だったけれどたぶん無理だろう。屋敷に戻るとすでに話を聞いていたジャスミンに叱られた。ケントは後ろで頷いていて助けてくれなかった。
「頑張ったのに誉めてもらえないって悲しい」
夜遅くに帰宅したメイナードについ言ってしまった。彼は大袈裟なほど大きなため息をついた。
「みんなエルシィを心配している。それは分かるな?」
「はい。でも薬の入った紅茶は飲んでいないし、薬も奪ったわ」
「結果論だ。今回はビンガム侯爵が不在でジリアンがマヌケだから何事もなかった。これは運がよかったんだ。もし侯爵が不在でなければどうなっていたか」
最初は不満を漏らしてしまったがメイナードの辛そうな顔を見ていたらいかに自分が軽率な行動を取ったのかを思い知らされた。
「ごめんなさい。もう、絶対にしません」
メイナードは両手を広げエルシィをぎゅっと強く抱きしめた。
「私は両親を守れなかった。もしも……エルシィまで失っていたら……」
その言葉に頭を金槌でがつんと殴られたような気がした。エルシィは焼きもちで証拠を手に入れようとした。そのためにメイナードに心配をかけ悲しませてしまった。自分はなにも分かっていなかった。家族を失った彼の気持ちを恐怖を理解していなかった。メイナードを不安にさせて私ったら最低だ……。瞳からぽろぽろと涙が溢れ出す。泣くなんてずるいことはしたくないのに止まらない。
「ごめんなさい。ごめんなさい……」
メイナードは何も言わず泣き止むまでずっと強くエルシィを抱き締めていた。
泣き止み落ち着いたところでソファーに座る。ジャスミンがお茶を用意してくれた。泣き過ぎて喉が渇いていたので頂くことにする。爽やかな香りのお茶が喉を潤す。全身が温まってくる。メイナードの怒りも少しは収まったようで彼も静かにお茶を飲んでいる。
「実はすでに陛下がビンガム侯爵領に騎士を送り屋敷を強行で捜索した。侯爵は薬を領地に保管していたが足をつくのを恐れ処分しようとしていた所だった。先程城にその報告が上がった」
「えっ……それじゃあ私のしたことは無駄?」
「……気持ちだけもらっておく」
残念な子を見るような眼差しでメイナードはエルシィを見た。
「う~~~~」
思わず頭を抱えてうずくまった。完全に余計なことをして心配をかけただけだった。いいところが一つもない。さすがに猛省です……。
「それと前王の子だと言い張っていた子だがライアンと髪と目の色が同じ乳児をどこかからか攫って来た。地方の街で子供が誘拐されたと被害届が出されていてその子で間違いないことが分かった。ビンガム侯爵は違法薬物の輸入及び保持、それと前王の子だと虚偽の申告をしたこと、さらに誘拐の嫌疑で収監した。もう一族は終りだ。繋がっていた貴族たちも裁かれるだろう。連座を恐れたある貴族が自分の罪を軽くしようと、私の両親やバークリー伯爵の殺害、あと先々代王の後宮放火について喋り出した。他の貴族も薬の流れについて自白を始めた。陛下は早急に取り調べを進めこの件を終わらせるはずだ」
「そう……」
良かったと言っていいのか。あまりにも犠牲者の多い出来事だった。諸悪の根源は先々代王がビンガム侯爵を利用していたせいだ。息子であるライアンの譲位を見送るくらいならビンガム侯爵だって裁くべきだったのに、後宮での生活を優先するためにビンガム侯爵の薬を利用することを選んだ。そしてビンガム侯爵に過大な力を与えてしまった。彼は賢王ではなかった。己の欲望を優先する愚王だった。メイナードはご両親も親友も失った。解決しても悲しみは晴れない。
「処罰される貴族が多いからしばらく王宮内は混乱するだろう。きっと……陛下ならよい治世を敷いてくださると思う」
「ええ。そうね」
しんみりと頷くとメイナードがニヤリと口角を上げた。
「えっ?」
そして長い夜が始まった。
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