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14.この腕の中に(ブラッド)
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コンラッドは神に祈らなかったのだが――。
神が憐れに思い慈悲を与えてくれたのだろうか。それともただの気まぐれだろうか。再びマリオンと出会うことができた。そして彼女は今生きて幸せそうに笑い、自分の隣にいる。
今は現世でブラッドとしてシンシアを愛している。コンラッドとマリオンの人生はとっくに終わっている。未練がないとは言えないが取り戻すこともやり直すことも出来ない。それならば新しい人生を大切にしたい。
シンシアを望んだきっかけはマリオンの生まれ変わりだから。でも今はシンシアだから愛していると断言できる。だから自分もコンラッドとしてでなくブラッドとして愛されたい。もちろんシンシアにはマリオンの記憶があるはずもなく、それを伝えるつもりもない。
ブラッドは前世の記憶があることは誰にも言っていない。こんな話を信じる者はいないだろう。本来前世の記憶なんて必要ないのだ。魂は真っ新に生まれ変わって、再び幾重もの困難を乗り越え幸せを手に入れるべきだ。
それでも記憶があることに感謝している。そのおかげで神童といわれ立場を確かなものに出来た。ただ王太子としての知識はないのでそこは必死に学んだ。そして成長と共にその責任の重さを思い知らされる。知れば知るほどクリフトンの軽率な行動が信じられない。自分の勝手な思いで公爵令嬢に死を与えるなど愚かすぎる。
「あのあとクリフトンがどうなったのか……」
他国とはいえ調べれば分かるが興味はなかった。知っても意味はない。そんなことよりもシンシアを守り豊かな国を築いていきたい。
シンシアとの婚礼はもうすぐだ。今が一番忙しい。シンシアはブラッドをよく見てくれている。疲れていれば休憩を促して休ませようとしてくれる。だからブラッドもシンシアの一挙一動を見逃さないよう心掛けている。
まだまだ国内の女性の地位は低いと言わざるを得ない。でも優秀な女性は多い。父に進言し女性を官吏に採用し始めたがまだ数人で反発も残っている。結果を残せばいずれ皆納得する日が来ると信じている。なにより自分にはシンシアがいてくれる。彼女がいると思うだけで力が湧いてくる。誰よりも心強い味方だ。
結婚式には近隣の友好国からも王族や大臣などが出席する。各国でも女性の地位は低く見られがちだ。我が国を見て女性の社会進出に同調してくれる国があればいいと思っている。その気持ちは本当だがそれ以上に――。
「まずは我が妃の素晴らしさと私とシンシアとの幸せを見せつけてやるさ」
ブラッドは口元を綻ばせた。
そして結婚式の日――。
シンシアはウエディングドレス姿ではにかんでブラッドを見上げている。純白の豪華なドレスを着たシンシアは地上に舞い降りた女神のように美しい。その手を取り大聖堂で宣誓し、誓いの口付けを交わす。シンシアの唇は温かくそして柔らかい。前世の最期が一瞬頭をよぎり、無性に泣きたくなった。
(ああ、幸せだ。神よ。あなたに感謝します)
前世の最後、自分は祈らなかった。それでも神は見捨てなかったのだ。コンラッドが死んだときは、こんな幸せな未来を手に入れることができるなんて想像も出来なかった。
ブラッドは心の中で誓いを新たにした。シンシアに巡り合って二十年、そしてこれから二人で生きる何十年の時を過ごし、死が二人を分かつまで彼女を愛していくことを。
「シンシア、幸せになろう」
「もちろん、幸せになりましょう!」
感極まりもう一度口付けを落とす。不意打ちにシンシアは顔を赤く染めた。その姿が愛おしくて思わず強く抱きしめてしまった。シンシアの体は温かく息遣いもある。今、前世の悲しい記憶をようやく上書きすることが出来たと実感した。今世では誰にも憚らず愛を告げ抱きしめられる喜びに心が震える。
いつまでもそのままでいたら神父が顔を顰め咳払いをした。仕方なく体を放す。
大聖堂から城に戻り祝いの宴が始まる。各国からの祝いを受け、その後臣下からも恭しく祝われる。一通りの祝辞を受けシンシアとは一旦別れお互いの外交を行う。要は仕事なのだ。
ときおりシンシアの様子を確認する。もちろん護衛はしっかりつけているがあまりの美しさと聡明さに彼女を盗みたくなる不埒な男がいるかもしれない。もちろん許すつもりはないがダンスの誘いは……今日ばかりは仕方がない。自分も女性と踊るがシンシアが自分以外と踊っているのを見ると、無意識に眉が上がり自然と相手の男性を睨んでしまう。誰にも触れさせたくない。我儘だと分かっているが……。
離れたところで義父となったバルフォア公爵がしかめっ面でシンシアを見ている。娘の新たな門出を喜んでいるのか寂しがっているのか。たぶん後者だな。周りを見渡せばシンシアの周りには王家からの護衛以外にも公爵の手配した護衛も配置されている。公爵も相変わらず心配性だが、おかげで心強い。
再びシンシアがダンスに誘われている。思わずムッとして心で舌打ちをした。
(いかん、いかん。いくらなんでも心が狭すぎるな)
それでも今夜のことを思えば許せそうだ。二人は本当の意味で結ばれる。本物の夫婦になるのだ。
