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26.危機続行中
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ハリスンの手はいやらしくシンシアの頬を撫でる。そのたびにぞわぞわと嫌悪感から鳥肌が立つ。さらにハリスンは顔を近づけ頬をねっとりと味わうように舐めた。
「ああ、甘い。国に戻ったら君の全てを味わいたい。あんな男に触れられ汚された全てを私の手で上書きしてあげよう」
「っ~、ん――!!」(吐きそう! 気持ち悪い! 汚い! 消毒したい!)
シンシアは悔しくて涙が浮かんだ。すると眦に唇を這わせそれも舐めとった。
(ひいぃ――。いや――――――――――――!!)
「君のすべてはわたしのもだ。愛しているよ。マリオン」
違う! 私は私のものだし、愛を捧げるのも受け取りたいのもブラッドだけ。この人は何を言っているの? 他国の王太子妃を誘拐してただで済むはずがない。最悪戦争になる、というかブラッドだったら国を滅ぼすと思う。
頭の中は恐慌状態だ。すると突然馬車が止まった。ハリスンはシンシアを布で包んで抱えた。
(私は荷物扱い?!)
そのままゆっくり馬車を降りたようだがマリオンからは外が見えない。
そのままどこかの建物に入り部屋へと連れ込まれた。そっと下ろされ布が取り払われると眩しさに目を細める。目だけを動かし様子を窺がう。綺麗な調度品の置かれた上等な部屋。たぶん高級宿だ。
ハリスンはシンシアに甘い笑みを向けると「待ってて」と言い残し部屋を出て行った。
待たない! 二度と戻って来るな――! という願いは叶わずほどなく戻って来た。手には水差しがありそれを一旦机に置くとシンシアを抱き起しその口元にあてがった。ハリスンに世話をされるのは不本意だが喉は渇いている。不自由な体で飲めるか分からないが水分は取った方がいい。それにさっきから指先が少しだけ動くようになってきてニギニギできる。逃げる希望は絶対に捨てない。
口を開けグラスの水をなんとか飲んだ。ホッとするも飲み切れずに口からこぼれてしまった水をハリスンがぺろりと舐めとった。気持ち悪い。さっきから舐めないでよ。泣きたい。いますぐ洗いたい。
「ああ、その泣きそうな顔はマリオンを彷彿とさせる。間違いなくあなたはマリオンの生まれ変わりだ」
確信を持った言葉にハリスンを凝視しする。そういえばさっきから自分のことをマリオンと呼んでいる。まさかハリスンにも前世の記憶があるというのか。でもなぜマリオンだと分かったのか。マリオンとシンシアの容貌にはまったく共通点がない。それに前世の記憶は誰にも言ったことがない。ブラッドにすら。それなのに何故気付いたのだろう。
「シンシア。あなたが驚くのは無理もない。マリオンと呼ばれても理解できないだろう? あなたの前世はマリオンという名の我が国の公爵令嬢だった。私の名はクリフトン、あなたの婚約者だった。前世で私たちは深く愛し合っていたのに悲しいすれ違いがあり結ばれることはなかった。でも今世でもう一度巡り合うことができた。神が二人の幸せを望んでくれているんだ。あなたの姿とマリオンの姿には重なるところはないが、私は一目見てあなたがマリオンだと分かったよ。その魂を感じることができた。これこそ運命だ!」
ハリスンは自分の言葉にうっとりと酔いしれシンシアに説明するが、記憶の改ざんが酷すぎる。心の中でドン引き中である。
(私たちは愛し合っていないし、悲しいすれ違いってなに? あなたが勝手に私を憎んで死を望んだのでしょう? く~~! 腹が立つわ)
「もっと早くあなたを見つけることができれば正式に求婚して我が妃に出来たのだが、悔しいことにブラッドと結婚してしまった。あの男が私のマリオンを抱いたのかと思うと殺してやりたいよ。でも私があなたを助けるのが遅くなったせいだ。だからあなたが純潔ではないことは許してあげよう」
(勝手なこと言わないでよ! 私はブラッドの妻で嬉しいの! 純潔じゃないのが気になるのなら他の女性にしなさいよ。私を抱いていいのはブラッドだけなんだから!)
