骸の王~異世界勇者召喚に巻き込まれました。骸を使ってしたたかに生きていきます。

パブロフ

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4章

109話

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気球船に作成に関して一朗は練金ギルドの職人達に任せることにした。

彼らの情熱は凄まじく、何日も工房で寝泊りしながら研究している。

食事会の噂を聞いてから練金ギルドでは独身の男性の研究の参加希望者が後を絶たない様で、優秀な人材が工房にあつまっていた。

魔導具の作成は複雑且つ細かい作業が要求される。

一郎も練金術の持主ではあるが、神経を長時間必要とする魔道具の作業は苦手であった。

よって、工房の片隅で一朗は遺跡から新たに発掘される文献の翻訳に専念する。

しばらくすると飛行船の研究ではなく、翻訳したデータを整理を希望する人も現れ、程なくしてアルカディアでの魔導具の技術は飛躍的に上がるのであった。

「一郎さんこの新たに発見された文献の翻訳もお願いします」

山の様に積まれる書類に半分埋もれながら、翻訳活動に従事する。

最近では、エクスプロが以前発見した遺跡の書物の翻訳も行う様になり、とても一人では手が回らない。

一郎と同じ様に"言語理解"のスキル持ちをさがしているのだが、希少なスキル故に見つかっていなかった。

翻訳に疲れ果てた一朗は、まだ残っている書物を投げ出し、セントフリーにむけて骨のドラゴンに乗り飛び立つ。

今回は気分転換にを兼ねているので、目立たない様にフードを深く被り、気になっていた食堂を探す。

以前、ビアーズの青空酒場でバーテンダーをしていた時に、客の一人が教えてくれた情報である。

その客曰く、変わった形の焼き物で色々な具が入っており、酒とよく会うらしい。

酒のツマミに合うものならばバーテンダーとしては気になるところである。

客から聞いた情報通りメイン通りから外れた裏路地でその店はひっそりあった。

スイングドアを開け近くの空いているカウンターに座る。

内装は4人席が2つとカウンター席のみあり、隠れ家的な食堂である。

時間的にはまだ日が高く上っていて酒場の時間には少々早いせいもあり、客は一郎だけであった。

カウンターは年期が入っているが掃除が行き届いていて好感が持てる。

しばらくすると奥からパタパタという足音共に女性が一人やってきた。

「今営業中ですか?」

「えぇちょっと取り込んでて離れてしまってごめんなさいね。
注文は何にしますか?」

目にうっすらと疲れが見えている女性が出てきた。

「それではエールとつまめる物、それと知り合い聞いのですが、ここでしか食べれない酒に合う料理をお願いします」

「昼間っからお酒なんて飲んでいいんですか?」

心配そうに質問された。

「実は激務から逃げ出して来ました。現実逃避の為、寄らせていただきました」

「あらあら、それじゃあお酒は程々にしないとね。周りの仕事仲間が探してるわよ」

少し困った顔をしながら、エールと乾燥したナッツの小鉢を出してくれた。

何気ない会話だが人情味の溢れる女性であった。

女性が奥の調理場に注文を伝え戻って来る。

「ここはいい雰囲気の店ですね。昔からやっているのですか?」

「えぇ父の代からやっている酒場です。最近は色々あって店内は寂しいですが、何とか続いています」

しばらくすると奥からが聞こえ料理がやってきた。

見た目は円盤状の食べ物。細かく切られた野菜と肉を、卵と小麦粉に混ぜて鉄板で焼いた料理である。

日本では庶民的な料理であったが、この世界では初めてみた。上には白いソースが網目状にかけられていた。

「お好み焼きかな?」

「あら?うちの人と同じ同郷の方かしら?」少し焦った様に奥の料理場に移動した。

しばらくすると見覚えのある青年が顔を見せた。

「いらっしゃい。あんたもこの世界に召喚された人か?ってあの時のおっさんじゃないか!」

「おや?こんなところでまさか会うとは奇遇ですね。お元気そうで何よりです“神城 直人”さん」

「こらお前さん、お客さんに対してなんて態度とってるんだい!」

女性に後ろから叩かれた彼は頭をさすりながらばつが悪そうに立っていた。

“神城 直人”、一郎がこの異世界「テラ」に召喚されたきっかけであり、召喚当初に散々な目にあった原因の人物である。

色々と因縁はあるが、ここの世界の生活は一郎にとって有意義なものであり、今では感謝してもいいくらいであった。

「まさか、神城さんが料理人になっていたとは意外でした」

「俺は大怪我して裏路地で倒れてたところコイツに助けられたんだ。」

神城は砦攻略を失敗した後、早々にカトリーヌ姫に見限られ、傭兵ギルドで細々と依頼をこなしていたらしい。

下手に顔が売れてしまった為、悪評が立ち同業者から疎まれ、一人で依頼をこなしその日暮らしをしていたのだが、依頼中に大怪我を負い、裏路地で倒れていた時に今いる女性に助けられたらしい。

その後この酒場の手伝いをしながら生活を送っていたそうだ。

この店は女性と女性の父親の二人で切り盛りしていたらしいのだが、最近大黒柱の父親が病気にかかり厨房に立つことになったとのことある。

「おっさんのことは時々耳にしてたよ。二つ名の“骸の王”とは随分と活躍しているみたいだな」

「えぇ今では新しくできたアルカディア国中心に活動してます」

一緒に召喚された時は生かすかない青年だと持っていたが、少し角が取れたような気がした。

突然スイングドアを勢いよく蹴って開ける音がした。

ガタイの良い上半身裸の男と、小綺麗な格好をした中年の禿げ上がった男であった。

神城は小さく舌打ちをし彼らを睨む。

不穏な空気が漂う店内であった。

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