だから今は自分も外交に専念しなければと気持ちを切り替えた。
神が憐れに思い慈悲を与えてくれたのだろうか。それともただの気まぐれだろうか。再びマリオンと出会うことができた。そして彼女は今生きて幸せそうに笑い、自分の隣にいる。
今は現世でブラッドとしてシンシアを愛している。コンラッドとマリオンの人生はとっくに終わっている。未練がないとは言えないが取り戻すこともやり直すことも出来ない。それならば新しい人生を大切にしたい。
シンシアを望んだきっかけはマリオンの生まれ変わりだから。でも今はシンシアだから愛していると断言できる。だから自分もコンラッドとしてでなくブラッドとして愛されたい。もちろんシンシアにはマリオンの記憶があるはずもなく、それを伝えるつもりもない。
ブラッドは前世の記憶があることは誰にも言っていない。こんな話を信じる者はいないだろう。本来前世の記憶なんて必要ないのだ。魂は真っ新に生まれ変わって、再び幾重もの困難を乗り越え幸せを手に入れるべきだ。
それでも記憶があることに感謝している。そのおかげで神童といわれ立場を確かなものに出来た。ただ王太子としての知識はないのでそこは必死に学んだ。そして成長と共にその責任の重さを思い知らされる。知れば知るほどクリフトンの軽率な行動が信じられない。自分の勝手な思いで公爵令嬢に死を与えるなど愚かすぎる。
「あのあとクリフトンがどうなったのか……」
他国とはいえ調べれば分かるが興味はなかった。知っても意味はない。そんなことよりもシンシアを守り豊かな国を築いていきたい。
シンシアとの婚礼はもうすぐだ。今が一番忙しい。シンシアはブラッドをよく見てくれている。疲れていれば休憩を促して休ませようとしてくれる。だからブラッドもシンシアの一挙一動を見逃さないよう心掛けている。
まだまだ国内の女性の地位は低いと言わざるを得ない。でも優秀な女性は多い。父に進言し女性を官吏に採用し始めたがまだ数人で反発も残っている。結果を残せばいずれ皆納得する日が来ると信じている。なにより自分にはシンシアがいてくれる。彼女がいると思うだけで力が湧いてくる。誰よりも心強い味方だ。
結婚式には近隣の友好国からも王族や大臣などが出席する。各国でも女性の地位は低く見られがちだ。我が国を見て女性の社会進出に同調してくれる国があればいいと思っている。その気持ちは本当だがそれ以上に――。
「まずは我が妃の素晴らしさと私とシンシアとの幸せを見せつけてやるさ」
ブラッドは口元を綻ばせた。
そして結婚式の日――。
シンシアはウエディングドレス姿ではにかんでブラッドを見上げている。純白の豪華なドレスを着たシンシアは地上に舞い降りた女神のように美しい。その手を取り大聖堂で宣誓し、誓いの口付けを交わす。シンシアの唇は温かくそして柔らかい。前世の最期が一瞬頭をよぎり、無性に泣きたくなった。
(ああ、幸せだ。神よ。あなたに感謝します)
前世の最後、自分は祈らなかった。それでも神は見捨てなかったのだ。コンラッドが死んだときは、こんな幸せな未来を手に入れることができるなんて想像も出来なかった。
ブラッドは心の中で誓いを新たにした。シンシアに巡り合って二十年、そしてこれから二人で生きる何十年の時を過ごし、死が二人を分かつまで彼女を愛していくことを。
「シンシア、幸せになろう」
「もちろん、幸せになりましょう!」
感極まりもう一度口付けを落とす。不意打ちにシンシアは顔を赤く染めた。その姿が愛おしくて思わず強く抱きしめてしまった。シンシアの体は温かく息遣いもある。今、前世の悲しい記憶をようやく上書きすることが出来たと実感した。今世では誰にも憚らず愛を告げ抱きしめられる喜びに心が震える。
いつまでもそのままでいたら神父が顔を顰め咳払いをした。仕方なく体を放す。
大聖堂から城に戻り祝いの宴が始まる。各国からの祝いを受け、その後臣下からも恭しく祝われる。一通りの祝辞を受けシンシアとは一旦別れお互いの外交を行う。要は仕事なのだ。
ときおりシンシアの様子を確認する。もちろん護衛はしっかりつけているがあまりの美しさと聡明さに彼女を盗みたくなる不埒な男がいるかもしれない。もちろん許すつもりはないがダンスの誘いは……今日ばかりは仕方がない。自分も女性と踊るがシンシアが自分以外と踊っているのを見ると、無意識に眉が上がり自然と相手の男性を睨んでしまう。誰にも触れさせたくない。我儘だと分かっているが……。
離れたところで義父となったバルフォア公爵がしかめっ面でシンシアを見ている。娘の新たな門出を喜んでいるのか寂しがっているのか。たぶん後者だな。周りを見渡せばシンシアの周りには王家からの護衛以外にも公爵の手配した護衛も配置されている。公爵も相変わらず心配性だが、おかげで心強い。
再びシンシアがダンスに誘われている。思わずムッとして心で舌打ちをした。
(いかん、いかん。いくらなんでも心が狭すぎるな)
それでも今夜のことを思えば許せそうだ。二人は本当の意味で結ばれる。本物の夫婦になるのだ。
だから今は自分も外交に専念しなければと気持ちを切り替えた。
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