声に出して罵りたいのにまだ声帯は自由にならない。
「我が国にあなたのための離宮を建てたよ。私と二人きりで過ごす楽園だ。きっと気に入るはずだ。あなたの存在は公には出来ないけれど子が生まれたらどんな手段を使っても王位につけると約束するから許してくれ。ああ、愛しているよ。マリオン」
(さっきからマリオン、マリオンってうるさいわよ! 私はシンシアよ。マリオンはもういないのよ。目を覚ましなさいよー!)
「今はオールディス王国の国境沿いの街にいるんだ。夜になったら隣国に移動する。そこには騎士を待機させているから安心して欲しい。あんな男に二度とあなたを渡したりしない」
(安心できないし、ブラッドはあんな男じゃない! 私の大切な旦那様よ!)
シンシアにはハリスンが狂人にしか見えない。勝手にシンシアの気持ちを決めつけ疑いもしない。声が出ても会話が成立する気がしない……。窓の外は真っ赤に染まり夕暮れだ。暗くなったら闇に紛れて国境を超えるつもりらしい。国境検閲所をどう抜けるつもりなのか。我が国には入るのも出るのも厳しい検問がある。ハリスンの様子だと王子として入国したのではなく身分を誤魔化している。検問所の役人がシンシアに気付いてくれるだろうか……。
ブラッドはきっと捜索してくれている。でも間に合うかどうか……。自力で逃げることも考えないと。
「そろそろ薬が切れる頃かな? 食事をしたらもう一度眠ってもらうよ。次に目を覚ました時には私たちの愛の宮だ。楽しみだね」
シンシアは恍惚とした表情を浮かべるハリスンのおぞましさに身震いをした。吐きそう……。
(絶対にまともじゃない)
話せるようになっても時間稼ぎをするのは難しそうだ。本気でシンシアが自分を愛していると思い込んでいる。
(それでも諦めたりしない。絶対にブラッドのもとに帰るんだから!!)
「ああ、甘い。国に戻ったら君の全てを味わいたい。あんな男に触れられ汚された全てを私の手で上書きしてあげよう」
「っ~、ん――!!」(吐きそう! 気持ち悪い! 汚い! 消毒したい!)
シンシアは悔しくて涙が浮かんだ。すると眦に唇を這わせそれも舐めとった。
(ひいぃ――。いや――――――――――――!!)
「君のすべてはわたしのもだ。愛しているよ。マリオン」
違う! 私は私のものだし、愛を捧げるのも受け取りたいのもブラッドだけ。この人は何を言っているの? 他国の王太子妃を誘拐してただで済むはずがない。最悪戦争になる、というかブラッドだったら国を滅ぼすと思う。
頭の中は恐慌状態だ。すると突然馬車が止まった。ハリスンはシンシアを布で包んで抱えた。
(私は荷物扱い?!)
そのままゆっくり馬車を降りたようだがマリオンからは外が見えない。
そのままどこかの建物に入り部屋へと連れ込まれた。そっと下ろされ布が取り払われると眩しさに目を細める。目だけを動かし様子を窺がう。綺麗な調度品の置かれた上等な部屋。たぶん高級宿だ。
ハリスンはシンシアに甘い笑みを向けると「待ってて」と言い残し部屋を出て行った。
待たない! 二度と戻って来るな――! という願いは叶わずほどなく戻って来た。手には水差しがありそれを一旦机に置くとシンシアを抱き起しその口元にあてがった。ハリスンに世話をされるのは不本意だが喉は渇いている。不自由な体で飲めるか分からないが水分は取った方がいい。それにさっきから指先が少しだけ動くようになってきてニギニギできる。逃げる希望は絶対に捨てない。
口を開けグラスの水をなんとか飲んだ。ホッとするも飲み切れずに口からこぼれてしまった水をハリスンがぺろりと舐めとった。気持ち悪い。さっきから舐めないでよ。泣きたい。いますぐ洗いたい。
「ああ、その泣きそうな顔はマリオンを彷彿とさせる。間違いなくあなたはマリオンの生まれ変わりだ」
確信を持った言葉にハリスンを凝視しする。そういえばさっきから自分のことをマリオンと呼んでいる。まさかハリスンにも前世の記憶があるというのか。でもなぜマリオンだと分かったのか。マリオンとシンシアの容貌にはまったく共通点がない。それに前世の記憶は誰にも言ったことがない。ブラッドにすら。それなのに何故気付いたのだろう。
「シンシア。あなたが驚くのは無理もない。マリオンと呼ばれても理解できないだろう? あなたの前世はマリオンという名の我が国の公爵令嬢だった。私の名はクリフトン、あなたの婚約者だった。前世で私たちは深く愛し合っていたのに悲しいすれ違いがあり結ばれることはなかった。でも今世でもう一度巡り合うことができた。神が二人の幸せを望んでくれているんだ。あなたの姿とマリオンの姿には重なるところはないが、私は一目見てあなたがマリオンだと分かったよ。その魂を感じることができた。これこそ運命だ!」
ハリスンは自分の言葉にうっとりと酔いしれシンシアに説明するが、記憶の改ざんが酷すぎる。心の中でドン引き中である。
(私たちは愛し合っていないし、悲しいすれ違いってなに? あなたが勝手に私を憎んで死を望んだのでしょう? く~~! 腹が立つわ)
「もっと早くあなたを見つけることができれば正式に求婚して我が妃に出来たのだが、悔しいことにブラッドと結婚してしまった。あの男が私のマリオンを抱いたのかと思うと殺してやりたいよ。でも私があなたを助けるのが遅くなったせいだ。だからあなたが純潔ではないことは許してあげよう」
(勝手なこと言わないでよ! 私はブラッドの妻で嬉しいの! 純潔じゃないのが気になるのなら他の女性にしなさいよ。私を抱いていいのはブラッドだけなんだから!)
声に出して罵りたいのにまだ声帯は自由にならない。
「我が国にあなたのための離宮を建てたよ。私と二人きりで過ごす楽園だ。きっと気に入るはずだ。あなたの存在は公には出来ないけれど子が生まれたらどんな手段を使っても王位につけると約束するから許してくれ。ああ、愛しているよ。マリオン」
(さっきからマリオン、マリオンってうるさいわよ! 私はシンシアよ。マリオンはもういないのよ。目を覚ましなさいよー!)
「今はオールディス王国の国境沿いの街にいるんだ。夜になったら隣国に移動する。そこには騎士を待機させているから安心して欲しい。あんな男に二度とあなたを渡したりしない」
(安心できないし、ブラッドはあんな男じゃない! 私の大切な旦那様よ!)
シンシアにはハリスンが狂人にしか見えない。勝手にシンシアの気持ちを決めつけ疑いもしない。声が出ても会話が成立する気がしない……。窓の外は真っ赤に染まり夕暮れだ。暗くなったら闇に紛れて国境を超えるつもりらしい。国境検閲所をどう抜けるつもりなのか。我が国には入るのも出るのも厳しい検問がある。ハリスンの様子だと王子として入国したのではなく身分を誤魔化している。検問所の役人がシンシアに気付いてくれるだろうか……。
ブラッドはきっと捜索してくれている。でも間に合うかどうか……。自力で逃げることも考えないと。
「そろそろ薬が切れる頃かな? 食事をしたらもう一度眠ってもらうよ。次に目を覚ました時には私たちの愛の宮だ。楽しみだね」
シンシアは恍惚とした表情を浮かべるハリスンのおぞましさに身震いをした。吐きそう……。
(絶対にまともじゃない)
話せるようになっても時間稼ぎをするのは難しそうだ。本気でシンシアが自分を愛していると思い込んでいる。
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